アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

越後騒動 倍返し

2022-01-02 09:58:13 | 漫画


大久保 忠朝(老中)
「上様」
「館林守が起こしなさりました」

将軍家綱
「おおぉ 綱吉」
「派手にやっておるそうじゃな」

徳川綱吉
ーーーー畏まるーーーー

将軍家綱
「何か用か?」

徳川綱吉
「恐れながら、申し上げます」
「要件は大老に伝え致した通りに御座います」

大久保 忠朝
「では、申し渡された要件を
上様にお伝え致します」

将軍家綱
「おいおい」
「何を漫才のような戯言を申しておる!」
「おい!」
「綱吉殿、いつものようにしておれ!」

徳川綱吉
「その様な、ご無礼は出来ません」
「お許し下さい」

大久保 忠朝
「上様」
「館林守の請願をお聞き下さいますように
お願い申し上げます」

将軍家綱
「んんゥ」
「其方達は変じゃぞ!」
「何を企んでおる?」

徳川綱吉
「人払いを、お願い申し上げます」

大久保 忠朝
「では」
「それがしは・・・」

将軍家綱
「儂は、人払いを許可してはおらんぞ!」
「忠朝の前で請願せよ!」

徳川綱吉
「上様にお願い申し上げます」

大久保 忠朝
「上様」
「館林守のお願いに御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「何じゃ!」

徳川綱吉
「切腹の命令を
取り消して頂きたいので御座います」

大久保 忠朝
「館林守は生類を憐れむ
優しい御方で御座る」

将軍家綱
「儂が其方に切腹の命令をしたのか?」

徳川綱吉
「はい」
「大老会議で決定しております」

大久保 忠朝
「そのように御座る」

将軍家綱
「んんゥ」
「えェ?」
「何で?」

徳川綱吉
「上様が、それがしを養子に迎える事を
拒否為されたと申し渡されました」

大久保 忠朝
「上様の御世継ぎに御座る」

将軍家綱
「えェ?」
「何で切腹するの?」

大久保 忠朝
「上様が館林守を養子にすることを
拒んだ為で御座います」

徳川綱吉
「何卒、それがしを養子に迎え下さいますように
お願い申し上げます」

将軍家綱
「ちょ、ちょと、変じゃぞ・・・」
「儂はな、側室をとった
あのな、側室が懐妊しておるから
嫡男が生まれるかもしれん
其方を養子に出来んのは
嫡男が生まれるからじゃ!」

徳川綱吉
「では、流産すれば
儂を養子にして下さいますか」

将軍家綱
「あのなー」
「何で
其方を養子にしなければ
其方が切腹なんじゃ?」

徳川綱吉
「老中会議で決まった事に御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「おい!老中忠朝」
「お主が、綱吉を切腹させたいのか!」

大久保忠朝
「滅相も御座いません」
「それがしは、
その命令を取り消してもらいたいと
考えております」




久世広之(老中)
「よくぞ、お越し下さいました」
「越後守は親藩ゆえ
参勤は免除で御座る」
「律儀で御座いますな」

松平光長(越後高田藩主)
「名目は参勤じゃが
実は、儂は江戸に逃げて来たのじゃ」
「今、越後国では暴動が起きておる」
「藩士が二手に分かれて
儂に助けを求めて来るが
暴動を鎮めることが出来ん」
「儂が江戸におれば
幕府の圧力で
暴動を食い止められると考えた」

久世広之(老中)
「おおゥ」
「左様で御座るか」
「何故、暴動が起こっておるので・・・」

松平光長(越後高田藩主)
「まァ」
「承知の通り、嫡子綱賢を喪い世継の問題が残った」
「綱賢は無嗣でな、大蔵(弟)が世継を主張しておるが
訳あって敵わぬ」

久世広之(老中)
「おおゥ」
「それは、幕府も同じじゃ」
「上様は側室が御懐妊でありましたが
流産なされた」
「すると、すかさず」
「綱吉様が世継を主張為されておる」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「其方とな、秘密の話をしたい・・」

久世広之(老中)
「如何様な事に御座いますか?」
「越後守との密談!
命にかけて守り通す所存」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「大蔵(弟)の背後には綱吉様がおるようじゃ」
「騒ぎが鎮まらないのは
大きな後ろ盾がある為だと考えられる」

久世広之(老中)
「んんゥ、では」
「儂も、秘密を打ち明ける」
「大老会議でな、綱吉様に切腹を命じる決議を出したのじゃ」
「後は、上様に承諾を得れば
正式に切腹の命令となる」

松平光長(越後高田藩主)
「綱吉様を処罰なされるので・・・」

久世広之(老中)
「左様」
「生かしておけば
幕府存亡の危機となる」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「では、将軍の後継者を朝廷から迎えるという事は
幕府の意向で御座いますか?」

久世広之(老中)
「その事に関しては、
大老と覚書を交換しておると聞いておる」
「これは、全て、綱吉様を封じ込めんが為」
「我らは、幕府存亡をかけて
綱吉様に対抗しておりますぞ」

松平光長(越後高田藩主)
「どおりで、大蔵(弟)が鎮まらんのじゃな・・・」
「すると」
「越後の騒動を鎮める為には
館林守を罰する以外
対処出来ぬ事になりますな・・・」

久世広之(老中)
「綱吉様の抵抗は予想以上に強く
組織的で御座る」
「我らの力は弱まるばかり
強い味方が必用なので御座る」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「近日、御落胤から老中の板倉殿、そして老中土屋殿
立て続けに亡くなられましたな?」

久世広之(老中)
「実は、儂ももう長くは無い」
「綱吉様に勝つには
強い味方が必用じゃ!」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「上様に嫡男があれば
全て解決するのじゃな・・・・」

