ロシア国防省はシリア沖で9月17日に撃墜された電子情報支援機IL20に関して説明した。それによると、イスラエル軍から攻撃の予告があったのは21時39分で、その1分後の40分にはイスラエル空軍のF16が精密誘導爆弾のGBU39でロシア軍のフメイミム空軍基地があるラタキアに対する攻撃を開始、51分にシリア軍が反撃を始めている。
21時59分に1機のイスラエル軍機がIL-20に接近、シリア側は新たな攻撃だと判断、22時03分にシリア軍が発射した防空ミサイルはF16より大きなターゲットであるIL20へ向かい、そのIL20の機影は22時07分に消えた。イスラエル側はロシア軍とシリア軍が使っている敵味方識別システムが違うことをしっていたとロシア国防省は主張している。
イスラエル軍機によるラタキアへの攻撃があった直後、ロシア国防省はIL20の機影が消えたとき、フランス軍のフリーゲート艦オーベルニュがミサイルを発射していたと発表している。このフランス艦についての説明がない。
フランス軍とイスラエル軍が連携していた可能性は否定できないのだが、両国政府の関係が微妙だという事実もある。フランスのエマニュエル・マクロン大統領がロスチャイルド資本の影響下にあるのに対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はウラジミール・ジャボチンスキーの影響を受けている。
マクロンは2006年から09年まで社会党に所属、その間、08年にロスチャイルド系投資銀行へ入り、200万ユーロという報酬を得ていた。2012年から14年にかけてフランソワ・オランド政権の大統領府副事務総長を務め、14年に経済産業デジタル大臣に就任すると巨大資本のカネ儲けを支援する新自由主義的な政策を推進、マクロンのボスだったオランドはアメリカ政府の侵略政策にも加わる。そうしたオランドの政策に対するフランス国民の憎悪は強まると、マクロンは社会党から離れ、2016年4月に「前進!」を結成した。
フランスでは大統領の有力候補としてドミニク・ストロス-カーンIMF専務理事の名前が挙がっていた。新自由主義を世界へ広める役割を果たしているIMFだが、ストロス-カーンは新自由主義に批判的な発言をしている。
彼は2011年4月にブルッキングス研究所で演説し、失業や不平等は不安定の種をまき、市場経済を蝕むことになりかねないと主張、その不平等を弱め、より公正な機会や資源の分配を保証するべきだと語っているのだ。
しかも、進歩的な税制と結びついた強い社会的なセーフティ・ネットは市場が主導する不平等を和らげることができ、健康や教育への投資は決定的だと語っただけでなく、停滞する実質賃金などに関する団体交渉権も重要だとしていた。
ストロス-カーンがニューヨークのホテルで逮捕されたのは、この演説の翌月。後に限りなく冤罪に近いことが判明するが、その前に彼はIMF専務理事を辞めさせられ、大統領候補への道は閉ざされた。ストロス-カーンの後任専務理事は巨大資本の利益に奉仕するクリスティーヌ・ラガルドだ。(つづく)
韓国の文在寅大統領と朝鮮の金正恩労働党委員長は9月18日と19日に朝鮮の首都、平壌で会談した。その際、年内に鉄道と道路を連結する工事の着工式を行うことで同意したという。
朝鮮半島を縦断する鉄道やパイプラインの建設をロシア政府は以前から計画している。高速鉄道やエネルギー資源を運ぶパイプラインでロシア、中国、そして朝鮮半島をつなごうというのだ。
その計画を実現するためには朝鮮に同意させる必要がある。そこで、ロシア首相のドミトリ・メドベージェフは2011年夏にシベリアで金正日と会談、朝鮮がロシアに負っている債務の90%(約100億ドル)を帳消しにし、10億ドルの投資をすることで合意している。2015年の行われる対ドイツ戦勝利70周年記念式典へ金正日が出席することも決まった。
ところが2011年12月に金は急死してしまう。朝鮮側はミサイル発射や核兵器の爆破実験を盛んに行うようになり、アメリカは制裁を科すことに成功する。朝鮮の行動はアメリカの支配層にとって願ってもないことだった。
金正日が死亡した当時、韓国では暗殺説が流れている。その発信元は韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年~13年)。
2011年12月17日に列車で移動中、車内で急性心筋梗塞を起こして死亡したと朝鮮の国営メディアは19日に伝えているが、元院長によると、総書記が乗った列車はそのとき、平壌の竜城駅に停車中だった。金総書記の動向をNISは15日まで確認しているが、その後は行方をつかめなくなったとも元院長は発言している。22日に総書記は何らかの予定が入っていて、韓国側もそのために追跡していたという。
