アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

越後騒動 光圀の助言

2022-01-19 11:17:08 | 漫画


将軍家綱
「其方の兄(正信)とは色々縁があってな
謹慎を解いてやりたいと思っておったがな」
「未だ叶わぬ」
「儂の力不足じゃ」

堀田正俊
「恐れ多き事」
「兄君は、精神に異常をきたしております故
致し方御座いません」

将軍家綱
「んんゥ」
「其方は、綱吉と親密なのか?」

堀田正俊
「はい」
「館林守とは良好な関係で御座います」

将軍家綱
「実はな、
其方が綱吉と組んで
幕府を乗っ取ると申す者がおる」
「綱吉は、何を考えておる?」

堀田正俊
「某は、そのような大それた事、
考えた事も御座いません」
「いつもの、イジメで御座います」

将軍家綱
「其方は気の毒じゃのォー」
「しかし、老中となっても
孤立しておれば、イジメられるぞ
皆と協調することで解決できのんか!」

堀田正俊
「上様」
「御落胤が
上様の御触れを阻止していたことを覚えておりますか?」

将軍家綱
「んんゥ」
「爺は、殉死の御触れを許さなかった」
「しかし、口頭で殉死をしないように申しておったぞ」

堀田正俊
「御落胤は、某に配慮しておりました」
「父(正盛)が殉死し、
忠臣として祭り上げられたにも関わらず
堀田家は断絶の危機を迎えておりました」
「御落胤に助けられたのです」

将軍家綱
「んんゥ」
「お家の存亡じゃな・・・」

「なァ」
「綱吉の改心は本物かなァ?」

堀田正俊
「はい」
「館林守は、お優しい御方だと思います」

将軍家綱
「んんゥ」
「しかしな」
「其方は、綱吉の奇行を知らんから
その様に申しておるのではないのか?む」

堀田正俊
「奇行と呼ばれている事柄は承知しております」
「但、生き物に同情して
優しく接する事は良い行いで御座います」
「館林守の奇行と呼ばれている事柄は
同情心が行き過ぎた為に御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「いやいや」
「誤解しないで聞いて欲しい」
「儂は、綱吉を陥れる為に申すのではないぞ」
「綱吉はな、優しくなどないぞ!」
「優しく無い者を、優しいと申しておるぞ!」

堀田正俊
「きっと、某が
最近の館林守しか知らぬ為で御座いましょう」
「館林守が改心して、優しく成られたのでは・・・」

将軍家綱
「なァ」
「綱吉が、また、儂に会いたいと申しておる」
「其方を立会人にしたいそうじゃ」

堀田正俊
「はい」
「某で宜しければ
立会人となり、
双方に誤解が有れば
解消のお手伝いをさせて頂きます」

将軍家綱
「んんゥ」
「なァ」
「何故に、綱吉は儂に会いに来るのじゃ?」

堀田正俊
「はい」
「上様のお世継ぎで、
大老が館林守を世継候補から排除したいと画策している事に付いて
確認に参るので御座いましょう」

将軍家綱
「大老が綱吉を排除したいのは
綱吉が大老をはじめとする重鎮を
犬のようにあしらったからじゃぞ」

堀田正俊
「左様な不届きを・・・」
「それでは、武士の面本も御座いません・・・」
「しかし」
「某には、犬に為れとの強要は御座いません・・・」
「大老に悪戯をしていたのでは御座いませんか?」

将軍家綱
「んんゥ」
「少し前に、綱吉に会ったが
確かに、改心しているようじゃった・・・しかし」
「あ奴が、悪戯など考えるのか?」
「どうも、其方との認識にはズレがあるな?」

堀田正俊
「館林守は誤解を解く為に
上様とお合いしたいと申しているのでは御座いませんか?」


将軍家綱
「なっ何じゃ?」
「何を引きつっておる?」

徳川綱吉
「ごォご機嫌麗しゅう御座いますェ」

将軍家綱
「ななァ何じゃ!」
「お主、儂に話があるのか?」

徳川綱吉
「ふふェえェー」
「ふェへへ」
「ははは・・」

将軍家綱
「おい」
「無理をするな」
「いつも様にしておれ」

徳川綱吉
「ふぁい」
「これが、いつもの綱吉でごじゃる」

将軍家綱
「んふふふふ」
「何じゃ?」
「其方、笑おうとしておるのか?」
「其方には、笑顔は無理じゃぞ!
今まで笑った事が無い者が
作り笑いは無理じゃ!」
「変な顔になっておるぞ」