久世広之(老中)
「いや」
「もう無理かもしれん」
「大奥にも、綱吉様の力が及んでおるようじゃ」
「上様が御迎えになられた側室は
全て流産しておる」

松平光長(越後高田藩主)
「何故で御座る!」
「大奥に!」

久世広之(老中)
「いやはや」
「面目ない」
「儂らの管轄外じゃ!手遅れで御座る」
「鷹司信子(小石君)に罪は無い
綱吉様は格式ある正室(小石君)様を
最大限に利用して
大奥に影響を与えておるようじゃ」

松平光長(越後高田藩主)
「そのような事が可能で御座るか?」

久世広之(老中)
「綱吉様は大きな権力を持っておられる」
「簡単に失脚させる事は敵わん」

松平光長(越後高田藩主)
「んんゥ」
「力を合わせ
互いに勝ち進める事」
「肝要に御座る」



荻田本繁(主馬)
「暴動は限界ですぞ!」

牧野成貞(綱吉付家老)
「いや」
「もっと、美作を挑発せねばならん!」

荻田本繁
「しかし、美作の奴は
我らの挑発を無視して家督を嫡男に譲り
逃げ出した」
「藩主光長様も参勤で江戸に逃げてしまわれた」

牧野成貞
「美作が高田の町に火を放つと流言を広げたが
美作は無視しておるのか?」

荻田本繁
「左様」
「このまま暴動を続ければ
我らが逆賊となりますぞ・・・」

牧野成貞
「いや、もう後戻りは出来んぞ!」
「大蔵様はお為方の藩士と共に
独自に動いておられる」
「我らも、共に協力して逆意方を討ち滅ぼすことが正義」

荻田本繁
「儂は変な情報を得たのじゃが
館林守(綱吉)が老中会議で切腹を命じられたとの
噂が広がっておる」
「真であろうか?」

牧野成貞
「それは、出任せじゃ!」
「誰が、でたらめを申しておる!」
「事によれば、その者をひっ捕らえて
処罰にねば為らんぞ!」怒る!

荻田本繁
「いや、戯言で御座る」
「仲間割れは為らん・・・」

牧野成貞
「いや、為らん!」
「誰が、その様な事を申したか
正直に白状しろ!」

荻田本繁
「越後高田には
江戸から専門職が入っておる」
「水路や、港、新田開発の手助けを
しておるのじゃ」
「その者たちが噂しておる」
「大騒ぎするな!」

牧野成貞
「いや、為らん!」
「上様(館林守綱吉)の危機じゃ」
「その噂を広げている職人をひっ捕らえて
上野館林に連れて行く」
「上様の危機は
お為方の危機であるぞ!」
「大騒ぎするなとは、
何たる言い草!」怒り!

荻田本繁
「んんゥ」
「確かに、其方の申す通りじゃ」
「いやいや」
「この通り、謝るぞ」
「許してくれ・・・」

牧野成貞
「いやいや」
「分かって頂ければよい」
「敵の謀略に掛からぬ事が肝要」

荻田本繁
「しかし」
「敵は、我らの背後に
綱吉様がおられると
感付いているのか?」

牧野成貞
「左様」
「しかし、確信を持ってはおるまい」
「謀略じゃ」

荻田本繁
「んんゥ」
「では、江戸におられる藩主光長様にも
策略が仕掛けられる可能性が御座るな・・・」

牧野成貞
「それは、大いに考えられる」
「大蔵様の失脚は
我らの敗北となりますぞ」

荻田本繁
「とにかく、美作を挑発して
暴動に引き摺り込む事じゃ」
「美作を逃がしては為らん!」

牧野成貞
「左様」
「暴動を激化するのじゃ!」

荻田本繁
「では、其方は暴動を扇動してくれ
我らは、その暴動を美作のせいにする」

牧野成貞
「よし、徹底的にやるぞ」



久世広之(老中)
「上様・・」
「爺と少し、お話をしませんか」

将軍家綱
「んんゥ」
「よいぞ、何か良い話か?」

久世広之
「爺は、もうすぐ死にます」

将軍家綱
「えェ!」
「何を申しておる!」
「爺が死ぬものか!」

久世広之
「先は、伊豆守から御落胤、
そして、老中板倉殿、老中土屋殿が亡くなりました」
「次はそれがしの番に御座います」

将軍家綱
「その様な弱気になるな・・・」
「儂には爺が必用じゃ」
「死んでは為らんぞ!」

久世広之
「いいえ」
「もう時が御座いません」
「今、話しておかねば
話す機会は御座いません」

将軍家綱
「んんゥ」
「爺は死なんぞ!」
「話が有るのならば申せ!」

久世広之
「上様が堀田正俊(若年寄)を
引き立てようと為さっておられるが、
お止め下さい」

将軍家綱
「あァァー」
「爺も堀田をイジメておるな!」
「儂はイジメは好かんぞ!」

久世広之
「上様が留守の間に
堀田正俊(若年寄)は綱吉様と親密になり
綱吉様と協調して
幕府の体制を批判しております」

将軍家綱
「批判も必要じゃぞ」
「何を批判しておるのじゃ!」

久世広之
「堀田正俊(若年寄)は兄の正信への制裁に恨みを持っており
大老をはじめ我ら老中とも袂を分けており
意味のない批判を繰り返しております」

将軍家綱
「意味のない批判か?」

久世広之
「はい」
「箸の持ち方にいちゃもんを付けております」

将軍家綱
「ああァ?」
「堀田は口で餌でも食っておるのか!む」

久世広之
「冗談では御座らん!」
「堀田殿は難癖を繰り返しております」

将軍家綱
「爺・・・」
「先の大政参与堀田正盛は我が父の死に付き添い殉死した忠臣じゃぞ」
「その嫡男の正信は其方達にイジメられて強制隠居じゃ」
「堀田正俊が恨みに思うのは致し方あるまい」
「難癖も許してやれ」

