3-4.元良親王 女性遍歴 御匣殿(みくしげどの)の夢見歌
馬場あき子氏著作「日本の恋の歌」~貴公子たちの恋~ からの抜粋簡略改変版
色好みの源流:元良親王 一夜めぐりの源流
元良親王とはもう少し近い身分の上臈女房御匣殿との贈答を見よう。短い詞書ながら物語めいていて美しい。
(投稿者補足:御匣殿:一条天皇の最初の后定子の末の妹。定子亡き後、定子の遺児を世話していた御匣殿は一条天皇に愛され皇子を懐妊したが出産を見ぬまま死亡した。享年十七、八歳という)
時々おはする所におはして前裁の中に立ちて聞き給へば、
宮の今宵夢に見え給へるかなとて、女
うつつにも静ごころなき君なれば夢にもかりと見えつるが憂さ
(お会いする時さえゆったりと落ち着いたご様子のない君ですから、夢にさえかりそめの会い
のように見えてしまうのがつらいことです)
こんな思い入れの深い夢のなげきを、元良親王がすぐ近くの前栽がくれに立っているとは知らずに詠みあげたのだから、立ち聞きしてしまった元良親王も感動したことだろう。御匣殿のもとは「時々おはする所」なのであったし、勝手知った前栽のかげに佇んで、普段の引きつくろはない女の姿を覗いてみようとしていたのである。
そんな時に、全く折よく、御匣殿は侍女かなにかを相手に「宮(元良親王)が今宵の夢にお見えになったのよ」というとびきりの科白(せりふ)を口にしたのだ。元良親王の心もときめき、その詠み上げた歌はしみじみいとしく心にひびいたはずである。元良親王からの歌は「元良親王御集」の方からあげてみる。
鶯の木伝ふ枝をたづぬとも花のすみかを行きてみしはや
つくづくと思ひし月を過ぎぬれば今はなつくることを思ふかな
告げそめし思ひをそらにかすめてもおぼつかなさのなおまさるかな
鶯の声のまにまにたずねて行き、ついにあなたの「花のすみか」を、そして本当の心をみることができましたよと言い、つくづくと思い悩んだ月日も過ぎて、今は夏来(懐く=馴れ親しむ)ることを思うのですと言い、終わりに、恋い初めの頃の不安なときめきを思い出しながら、このような間柄になるといっそう不安が増えるのですよ。女の恋の歌を立ち聞きしたあとの巧みな口説きというほかない。
おわり(次回予定は未定です)