徳川綱吉
「ふぇ様」
「哀れな弟をお許しくだちゃい」

将軍家綱
「うふふひひひ」
「おい」
「笑わせるな」
「言葉が変じゃぞ」

徳川綱吉
「ふぇ様」
「わらしは、切腹したくありましぇん」
「だじげてぐだじゃい」

将軍家綱
「おいおい」
「儂は、何度も申しておるぞ!」
「何者も、島流し、殉死、切腹は許さん!」
「其方が切腹することは無いぞ!」
「安心致せ!」

徳川綱吉
「うううゥ」
「うえェーーーェ」
「ぐェーー」
「ヴェ・・・・」涙

将軍家綱
「おい」
「其方、泣いておるのか?」
「もう宜しい」
「其方の改心は認めよう」
「武士が泣くな!」
「みっともないぞ!」
「見苦しい!」

徳川綱吉
「うううぅ」涙
「ぶェ様に、お願いがごじゃりまふ」
「わひを助けて下じゃい」泣く

将軍家綱
「分かった、もう泣くな!」
「儂に如何しろと申す!」

徳川綱吉
「ぐェ様!」
「それがじを、許す事を確約する書簡を作ってぐだじゃい」

将軍家綱
「おォお」
「何で?」
「儂が命令せねば
お主が罪に問われはせんぞ!」
「書状に残すと面倒じゃ!」
「悪用されても困る」

徳川綱吉
「ふェェーー」烈しく泣く
「ぶべェェェェェェーーーーー」


将軍家綱
「おい」

「泣くのは止めろ!」

徳川綱吉
「うギャァァァアーーーー」


将軍家綱
「ああああァ」うるさい
「やめろ!」

徳川綱吉
「お願いじまづ」
「書簡を書いてぐだじゃい」
「お願いじまづ」
「お願い・・」
「お願い」泣くぞ

将軍家綱
「おい」
「やめろ!」
「書状は為らん!」

徳川綱吉
「ぶェー」



大村治部左衛門安秀(大村加卜)
「名刀をご所望に御座るか?」

小栗 正矩(美作)
「んんゥ」
「大蔵は追放出来たが儂は、隠居させられて
立場が無い」
「せめて、其方に名刀を所望したいのじゃ!」

大村加卜
「しかし」
「お為方の残党は、まだ暴動を繰り返しております」
「それは、お為方への挑発には為りませんか?」

小栗 正矩
「いやいや」
「これは、儂の覚悟じゃ!」
「このままでは、我らは真の逆意方となって
大蔵殿を追放した逆賊として
藩士の批難の的となろう」
「我らに逆らえば
『痛い目に合うぞ!』 との脅しの意味もある」
「如何じゃ作れるか!」

大村加卜
「左様に御座るか」
「では、製作致しましょう」
「しかし、事の常で御座いますが
名刀は人の血を欲しがるものに御座います」
「無暗な殺生は禁物で御座る」

小栗 正矩
「んんゥ」
「承知しておる」
「武士の威厳を高めるためじゃ
其方の剣を腰に差しておきたいのじゃ!」

大村加卜
「ところで、
この騒動は、大蔵殿の仕業で御座いましょうか?」

小栗 正矩
「大蔵殿は追放された
しかし、騒ぎは収まるどころか
激化しておるぞ」
「裏に、館林守が隠れておる筈じゃ」

大村加卜
「某は、刀をお渡しした後で
江戸に赴き、上様(藩主光長)に相談したく思います」

小栗 正矩
「左様か」
「それも良いな」
「ところで」
「其方は、医者として人の命を救う仕事をしておるが
一方では刀工として、人を切り殺す道具を作る
何方が本来の姿なのじゃ?」

大村加卜
「左様で御座いますな」
「某は、外科医で御座るから
戦で負傷した者を治す事が仕事で御座った」
「当然、鉄砲傷等もありますから
傷口を鋭利な刀で切ることも御座る」
「名刀は、外科医にとっては
必用不可欠な道具に御座る」

小栗 正矩
「んんゥ」
「左様か」
「刀にも人を切り殺す以外の使い道があるのじゃな・・・」

大村加卜
「左様に御座る」

小栗 正矩
「しかし、其方の刀工の腕は確かじゃ」
「そして、医術も捨てがたい」
「其方が、江戸に行くと
寂しくなるぞ」

大村加卜
「はい」
「直ぐに帰って参ります」
「これは、某がお為方に疑われぬ為でも御座る」
「美作様と頻繁に会い
帯刀を製作したとなれば
某の中立は保てません」
「中立でなければ、お為方の情報も得られません」


小栗 正矩
「左様か」
「して、何か情報を得たか?」

大村加卜
「はい」
「今、お為方は、
上様(藩主光長)が江戸で贅沢三昧をしているとの噂を広めております」
「そして、大蔵様の復権を望んでおります」

小栗 正矩
「んんゥ」
「大老(酒井忠清)の権威を無視する暴挙じゃ」

大村加卜
「はい」
「攻撃は、上様(光長)大老(酒井忠清)両名に及び
収拾が付かぬ状況」
「そして、美作様も同様に攻撃対象に御座る」

小栗 正矩
「いやいや」
「儂は、逆意方と呼ばれ
真っ先に攻撃されておったぞ」
「上様や大老は、とばっちりのまきぞえじゃぞ!」

大村加卜
「はい」
「大蔵様に厳しい処分が為されたのは
美作様が大老に賄賂を渡したからだと申し
大騒ぎをしております」

小栗 正矩
「やはり、この騒動は変じゃな」
「館林守様が撤収してくれなければ
収まりが付かんぞ」

大村加卜
「左様に御座います」




徳川光圀
「おおォ」
「加卜殿!」
「其方に刀を作って貰いたい」
「其方の刀はめったに手に入らぬ一品と聞く」

大村加卜
「これは、恐れ多き事に御座います」
「水戸守様の要望で御座る
断る事はできません」
「謹んで、御受け致します」

徳川光圀
「おおォ」
「左様か」
「儂は、其方を召し抱えたいと思っておる」
「是非とも、水戸に仕官してくれ!」

大村加卜
「・・・・」
「今、某は越後守に仕えております
上様(松平光長)のお許し無く
お仕えすることは叶いません」
「残念で御座います」

徳川光圀
「んんゥ」
「其方の腕前は評判じゃ
越後守も手放したくはなかろう」
「じゃがな、儂は諦めんぞ」
「其方を、仕官させたいのじゃ
朱舜水を遣わすから
其方の要望を何でも申し述べよ」
「遠慮はいらんぞ!」

大村加卜
「これは、これは」
「朱舜水様に御足労頂いては恐縮至極に御座います」
「某が、足を運びましょう」

徳川光圀
「おおおォ」
「其方のような匠を得ておる越後守が羨ましい」
「ところで」
「今回は、江戸に何用ですかな?」

大村加卜
「いやいや」
「実は、逃げて参った」
「越後高田は、
暴動が激化しておりまして、危険極まりないので御座る」

徳川光圀
「おやおや」
「何故に越後守は、暴動を抑えないのかな?」
「暴動を放置して江戸住まいとは
悠長なことじゃな!」

大村加卜
「いいえ」
「抑えないのではなく、
訳が有って、抑えられないので御座います」

徳川光圀
「おお」
「訳ありで御座るか?」
「宜しければ、教えてはもらえんか?」

大村加卜
「水戸守様は館林守と親密に為さっておられますか?」

徳川光圀
「ん?」
「左様か・・・」
「綱吉の介入か?」

大村加卜
「・・・・・・」

徳川光圀
「いやいや」
「心配はいらん!」
「都合が悪い事は申さぬとも宜い」
「儂とて、最近になって
この一連のお家騒動に深入りし過ぎたと思っておる」
「そろそろ、水戸に退くことが肝要じゃ」

