風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)四小編 其の拾壱

2010-04-19 10:57:30 | 大人の童話

その後も夢は、一・二度四小に会いに行きました。が、四小を呼び出すことは

ありませんでした。ただ遠くから、その姿を眺めていたのです。四小は静かでした。

夢は、そっとその場を離れようとしました。すると遠くから、ほとんど聞こえない

くらいの、小さな声が何やら聞こえてきます。耳を澄ましてよく聞いてみると、それは

四小の声でした。夢は一所懸命、四小が何を言おうとしているのかわかろうと

しました。四小は、消え入りそうな声でこう言っていました。

「夢・・・ちゃん、待って。帰ら・・・ないで。話し・・たい・・ことが・・あるの。」

声とともに弱弱しい光が放たれ、四小が必死なことが夢にはわかりました。

「四小さん!いいよ、わかったから、帰らないから。何?わたしに話したいことって。

ゆっくり話していいよ。言って!」

夢は、歩きだそうとしていた足を止めて四小に話しかけます。四小はそれを聞くと、

安心したように話し始めました。弱弱しかった光も、いつもと変わらない光の

大きさになっています。声の調子ももどっていました。

「夢ちゃん、ほんとは、去年再会した時に言おうと思ったんだけど、どうしても

言えなかった。それで、今日になっちゃったんだけど、ほんとはどうしようかなとも

思ったのだけど、でも、やっぱり大事なことなので、言っておくわ。」

声の調子はもどっても、四小の話し方は、いつもとはどこかちがうように、夢には

感じられました。四小はいつも、夢に語りかけるように優しく話すのですが、今回は、

四小らしくないまとまりのない話し方をするのです。『きっとそれは、四小さんにとって

よほどのことなのだろうな。』と、夢は四小の気持ちを察するのでした。