ローズウォーター;アッシリアのお話に戻ります。
薔薇の花びらの含油部分は、花びらの根元にある萼と白い部分にあります。楔形文字で書かれた書字版から推察すると、アッシリアの医師は正確にローズウォーターを使っていたようです。発掘されたアッシリアとメソポタミアの楔形文字やBC3500年にさかのぼる抽出物の研究から、シュメール人とアッシリア人(BC1200)が、香りを抽出する技術を最初に習得していたことが明らかになりました。
ローズオイルや薔薇のアターの製造過程で生じるローズウォーターは香水、宗教行事、医学、料理に使ってきました。ローズウォーターはパフラヴィー語(中期ペルシャ語)ではgolāb、ギリシャのビザンチン語ではzoulápinです。アッシリアで出土した陶板※の中には、。楔形文で、薔薇を直接蒸留したのではなく、水と一緒に煮て(香りのよい水)を生成したことが示されています。
(ここでアッシリアの陶板と楔形文字の起源について少し触れようと思います。何故なら楔形文字は中国の甲骨文字よりも約2000年以上も古い、しかも高度に発達した文明を持った人々の手になる文字だからです。この文字と、これによって書かれた物語は近年解読され、私が学生だった頃にはまだ知られていなかった内容が折り込まれおり、非常に興味を惹かれました。)
※ アッシリアの陶板
上は、楔形文字で書かれた古代メソポタミアの文学作品、ギルガメシュ叙事詩の一部が刻まれた粘土板
メソポタミア文明の最初の担い手であったシュメール人※は、BC3100~3400年頃、粘土板にくさび形の文字(今のところ最古の文字とされています。甲骨文字が発見された殷王朝はBC1700-BC1046ですからそれよりもはるか昔です)を使っていました。シュメール人のウル遺跡( Ur ; 現代のイラク、バグダッドの南 )からは、多数の楔形文字のもととなった絵文字をきざんだ粘土板が見つかっており、それらのほとんどは、奴隷や家畜、物品の数をかぞえ、穀物の量をはかり、土地面積を計算するという、行政、経済上の記録として用いられていました。
※ シュメール人
シュメール人が残した遺物を見ることで彼らの文化度を知ることが出来ます。驚異的な、考えられない程に高度な文化があったことに驚くばかりです。BC3000年ですよ。
石灰石、貝殻、ラピスラズリで描かれたウルの垂直材(上が平和の絵、下が戦争の絵)ロンドン大英博物館蔵 The Standard of Ur, about 2500BC, from the Royal cemetery of Ur, ancient Sumer Material: Lapis lazuli, Limestone and shell The British Museum, London, United Kingdom
https://www.flickr.com/photos/amberinsea/4716762228 の解説を引用させていただきました。
ウルのスタンダード(「ウルのバトルスタンダード(垂直材)」または「ウルのロイヤルスタンダード」とも呼ばれます)は、古代都市ウルの王墓墓地から発掘されたシュメールの遺物です。ウルのスタンダードはBC2600年からBC2400年頃にさかのぼり、1920年代にイギリスの考古学者レオナードウーリー卿(Sir Leonard Woolley)によって発掘されました。現在、大英博物館にあります。垂直材は21.59 x 49.53 cmの中空の木箱で、貝殻、赤い石灰岩、ラピスラズリのモザイクがちりばめられています。過去数千年にわたる時間の影響で、モザイクを所定の位置に固定していた木枠と接着剤のタールが剥がれたため、現在は組み直した状態です。木箱の本来の目的はハッキリとは判っていません。楽器の共鳴箱ではないかとの意見もあります。
ウルの垂直材には、2つのメインパネルがあります。
平時を描いたパネルには、王、牡牛、山羊、羊、魚、穀物をいれた袋などさまざまな地域からの献上品を運ぶ列が、いずれも胸の前で手を組む恭順の仕草を示した人物に率いられています。ひときわ大きく描かれた人物は、ウルの王でしょう。また上段右から二人目の楽師は牡牛の竪琴を持ち、楽師の背後の人物は一見髪が長く女性のようですが、上半身裸という男性の服装で、去勢された男性歌手(カストラート)であると考えられています。ウルのスタンダード、又、古代メソポタミアの都市国家ラガシュの王グデア※の碑文にも女性は不浄であるため神殿工事からは除外することが記されており、こうした考えから女性が一人も描かれていないと思われます。