久世広之
「上様!」
「爺の最後の願いで御座る!」
「堀田正俊を大老にしては為りません」
「堀田正俊は隠れた犬に為っております」

将軍家綱
「んんゥ」
「いや、堀田正俊は老中に引き上げる」
「もう、イジメはやめろ!」

久世広之
「上様!」
「爺は虐めなどしておりません!」
「堀田正俊をお引き立て為されば
幕府は滅びます」
「これを防ぐことが出来るのは
上様だけで御座いますぞ!」

将軍家綱
「くどい!」
「儂は、気分を害した」
「悪いが、もう話は止めにしておくれ・・・」

久世広之
「承知しました・・・・」

将軍家綱
「爺・・・」
「儂は、怒ってはおらん・・・」
「心配はいらん・・・」

久世広之
「はい」
「分かっております」

将軍家綱
「儂には爺が必用じゃ」
「死んではならんぞ!」








松平光長(越後高田藩主)
「難儀な事じゃが・・」
「暫く、世話になるぞ」

酒井忠清(大老)
「んんゥ」
「実は、大変な事になってしまった」

松平光長
「如何なされた?」

酒井忠清
「老中久世広之殿が亡くなった・・・」
「幕府は伊豆守から御落胤、老中板倉重矩
土屋数直、久世広之殿を喪った」
「更に、悪い事に
堀田正俊が老中に取り立てられたのじゃ!」

松平光長
「如何なる事でしょうか?」

酒井忠清
「亡くなった者どもは
我らの味方じゃが
新たに加わった堀田正俊は
我らの敵じゃ!」

松平光長
「では」
「堀田正俊を失脚させる必要がありますな・・・」

酒井忠清
「んんゥ」
「奴を失脚させるのは難しいのだ」
「幕府の内部は二つの勢力に分断されておる」
「悪い事に、敵の勢力は強くなり続けており
我らは衰退しておる」
「堀田を失脚させるのは
極めて困難な状況となった」

松平光長
「まさか?」
「敵の勢力は
綱吉殿の権力と結びついておるのかな?」

酒井忠清
「いかにも」
「越後高田の暴動も綱吉の勢力基盤があるから
修まることなく激化し続けておるのじゃ」

松平光長
「如何致せば・・・?」

酒井忠清
「まず」
「敵の勢力を弱めなければ為らん」
「越後高田の暴動を起こしておる
大蔵殿を失脚させる必要があると思いますが
如何で御座いましょうか?」

松平光長
「我が弟(大蔵)が綱吉殿の勢力下にあれば
排除せねばならん。
そうせねば、暴動が修まることはなかろうな・・・」
「暴動が激化し続けるのは
大蔵だけの仕業だとは考えられん」
「やはり」
「綱吉殿が後ろ盾のようじゃ・・・」

酒井忠清
「左様か・・・」
「では、格式の有るお方では御座いますが
大蔵殿を処罰することに致しますぞ!」

松平光長
「左様」
「藩主として
大蔵(弟)には
人心を惑わした罪で大名家へのお預けとする処分を
命じます事、約束致す!」

酒井忠清
「んんゥ」
「この様な事を約束させるのは
心苦しい」
「許してほしい」
「しかし」
「綱吉の権力は大きくなりすぎた」
「このままでは、
我らが失脚して
権力を奪われてしまいます」
「綱吉が将軍になれば
幕府はお終いで御座る」

松平光長
「越前、越後、には嫡男が無く」
「将軍家綱様にも嫡男が有りません」
「この、お世継ぎが無い状況で
綱吉殿の権威は高まったので御座いましょう・・・」

酒井忠清
「綱吉が将軍になれば
我らは犬のようにあしらわれ
犬のように、殺され
犬のように、家族は離散する事になります」
「これは、事実ですぞ」

松平光長
「それは・・・・」
「如何な事で・・・?」

酒井忠清
「信じられんと思うが
綱吉には幼いころから
奇行があった」
「その奇行を理由に
綱吉を失脚させようとした同士は皆、死んだのだ」
「儂にも責任がある」
「儂は、自分の地位をより強固にするために
綱吉を甘やかし過ぎた
しかし、それは間違っておった」
「ここで綱吉を失脚させねば
もう、取り返しがきかん」
「最後の機会じゃ!」

松平光長
「綱吉殿の奇行とは?」

酒井忠清
「んんゥ」
「あの者は家臣を犬のようにあしらう」
「犬として、しつけ」
「犬として、生活させる」
「犬のように忠実な家来とすることが目的じゃ」

松平光長
「犬として生きるので・・・?」

酒井忠清
「あの者の奇行は恐ろしぞ」
「あの者が絶対権力を握れば
我らはもう人ではない」
「我らは、あの者の犬にならねば
生きてはいけん」
「恐ろしい世の中になる」

