露呈したトルコのテロ支援
2015年12月3日 田中 宇
11月24日にシリア北部のトルコ国境付近で、テロ組織を空爆するため飛行中のロシア軍の戦闘機が、トルコ軍の戦闘機に攻撃されて墜落してから一週間がすぎた。シリア北部のテロ組織(アルカイダ系のヌスラ戦線など)を支援してきたトルコは、ロシアに空爆するなと警告するために戦闘機を撃墜したのだが、トルコの意に反して、その後の状況は急速にトルコの不利、ロシアの有利になっている。 (トルコの露軍機撃墜の背景) (Military expert: Turkish air force stalked Russian jets `for several days') (Turkey would have acted differently if it had known jet was Russian: Erdogan)
ロシア政府は、露軍機がトルコの領空を侵犯したのでなく、トルコ軍機がシリアの領空を侵犯して露軍機を撃墜したと主張している。この主張に基づいて露軍は、トルコ軍機が再び領空侵犯できないよう、最新鋭の地対空迎撃ミサイルであるS400を、トルコ国境から50キロのシリア北部ラタキアの露軍基地に配備した。S400は、米軍のパトリオットより高性能といわれ、この配備により、これまで何度もシリアを領空侵犯してシリア北部のテロ組織をシリア軍の攻撃から守ってきたトルコ軍機は、もう領空侵犯できなくなった。ラタキアのS400はレバノンを越えてイスラエルまで届くので、イスラエルがレバノンに再侵攻することもできなくなる。 (Russia S-400 Syria missile deployment sends robust signal) (Turkish Jets Avoid Violating Syrian Airspace after Arrival of Russian S-400 Missiles) (Erdogan's Mistake: Russia May Now Initiate Own 'No-Fly Zone' Over Syria)
ロシアがS400を配備して以来、米軍機によるシリアへの空爆も行われていない。シリア上空は、露軍とその傘下のシリア軍だけが飛行する領域になった。トルコは従来、シリア北部にシリア軍機の飛行を禁じる飛行禁止区域を作ってテロ組織を守ることを画策し、米国に提案し続けたが、米国は了承しなかった。そうこうするうちに、露軍がシリアに進出してシリア北部のテロ組織を空爆し、今回のS400の配備を機に、シリア北部は逆に、トルコ軍機の飛行が禁じられた飛行禁止区域になった。露軍機の撃墜は、ロシアにとって、正当防衛としてS400をシリアに配備する格好の口実となった。シリア北部のテロ組織は、上空からのトルコの支援を失い、露軍とシリア軍に潰されていく運命になった。トルコは馬鹿なことをした。 (No US airstrikes in Syria since Russia deployed S-400 systems) (Russian S-400 missiles turn most of Syria into no-fly zone, halt US air strikes) (中東安定化のまとめ役になるイラン)
ロシアは上空だけでなく、地上の道路を通ってトルコからシリアに、テロ組織を強化する武器や志願兵が入ってくるのを阻止する策もとり始めた。11月25日、トルコ国境からシリアに数キロ入った道路で、20台のトラック部隊が空爆され、破壊された。トルコ政府系の「人道支援」団体が、このトラックはシリアの一般市民に救援物資を運ぶためのトラック隊だったと発表したが、どこの組織のトラックであるか不明なままで、名乗り出る団体がいない(トルコの人道支援団体がウソをついた)状態だ。トルコの野党系の大手新聞ジュムフリエト(Cumhuriyet、共和国新聞)は、シリア政府の話として、トラックには機関銃などの武器が積まれており、トルコ当局がシリアのアルカイダ系テロリスト(ヌスラ戦線)に武器を供給する目的だったと報じている。 (Mystery over who bombed Turkish convoy allegedly carrying weapons to militants in Syria) (NATO's Terror Convoys Halted at Syrian Border)