大村加卜
「はい」
「某も、逃げて参った次第」
「お為方、逆意方、中立ではおられません」
「難儀な事に御座います」

徳川光圀
「綱吉は大きな権力を持ち始めておる
迂闊に対決姿勢を取れば死活問題じゃ」
「光長殿は難儀じゃぞ!」

大村加卜
「はい」
「もう、主君は逃げられぬ立場になっております」
「某も、危険な状況に変わりはありません」

徳川光圀
「んんゥ」
「やはり、朱舜水を其方の元に遣わそう」
「きっと、光長殿もお許しになる」
「其方!水戸に参れ!」

大村加卜
「有難き、申し入れ
感謝申し上げます」

徳川光圀
「んんゥ」
「待っておるぞ」

大村加卜
「はい」
「主君の御意向次第に御座います」



大村加ト
「某は中立の立場」
「お家騒動とは無縁に御座る」

牧野 成貞 (館林藩家老)
「礼は尽くすぞ」
「何成りと要求してくれ」

大村加ト
「某よりも、腕の立つ匠は
幾らでもおる筈」
「ましてや、書状の偽造など
無理で御座る」

牧野 成貞
「いや」
「調べは付いておる」
「其方は、偽の書状を完璧に仕上げ
その完成度は
本物と見分けられない出来栄えとの事」
「逃げ隠れは出来ませんぞ!」

大村加ト
「某は、刀工じゃ」
「偽の書状など、作れるものか!」
「何かの間違い、誤解に御座る」

牧野 成貞
「偽では御座いません」
「それは、れっきとした本物で御座る」

大村加ト
「しかし、公方様がお認めにはなりませんぞ!」

牧野 成貞
「いやいや」
「将軍家綱様の要望に御座る」

大村加ト
「んんゥ」
「それは、変じゃ」
「公方様が直接に、お書きになれば宜しい事」
「わざわざ、偽造する必要は有るまいに」

牧野 成貞
「いやいや」
「これは、極秘事項である故、他言無用にてお願いしたい」

大村加ト
「左様か」
「では」
「無理には聞かん」

牧野 成貞
「いやいや」
「他言無用を了解して
聞いて頂きたい」

大村加ト
「聞きたくは無い」

牧野 成貞
「今、将軍家綱様は御病気に御座る」
「余って、書状は代筆にて実行されたいとの
ご要望で御座る」

大村加ト
「某は、聞かぬと申したぞ!」

牧野 成貞
「いいえ」
「将軍家綱様は御病気に御座る!」

大村加ト
「儂は、その様な戯言を信じん!」

牧野 成貞
「いいえ」
「もう、遅う御座います」
「この極秘事項を知られては
無事に帰す訳にはいきませんぞ!」

大村加ト
「如何にせよと申す!」

牧野 成貞
「将軍の公式な書状を代筆する事で御座る」

大村加ト
「断る!」
「そもそも、其方は館林藩の家老ではないか
最低限、老中、大老の要請が必用じゃぞ!」

牧野 成貞
「如何にも、老中の要請で御座る」
「ご安心下され」

大村加ト
「いやいや」
「其方の話は信用出来ん」
「この話は、無かった事にしておくれ」
「某には無理で御座る
許して欲しい」

牧野 成貞
「いいえ、為りません!」
「老中の要請で御座る!」



大村加卜
「危ないところ
助けて頂きました」
「感謝致します」

朱舜水
「いやいや」
「水戸守が、佐々木 助三郎と渥美 格之進を護衛に付けておりました」
「護衛は、大変腕が立ちます故
暴漢は逃げ去りました」
「ご安心下さい」

大村加卜
「これは、よもや、朱舜水先生では御座いませんか?」

朱舜水
「いかにも、朱舜水と申します」
「水戸守が其方を召し抱えたいと所望しております」
「是非、水戸守にお使い下さいませ」

大村加卜
「はい」
「その事は水戸守より要請されております」
「朱舜水先生の事も承知致しております」
「某は、先生にお会いする為に
出かけておりました」

朱舜水
「では」
「水戸守に、お使い為されませ」

大村加卜
「はい」
「先ずは、主君越後守様の、お許しが必用で御座います」
「許しを得れば、よろこんで仕官致します」

朱舜水
「期待して、待っております」
「ところで、あの暴漢どもは何者ですか?」

大村加卜
「あれは、上野館林藩の者どもで、
某と話をしていたのは牧野成貞と申す家老で御座います」

朱舜水
「話は如何な事ですかな?」

大村加卜
「はい」
「なんでも、将軍家綱様が御病気との事で
将軍命令の書状を代筆して欲しいとの要諦で御座った」

朱舜水
「ほォお」
「公方様は病気なのか?」

大村加卜
「左様で御座る」
「某、その様な書状は書けないと拒否しましたが
書かなければ命は無いと脅されておりました」

朱舜水
「書状は館林守を世継候補に入れる事ではあるまいか?」

大村加卜
「詳しい事は分かりません」
「只、賊は準備周到で御座いました」

朱舜水
「では」
「偽の書状は他で作られると考えねばならんな」

大村加卜
「左様で御座る」
「老中も承知の事と申しておりました」

朱舜水
「誰であろうか?」

大村加卜
「口から出任せかもしれません」

朱舜水
「この事は、水戸守にお知らせせねば為らん」

大村加卜
「左様」

朱舜水
「貴方は、一旦安全を確保して
身を潜めて欲しい」
「危険が迫っておるぞ」

大村加卜
「はい」
「隠れております」

朱舜水
「不穏な事」



松平光長(越後国高田藩主)
「儂の典医(主治医)が館林の賊に襲われた」

酒井忠清(大老)
「何と!」
「何故?」

松平光長
「名は大村加トと申す典医じゃが
その者、天下一品の匠の技を持つ」
「その技を使い、偽の書状を作らせたいとの陰謀」
「大村加トは陰謀を見抜き
館林の極秘情報を知った為に命を狙われたのじゃ」