また、その7年前、2004年4月に金総書記は危うく龍川(リョンチョン)の大爆発に巻き込まれるところだったと噂されている。爆発の2週間前にインターネットのイスラエル系サイトで北京訪問の際の金正日暗殺が話題になり、総書記を乗せた列車が龍川を通過した数時間後に爆発が起こったと言われている。そのタイミングから暗殺未遂の疑いがあるとされたのであるが、一応、貨車から漏れた硝酸アンモニウムに引火したことが原因だとされている。
朝鮮はイスラエルと武器取引で関係がある。1980年代、アメリカのイランに対する武器密輸に絡んでイスラエルへ武器を売っていたのだが、1991年12月にソ連という後ろ盾を失うと、統一教会との関係を強めていく。アメリカ軍の情報機関DIAによると、ソ連が消滅した後の1990年代には統一教会の資金が流れ込んでいた。ロシアとの関係強化を望まない人脈が朝鮮支配層の内部に存在している可能性はある。
1994年7月に金日成は死亡、金正日体制へ移行していくが、アメリカ軍は1998年に金正日体制を倒す作戦を作成している。OPLAN5027-98だ。その3年前、1995年2月に「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」が公表されて日本はアメリカの戦争マシーンに組み込まれ始め、96年4月には橋本龍太郎首相がビル・クリントン大統領と会談して「日米安保共同宣言」が出される。そして1997年には「日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)」。
1999年になると、朝鮮の国内が混乱して金体制が崩壊した場合を想定した「概念計画」のCONPLAN-5029が作成され、2003年には核攻撃も含むCONPLAN-8022も仕上げられている。
その間、日本関連では2000年にアーミテージ報告、01年には小泉純一郎が武力攻撃事態法案を国会に提出、04年にはリチャード・アーミテージが日本国憲法第9条は日米同盟にとって妨げになっていると発言、05年には「日米同盟:未来のための変革と再編」に署名されている。
2010年3月には、韓国と朝鮮で境界線の確定していない海域で韓国の哨戒艦「天安」が爆発して沈没。米韓が合同軍事演習「フォール・イーグル」を実施している最中の出来事だった。この沈没に関して5月頃から韓国政府は朝鮮軍の攻撃で沈没したと主張し始めるのだが、CIAの元高官でジョージ・H・W・ブッシュと親しく、駐韓大使も務めたドナルド・グレッグはこの朝鮮犯行説に疑問を投げかけた。そして11月には問題の海域で軍事演習「ホグク(護国)」が実施され、アメリカの第31MEU(海兵隊遠征隊)や第7空軍が参加したと言われている。そして朝鮮軍の大延坪島砲撃につながる。
日本では2009年9月から東アジアの平和を訴えていた鳩山由紀夫が内閣総理大臣を務めていたが、翌年の6月、検察やマスコミの圧力もあり、失脚している。裏で恫喝されていたとも言われている。
そして誕生したのが菅直人政権。尖閣諸島(釣魚台群島)の付近で操業していた中国の漁船を海上保安庁が「日中漁業協定」を無視する形で取り締まり、それまで「棚上げ」になっていた尖閣列島の領有権問題を引っ張り出して日中関係を悪化させ、東アジアの軍事的な緊張を高めた。その政策を引き継いだのが安倍晋三だ。
ロシア、中国、韓国は東アジアの軍事的な緊張を緩和させ、経済発展につなげたいということで一致、早い段階からこの3カ国は連携していた。そこへ朝鮮も参加した。
朝鮮にとっても東アジアの平和は望むところ。朝鮮半島が戦場になった場合の惨状は朝鮮も熟知している。問題はアメリカ軍の存在だが、そのアメリカ軍の力を恐れる必要はないと思わせる出来事が2017年から18年にかけてあった。
つまり、2017年4月6日にアメリカ海軍の2駆逐艦が発射した59機の巡航ミサイル(トマホーク)の約6割が撃墜され、その1年後にはアメリカ、イギリス、フランスが艦船や航空機から100機以上のミサイルを発射して7割が墜とされているのだ。ロシアの防空システムが有効だということを朝鮮も理解したはずだ。
ロシアの電子情報支援機IL20の撃墜に絡み、IFF(敵味方識別装置)の問題が指摘されている。IFFが機能していればシリア政府軍が発射したS200によってロシア軍機が撃ち落とされることはないだろうというわけだが、ロシア国防省は輸出用のS200にはIFFが搭載されていないとしている。S200は1960年代の後半から使われている旧型のミサイルだということもあり、ロシア側が主張するようにIFFは搭載されていなかったようだ。
