「夢ではない。私だ。シンガパウムだ」
えっ・・・・・・ナオミの意識が、わずかに戻ってきた。
「ネプチュヌス様から一度だけ降臨するご許可をいただいたのだ。寝ている時ではないぞ。見よ。お主を救うため、血しぶきをあげたケネスは死にかけている。早く片をつけて、私が体内に戻らなければ・・・・・・」
えっ・・・・・・
ナオミの目が開いた。
「ここは精神世界なのだ。弱気になればつけ込まれる。落ち着いて考えれば、氷天使メギリヌといえども、絶対零度を使いこなすことなどできるものではない。お主は、足に突き刺さった黄金のステッキの冷たさと、氷天使の言葉によって魔術にかかっているだけなのだ。メギリヌは、悩みの神レイデンの娘。最大の能力は、相手を苦しめ悩ませて、闘いを有利に進めることだ。だが、マーメイドの血潮の流れをとめられるものなど、どこの世界にいるものか。さあ、自分を信じて立ち上がるがよい」
きびしくとも愛情にあふれた、父であり師でもあるシンガパウムの言葉を聞いてナオミに気力が戻ってきた。
そうだ。私の血潮が、凍りついたりするものか。
トクン・・・・・・
凍りつきかけたと思いこんでいた心の臓が、はっきりとした鼓動を打つのを感じた。夢から覚めたように、意識が急にはっきりした。全身が凍りつきつつあると思ったのは、大量出血によって弱気になっていただけだった。
ナオミは立ち上がると、思い切りステッキを引き抜く。
「返すぞ、メギリヌ!」ナオミが、勢いをつけてステッキを投げ返す。
だが、さすが氷天使、あっさりステッキを受け止める。
「目に焼き付けておけ」シンガパウムが言う。「お主に見せる最後の闘いじゃ」
ナオミに言葉をかけたシンガパウムを見て、急にメギリヌが不機嫌になった。純白の身体には似つかわしくない黒い羽が、大きく羽ばたくと、フッと身体が宙に浮いた。みるみるうちに目の下に陰ができて魔女の形相になったと思うと、羽だけでなく全身が真っ黒になった。
「冥界や天界にまで名声が響き渡った伝説の海神界の鬼神シンガパウム、相手にとって不足はない。さあ、暗黒氷天使に変化したぞ、来るがよい」
「いらだっておるのか?」
「誰がいらだっておる?」
「汝の父、悩みのレイデン殿とは、しばしば語らった仲なのだ。今の姿を見れば嘆いておられるであろう」
「あんな奴のことは触れるな! 嘆いていると? 笑わせるではないわ」
「それほどまでに、にくんでいるのか・・・・・・」
「よかろう。なまぬるい親子の情を持つお前たちに、我がなぜ魔界のものたちとつきあうようになり、極寒地獄コキュートスに落とされるようになったわけを冥土の土産に聞かせてやろうではないか」
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