松平光長
「信じられん・・・・」

酒井忠清
「誰も真に受けませんが、事実で御座いますぞ」
「誰も信じない事実こそ
恐ろしい現実で御座いますぞ」



酒井忠清(大老)
「上様!」
「堀田正俊殿を引き立てては為りません!」

将軍家綱
「もォーー」
「いい加減に、止めろォーー」
「堀田をイジメてはならん!」

酒井忠清
「久世殿は亡くなりましたぞ!」

将軍家綱
「うゥ 嘘をもうすな」
「元気にしておったぞ・・・」

酒井忠清
「いいえ」
「我らの味方は、
多くが亡くなりました」
「堀田正俊殿は我らの敵で御座います」

将軍家綱
「爺が死んだのか・・・」

酒井忠清
「はい」
「お亡くなりになりました」

将軍家綱
「・・・・・・」塞ぎ込む

酒井忠清
「上様!」
「今は、幕府存亡の危機で御座る」
「堀田正俊殿を罷免する事を了解して頂きますぞ!」

将軍家綱
「な・・何で堀田をイジメる・・・」

酒井忠清
「堀田正俊殿は綱吉殿と親密になり
幕府に対抗しております」
「綱吉殿の奇行は
上様も承知していると思います」

将軍家綱
「綱吉は将軍には成れん」
「儂が嫡男をもうけて
世継とするのじゃ!」

酒井忠清
「はい」
「我らも、お世継ぎを待望しております」

将軍家綱
「堀田が綱吉と仲良くしても構わぬ」
「堀田はな、其方達からイジメられて
孤立しておったのじゃ」
「儂の留守に、綱吉と仲良くして
何が悪い」
「儂が味方をしなければ
また、堀田は孤立するぞ」
「其方も、親身になってやれ・・」

酒井忠清
「親身になる事は可能で御座る」
「しかし」
「堀田正俊殿は信用為りません!」

将軍家綱
「では」
「儂に、如何せよと申すか!」

酒井忠清
「綱吉殿に切腹を命じて頂きたい!」

将軍家綱
「ふぅ」

「老中会議で綱吉に切腹をさせる決議があったと聞くが
其方が決めたのか?」

酒井忠清
「先は、松平信綱殿から保科正之殿、板倉重矩殿
土屋数直殿、そして、久世広之殿が
綱吉殿の奇行を正そうとしておりましたが
あえなく敗れ去りました」
「其の者どもは皆
綱吉様に切腹を命じておりました」


将軍家綱
「綱吉が将軍の器ではない事は承知しておる」
「しかし」
「誰であっても、無駄に死んではならん」
「まして、切腹など・・
断じて許さん!」

酒井忠清
「上様!」
「我らは武士で御座る」
「潔し、清廉潔白に武士道に即して
切腹するので御座る」

将軍家綱
「儂は、殉死も切腹も許さん!」
「無駄死には為らん!」

酒井忠清
「上様!」
「綱吉殿に切腹を命じて下さい!」

将軍家綱
「嫌じゃ!」

酒井忠清
「幕府は滅びますぞ!」



徳川綱吉
「〜〜やゃやなぎさわぁ〜〜」

柳沢吉保
「はい」
「此処に」

徳川綱吉
「〜〜やゃやなぎさわぁ〜〜」
「〜〜忠清と光長が手を組んで
儂をイジメに来るぅぞォ〜〜」

柳沢吉保
「大丈夫で御座います」
「全て、この小姓番衆にお任せ下さい」

徳川綱吉
「〜〜やゃやなぎさわぁ〜〜」
「〜〜だけどなぁ〜〜」
「〜〜大蔵は長州藩預かりの処分に
なったではないか〜〜」

柳沢吉保
「大蔵など必要御座いません」
「上様(綱吉)は安泰に御座います」

徳川綱吉
「うううぅ」
「今度は、儂が処分されるぅぅぅ」
「嫌じゃ、嫌じゃ」

柳沢吉保
「上様は、我らが決死の覚悟を持って
お守り致します」
「何卒、ご安心下さいませ」

徳川綱吉
「なァ」
「老中(久世広之)は死んだのか?」
「本当に死んだのか?」

柳沢吉保
「はい」
「あの者は、天誅により死にました」
「もう、上様に危害は有りませんぞ!」
「上様は我らが命に代えて、お守り致します」

徳川綱吉
「んんんぅぅぅ」
「何で死んだのか?」
「何故じゃ?」

柳沢吉保
「上様は天に守られております」
「お犬を労わる、上様を天が守っているのです」

徳川綱吉
「じゃけどなぁぁぁぁ」
「今度は、光長と忠清が悪いぞ」
「大蔵を追放したように
今度は儂を追放するぞ」
「いやいや」
「追放ではなく
切腹を迫ってくるかもしれん」
「〜〜やゃやなぎさわぁ〜〜」
「〜〜怖いぃ〜〜」