しかし、IL20が撃墜されるタイミングでフランス海軍のフリゲート艦オーベルニュがミサイルを発射しているとロシア国防省は発表している。イスラエル軍のF16戦闘機4機による攻撃とオーベルニュの攻撃が無関係だとは思えない。イスラエル軍とフランス軍は連携してシリアを攻撃したのだろう。
本ブログでは繰り返し書いてきたが、2011年春にリビアとシリアに対する侵略戦争が始まった当初からフランスとイギリスは積極的だった。アメリカに強制されたとは言えない。
ジョージ・H・W・ブッシュ政権で国防次官だったネオコンのポール・ウォルフォウィッツは1991年にシリア、イラン、イラクを殲滅すると発言したとウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官が語っている。
1991年1月から2月にかけてアメリカ軍はイギリス、フランス、サウジアラビア、クウェートの軍隊を引き連れてイラクへ軍事侵攻(砂漠の嵐作戦)したが、サダム・フセインを排除しなかった。
ウォルフォウィッツなどネオコンはブッシュ大統領の決断に怒り、シリア、イラン、イラクを殲滅するという発言につながったのだが、ロシア軍が出てこなかったことにも注目している。ロシア軍はアメリカ軍の行動に手を出せないと判断したのだ。
当時、ロシアは西側巨大資本の傀儡だったボリス・エリツィンが実権を握っていた。ロシア軍に軍事介入する力はあったのだが、アメリカに逆らわなかったのだ。21世紀に入り、ウラジミル・プーチンが大統領に就任すると状況が変化、アメリカ従属はの力は弱くなり、2008年にはジョージア軍を使って南オセチアを奇襲攻撃したが、ロシア軍の反撃で惨敗している。
ジョージア軍は何年にもわたってイスラエルとアメリカから軍事訓練を受け、兵器の提供も受けるなど長い準備期間を経ての作戦だった。その作戦自体、イスラエルが立案したと推測する人もいる。そのジョージア軍と反撃してきたロシア軍は同程度の規模だったのだが、ロシア軍が勝利するまでに要したのは96時間だけだった。
ロシア軍とアメリカ軍が衝突した場合、アメリカ軍に待っているのはジョージア軍と同じ運命。そのためか、2011年にリビアとシリアを侵略する場合、バラク・オバマ政権はサラフィ主義者(ワッハーブ主義者やタクフィール主義者と渾然一体)やムスリム同胞団を主力とするジハード傭兵を使った。
リビアではこうしたジハード傭兵(アル・カイダ系武装集団)とNATO軍の連携が機能してムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月に倒され、カダフィ自身は惨殺される。ところがシリアは違った。シリア軍の強さもあるが、国内事情の違いもあった。国内にアメリカなど外国勢力が使える反政府勢力が存在しなかったのだ。
ところで、ネオコンは遅くとも1991年にシリア侵略を考えているが、1988年から93年にかけてフランスの外相を務めたロラン・デュマによると、イギリスとフランスは2009年の段階でシリア侵略を目論んでいた可能性が高い。彼はあるパーティーでイギリス人とフランス人のふたりからシリア政府の転覆工作に加わらないかと声をかけられたというのだ。そのふたりが誰かは語られていないが、ニコラ・サルコジ政権やフランソワ・オランド政権はシリアでの平和を望んでいないとデュマが判断するような相手だったという。
また、シリア駐在のフランス大使だったエリック・シュバリエによると、2011年3月にシリアでは大規模な反政府行動があり、政府が暴力的に参加者を弾圧しているとする報道があった際にシュバリエは現地を調査、抗議活動は大規模な者でなく、すぐに平穏な状況になったことを確認し、そのようにパリへ報告したのだが、ジュッペ外相はそれを無視するだけでなく、シリアのフランス大使館に電話して「流血の弾圧」があったと報告するように命じたというのだ。「独裁者による民主化運動の弾圧」というストーリーをフランス政府は求めていた。勿論、侵略を正当化するためだ。
2011年当時から言われていたが、イギリスとフランスは「サイクス・ピコ協定(小アジア協定)」のコンビ。第1次世界大戦の最中、16年5月にイギリスとフランスは帝政ロシアも巻き込んで利権の獲得を目的とした秘密協定を結び、6月にイギリス外務省アラブ局はアラブ人を扇動して反乱を起こさせたのだ。この部署に所属していたひとりがトーマス・ローレンス、いわゆる「アラビアのロレンス」である。この人物を主人公としたイギリス映画がデビッド・リーン監督、ピーター・オトゥール主演で作られた理由は言うまでもないだろう。