酒井忠清
「偽の書状とは?」

松平光長
「その時に、館林藩家老牧野成貞が申しておったそうじゃが
上様(将軍家綱)が御病気で
書状の代筆を求め
老中が、其の申し入れを受けたそうじゃ」

酒井忠清
「老中?」
「誰で御座る?」

松平光長
「んんゥ」
「江戸城に裏切者がおる!」

酒井忠清
「んんゥ」
「堀田正俊か?」

松平光長
「其方、上様の御病気を知っておったか?」

酒井忠清
「いや」
「お元気で御座った」

松平光長
「んんゥ」
「朱舜水の話では
偽の書状は、既に別の者が作り
老中が手にしている可能性があると申しておる」

酒井忠清
「何の為に?」

松平光長
「分からぬ・・」

酒井忠清
「水戸守が持つ上様からの書状に対抗する為の
偽書状を老中に手渡しておるとすれば
それは、世継に関する重大な問題になりますぞ」

松平光長
「んんゥ」
「上様の遺言とも呼べる書状を偽造すれば
重大な犯罪じゃ!」
「館林藩は改易間違いないぞ!」

酒井忠清
「んんゥ」
「いや」
「証拠が無い・・・」
「迂闊に、弾劾すれば返り討ちに合いますぞ!」

松平光長
「如何すればよい?」

酒井忠清
「その大村加トと申す者に偽書状を作らせれば宜い」
「その者を証人とすれば、館林の罪は確定する!」

松平光長
「大村加トは偽書状の制作を拒否しております」
「また、館林は大村加トを殺そうとしたのですぞ!」
「それは、無理じゃ!」

酒井忠清
「では」
「別の者を探せばよい」
「誰かおらぬか?」

松平光長
「出来の悪い書状では意味がない」
「大村に代わる者などおらん!」

酒井忠清
「では」
「やはり」
「大村加トにやらせる事です」
「それ以外の方法は考えられん!」

松平光長
「何方にせよ、大村は殺されますぞ!」

酒井忠清
「証人となり殺されれば
後腐れは無い」




徳川光圀
「綱吉殿を誅殺為さいませ」

将軍家綱
「駄目じゃ」
「余の弟だから申すのではないぞ!」
「其方も同様、誰であろうと
殺しては為らん!」

徳川光圀
「たとえ、館林藩を改易しても
綱吉殿が健在であれば禍根を残しますぞ!」
「ご決断為さいませ」

将軍家綱
「もう止めろ」
「其方が、綱吉を嫌っている事は、よく分かった・・・」

徳川光圀
「好き嫌いの問題では御座いません」
「これは、綱吉殿の謀反で御座る」

将軍家綱
「左様か・」

朱舜水
「恐れながら申し上げます」
「謀反の者は公方様が御病気だと偽り
偽の遺言状を書かせ
老中に持たせる計画が御座いました」

徳川光圀
「偽の書状を持つ老中を割り出し
白状させるのです」

将軍家綱
「じゃけどな・」
「そんな事をしても、罪人を増やすだけじゃぞ」

朱舜水
「恐れながら・・・」
「放置しては為りません」
「罪は裁かねば、繰り返されます」

徳川光圀
「罪人を野放しにするのですか!」

将軍家綱
「んんゥ」
「少し、騒ぎ過ぎじゃぞ・・・」
「んんんゥ」
「ではな」
「儂が、皆の話を聞いて、
穏やかに解決を図る」
「打開策は穏便にして見つかる筈じゃ」
「何でもかんでも
殺したり、閉じ込めたり、追放して解決しては為らん」

