マクミラがいない間もクリストフは、死んだように眠っていた。
「インフォームド・コンセント無しだが、覚悟はよいな?」アポロノミカンを開くと言った。「さあ、目を見開いて見るがよい! このまま行ったきりで、くやしくないのか?」
クリストフは、ピクリともしない。
「一瞬でいい、目を開けよ!」
それでも動きはない。意を決して、今度は右手首にマクミラが“ドラクール”の眷属の証である鋭い牙を突き立てた。
血が、再びクリストフにしたたり落ち始める。
「行くんじゃない! カモン、帰ってこい!」
その時、呼びかけに答えるように薄くクリストフの目が開いた。
「よし、見るがよい。アポロノミカン!」
その瞬間、天界にいた頃の人格、人間界に来てからの人格、マクミラの血によって生まれたヴァンパイアの人格のすべてを隔てる壁が一気に崩壊した。
さらにアポロノミカンが語りかける膨大なメッセージがクリストフの頭の中に入ってきた。
ア〜〜!
クリストフの叫び声は永遠と思われるほど長い間、ゾンビーランド中に響き渡った。
マクミラが、ようやく凄みのある微笑みを浮かべた。
その時、アポロノミカンの思念が伝わってきた。(マクミラよ、ついに『鍵を開くもの』になったな。儂が持ち主に選ばれることはない。儂が常に持ち主を選ぶのじゃ。祖父パラケルススがいつも仮面をつけていたのは、伊達や酔狂ではない。あの仮面は、アポロノミカンの中身を見ないように両眼がふさがっていたのじゃ。儂を自由に持ち歩けるようになるまでには、あやつでさえ数十年を要した。いきなり儂を使えるとは、さすがはマクミラよ。今後は、お主が儂の管理をするがよい)
かつての天使長で金色の鷲ペリセリアス、人間界でクリストフとして育った男は、堕天使に生まれ変わった。着ていた服に残っていたイニシャルがCだったため、マクミラはDで始まるダニエルと名づけた。男は堕天使に変身しても、セラフィムだった名残で6枚の美しい羽を持っていた。
ただし、呪われたヴァンパイアの血のせいか、かつて白かった羽は真っ黒に変わっていた。失われたクリストフの残滓にマクミラの「輸血」とアポロノミカンによって生じた人格がまざって混乱したが、だんだんマクミラのパートナーとしての新しいアイデンティティが生まれてきていた。
こうしてダニエルは、ニューヨークに行き彼女の任務に手を貸すことになった。それをジェフが心から喜んだことを、マクミラは知らなかった。
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