
剱岳(2,999m) (つづき)
「~ 柴崎がいままで見たことのある山のすべてと違っていた。それは岩峰と岩峰を数限りなく重ねて作り上げられた険しい山であった。美しさより、山の険しさが視界いっぱいに拡がる巨大な岩山だった。険しさが人を寄せつけない怖ろしさにかわり、人の世とは隔絶した山に見えた。見詰めていると、山に押し倒されそうだった。白い寒さが風となって吹いて来て身が凍りそうだった。 ~」
(新田次郎『劔岳<点の記>』(文春文庫))
昨日の夕方に高い場所から見下ろした剣沢キャンプ場の中を通り抜けて、時に雪の上を歩きながら、別山乗越へ登っていきます。
剱御前小舎の建つ別山乗越を越えると、剱岳は見えなくなります。
剱岳はただただ怖そうな山でしたが、一回でも登山道の険しさを歩いて、実感してから眺めると、細かいところにまで光が当てられて、岩の様子が分かる気がします。
「岩峰と岩峰を数限りなく重ねて作り上げられた」、豪快ではなく緻密な山だったと思います。
そのうえ、その緻密さがこれほど大きな山の中で展開されています。
剱岳くらい、登る前と登った後で印象が違って見える山は、他にありません。
しかし、これから何年かの間、剱岳に登らないでいると、見え方が元に戻ってしまうかもしれません。
山頂に立った日でなければ、同じ景色は味わえないのではと思いました。
別山乗越からは来た時と同じルートを引き返し、新室堂乗越を経由して雷鳥平、さらにみくりが池温泉まで戻って、長い長い一日が終わりました。
日本一高い場所(2,410m)に位置する素晴らしい温泉ですが、ここは登頂を祝うのにも最高の温泉です。
食事のとき、もう何回も剱に登ったという人が、「やっぱ剱が最高だな!!」と。本当にその通りだと思いました。
翌日は新しい山には登らず、アルペンルートのバスに乗って弥陀ヶ原まで行きました。
北アルプスの景色の中に、尾瀬のような木道が敷かれています。ワタスゲの果穂を見ると尾瀬を思い出します。
とてもいい天気で帰るのが惜しくなりゆっくり過ごしました。帰る前にもう一度みくりが池温泉につかり、室堂を最終のバスが出るまでいました。
黒部ダムは観光放水が終わった後で、高さ186mのコンクリートのすべてが露わになっていました。
(登頂:2018年8月上旬)