トラック隊を空爆したのは露軍機であろう。ジュムフリエト紙によると、トルコの諜報機関は以前から何度も武器満載のトラック隊をシリアのテロ組織に送っている。ロシアは10月にシリアでの空爆を開始したものの、当初はトルコとの外交関係を重視し、トルコの人権団体(を詐称する諜報機関)が「人道支援物資」だとウソを言って送り込んできた(武器満載の)トラック隊を空爆せず黙認していた。だが、11月24日にトルコが露軍機を撃墜し、両国の関係が悪化した後、ロシアは心おきなくトルコからのトラック隊を空爆できるようになった。露軍機の撃墜は、トルコのテロ支援を頓挫させている。トルコは、まったく、馬鹿なことをした。 (Syria, Russia Block Cross-Border Weapons Supply to ISIS in Lattakia) (Turkey Arrests Generals for Stopping Syria-Bound Trucks 'Filled With Arms')
トルコの野党CHP(世俗派)の系統の新聞であるジュムフリエト紙は、近代トルコの国父ケマル・アタチュルクの側近が1924年に創刊し、2002年にCHPがエルドアン大統領のイスラム主義政党AKPに政権を取られて下野した後、AKPとエルドアンを批判する急先鋒となっている。トルコ総選挙直前の今年6月に同紙は、エルドアン傘下のトルコ諜報部(MIT)が、武器を満載したトラック隊をシリアのテロリストに送り続けていることを詳細に報道した。 (Turkey Arrests Journalists Who Exposed Erdogan's Weapons Smuggling To Extremist Syrian Rebels)
選挙でCHPはAKPに負け続けてきたが、今回、露軍機の撃墜直後から、トルコがシリアのテロ組織を支援してきたことが内外で批判されるようになり、野党系のマスコミもエルドアンへの批判を強めた。政権からの反撃として、11月30日にジュムフリエトの編集局長(Can Dundar)らが「テロリスト支援」の容疑で逮捕された。テロを支援しているエルドアン政権が、それを批判する暴露報道をした新聞社幹部をテロ支援の容疑で逮捕する茶番劇が展開されている。 (Cumhuriyet From Wikipedia) (The Phony War on ISIS by Justin Raimondo_)
ジュムフリエト紙が今年6月に報じた特ダネは、トルコ政府内でもエルドアンの側近や諜報機関だけがシリアのテロ組織への武器支援戦略に関与し、軍や警察には知らされていない状況が書かれていた。それによると、14年1月、地中海に近いトルコのシリア国境近くのアダナ県で、地元の憲兵隊(警察)が、武器を満載してシリアに向かうトラック隊を検挙したところ、県知事から捜査をやめろと圧力がかかった。2週間後、再び武器満載のトラック隊が憲兵に検挙され、検挙現場に県知事本人がやってきて捜査中止を命じ、憲兵隊幹部と押し問答となった。
知事は政府中枢から命じられて動いており、トルコ政府は「トラックは諜報機関のもので、運搬の任務は国家機密だ」と発表し、すぐに「シリアのトルクメン人に人道支援物資を送るトラック隊で、積荷の中の武器類は人道物資の一部である狩猟用のライフル銃数丁のみ」と言い直した。だが、シリアのトルクメン人の組織は「トルコからの人道支援物資が届く予定など全く聞いてない。これまで支援を受けたこともない」と表明し、ウソがばれた。トラック隊は諜報機関のもので、シリアのISISやアルカイダに頻繁に武器を送っていることが、アダナの憲兵と検察の捜査で判明していたが、捜査結果は破棄され、捜査に関与した憲兵や検事らは、訴追されて懲役刑を受けたり、免職されたりする報復を受けた。 (2014 National Intelligence Organisation scandal in Turkey From Wikipedia)