徳川光圀
「上様の安易な、お考えで
多くの忠臣が犠牲になりました」

将軍家綱
「えェー」
「誰が犠牲になった!」

徳川光圀
「・・・・・」

将軍家綱
「申せ!」

朱舜水
「確証は御座いませんが
余りにも多くの老中が短期間に
不自然にお亡くなりになっております」

徳川光圀
「不自然な死は、
先の松平信綱殿、から保科正之殿、板倉重矩殿、
土屋数直殿、久世広之殿で御座る」

将軍家綱
「爺は儂のよき忠臣じゃった」
「不自然なのか?」

朱舜水
「はい」



徳川綱吉
「何か用か」

将軍家綱
「今日は、お主、泣かんのか」

徳川綱吉
「誰が泣く」

将軍家綱
「まあァよい・・・」
「しかし」
「態度が横柄じゃのォ」

徳川綱吉
「悪いか!」

将軍家綱
「なァ」
「其方との約束があったと思うが
覚えておるか?」

徳川綱吉
「知らん!」

将軍家綱
「では」
「思い出してやる」
「其方は、今までの奇行を反省して
老中、大老、有力大名の前で反省すると申しておった」
「あの約束は嘘であったな」

徳川綱吉
「約束を破ったのではない」
「その集まりは、儂を殺す為に仕組まれた罠じゃ」
「何で、儂に恥をかかせて、殺すのじゃ!」

将軍家綱
「んんゥ?」
「儂は、其方の罪を咎めた事は無いぞ」
「その集まりに参加して反省をする事は
其方の意思で決めた事」
「約束を破ったのは其方じゃ!」

徳川綱吉
「いいや!違うぞ!」
「お前は、光圀に儂を弾劾する書状を渡しておる筈」
「儂を陥れようと画策した、張本人じゃ!」

将軍家綱
「おいおい」
「その書状は、其方の了解を得て書いたのじゃ」
「忘れたか!」

徳川綱吉
「光圀には書状を書いたのに
儂には書いてくれん」
「不公平じゃ!」

将軍家綱
「儂は、其方のおかしな行いを咎め改める為に
書状を書いた」
「其方は、自らの奇行を反省して
悔い改めると誓った」
「あれは、嘘か!」

徳川綱吉
「お前は、儂を始末する為に
光圀と共謀した」
「儂は、お前に騙された!」

将軍家綱
「何を血迷っておる・・」
「冷静になれ!」

徳川綱吉
「冷静になれだと!」
「ふざけるな!」
「儂は、殺されるのだぞ!」
「お前は、儂が死んだ方がよいと思っておるのじゃな」
「祟ってやる!」

将軍家綱
「ちょと、何を言う?」
「お主には、何かが取り憑いておるのか?」

徳川綱吉
「もう、お前など如何でもよいわ」
「儂には、天の加護がある
儂は、天に守られておる」
「お前は、地獄に落ちろ!」

将軍家綱
「んんゥ」
「今日は、話に為らん」
「又、日をかえて話をしよう」
「興奮するな!」

徳川綱吉
「日をかえるだと!」
「もう、お前と話す事など無い」
「儂を殺す事など出来んぞ!」
「お前は、死んで後悔しろ」
「呪ってやる!」

将軍家綱
「・・・・・・」
「儂は、其方の為に何が出来る・・・」

徳川綱吉
「間抜けめ」
「お前は、馬鹿か!」

将軍家綱
「手が付けられん・・・」

綱吉
「手が付けられんだと!」
「汚らしい!」



大久保 忠朝(老中)
「大変で御座います!」

稲葉正則(老中首座)
「大変で御座います!」

堀田正俊(老中)
「大老!」
「大変で御座います!」

酒井忠清(大老)
「煩い!」
「神妙にせよ!」

大久保 忠朝
「大老!」
「一大事に御座る!」

稲葉正則
「大老!」

酒井忠清
「おい!」
「老中堀田正俊殿に申す事がある」
「神妙に致せ!」
「老中堀田正俊殿、其方、
上様の偽造の遺言書を持っておるな!」

堀田正俊
「上様の遺言書は持っておりますが
偽造とは、何の言いがかりで御座いますか?」

酒井忠清
「難癖などではないわ!」
「証拠はあがっておるぞ!」
「証人もおるぞ!」
「其方は言い逃れは出来んぞ!」
「其方の悪事は明白じゃ!」

堀田正俊
「この遺言は上様が書かれた物で御座る」
「変な、言いがかりを申しては為らん!」

酒井忠清
「上様が書かれた物だと申したな!」
「その様な嘘は、上様に直接確認して頂けば分かる事」
「今のうちに、諦めて罪を認めよ!」

大久保忠朝
「大老!」
「大変で御座る!」

酒井忠清
「煩い!」
「さっきから、大変大変と」
「何事じゃ!」

大久保忠朝
「上様が突然・・」

稲葉正則
「上様が倒れました・・」

徳川光圀
「それは、大変じゃ!」
「もしもの事があれば、
世継争いになるぞ!」
「上様の容態は如何じゃ?」

大久保忠朝
「大きな衝撃を受けて、卒倒致しました」
「頓死したのかも・・・」

酒井忠清
「死んだのか?」

大久保忠朝
「恐らく・・」

酒井忠清
「何で早く申さん!」
「一大事じゃぞ!」

「んんゥ」
「おい」
「堀田正俊殿!」
「其方の持つ遺言は偽物じゃ」
「無効じゃぞ!」
「有効の書状は水戸守が保管しておる
其方の書状は偽物の紙屑じゃ!」

徳川光圀
「大老・・」
「儂の持っておる書状は
上様の遺言書ではないぞ」
「この書状の意味しておるのは
綱吉殿が将軍と成った時の戒めじゃ」
「世継をこの書状で決定する事もなければ
堀田殿の持っておる遺言書を無効にする効果も無い」

酒井忠清
「あああァ」
「兎に角、堀田殿の持っておる
遺言書は無効じゃ!」
「無効じゃぞ!」



徳川綱吉
「手間もなく万事済んだ」

柳沢吉保
「左様に御座います」

徳川綱吉
「しかし」
「光圀の奴は何を考えておる!」
「あれ程、儂に対抗していたと思えば
家綱がおらんようになった途端
手の平を返して
儂を推薦してきたぞ!」

柳沢吉保
「それは」
「光圀の謀略で御座います」
「光圀は家綱の書状を持っております」
「その書状の内容は
上様(綱吉)が将軍に就任後の行いを諫めるもの」
「光圀は、その書状を掲げて
上様を抑圧出来ると考えております」

徳川綱吉
「如何すればよい」

柳沢吉保
「先ず、我らに対抗した勢力を一掃する事で御座る」

徳川綱吉
「んんゥ」
「では、手始めに松平光長を始末する」
「その者を呼び寄せよ!」

柳沢吉保
「光長は領地に引きこもり
身を潜めておりますが
徳川家康の曾孫、徳川秀忠の外孫にあたる家系故
上様の命令で江戸に呼び寄せるよりは
自ら望み、江戸に参るよう仕向ける事が得策かと存じ上げます」

徳川綱吉
「如何するのじゃ!」

柳沢吉保
「先ず」
「お為方の壱岐と本多七左衛門に暇乞いをさせます」
「その者達は家綱との接見がありますから
我らに承諾を求めて参ります」
「承諾が欲しければ
江戸に参るように申し付けるので御座います」

