「麻也さん、諒 今、救急車呼ぶから待ってて!」
すると麻也は微笑を浮かべ、
「… 諒…大好きだ…」
と言うなり、麻也は目を閉じ、がっくりと首を落とした。
「麻也さん、麻也さん!」
そこで諒は取り落とした自分の携帯から社長の声が聞こえることに気づいた。
慌ててそれを取り上げたが、
ーどうした? 何があったんだ?
諒は言葉が出ない。やっと、
「麻也さんが、麻也さんが…」
ーケガか? 何だ?
「薬あおってシャンパン飲んで倒れてる…」
ー何だって?
「今俺達も行くから。いいから早く救急車呼べ!」
社長の電話を切って救急車を呼んでから到着までが諒にはあまりにも長く感じられた
麻也には何度も呼びかけたが、麻也の目は開くことはない。かろうじて弱々しい呼吸はあるが 、救急隊員の呼びかけにも麻也は反応しなかった。
混乱しながらも諒はどうにか、「口論の末に」麻也がベランダから飛び降りようとしたこと、その後に薬をあおったことを説明した。
救急車の中でも、病院に着いても、集中治療室に向かう途中の呼びかけにも麻也は反応しなかった。
看護婦に名前を呼び続けちれながら遠ざかっていく麻也のストレッチャー。
救急隊員が拾った薬袋から2種類の薬をシャンパンであおったということが特定できそうだということだったが、集中治療室の前に諒は力なく立ち尽くすだけだった。
そこに誰かが走りこんでくる音がして諒は振り返った、真樹と須藤と社長だった。
「兄貴は兄貴はどこ?!」
諒は必死で叫んだ。
「ここ! 集中治療室!」
そこに看護師が飛び出してきた。
「どなたかご家族の方いらっしゃいませんか?」
みんな真っ青になったが、
「俺、弟です」
と真樹が看護師の後を付いて行く。諒もついていこうとしたが、お友達はダメなんですと制止された。
お友達…諒はショックを受けたが、須藤や社長のこの事件のショックも相当なもので、なぜこうなったのか諒に問い詰めるが、諒もどう説明したものか混乱し、頭を抱えたままふらつき倒れこんだ。
大丈夫ですか、と通りかかった看護師が駆け寄ってくる。
そして須藤と社長に抱えられて看護師に案内されるまま、諒はこじんまりした部屋に通されそこのベッドに横たえられた。
須藤は真樹の方に行ってみると、部屋を出ていった。
少し落ち着いたらしい社長が、
「諒、よっぽどのことがあったんだろう、わかることから話してくれないか?」
諒は思わず言葉につまった。しかし、どうにか、
「俺が、俺が全部悪いんです! 俺、キレて思ってもいないことや悪口とか、みんな麻也さんにぶつけちゃったし…」
社長たちは呆然とするばかりだった。
「何でだよ、そりゃお前たち最近すれ違ってても仲がいいんじゃなかったのか?」
諒は叫んだ。
「憎かった。あのアイドルも、あの小僧も、元カレもまだ繋がってると思うと…」