パイオニアは「インフラ検査・維持管理展」(会期:2014年11月12~14日、東京ビッグサイト)に出展し、テラヘルツ波(100GHz~10THzの周波数を持つ電磁波)を用いて外壁や金属材料などの検査が行える非破壊検査装置の展示を行った。既に顧客のニーズがあれば製品として出荷することが可能だという。
テラヘルツ波は、明確な定義がされているわけではないが、周波数が100GHz~10THz、波長30μm~3mmで、光と電波両方の特性を兼ね備えていることが特徴の電磁波だ。布、紙、木材、樹脂、陶磁器などは透過し、金属や水などは透過しない特性を持つ。このため、物体内部の透過像の取得や分子相互作用の検出が可能であり、セキュリティや分光分析分野への応用が期待されている。
パイオニアではこのテラヘルツ波を活用し、物体内部の透過イメージングが可能なテラヘルツスキャナーの開発を推進してきた(関連記事:テラヘルツ波で透過イメージングを行う非破壊検査装置、パイオニアが開発)。今回は、3種類のテラヘルツスキャナーを出展。道路や橋梁・インフラの点検や診断、設備補修関連での利用を提案した。
3種類のテラヘルツスキャナーを出展
出展したのは「ヘッドスキャン型」と「ハンディヘッド型」「フラットベッド型」の3種類だ。
ヘッドスキャン型は、光励起(れいき)方式のテラヘルツ発生素子を用い、さまざまな測定対象物の内部を簡単に透過イメージングできる。物体の奥行き方向の計測が可能なテラヘルツパルスエコー方式を採用したヘッド部を、専用のスキャンメカニズムに搭載することで、安定したエコーデータの収集が可能となり、物体内部の透視像を3次元的に得ることができる。また、積層された物体の断面形状の観察などの他、これらを2次元画像にして読み出すことも可能だ。塗装の厚み計測、壁や構造物の欠損診断、コーティングの剥離診断などの非破壊検査用途を想定しているという。
一方のハンディヘッド型はモバイル用途を想定したテラヘルツスキャナーだ。ヘッド部を小型軽量にし、本体は新開発の光学遅延機構と励起光源をコンパクトに収納してバッテリー駆動も可能としたことで、持ち運び可能としている。光励起方式のテラヘルツ発生素子やテラヘルツパルスエコー方式はヘッドスキャンタイプと同じだが、定点での測定しかできないため、2次元画像の作成は行えない。
安定した2次元測定が行えるフラットベッド型
フラットベッド型テラヘルツスキャナーは、テラヘルツ波の発振/検出にロームが開発した共鳴トンネルダイオードを使用しており、送受信一体型の小型ヘッドを含めて共同開発を行った。被測定物を試料テーブルに乗せるだけで測定物内部の金属物質などをイメージングできる一般的なイメージングスキャナーのような使い勝手を実現している。封筒や包みの内部検査、金属/プラスチックの異物検査などの用途を想定しているという(関連記事:X線じゃなくても透けて見える、パイオニアとロームがテラヘルツ撮像に成功)。
これらの開発モデルは既に技術的に確立されており「この形でニーズがあるのであれば、すぐにでも出荷できる」とパイオニア 研究開発部 第6研究部の田中博之氏は語る。価格は「数千万円する既に販売されているようなテラヘルツスキャナーよりは安く出せる。できれば1千万円を切るような製品に仕上げたい」(田中氏)としている。高額製品であるので、現実的には顧客のニーズを見極めながら、より最適な形で提供していくことになる見込みだ。
なぜパイオニアがテラヘルツスキャナーを開発したのか
パイオニアがテラヘルツスキャナーの開発に取り組み始めたのは実はここ3~4年のことだという。そもそもなぜテラヘルツスキャナーに取り組み始めたのだろうか。
テラヘルツ波は、光と電波の両方の特性を兼ね備えているということを前述したが、パイオニアにはレーザーディスク時代から培ってきた高度な光ディスク技術がある。光ディスクはレーザーディスク、DVD、Blu-ray Discと変遷を遂げてきたが、このほとんどの時代でパイオニアは技術的な先進性を持ち続けた。この「光」に関する技術力を生かしたのだ。パイオニアの光ディスク事業そのものはシャープとの合弁会社に移管したが、その光ディスク技術の研究開発を進めてきた技術者たちはパイオニア本体に残った人々も多い。田中氏は「光の反射を測定し必要な情報を取り出す光ディスクに関する技術の多くがテラヘルツスキャナーの開発で生かされている」と語っている。
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1411/14/news147.html