【作品概要】
作 者 恩田 陸
発 表 2016年
出版社 幻冬舎
【ストーリー】
3年毎に開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール、ここで優勝した人は、その後、著名ピアノコンクールで優勝するというパターンが続き、新たな才能の登竜門として世界的にも注目されるコンクールである。このコンクールに異なる才能を持つ3人の天才コンテスタントが挑戦する。
栄伝 亜夜 20才 幼い頃からピアノに親しみ、天才ピアニストとして小学生の時から活動を開始したが、指導者兼マネージャーの母親の死からステージでピアノが弾けなくなり、その後は、自分自身の楽しみとして音楽に親しんでいた。母親と音楽大学で同級生だった浜崎学長の推薦もあり、音楽大学に進学する。そして、芳ヶ江国際ピアノコンクールに出場することとなった。
風間 塵 16才 父親は大学の研究者だが、ほとんど塵を連れて養蜂で生計を立てている。小さい頃からピアノが好きで、養蜂で行く先々でピアノが弾ける場所を探してピアノを弾いてきた。生まれながらにピアノの才能を持ち、譜面は買えないので聞いて曲を覚えてしまう。また、ピアノは調律されていないことも多く、自然に調律の技術やピアノをより効果的に鳴らす技法もマスターしていた。そんな時に世界的なピアニストであるホフマン先生に出会い、芳ヶ江国際ピアノコンクールに推薦された。
マサル・カルロス 19才 幼い頃に栄伝 亜夜と出会ってピアノを始める。パリに引っ越してから本格的にピアノを習い始め、コンセルヴァトワールを2年で卒業した天才である。その後、アメリカのジュリアード音楽院の学生である。著名なピアニストであるナサニエルに師事している。
この他にも、努力の天才、高島 明石など、異なる才能が触発し合いながらコンクール予選、本選を通して更なる高みへと成長を重ねていく物語である。
【感 想】
子供の頃にピアノを学ぶ人は多い。ある統計によると日本のピアノ人口は200万人程度、ピアノ演奏を生業としているコンサートピアニストは100人くらいという。実に2万人に1人という割合である。そう考えると、ピアニストが天才というのは当たり前にような気がしてくる。
この物語には人の天才ピアニストが登場するが、それぞれがピアノ界を変革してしまうほどの特異な個性を持っている。ひとえに天才と言っても様々なタイプがあり、努力を積み重ねることで自分自身の音楽を向上させていく天才、テクニックの天才、音感やテクニック、暗譜などは幼い頃に習得してしまい、その上で聞いている人に感動を与える本物の天才等々、この物語に出てくる天才はいずれも後者の天才である。
本書は、その天才の演奏を言葉で伝えようとしていることにまず驚き、しかも演奏の躍動感や感動が伝わってきたところに、また、驚いた。クラシック音楽の専門的な用語も随所にちりばめられていて、綿密な取材や勉強を十分に行った上で取り組んだ小説だということが窺える。
特に栄伝 亜夜と高島 明石が、コンクールの予選を通過する毎に演奏がステップアップしていく様はワクワクして応援しながら読んでいた。深いテーマを設定して書かれている小説というものでもないが、共感と感動を十分に味わうことのできる良書だった。