柳沢吉保
「切腹などありません」
「もしも、上様を処罰する
命令すれば、
大老と越後守にも天誅が下り
死ぬことになります」
「ご安心下さいませ」

徳川綱吉
「天誅が下るのか?」
「天が儂を守ってくれるのか?」
「儂は、天に贔屓されておるのか?」
「何故じゃ!」

柳沢吉保
「それは、上様が
お犬と仲良しで有る為」
「お犬は上様を守っております」

徳川綱吉
「なァ」
「館林には捨て犬はおるのか?」

柳沢吉保
「いいえ」
「お犬は大切に労わっております」
「館林藩には捨て犬はおりません」

徳川綱吉
「でもな」
「江戸市中には捨て犬がおるぞ」
「野良犬として石つぶてを投げられて
イジメられておるぞ」

柳沢吉保
「上様はお犬に守られております」
「ですから、
今度は、お犬に恩返しを為されば宜しいのです」

徳川綱吉
「おおおぉぉぉぉ」
「恩返しじゃ!」
「恩返しせねば
儂は、切腹せねばならんぞォー」

柳沢吉保
「上様がお犬を労われば
天は、お犬を通して上様の守護となりましょう!」
「お犬が、上様を守っているのです」

徳川綱吉
「そうじゃ」
「儂は、幼き頃から
お犬と共にしておった」
「お犬を蔑ろにしておる者どもは
天誅じゃ」
「儂の守護はお犬じゃ!」

柳沢吉保
「はい」
「お犬が、上様を守っておりますゆえ
安心して、お暮し下さい」



水戸光圀
ーーーーー畏まるーーーーー

将軍家綱
「光國殿、励んでおるか」
「日本の史書は完成したのか?」

水戸光圀
「まだ、未完成ですが
ある程度の編纂と為りましたので
献上致します」

将軍家綱
「いやいや、貴重な資料じゃ
其方が保管しておれ!」

水戸光圀
「では」
「上様に検分をお願い致します」

将軍家綱
「いィ いやいや」
「儂は歴史は苦手じゃぞ」
「あのな、年号やら人名やらが沢山書かれておるのじゃろ」
「ちょっとだけ、目通しするだけならよいぞ・・・」

水戸光圀
「いいえ、これより大日本史の完成にあたり
(善は以て法と為すべく、悪は以て戒と為すべし、
而して乱賊の徒をして懼るる所を知らしめ、
将に以て世教に裨益し綱常を維持せんとす
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
上様には熟読願います」

将軍家綱
「うふェーー」
「儂はな、凡人じゃ
其方のような秀才ではないぞ」
難しい事を申すな・・・」

水戸光圀
「では、最初から学習致しましょう」
「御指導賜ります」

将軍家綱
「何で儂が其方にご指導なんじゃ?」
「無理無理・・」

水戸光國
「上様!」

将軍家綱
「はい、何でしょうか?」

水戸光圀
「幕僚は欲望がなければ
惰性的となり、
政務は滞り
人心は離れ
世は荒むのですぞ」
「この大日本史を完成させる為には
歴史を追及する欲望を湧き立てる必要があります」
「上様が率先して
学習をする事が絶対に必要なのです!」

将軍家綱
「左様か・・・」
「んんゥ」
「大切な事だとは思うが
明日にしよう」
「あのな、今日は駄目じゃぞ」
「明日、目通しする」

水戸光圀
「直ぐに、学習するべきで御座います!」

将軍家綱
「ちょょと待て」
「あのな、其方は物事を深刻に考え過ぎる」
「みっともない事や礼儀作法にはずれなければな
冗談も快活も良いぞ」
「遊び心は必要じゃ」
「もっと、気楽に生きる事じゃ!」

水戸光圀
「遊んでばかりおっては馬鹿になりますぞ!」
「上様には、これから
じっくりと勉強して頂きます」
「私が、ご指導致します!」

将軍家綱
「ああぁぁのなァ」
「儂は、其方ほど優秀ではないが
国は栄えておるぞ」
「儂が将軍と成って
国は大いに栄えたぞ」

水戸光圀
「いいえ」
「上様には
これから大いに御活躍為される事
使命に御座います」
「大日本史を共に完成させましょうぞ!」

将軍家綱
「んんんぅぅぅ」
「ちょっと、其方に聞きたいのじゃけども」
「大日本史は何の役に立つのじゃ?」

水戸光圀
「はい」
「大日本は歴代天皇と幕府の関係を網羅しております」
「朝廷には権威が授けられ、
幕府は朝廷より権力を授けられております」

将軍家綱
「左様か・・・」
「では、誰が朝廷に権威を授けたのじゃ?」

水戸光圀
「上様!」

将軍家綱
「はい」

水戸光圀
「朝廷の歴史は幕府よりも長いのですぞ!」

将軍家綱
「はい」



酒井忠清
「水戸守に、お願いが御座います」
「我らの力になって頂きたい」

水戸光圀「左様か」
「何かな?」

稲葉正則
「将軍の世継に御座います」

水戸光圀「んんゥ」
「上様には、未だ嫡男がありませんな」
「後継者を決めておかねば為らんと・・・」

稲葉正則
「上様の養子は誰が宜しいかと・・・」

酒井忠清
「あくまでも、上様に嫡男がない時の
備えに御座る」

水戸光圀「儂には、上様の世継を決める権限は無い」

稲葉正則
「しかし」
「備えておかねば、宗家のお家争いになりますぞ」

酒井忠清
「儂は、水戸守からでもよいと考えておる」

水戸光圀
「何を申しておる!」
「水戸よりも、」
「館林守(綱吉)が後継者ではないのか!」

酒井忠清
「館林守は将軍の素養に欠けております」

水戸光圀
「しかしな」
「将軍は素養ではないぞ」
「血筋じゃぞ」

稲葉正則
「左様」
「それは、東照大権現様の御意思で御座る」

酒井忠清
「お待ち為され!首座殿」
「それは、戦国の世から
まだ、幕府の体制が弱い頃の
東照大権現様の御意思で御座るぞ」

水戸光圀
「ほォ」
「大老は館林守が世継であると困る事でも有るのかな?」

稲葉正則
「儂や大老だけでは有りません」
「水戸守にも影響が御座いますぞ!」

酒井忠清
「左様」
「館林守を将軍にしては為りません」
「我らの願いは
朝廷から上様の養子を迎える事に御座います」

水戸光圀
「何を申す?」
「先ほどは、水戸から将軍をと申しておったのに
今度は、朝廷からと申すか!」
「儂を馬鹿にしておるのか!」

稲葉正則
「失礼致した」
「そうでは、ありません」
「水戸守が辞退なされたので
朝廷からと考えた次第」
「悪意は御座らん」

酒井忠清
「館林守の奇行は江戸の幕臣は皆知っておりますが
水戸にまでは噂が広がってはおりません」
「よい機会で御座る」
「ここで、館林守の奇行をお話し致す」

水戸光圀
「何を馬鹿な事を申すか!」
「儂が、その様な作り話を信じるとでも
思っておるのか!」

稲葉正則
「作り話など致しません」
「全て事実に御座います」



徳川綱吉
「水戸様の条件とは何で御座いますか?」

水戸光圀
「其方の幼き頃からの奇行を聞いた」
「本来であれば、
其方が将軍後継に成る事は適切ではない」

徳川綱吉
「何を誰に聞いたのですか?」

水戸光圀
「其方の奇行は真実だと思うぞ」

徳川綱吉
「大老が申しておったのか?」

水戸光圀
「なァ」
「綱吉殿・・」
「何故、家臣を犬として扱うのじゃ!」
「申してみよ」

徳川綱吉
「・・・・・・」
「将軍が家来に従うのは間違っております」
「もう、将軍が家来に従う事は
止めに致したいので御座います」

水戸光圀
「将軍家綱が家臣に操られておると申すか!」

徳川綱吉
「家綱は将軍としての役目を果たしておりません」
「家綱は何一つ決める事が出来ぬばかりか
ふらふらと遊びまわっております」
「嫡男一人もうける事が出来ぬ有様」