徳川綱吉
「んんゥ」
「左様にせよ」
「それから、酒井忠清じゃ!」
「あ奴は、まだ儂に対抗しておるぞ!」

柳沢吉保
「忠清はいずれ隠居する筈です」
「心配は要りません」

徳川綱吉
「隠居するだと!」
「許さん!」

柳沢吉保
「如何様に為さいますか?」

徳川綱吉
「忠清は許さん!」
「お家断絶の上で打ち首じゃ!」

柳沢吉保
「・・・・」

徳川綱吉
「如何した?」

柳沢吉保
「急いでは為りません」
「忠清が殉死すれば
我らが逆賊と為り兼ねません」
「まだ、正式に殉死は禁止されておりません」

徳川綱吉
「よし」
「殉死を禁止する」
「宜いな!」

柳沢吉保
「承知致しました」
「上様の御触れと致します」

徳川綱吉
「稲葉正則と大久保忠朝は如何する?」

柳沢吉保
「あの者どもは、使い道が御座います」
「暫く、使ってみては如何でしょうか?」

徳川綱吉
「使い捨てじゃ!」

柳沢吉保
「左様に御座る」



酒井忠清
「おい」
「証拠はあがっておるのだぞ!」
「其方の不正は、断じて許さん!」

堀田正俊
「何度も、申し上げております」
「拙者が先様(家綱)から預かった書状に
偽りは御座らん」
「この様な言いがかりは無礼千万で御座る」
「先様、上様(綱吉)に対する冒瀆で御座る」

酒井忠清
「証拠があるのじゃ!」
「証拠を捻り潰すつもりか!」

堀田正俊
「何の証拠で御座る」

酒井忠清
「其方の持っておる書状が
偽物じゃと言う証拠があるのだぞ」

堀田正俊
「それが、言いがかりと申しておる」
「証拠が有ろうが無かろうが
もう、綱吉様が将軍に就任なされた」
「証拠など有っても無くても
意味は無い」
「其方は、隠居の身」
「儂は、晴れて大老に引き立てられた」
「全ては、其方の僻み根性じゃ」
「素直に、負けを認めなされ」
「武士として、潔く為されよ」
「みっともない奴じゃ!」

酒井忠清
「いいや」
「儂は、綱吉様の就任を認めてはおらん」
「家綱様のご逝去にも不審な点が御座る」

堀田正俊
「ほぉー」
「何を申すかと思えば
典医の見立てを無視為さるおつもりか?」

酒井忠清
「先は、松平信綱、板倉重矩、保科正之、土屋数直、久世広之
その者達の死亡も不信だらけじゃ!」

堀田正俊
「忠清殿・・」
「正気では御座いませんぞ!」
「その様な事を申してはなりません」
「死んだ者に申し訳ないと思わんのか」
「情けない・・」

酒井忠清
「では、何で」
「この様な短期間に、老中ばかり亡くなったのか!
其方に説明出来るのか!」

堀田正俊
「生きとし生けるもの、必ずやそれは訪れるので御座る」
「誰の責任でも御座らん!」

酒井忠清
「其方は、何一つ
まともに答えてはおらんぞ!」
「証拠は捻じ伏せ
不信は拭えぬままじゃ!」
「何を隠しておる!」

堀田正俊
「何も隠して等御座らん」
「言いがかりは止めて頂きたいものじゃ」
「今は、其方は隠居の身
儂は、大老に昇進じゃぞ」
「この現実を無視する気か」
「これが事実というものじゃ」
「事実を認めなされ」
「其方は、偽りの虚言をいつまでもほざいておるぞ」
「勝手な事ばかり申しておるぞ」
「もう、諦めては如何かな?」

酒井忠清
「諦めろだと・・・」
「諦めて欲しいのか!」
「証拠が有るのだぞ!」
「大きな証拠が有る」
「其方は、必ず罰せられる!」

堀田正俊
「証拠など意味は無い」
「そもそも、証拠などは其方の捏造かも知れんぞ」
「証拠が捏造で無い証拠でもあるのかな?」
「証拠など意味は無い」
「諦めが肝心じゃぞ」

酒井忠清
「んんゥ」
「それを開き直りというのじゃ」
「其方は、開き直って罪を認めたのじゃぞ!」
「悪しき行いをすれば
報いがある」
「悪行に対しては悪い報いを受けるのじゃ」
「証拠隠滅の罪は重いぞ!」

堀田正俊
「左様か」
「それを申すならば
其方の罪はもっと重いぞ」
「其方は冤罪を作り
無実である者を犯罪者として扱っておる」
「冤罪は最大の罪じゃぞ」

酒井忠清
「では、冤罪であるとする証拠を示せ!」

堀田正俊
「いいえ」「その前に」
「其方は、冤罪で無いとする証拠を示さねばなりませんぞ」

酒井忠清
「だから、証拠があると申しておる」
「検分すればよいではないか!」
「何故、逃げる」

堀田正俊
「もう、綱吉様が将軍に就任為された」
「光圀殿も、お認めに為られた」
「検分など出来ん!」

酒井忠清
「ほれみよ」
「証拠隠滅じゃ!」

堀田正俊
「ほざいておれ・・」



将軍綱吉
「儂は、其方に命を救われた」
「其方は、命の恩人じゃぞ」

堀田正俊
「上様の将軍就任
目出度き事に御座る」
「これよりは、この大老に全て申し付け下され」

将軍綱吉
「んんゥ」
「其方が頼りじゃ」
「全て、其方が思うようにすればよい」

堀田正俊
「はハーッ!」
「お任せ下さい!」

将軍綱吉
「ところで、困った事がある・・」

堀田正俊
「如何なる事?」

将軍綱吉
「儂は、将軍になったが
まだ、不満を持つ者がおる」
「納得せね者がおるのじゃ」
「家綱には忠義するが
儂には反感を持つ者が多い」
「・・・・」
「先ずは、家綱に忠義する者を無くしたい」