この事例から考えると、今回シリア北部で空爆を受けて破壊されたトルコからのトラック隊も、積み荷は人道支援物資でなく、ISISやアルカイダを支援する武器だったのだろう。トルコ政府がウソばかり言ってきたことが、世界に対して露呈し始めている。 (Erdoan says intercepted MIT trucks were going to Free Syrian Army)
以前、トルコからシリアへのトラック隊のルートはいくつかあった。だが、今夏クルド人がユーフラテス川東岸をISISから奪回し、地中海岸のアレッポの北側はロシア軍の空爆に支援されたシリア政府軍が奪還しつつある(それを阻止しようとトルコが露軍機を撃墜した)。唯一まだ開いている国境は、それらの間に位置する、ユーフラテス川西岸の丘陵地帯だけだ。トルコからシリアへのテロ支援物資は、この地域の山道を通って送られている。トルコ軍は、ユーフラテス東岸のクルド人に対し、西岸に渡河進軍したら越境攻撃するぞと脅してきた。 (ロシアに野望をくじかれたトルコ)
ところがここで、トルコの味方であるはずの米国の大統領府が11月29日、唯一越境可能なユーフラテス西岸の約100キロの国境を閉鎖しろとトルコに要求し始めた。トルコ政府は「シリアのトルクメン人への人道支援物資を通すため、この国境を開けておく必要がある」と、米国の要請を拒否している。国境の全面閉鎖はもともと先日パリがテロを受けたフランスのオランド大統領が提唱し、オバマ政権もそれに同調し「その国境が開いている限り、欧州など世界でテロが再発しかねない。トルコ政府の閉鎖拒否は世界に迷惑をかけている。閉鎖は絶対必要だ」と言っている。 (War with Isis: President Obama Demands That Turkey Close Stretch of Frontier with Syria)
米国が「同盟国」であるトルコに、力づくで国境閉鎖を迫ることはないだろう。だが米国の圧力は、今やトルコを敵視するロシアが、開いている最後のトルコの国境地帯を閉める軍事作戦を始めることに、大義名分を与えてしまった(オバマが隠れ親露、隠れ多極主義であることが見てとれる)。早晩、トルコの対シリア国境は全部閉鎖され、シリアのISISやヌスラ戦線は、武器や兵士の補給を受けられなくなる。すでに、ISISからは、の兵士たちが相次いで逃亡している。トルコは、本当に馬鹿なことをした。 (Russia ready to consider steps to close Turkish-Syrian border - Lavrov) (Pentagon Claims ISIS Fighters Defecting in Iraq)
国境の閉鎖は、クルド人に漁夫の利を与える。シリアのクルド人の居住地域は、東方のユーフラテス東岸(タルアブヤドなど)と、西方のアレッポ北方(アフリーンなど)の2地域に分かれており、いま問題になっている地域は、この2地域の間に存在する。国境が閉鎖されると、クルドの軍勢(YPG)が渡河してこの地域を占領し、東西のクルド人の居住地域がつながって大きな自治区になる。米国もロシアもYPGを友軍と考えているし、アサド政権はクルド人に自治を与えることを約束している。トルコは、露軍機を撃墜したばかりに、ISISを支援できなくなり、国境の南側を仇敵クルド人に占領される事態を招いている。 (クルドの独立、トルコの窮地)
トルコがISISを支援してきたもう一つの要素に「石油」がある。ISISはイラクやシリアの油田を次々と武力で強奪し、産出した石油をトルコ経由でイスラエルや欧州、日本などに輸出してきた。イラク軍の諜報担当者や、トルコの野党政治家によると、イラクとシリアにあるISISの油田から、トルコに石油を送るルートは2つある。ひとつは、シリアやイラクでISISが占領している地域のうち、トルコと国境を接する地域に細いパイプラインを越境するかたちで敷き、油田から対トルコ国境近くまでタンクローリー車で運び、そこからパイプラインでトルコ側の貯蔵施設に送油し、そこから再びローリー車で、トルコ国内の消費地や、地中海岸のジェイハンのタンカー港湾まで運ぶやり方だ。シリアの油田の石油は軽質油で、ほとんど精製が必要なく、ISISやトルコの密輸業者が手がける簡単な精製で事足りる。 (Is Turkey buying oil smuggled by、 Islamic State?)
