ナオミは、何ごとか考えている様子で言った。
「おもしろい?」
「はぁ?」夏海は間の抜けた声を出した。
「何をしたらいいか決めるのって、おもしろいかって聞いてるの」
「チョイス・イズ・トラジックってわかる?」
夏海は思わず微笑んだ。
「チョイス・イズ・チョラジック?」
「選択はいつも悲劇的と言うことよ」
「難し過ぎる。わかんない」
「ひとつのことを選べば別のことは選べなくなるという意味よ。ケーキをお昼のデザートに食べてしまえば三時のおやつにそのケーキは食べられないでしょう」
「トラジディーだ」
「トラジディーね。人は生きる限り決定を迫られる。そんな時、はっきりした答えを出すのは難しいわ。せいぜい出来るのは、やってみるメリットと失われるデメリットを比べてみること。天秤の使い方はもう習ったでしょう。ディベートを知っているのは心の天秤があるようなものよ」
夏海は淋しそうに笑った。
あの時、悩みに対する答えを夏海は決めたのだろうと振り返って思う。ホノルルを訪れた時に、夏海が出演したパフォーマンスを見たニューヨークのある劇団からずっと誘いを受けていたのだった。
「どうしたの?」
気がつくと、夏海は涙を流していた。
「ごめんなさい。ナオミ、あなたにはまだわからないかも知れないけど何も決断をしなければ無難で葛藤のない人生を送れるわ。でも、波風を立てたり他人を傷つけたりしてもわたしは夢にチャレンジしたい」
夏海はナオミを抱きしめた。
「あなたはいつまでもわたしの娘よ」
ナオミは、なぜ夏海が当たり前のことを言うのかと思った。
だが、同時に何かしら不安を感じた。
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