風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)四小編 其の九

2010-04-16 23:32:58 | 大人の童話

「四十四年前のあの日、わたしは夢ちゃんと六年間いっしょにいて、わたしから

夢ちゃんを送りだ出せると思っていたわ。でも・・・・・できなかった。送りだすのを

楽しみにしていたのに。だから、今日、この卒業式を借りて、今回の卒業生とともに

夢ちゃんを送り出すことにしたの。ね、いいでしょ。四十四年たってあなたに渡す

わたしからの卒業証書よ。受け取ってくれるわね。」

四小の声は震えています。四小の姿は見えませんが、おそらく泣いて

いるのでしょう。夢も泣きそうになっていました。泣くのをこらえながら、心のなかで

四小に言いました。

「本当に?本当に、わたしに卒業証書くれるの?うれしい!ありがとう、四小さん。」

十六人の卒業生は、皆、無事に校長先生から卒業証書を受け取りました。それを

見届けると、四小は、凛とした厳かな響きの声で夢に言い渡しました。

『六年二組、藤木 夢。あなたはここに、小学校の全課程を修了したことを証する。

平成二十一年三月二十五日、戸久野市立第四小学校(精霊)』

夢は、いつの間にか大きな金色の光に包まれています。夢ばかりでなく、夢の

周りにも光はあふれていました。夢は、うれしくてうれしくて、四小から渡された

証書を持ってただただ泣いていました。次から次へとあふれでてくる涙も、もう

拭おうとはしませんでした。そんな夢を見ながら、四小もまた泣いていました。

そして、

「さあ、みんなでわたしの校歌を歌うわよ。夢ちゃん、まだ覚えてる?」

と、まだ少し泣き声でしたが、優しく夢にいいました。

「うん、もちろん!」

夢は、『大好きな四小さんの校歌だもの、忘れるわけないわ。』とでも言うように、

大きな声で四小に答えました。そして、

「美しい・・・続く・・・・の 戸久野第四小学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もまた」

と、1番・2番ともまちがわずに四小に歌ってみせました。夢といっしょに校歌を

歌いながら、四十四年間大勢の子どもたちと、この校歌を歌ってきたのねと改めて

思う四小、その眼からは、またひとすじ涙が流れていました。