「四十四年前のあの日、わたしは夢ちゃんと六年間いっしょにいて、わたしから
夢ちゃんを送りだ出せると思っていたわ。でも・・・・・できなかった。送りだすのを
楽しみにしていたのに。だから、今日、この卒業式を借りて、今回の卒業生とともに
夢ちゃんを送り出すことにしたの。ね、いいでしょ。四十四年たってあなたに渡す
わたしからの卒業証書よ。受け取ってくれるわね。」
四小の声は震えています。四小の姿は見えませんが、おそらく泣いて
いるのでしょう。夢も泣きそうになっていました。泣くのをこらえながら、心のなかで
四小に言いました。
「本当に?本当に、わたしに卒業証書くれるの?うれしい!ありがとう、四小さん。」
十六人の卒業生は、皆、無事に校長先生から卒業証書を受け取りました。それを
見届けると、四小は、凛とした厳かな響きの声で夢に言い渡しました。
『六年二組、藤木 夢。あなたはここに、小学校の全課程を修了したことを証する。
平成二十一年三月二十五日、戸久野市立第四小学校(精霊)』
夢は、いつの間にか大きな金色の光に包まれています。夢ばかりでなく、夢の
周りにも光はあふれていました。夢は、うれしくてうれしくて、四小から渡された
証書を持ってただただ泣いていました。次から次へとあふれでてくる涙も、もう
拭おうとはしませんでした。そんな夢を見ながら、四小もまた泣いていました。
そして、
「さあ、みんなでわたしの校歌を歌うわよ。夢ちゃん、まだ覚えてる?」
と、まだ少し泣き声でしたが、優しく夢にいいました。
「うん、もちろん!」
夢は、『大好きな四小さんの校歌だもの、忘れるわけないわ。』とでも言うように、
大きな声で四小に答えました。そして、
「美しい・・・続く・・・・の 戸久野第四小学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もまた」
と、1番・2番ともまちがわずに四小に歌ってみせました。夢といっしょに校歌を
歌いながら、四十四年間大勢の子どもたちと、この校歌を歌ってきたのねと改めて
思う四小、その眼からは、またひとすじ涙が流れていました。