夕方からまた、雨になりました。
雨の音に誘われて谷川俊太郎さんの詩集が読みたくなりました。
私のパソコンの廻りは恥ずかしくなるくらい雑然としています。
片づけてもすぐに散らかります。
読みかけの本が何冊も積まれていて、その中に詩集があります。
娘の本棚にあった詩集です。
頭の中を清々しくお掃除したいときに開きます。
今日もそんな気分?
いいえ、純粋に俊太郎さんの詩集が読みたかったのです。
谷川俊太郎詩集 『 こ れ が 私 の 優 し さ で す 』 を
ぱらぱらと捲くると、栞の挟んであるページが開きました。
私の好きな詩がありました。
春
かわいらしい郊外電車の沿線には
楽しげに白い家々があった
散歩を誘う小径があった
降りもしない 乗りもしない
畠の中の駅
かわいらしい郊外電車の沿線には
しかし
養老院の煙突もみえた
雲の多い三月の空の下
電車は速力をおとす
一瞬の運命論を
僕は梅の匂いにおきかえた
かわいらしい郊外線の沿線では
春以外は立ち入り禁止である
かなしみ
あの青い空の波の音が聞こえるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい
透明な過去の駅で
遺失物係の前に立ったら
僕は余計にかなしくなってしまった
私はこの「かなしみ」の詩が好きです。
私も73年という人生で、とんでもないおとしものをしてきたような気がいたします。