水戸光圀
「嫡男無きは
其方も同様じゃ」

徳川綱吉
「恐れ入ります」
「・・・・・・」

「水戸様の条件とは・・・・?」

水戸光圀
「如何なる条件じゃ!」

徳川綱吉
「大老が儂に切腹を迫っておる」
「儂は、切腹したくない」
「助けてくれ!」

水戸光圀
「大老が何を考えておるのか
儂は知らん」
「其方に切腹を申し付けるのには
それなりの理由がある筈じゃ」
「其方には、将軍の素養が無いと
評価されておる」
「其方が将軍になると
幕府が衰退すると思われておる」
「心当たりは無いのか?」

徳川綱吉
「いいえ」
「心当たりなど御座いません」
「大老は、余が将軍に成ると
今までの地位や権力が失われると思いこみ」
「その権力を維持したいが為に
余に罪を擦り付けておるので御座います」

水戸光圀
「儂は其方の申す事が全て間違いだとは言わんが」
「大老の申す事も同様に
全てが間違いだとは思わん!」

徳川綱吉
「全て大老の都合で御座います」
「余は大老の都合で抹殺されようとしております」
「水戸様!」
「どうか、余をお助け下さい」

水戸光圀
「なァ」
「将軍後継は血筋が大切かな?
それとも、優秀で人知に優れ
思いやりのある者が相応しいのかな?」

徳川綱吉
「如何なる意味ですか?」
「儂には将軍の資格が無いと申されるのですか?」

水戸光圀
「儂はな、いつも苦渋の日々を送っておるのじゃぞ」
「本来であれば、兄君が
水戸藩主になる筈であった」
「儂は、兄君を差し置いて
水戸藩主となったのじゃ」
「儂が、水戸藩主になる資格が有ると思うか!」
「儂は、藩主となる事を拒否し続けた」
「今でも、拒否しておる」
「これは、どうにも為らん事」
「其方も同様じゃ!」



徳川光圀
ーーーーー畏まるーーーー

将軍家綱
「綱吉に会ったのか・・・」

徳川光圀
「はい」
「お会い致しました」

将軍家綱
「まだ、綱吉は
儂の養子に為りたいと嘆願しておるのか?」

徳川光圀
「館林守は命乞いを為されておりますぞ!」

将軍家綱
「大老が老中の意見を取り纏め
幕府に禍根を残さぬように
綱吉を誅殺する事が目的じゃ」

徳川光圀
「上様は如何に為さる御つもりで
御座いますか?」

将軍家綱
「儂は、殉死、切腹、島流し等は許さん!」
「当然、何者であろうとも
誅殺は無い」

徳川光圀
「将軍の役割とは何で御座いましょうな?」

将軍家綱
「あつははは」
「決まっておる!」
「将軍は上座に座り畏まっておるのじゃ」
「政は老中」
「そして、その是非は大老が判断する」
「将軍は上座でその様子を見ておるのじゃ!」
「つまらん、事じゃぞ」

徳川光圀
「では、綱吉殿は何故に将軍に成りたがっておると思いますか」

将軍家綱
「あれは、将軍になって復讐したいのじゃ!」
「今は、大老に従うしか術が無いが
将軍になれば、逆にその者達を誅殺することが出来る」
「復讐心じゃ!」

徳川光圀
「上様!」
「その様な事が分かっておりながら
殉死は為らん
切腹は為らん
島流しは為らん、などと申しておるのは
無責任で御座いますぞ!」

将軍家綱
「おおおぅ」
「左様か・・・」
「では」
「如何すれば良いのじゃ?」

徳川光圀
「綱吉殿に切腹を命じなさいませ」

将軍家綱
「えええええェ」
「嫌じゃ、止めて・・・」
「無理、無理」
「・・・・・・・」いじける

徳川光圀
「では」
「この光圀が綱吉殿を誅殺致しますぞ!」

将軍家綱
「ううぅ嘘ォーーー」
「やめてよ・・・」
「駄目だよ・・・」

徳川光圀
「将軍の務めで御座います」
「幕府の存続の為に御座います」
「老中が揃って決めた事」
「上様は決断しなければ為りませんぞ!」

将軍家綱
「なァ」
「他に良い方法があるぞ」
「綱吉にはな、儂から将軍の後継者になる事を辞退するように申し付ける」
「綱吉が辞退すれば良いではないか」
「なァッ」
「そう致せ」

