「おい、六本指のシュリンプ!」
月曜日にナオミが学校に行くと、いつものようにオーエンがちよっかいを出してきた。ナオミは振り返った。
「なにか用? 女にしか威張れないウィンプ(注、口語でwimpは弱虫の意味)」
そう言ってナオミは足払いをかけた。
転んだオーエンには何が起こったかわからなかった。次に、尾てい骨に激痛を感じて大声で泣き出した。マークとジムは親分がやられてどうしていいかわからないようだった。しばらくすると、なさけない顔をしているオーエンを置き去りにして一目散に逃げ出してしまった。
いままではやり返したらどれだけ気持ちがいいかと思っていたけど・・・・・・くだらない相手をやっつけるのって山盛りのウンチになった気分だわ。
帰宅するとケネスが待っていた。
「その顔色だと性根の腐ったクズ野郎には勝ったらしいな。どうだ気分は?」
ナオミは抱きつくと大声で泣きじゃくった。
ケネスは常にナオミを理解していた。彼はよく言ったものだ。
「トルストイの『アンナ・カレーニナ』が文学として完璧だなんてたわごとを信じるな。幸福な家庭は皆同じように似ているが、不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を衣にしているものだなんて大ウソさ。不幸な奴らの姿こそ皆同じだ。自分を不幸にする堂々巡りのネットワークを作って落ち込んでるだけさ。だけど、不幸な状況から上を目指す姿こそ百万通りも種類がある」
人生はくよくよしてもしかたない。問題があっても答えは目の前にある。ただし、もし答えが存在するならばだが。
どうしても答えが見つからない時は?
しかたない、そんな時はしばらくほっておくんだ。助け船は、いつもすでに向かっているもんだ。ナオミが悩んだ時でもそう言うだけで意見を押しつけなかった。
ケネスは戦う術だけを教えたのではなかった。彼はある戒めを守らせた。
「自分からはけっして戦いを挑まない。戦うのはあくまで生き残るための最後の手段だ」
ナオミは今回の事件からこのことを肝に銘じさせられた。
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