堀田正俊
「殉死させますか?」

将軍綱吉
「いやいや」
「殉死は禁止する」

堀田正俊
「ほォー」
「禁止で御座いますか?」

将軍綱吉
「殉死は、家綱への忠義じゃ」
「儂への抗議じゃ」
「殉死は禁止するぞ」

堀田正俊
「んんゥ」
「困りました・・」

将軍綱吉
「如何した?」

堀田正俊
「実は、兄の堀田正信が家綱の後を追い
殉死致しました」

将軍綱吉
「おおおォ」
「待て待て」
「その話、外部に漏らしてはおらんな!」

堀田正俊
「いやいや」
「心配は無用」
「兄君は精神の病で御座る」
「混乱して見境が無くなっておりました」
「正信を見習おうとする者はおりません」

将軍綱吉
「おァ・・・」
「兎に角、儂は自信が無い」
「家綱を慕う者が多すぎる」
「如何すればよい?」

堀田正俊
「簡単で御座る」
「殉死した兄の正信が、家綱の忠臣である事を
公表するのです」
「家綱に忠義の者は
儂に従います」
「儂は、大老として
上様を支えますぞ!」

将軍綱吉
「おァ!」
「左様か!」
「お主が、儂の頼りじゃ!」
「頼む、頼むぞ!」
「儂は、自信が無い」
「頼むぞ!」

堀田正俊
「ご安心下さい」

将軍綱吉
「なッ・・儂は如何すればよい?」

堀田正俊
「上様は、正信の殉死を認めた後
直ちに殉死の禁止令をお出し下さい」
「家綱を慕う者は
上様の配慮、気使いに感服し
上様に忠義を誓う事、間違い御座いません」

将軍綱吉
「おェ」
「そそうじゃゃ」
「お主の申す通りじゃ」
「おェ」

堀田正俊
「上様は大きな圧力を受けて
疲労しておりますぞ」
「無理は御座らん」
「今は、全て大老にお任せ下さい」
「上様には静養が必要で御座る」
「全て、大老が致します」
「ご安心下さい」

将軍綱吉
「おェ」
「確かに」
「お主の申す通りじゃ・・」
「ずっと、気が張りつめておった」
「いつまでも、この状態が続くと
気がおかしくなる」
「兎に角、儂に対抗する者を
追い出してくれ」
「儂に、忠義させろ・・」
「儂に逆らう者が怖い」

堀田正俊
「色々、心配が御座いますな・・」
「その心配は、全て大老が引き受けますぞ」
「上様は大船に乗って
堂々と為さっておれば宜しい」
「全て、お任せ下さい」

将軍綱吉
「おェ おェ」
「気が抜けた・・」
「おェ」

堀田正俊
「やはり、上様には静養が必用じゃ」

将軍綱吉
「おおェ」
「分かった、おェ」





松平光長(越後藩主)
「壱岐と本多七左衛門の暇乞いの許可申し入れは
儂を江戸に呼び寄せる口実」
「儂は、如何なる?」

堀田正俊(大老)
「貴公、徳川家康の曾孫、徳川秀忠の外孫に当たるお方」
「罪を受ける事は決して御座いません」

松平光長
「しかし、忠清は打ち首との噂がありますぞ」

堀田正俊
「忠清は、上様の就任に異議を唱え
家綱様の遺言を虚偽と申して
抵抗しております」
「打ち首も致し方御座らん」

松平光長
「儂は、如何すれば宜い」

堀田正俊
「何を!心配為さいますな」
「儂は、上様(綱吉)から全ての権限を委ねられた」
「儂が、貴公を罰することは絶対に無い」
「儂に、任せておけば大丈夫で御座る」

松平光長
「んんゥ」
「其方が頼りじゃ」
「宜しくお願い申す」

堀田正俊
「いやいや」
「勿体無い、お言葉」
「貴公をお守り致す事」
「当然の務めに御座る」
「決して悪いようには致しませんぞ!」

松平光長
「ところで、其方の兄君が家綱様の後を追い
殉死したそうじゃな」

堀田正俊
「左様に御座る」
「忠義な忠臣として、高く持ち上げられまして御座る」

松平光長
「正信殿の殉死は認められ
その後の殉死は禁止された」
「如何いう経緯なのか?」

堀田正俊
「今回の将軍就任に異議を申し立て
騒いでおる者どもがおります」
「その者たちが家綱様を慕い
綱吉様を批判する目的で
殉死する事を防ぐ為で御座る」

松平光長
「んんゥ」
「未だ、情勢は不安定だと?」

堀田正俊
「酒井忠清は大老として
大きな権力を持っておりましたから
忠清に加勢する愚か者がおります」
「その者たちの抵抗手段は殉死しか御座らん」
「殉死を禁止する目的は
忠清の力を完全に削ぎ落とす事に御座る」