徳川光圀
「条件が御座います」

将軍家綱
「条件か?」

徳川光圀
「これは、上様と綱吉殿、お二人の約束事ではいけません」
「老中、有力大名、重鎮が揃う中で
上様が綱吉殿に申し付ける必要が御座いますぞ!」

将軍家綱
「おい」
「それは為らん!」
「そのような事をすれば
綱吉の面子が立たん」
「綱吉の怒りを買うぞ!」

徳川光圀
「それでは、いっそのこと
誅殺為さいませ!」

将軍家綱
「待て待て」
「其方は、物事を堅苦しく考え過ぎる」
「儂は、儂の考えで
綱吉に改心をさせる」
「ちょっと、待て」



徳川綱吉
ーーーーー畏まるーーーーー

将軍家綱
「なァ」
「綱吉よ」
「其方のやり過ぎを反省しては如何じゃ?」

徳川綱吉
「はい」
「反省致しております」
「お許し下さい」

将軍家綱
「老中どもは、其方に厳罰を与える必要性があると申しておるぞ」

徳川綱吉
「はい」
「上様の心意に従います」

将軍家綱
「儂は、其方に切腹など命じたりしない」
「心配するな」

徳川綱吉
「はい」
「恐れ入ります、
上様の御配慮に感謝申し上げます」

将軍家綱
「なァ」
「綱吉よ」
「今、将軍の世継となって
実際に将軍と成った場合に
今の、志を忘れてしまうのではないのか?」

徳川綱吉
「いいえ」
「それがしは、心を入れ替えました」
「決して、志を変えることは御座いません」

将軍家綱
「では」
「もう、家臣を犬のように扱う事はしないのじゃな!」

徳川綱吉
「はい」
「それがしの間違いで御座いました」
「お許し下さい」

将軍家綱
「光圀殿がな、
『主な大名や重鎮を集めて
皆の前で約束させよ!』と申しておるぞ」
「其方、皆の前で約束できるか?」

徳川綱吉
「はい」
「お約束致します」

将軍家綱
「しかしな」
「其方の決意を信じぬ者もおるぞ」
「其方の決意はは、口先だけと申す者がおるぞ」
「皆の前で恥をかく事になると思うぞ」
「覚悟は出来ておるか!」

徳川綱吉
「はい」
「全て、それがしの責任で御座います」
「綱吉は強く決意を持って
改心致します」

将軍家綱
「では」
「其方の決意を書面に認めて光圀に渡せ」
「もしも、其方が約束を破るような事をすれば
光圀殿が書面を公開する」
「如何じゃ!」

徳川綱吉
「はい」
「仰せに従い
書面に認め、光圀様にお渡し致します」

将軍家綱
「んんゥ」
「儂は、其方の事を誤解しておったのかも知れんのォ」
「其方は、良い将軍になれるかも知れん」

徳川綱吉
「はい」
「決して、失望はさせません」
「国の為」
「幕府の為」
「領民の為」
「全ての皆の為」
「立派な将軍になることを誓います」

将軍家綱
「左様か」
「其方の覚悟を聞いて安心したぞ」
「儂は、其方を罰したりはせん」
「安心しろ」
「当然の事じゃが、儂は嫡男をもうける」
「儂の嫡男が世継になるのが
一番良い事じゃ」

