7月22日の配信開始から3週間がたつポケモンGO。歩きスマホなどが問題となっていますが、東日本大震災や熊本地震で被災した4つの県が8月10日、このゲームアプリを活用して被災地に観光客を呼び込む取り組みを発表するなど、観光やビジネスへの効果も期待されています。この3週間で何が起きたのかをまとめました。
(経済部 野上大輔)
業績アップへ期待広がる
ポケモンGOは7月6日にアメリカやオーストラリアで配信が始まり、8月10日現在、54の国と地域に広がっています。ポケモンというキャラクターを生み出し、世界的なコンテンツに育てたのは、大手ゲーム機メーカーの任天堂です。これだけの世界的なヒットなので、さぞ任天堂ももうかっているのではないかと思いきや、今のビジネスモデルでは業績への影響は限定的です。
ゲームアプリを開発したのは、アメリカのベンチャー企業のナイアンティックと、任天堂が32%を出資しているキャラクター管理会社の株式会社ポケモンです。ゲームの配信と運営を一手に担っているのはナイアンティック。任天堂がアプリで得られる収益は、株式会社ポケモンから受け取るものに限られます。日本で配信が始まった翌週(7月27日)に発表した決算で任天堂は、ことし4月の段階で示した今年度の最終的な利益の予想を据え置きました。
一方、来店客の増加を通じて業績アップを狙う企業もあります。ゲームの最大の特徴は、位置を把握するスマートフォンのGPS機能とAR=拡張現実の技術を組み合わせていることで、スマホを持って特定の場所に行くと現実の風景の中にポケットモンスターが現れます。位置情報の機能を使って、各地の観光地や名所などがポケストップと呼ばれるアイテム(ゲームを有利に進めるための道具)を入手できる拠点にあらかじめ設定されています。
この機能をビジネスに生かしているのが、日本マクドナルドです。国内のおよそ2900店舗がゲーム上の地図に表示され、ポケストップやキャラクターどうしを戦わせるジムと呼ばれる場所に指定されています。日本マクドナルドによりますと、配信が始まった7月の店舗の売上高は、前の年の同じ時期と比べて26.6%増え、客足も伸びたということです。
大手映画配給会社の東宝も映画館への来訪を促そうと、全国のTOHOシネマズの映画館をポケスポットに指定することを8月9日に発表しました。企業との連携は、関連する広告費を得られるという意味で、ゲーム会社の新しいビジネスモデルとも言えます。
被災地復興へ観光客誘致を狙う
ゲームを観光に生かそうという取り組みも始まっています。8月10日、宮城県の村井知事と岩手県の達増知事、それに福島県と熊本県の担当者がナイアンティック(日本法人)と都内で記者会見しました。今後は、この4つの県について、ポケストップやジムを追加したり、被災した地域でイベントを開催したりして、観光客の誘致に取り組むとしています。
会見で宮城県の村井知事は、「実際に人が動くゲームの特性を利用した誘客や被災地の住民と訪れる人との交流の促進が期待できる。訪れた人には被災地の復興状況についても見てほしい」と述べて、期待感を示しました。
知らずに指定 除外求める動きも
ポケモンGOを活用したい企業や観光地がある一方で、知らないうちにポケストップやジムに指定された全国の公共施設などから、ゲーム目的に大勢の人が訪れたとして、対象から外すよう求める動きが配信開始の直後から相次ぎました。
このうち特に注目されたのが広島の平和公園です。ナイアンティックは要請があった場合、一定の条件を満たせば対象から削除すると説明していました。原爆投下から71年となる広島原爆の日の8月6日。広島市によりますと、午前2時前に「ポケモンが出現しないよう設定するとともにポケストップなどをすべて削除した」という内容のメールが寄せられたということです。
広島市の担当者は「平和公園が慰霊と平和を祈る『聖地』であるということを開発会社が理解し、速やかに対応していただいたのだと思っている」とコメントしました。
ポケスポットをめぐっては、8月8日の閣議で各省庁の判断で削除要請などを行っているとした答弁書を決定するなど、政府も対応に追われています。政府によりますと、8月1日の時点で、海上保安庁が管理する施設の敷地内に2か所、経済産業省の本省庁舎の敷地内に1か所、国土地理院の本院庁舎の敷地内に4か所、総務省や警察庁などが入る中央合同庁舎第2号館の敷地内に1か所、内閣官房が管理する施設の敷地内に1か所の合わせて9か所にポケストップが存在するとういうことです。
位置情報ゲーム 開発に拍車か
アプリ市場のデータ分析を行うアメリカのアップ・アニーによりますと、7月31日の時点で、世界のダウンロード数は1億件を超えました。今後については「各国の配信も相次ぎ、スマートフォンの利用時間の全体を押し上げる強力なゲームということで、ダウンロードが増え続けることが予想される」としています。
ポケモンGOのような位置情報ゲームの可能性については、ライバル企業も注目しています。任天堂とゲームの共同開発を進めるディー・エヌ・エーの守安功社長は「基本となるシステムはこれまでと大きな違いはないが位置情報を活用してヒットした初めてのケースで新しい遊び方を提供した」と分析。
さらに、ゲームアプリの開発も手がけるLINEの舛田淳取締役は、「スマートフォンと位置を把握するGPS機能とキャラクターを組み合わせたゲームの形は、間違いなく今後の新たなトレンドになってくると思う。動向を注視して、われわれも取り組んでいきたい」と述べ、ゲーム開発が売り上げの3割ほどを占めるLINEとしても位置情報ゲームの開発への意欲をにじませました。
開拓なるか 新ビジネスモデル
私自身、小学生のときに任天堂のゲームボーイで遊んだ「ポケモン世代」です。スマホのGPS機能、現実と仮想が一体となるAR=現実拡張、さらになじみのキャラクターを組み合わせたポケモンGOの社会現象が一過性のものなのか、それとも他社も追随するような新たなビジネスモデルの開拓となるのか。このゲームアプリが日本にもたらしたものを引き続き取材したいと思います。

- 経済部
- 野上 大輔