米の対イラン政策、協調に尻込みの原油購入国
同盟諸国の支持弱く、インド・中国の動きに注目
By
Bill Spindle and Anant Vijay Kala
2018 年 6 月 11 日 10:50 JST
ドナルド・トランプ米政権は、イラン核合意からの離脱を受けて、同国に経済的圧力を掛ける政策に取り組み始めている。それが奏功するかどうかは、米国の姿勢に極めて懐疑的な国々の対応にかかっている。だが、これら各国のアナリストや当局者によれば、米国に対する反発が生まれており、イランに対する圧力政策の重要な要素が損なわれる可能性がある。それは、イラン産原油の輸入削減である。
イラン核合意は、イランが核開発プログラムを抑制する見返りとして、同国と国際社会との経済・金融関係を復活させる取り決めのことで、バラク・オバマ前米政権が主導してイランと主要6カ国との間でまとまった。欧州連合(EU)や中国などは、トランプ政権が米国の離脱を決定したことに反発し、核合意の維持を図ろうとしている。
オバマ前政権がイランに核合意を受け入れさせるために、同国経済に打撃を与える重要な手段として使ったのが原油販売だった。イランは、同国産原油の顧客が相次いで購入量を削減したことから、核交渉のテーブルに着いた。
欧州各国は自ら進んで買い付けを抑制し、日韓は米国の圧力を受け輸入を削減した。インドは米国の対イラン制裁を合法的なものと認めなかったものの、米国の怒りを抑えるため購入を自粛した。当時も今もイラン産原油の最大の輸出先である中国でさえ、米国の一方的制裁を非難しつつ、イランからの原油購入を抑えた。
そうしたシナリオを再現するのは難しそうだ。「米国はある程度の削減を実現できそうだが、全面的な削減は手にできないだろう」と、オバマ政権時代に対イラン制裁の実施に当たった元国務省当局者で、現在コロンビア大学グローバル・エネルギー政策センターのリチャード・ネヒュー研究員は語る。「当時われわれは、欧州やインドに叫び声をあげ、彼らを制裁する可能性があるとまで警告した」
トランプ政権当局者は、オバマ前政権と同じアプローチをとると表明している。すなわち、イラン産原油の購入国に対し自主的に中止するか、少なくとも削減するよう要請するとともに、イランと取引する企業に対しては、米国市場への参入や米国金融機関との取引を拒否すると脅しを掛けることだ。トランプ政権は前政権と同様に、各国企業に対し原油輸入の自主的削減に6カ月間の猶予期間を設定している。
だが、前回の制裁時と違って、イラン産原油の購入国は一様に米国の目標に反対しており、輸入削減要求への対応を遅らせたり、抵抗したり、あるいは全く受け付けない公算が大きい、と購入国のアナリストや当局者は述べている。イラン原油を大量に輸入しているEU内の米同盟国でさえ、イランが米国抜きの核合意に残留することを望んでいる。イランは核合意への残留について、原油売買が妨害されずに続けられる場合に限り、可能だと述べている。
イランはさしあたり核合意に残留し続ける姿勢をみせている。だが仮に、イランが最終的に合意を放棄し、核開発プログラム再開の決断を下した場合には、米国の対イラン制裁に抵抗している国のなかで、米国に再度緊密に協力する国が出てくる可能性があるだろう。
アナリストや当局者たちは、今の状況が前回の制裁当時とかなり違って見えると指摘する。米国が(対イラン制裁に従わない)企業を米国市場から締め出す恐れは残っているものの、トランプ政権はこれまでのところ、イラン産原油のどの購入国からも、積極的な制裁支持あるいは表立った協力を得ていない。米国の核合意離脱を断念させようと試みていたEU諸国政府は、イラン産原油の購入を削減する予定がないと述べており、当局者は購入削減を回避したいと非公式に話している。
それでも、イラン産原油を購入する欧州企業は、米国市場に依存しているため、米国の圧力を受けて購入を減らすとみられている。だが、そのスピードは前回よりずっと遅くなるだろう。世界最大級の石油輸送会社の1つであるマースク・タンカーズは先月、イラン産原油の輸送を引き受けないことと、既存顧客からの受注を段階的に縮小することを明らかにした。仏石油大手のトタルは、イランの天然ガス田への投資を中止したと発表した。アナリストらによると、日本や韓国といった他の米同盟国の企業も、トランプ政権の要求にしぶしぶ応じる公算が大きいという。
インドと中国は購入を増やすか
しかし、米同盟国によるこうした後ろ向きの姿勢が、イランにとっての2大顧客、つまり中国とインドに対するトランプ政権の働きかけを妨げる可能性がある。観測筋の一部は、中国とインドのどちらかないし両方がイラン産原油の購入を増やす可能性があるとみている。価格が割安になればなおさらだ。
中国は4月に日量67万1000バレルのイラン産原油を購入した。インドは同60万4000バレルを輸入した。石油業界専門のコンサルティング会社Kplerによると、この2カ国が購入したイラン産原油は全体の60%を占めている。両国の購入量は、この2カ国の次に多い日本と韓国の合計購入量の2倍以上となっている。
前回の制裁時に、インドは米国の石油制裁を認めるのを拒否したものの、イランからの輸入量を最終的に約20%削減した。オバマ政権(当時)からの制裁を避けるのに十分な比率だった。インド政府は最近、米国の一方的な対イラン制裁を認めないと繰り返し述べている。
しかし、前回の制裁時のように、インドが今回も米国の要求にひそかに従うのは、はるかに厄介だろう。インドは原油輸入に大きく依存している国で、ガソリンスタンドでの価格統制を撤廃しているため、ガソリンなど石油価格上昇が既にインドの消費者に直接打撃を与えている。それはナレンドラ・モディ首相率いるインド与党にとって大きな頭痛の種だ。来年初めに国政選挙を控えているからだ。
インド政府当局者は、同国は米国を一層支援するためにも、イランと良好な関係を維持する必要があるとワシントンに伝えていると述べている。インドはパキスタンとアフガニスタンにおける中国の影響力に対抗するため、商業回廊の一環として、イランの都市チャーバハールの主要港の開発を支援している。それはこの地域における米国の主要目標と一致している。
はるかに難題なのが中国だ。イラン最大の石油購入国である中国は、イラン向け投資と貿易活動の混乱を回避するとイランに約束してきた。中国はまた、石油取引のような国際貿易のため、中国通貨・人民元の使用を奨励している。石油取引ではこれまで伝統的にもっぱらドルで決済されていた。中国は最近、人民元建ての原油先物を導入した。
中国が欧州からの少なくとも暗黙の支持を得て、イラン産原油を増大する可能性があると見るアナリストもいる。そうなれば、米国の参加なしでイラン核合意を存続させる一助となろう。
ローマに拠点を置くシンクタンク、「国際問題研究所(IAI)」のニコラ・カサリーニ氏は、上海で最近開催された地域安全保障会議で、「我々にはイラン核合意の存続で共通の利益がある」と語った。
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