徳川綱吉
「・・・・はい」

将軍家綱
「側室も懐妊しておる」

徳川綱吉
「・・・・・・」

将軍家綱
「嫡男をもうけたら
其方も喜んでくれるか・・・」

徳川綱吉
「・・・・・・」
「・・は・・い・」



酒井忠清(大老)
「水戸守が、将軍の後継者会議に参加してくれたので
我ら正規幕府勢力が優勢となった」
「真に、喜ばしい事で御座る」

徳川光圀
「上様は、切腹の命令は出せぬようじゃから
儂は、策略をもって、
綱吉殿を誅殺することにした」

松平光長
「それは、如何なる策略で御座いますか?」

徳川光圀
「切腹の命令無しに、綱吉殿を誅殺する」

大久保忠朝(老中)
「それは、為りませんぞ!」
「たとえ、水戸守と言えども
上様の御命令がなければ
館林守は処罰出来ませんぞ!」

徳川光圀
「其方は、綱吉殿を擁護する立場かな?」

大久保忠朝
「儂は、道理を申しておる」
「上様の御意志を無視する事は不忠で御座る」

徳川光圀
「左様か」
「しかしな、綱吉殿の奇行は事実であった」
「このまま、見過ごすことは出来んぞ」
「他の者は、如何したい?」
「意見を聞きたい」

稲葉正則
「それは、水戸守の策略次第で御座る」
「完璧な策略ならばよし」
「不完全であれば無理で御座る」

徳川光圀
「完璧な事など、この世には存在しない」
「しかし、不確実だからと言って
何もしないで放置するのは
無責任で御座いますぞ」

酒井忠清
「水戸守は上様から書状を受け取っておるのじゃ」
「上様は、その書状で綱吉の奇行を認め謝罪を申し付けておる」
「上様の御意志は綱吉を罪に問う事じゃ!」

大久保忠朝
「それは、真で御座いますか?」

酒井忠清
「我らは、綱吉をこの会議に呼びつけて
上様の書状を公開する」
「そうすれば、上様の御同席なく
上様の直接の御命令なく裁くことが出来ますぞ!」

大久保忠朝
「それは、卑怯ではありませんか?」
「その書状を拝見したい!」

徳川光圀
「其方は、かなり疑い深いようじゃ」
「悪いが、少し席を外してくれ!」

大久保忠朝
「いいぇ」
「某は正論を申しております」
「策略は万全であらねばなりません」

酒井忠清
「まぁ宜しい」
「其方は自らの立場を良く考えよ!」
「我らに従うか」
「綱吉に味方するか」
「立場を明確にすることが肝要じゃ!」

大久保忠朝
「大老に従い申す」

徳川光圀
「儂とて、
宗家のお家騒動に巻き込まれたくなどないのじゃぞ」
「そのような、弱気では
儂の策略も上手くはいかん」
「今回の作戦は諦めては如何じゃ!」

酒井忠清
「おおォ」
「おい忠朝殿」
「水戸守に謝れ」
「今、水戸守に見捨てられたら
我らは敗北じゃぞ!」
「早く、謝れ!」

大久保忠朝
「水戸守に謝罪申し上げます」
「某の、弱気をお許し下さい」










将軍家綱
「綱吉は改心して、今までの奇行を反省しておる」
「許そうではないか」
「なァ、水戸守」

徳川光圀
「あっははは」
「左様」

将軍家綱
「幕府が分裂していると申す者がおるが
何が分裂しておるのじゃ?」

徳川光圀
「家臣の心が分裂しております」
「将軍派と綱吉派で御座る」

将軍家綱
「綱吉は改心したぞ」
「綱吉派など消滅した」
「分断は無い!」

徳川光圀
「分断など無い方が良いが・・・」

将軍家綱
「無い!」
「儂はな、綱吉と仲良しになったぞ」
「其方も、綱吉と仲良しになれ!」

徳川光圀
「あっははは」
「仲良しになりますぞ」

将軍家綱
「そうじゃ」
「皆が、仲良しになれば
分断など無くなるのじゃ!」
「其方は、堅物過ぎるぞ!」

徳川光圀
「上様?」
「拙者は、堅物では御座いませんぞ!」

将軍家綱
「いや」
「堅物じゃ!」
「大日本史は堅物でなければ
編纂出来んぞ!」

徳川光圀
「あつははは」
「では、羽目を外してみますかな・・・」

将軍家綱
「そうじゃ」
「堅物はつまらん!」

徳川光圀
「しかし」
「拙者の羽目が外れると
上様は恐れを為すのでは?
心の準備は出来ておりますか?」

将軍家綱
「えェ」
「そんなに、外すな」
「恐ろしく、羽目を外すのか?」

徳川光圀
「左様」

将軍家綱
「・・・・・」
「いや」
「止めろ・・・」
「其方は、堅物のままで良い」
「堅物でおれ」

徳川光圀
「あっははは」
「上様!」
「上様は、もっと、自信を持ち為され」
「綱吉殿も自信を失って、謙虚となっておるが・・」
「同じではない」

将軍家綱
「儂には自信を持てと言い」
「綱吉には、謙虚になれと申すのか?」

徳川光圀
「左様」

将軍家綱
「まぁ良い」
「それぞれ考え方が違うのは悪い事では無いぞ」
「価値観が違っておるからと言って
喧嘩しては為らん!」
「分断しては為らん!」
「其方は、綱吉と仲良しになれ!」

徳川光圀
「あつははは」
「上様は、お優しい」

将軍家綱
「其方も、優しくなれ!」

徳川光圀
「優しさとは、強さの裏付けが必用」
「弱い優しさは、性根を腐らせる」

将軍家綱
「ぎゃははは」
「儂は最強の将軍じゃ!」
「最強の優しさは無敵じゃ!」



徳川綱吉
「はァーア💢」
「ふざけるな💢」


柳沢吉保
「ううぅ・」
「これは、江戸内部の情報ですから
疑いの余地は御座いません」

徳川綱吉
「んんんんゥ」
「家綱の奴💢」
「儂を騙しやがった💢」
「むむむむぐぐぐゥ」

柳沢吉保
「はい」
「上様(綱吉)は今回の集会に参加しては為りません」
「集会は上様を将軍の世継候補とするものではなく
上様を弾劾し、誅殺する目的で開かれるので御座います」

徳川綱吉
「倍返しじゃ!」
「おのれェー!」
「家綱の奴!」
「許さんぞ!」

柳沢吉保
「はい」
「上様には天の御加護が御座います」

徳川綱吉
「いや」
「駄目じゃ!」
「儂が奴を誅殺してやる!」
「儂は、やられたら
やり返す!」

柳沢吉保
「では」
「某にお任せ下さい」
「考えが御座います」

徳川綱吉
「如何な考えじゃ?」

柳沢吉保
「はい」
「老中堀田正俊を利用致します」

徳川綱吉
「はァーあ」
「堀田じゃとォー」
「相手は、光圀、光長、忠清、家綱じゃぞ!」
「堀田なんぞに、何が出来る💢」

柳沢吉保
「はい」
「正攻法では太刀打ち出来ません」
「堀田は利用するので御座います」

徳川綱吉
「詳しく申せ」

柳沢吉保
「はい」
「堀田は光圀、光長、忠清、他の老中と対立しておりますが
家綱とは極めて良好な関係で御座います」
「更には、上様とも親密で御座います」
「この、関係を利用致します」

徳川綱吉
「んん」
「如何する?」

柳沢吉保
「はい」
「堀田に家綱からの書状を持たせるのです」

徳川綱吉
「んんゥ」
「堀田に持たせる、家綱の書状内容が問題か?」

柳沢吉保
「はい」
「上様は、お怒りを一旦おさめて頂きまして
今一度、家綱と合い
親密で良好な関係を持っている様に演技を致します」
「その場に、堀田を呼びつけて
書状を書かせ、堀田に持たせるのです」

徳川綱吉
「おおおォ」
「アホな家綱は儂の演技に騙されて
堀田に良い書状を渡すぞ!」
「むぎゅー」
「うぎぎぎ」
「危うく、敵の策略に嵌るところであった」

柳沢吉保
「はい」
「上様が怒れば、怒る程、
敵の思う壺で御座います」

徳川綱吉
「おおおォ」
「左様じゃ」
「其方の、申す通りじゃ」

柳沢吉保
「では」
「某は、準備致します」
「準備が出来ましたら
家綱とお会い下さいませ」

徳川綱吉
「よし」
「家綱め!
覚悟しておれ!」

柳沢吉保
「くれぐれも、怒りを表さぬ様に
お願い致します」