松平光長
「んんゥ」
「儂は、お為方に対抗しておったと
見なされないか?」
「お為方には綱吉様の後ろ盾があったと思うが・・・」

堀田正俊
「儂は、その様な経緯は承知しておらん」
「もしも、それが事実であれば
お為方に対抗することは得策ではありませんぞ!」

松平光長
「しかし」
「儂は、忠清と協力し合い
逆意方に与していたと見なされておる」
「言い逃れは出来ん・・」

堀田正俊
「断固拒否為され」
「今、綱吉様の就任に異議を唱えれば
例え貴公であっても
身の安全は保障できませんぞ!」

松平光長
「しかし」
「忠清殿は幕府評定所の裁定でお為方を一方的に裁き
逆意方にはお咎めなしを決定してしまったのじゃ」
「もう、取り返しはきかん!」

堀田正俊
「それは、忠清が勝手に裁いた誤審
忠清とは縁を切る事が得策で御座る」
「今は、綱吉様の時代で御座る」

松平光長
「おおォ」
「罪深き事じゃ」

堀田正俊
「罪ではありません」
「情勢に流される事が肝要」
「情勢に逆らえば恐ろしい制裁に出会いますぞ」



荻田本繁(主馬)
「再審の申し付けを受理し
賜りました事」
「感謝申し上げます」

堀田正俊
「再審は其方に有利なのかな?」

荻田本繁
「逆意方の美作親子はお咎めなしで御座る」
「対して」
「お為方の大蔵様は長州藩に某は松江藩にお預けの処分を受けております」

堀田正俊
「んんゥ」
「喧嘩両成敗が基本とあれば
お為方が不満を持つのも理解できる」

荻田本繁
「いえ」
「両成敗はありません」
「我らは、お為方であり
美作は逆意方で御座る」

堀田正俊
「何故に左様に思う?」

荻田本繁
「内緒の話」
「我らは、綱吉様が将軍就任為された事により
正式に、お為方が確定したので御座います」

堀田正俊
「其方が申しておる意味が分からん」
「お為方が確定する前は偽りのお為方であったのか?」

荻田本繁
「いえいえ」
「お為方に変わりは有りません」
「ただ、正式にお為方と為ったので御座る」

堀田正俊
「んんゥ」
「儂が承知しておらぬ事があるのじゃな!」

荻田本繁
「左様で御座る」
「我らは綱吉様の正式なるお為方で御座る」

堀田正俊
「ふぅ」
「余り期待するな・・・」

荻田本繁
「何故で御座る」
「大蔵様は光長様の弟君」
「綱吉様は家綱様の弟君で御座る」
「察して意味は承知為さいませ」

堀田正俊
「では」
「大蔵殿を復権して
光長殿を失脚させろと申すか!」

荻田本繁
「内緒の話、左様に御座る」

堀田正俊
「其方の話は承知したが
解せない事が有るぞ」
「どうも、其方は上様の親裁を期待しておるように思える」
「上様に判決を賜る事を期待しておるのか?」

荻田本繁
「いえいえ」
「左様な事、恐れ多き事」
「決して、上様にお願い等、恐れ多き事で御座る」

堀田正俊
「儂は、其方の事はよく分からんのじゃ」
「だから、詳しく教えて欲しい」
「其方は、美作が不正を繰り返し
是正しない事を咎めたが改善されず、
自棄になって暴動を起こしたのか!」

荻田本繁
「我らは、お為方で御座る」
「しかし、また」
「我らは、将軍様のお為方でも御座る」

堀田正俊
「んんゥ」
「また、その事を申すのか・・」
「其方の話から推測すれば
綱吉様は其方の後ろ盾となっていた事になるぞ!」
「はっきりと申せ!」

荻田本繁
「いえいえ」
「そのような、恐れ多き事」

堀田正俊
「んんゥ」
「しかしな、其方の期待には沿えないぞ」

荻田本繁
「えェ」
「何故で御座る!」

堀田正俊(大老)
「上様は、極めて多忙な毎日で御座る」
「従って、全ての権限は大老にお任せになった」
「この再審は、大老の権限で判決が下される」

荻田本繁
「左様に御座いますか・・・」



堀田正俊(大老)
「今回の綱吉様将軍就任に
御尽力賜りました事
深く感謝申し上げます」

徳川光圀(水戸藩主)
「儂は、大老(堀田正俊)の持つ
先様(徳川家綱)の書状が本物だと思い
推薦した迄」
「大した事では御座らん」

堀田正俊
「何故、書状が偽物だと思う者が
多数おるので御座いましょうか?」

徳川光圀
「証人がおるからじゃ!」

堀田正俊
「ほォー」
「誰で御座る?」

徳川光圀
「んんゥ」
「今に分かる!」
「兎に角、大老の持つ書状は本物の筈」
「偽物と騒いでおる者は
大きな誤解をしておるのじゃ」

堀田正俊
「しかし、それは誤解などでは済まされませんぞ!」
「上様はお怒りじゃ!」

徳川光圀
「分かっておる」
「この状況が見えておったから
綱吉様を推薦したのじゃぞ」

堀田正俊
「左様に御座いますか・・」
「・・・・・」

徳川光圀
「如何為された?」

堀田正俊
「んんゥ」
「今、様々な問題が噴出しておって
判断が難しい状況になっておる」
「水戸守の御助言を賜りたい」

徳川光圀
「如何様な事ですかな?」

堀田正俊
「んんゥ」
「越後高田の騒動で御座る」
「松平光長様は大権現徳川家康公の曾孫、徳川秀忠様の外孫に当たるお方」
「そして、その弟君を裁かねばなりません」
「如何裁いても遺恨が残ります故
悩んでおります」

徳川光圀
「では、裁かなければ宜しい」

堀田正俊
「ええェ」
「放置で御座るか?」

徳川光圀
「左様」

堀田正俊
「しかし」
「上様より大きな権限を頂いた
最初の仕事で御座る」
「何もせずに放置は無理で御座る」

徳川光圀
「では」
「判決を先延ばしにすればよい」
「一年かけて吟味するのじゃ」

堀田正俊
「んんゥ」
「何とも不名誉な事」
「他によい方法は無いのか?」

徳川光圀
「判決を急げば身の破滅ですぞ」

堀田正俊
「んんゥ」
「水戸守の協力が必用で御座る」

徳川光圀
「儂に協力して欲しいのか?」

堀田正俊
「お願い申し上げます」

徳川光圀
「儂は大老に協力しても何も得ぬばかりか
身の破滅に繋がり兼ねん」
「この様な損な役回りをするのじゃ
条件があるぞ!」

堀田正俊
「はい」
「何なりと申し付け下され」

徳川光圀
「よし」
「では、隠し事なく情報を渡して欲しい」
「如何じゃ?」