もう一つは、03年の米軍イラク侵攻の前から存在する、北イラクのクルド地域にある油田からトルコに石油を送るルートに、ISISの石油を便乗させるやり方だ。北イラクのクルド自治政府は、キルクークなど自治区内にある油田の石油を、イラク政府の反対を押し切るかたちで、トルコ経由で世界に輸出している。イラク政府の決まりでは、国内の石油はクルド地域で産出したものも含め、いったんイラクの中央政府が引き取って海外に輸出し、販売代金をクルド自治政府に分配することになっている。だが、イラク政府を信用していないクルド自治政府は、このやり方を嫌い、直接トルコに石油を輸出している。 (The "ISIS Rockefellers": How Islamic State Oil Flows to Israel)
油田から国境まではイラク側のタンクローリー車が運び、国境で簡単な精製を行い、貯蔵タンクに入れた後(この工程を経ることで、トルコは制度上、クルドから直接の輸入でないようにごまかせる)、トルコ側のローリー車に積み替えてトルコの地中海岸のジェイハン港まで運び、タンカーに積んで輸出する。モスルの油田などISISからの石油は、国境のイラク側でクルドからの石油と合流するので、トルコ側に入った時には原産地がわからなくなり、トルコの当局は知らなかったとしらを切れる。代金は、トルコの銀行からイラクの両替商を経由してISISに送られるほか、トルコからイラクに輸出される自動車の一部をISISにわたし、それをISISの代理人がバグダッドなどで販売する、自動車を使った資金洗浄もおこなわれている。
クルドの石油輸出はイラク政府との協定違反だが、クルド自治政府はテロ組織でない。イラク以外の諸国にとってクルドの石油を買うことは、こっそりやった方が良いことであるものの、国際法違反でないので、ずっと存続してきた。テロ組織であるISISから石油を買うことは国際法違反だが、こっそりやるクルドからの石油輸入のルートに便乗し、クルドからの石油とISISからの石油を混ぜてしまうことで、これまで世界にばれていなかった。だが今回、ロシアが、戦闘機を撃墜された報復としてトルコとISISとのつながりを暴露する過程で、この便乗ルートの存在が報じられるようになった。 (石油輸送ルートの地図)
エルドアン政権にとって、この暴露が危険なのは、エルドアンの息子のビラル・エルドアンが経営している海運会社「BMZグループ」が、ジェイハン港から海外に、ISISの石油を輸出する担当をしていると報じられている点だ。ビラルを揶揄して「ラッカ(ISISが首都としているシリアの町)のロックフェラー」と呼んでいる記事もある。クルドからの石油の中にISISの石油が混じっていることは、トルコ当局が少し調べればわかることだ。トルコの諜報機関がISISに武器を支援していたことから考えても、トルコ当局はおそらく、ISISの石油輸出を「黙認」してきただけでなく、積極的に「支援」している。 (BMZ Group - Wikipedia) (Les Rockefeller de Raqqa: le business du petrole de Daech mis a nu) (Meet The Man Who Funds ISIS: Bilal Erdogan, The Son Of Turkey's President)
ISISの石油輸出に対しては、トルコだけでなく、米国とイスラエルも支援している。米国は1年以上、シリアやイラクの上空に戦闘機を飛ばし、ISISの拠点を空爆してきたことになっている。だが、米軍は一度もISISのタンクローリー部隊を空爆していない。ローリー隊は通常、30台以上の隊列を組み、白昼堂々とシリアやイラクの高速道路を走ってトルコ国境に向かっていた。戦闘機で空爆するのは簡単だが、米軍は「ローリーは一般市民が使う燃料を運ぶ民生用だから、空爆するとイラクやシリアの市民生活に支障が出る」という理由で空爆しなかった(米軍は、シリアの本物の民生用の浄水場や発電所は、どんどん空爆しているくせに)。イラク政府が「それはISISのローリーだから空爆してくれ」と頼んでも、米政府は無視した。米国は、民生用と勘違いする演技で、ISISを支援していた可能性が高い。 (Daesh trucks that sell oil are `civilian targets' to US) (US-led coalition turns blind eye on Daesh oil sales: Russia FM) (US-led coalition targets water pumping stations in Aleppo)
10月にシリアに進出した露軍は、偵察衛星で刻々と写真を撮って解析することで、ローリー隊がモスルなどISISの油田からトルコ国境まで走ってクルドからの石油と混合されていることを突き止めた。「ISISの石油はクルドの石油と混ぜてトルコに輸出されている」という、イラク軍の諜報機関の指摘が正しいことが判明した。また露軍は、シリアとトルコの国境地帯を空爆することで、一つめの、パイプラインによる密輸ルートも破壊しており、ISISからトルコへの石油輸出は終焉に向かっている。 (Erdogan Says Will Resign If Oil Purchases From ISIS Proven After Putin Says Has "More Proof")
これまでISISを支援するトルコの味方をしてきた米国も、今後は態度を変えるかもしれない。米軍の特殊部隊は今年5月、シリア東部のISISの石油輸出担当の幹部(Abu Sayyaf)の隠れ家を襲撃し、幹部を殺害するとともに、大量のUSBメモリなどの情報類を押収した。その情報の分析から米当局は、今年7月の時点ですでに「トルコ当局がISISの石油輸出を支援していることがほぼ確実だ」と結論付けている。今のところ、米政府はこの件でトルコ政府を非難していないが、米国はいつでもトルコのはしごを外せる状況にある。 (Turkey sends in jets as Syria's agony spills over every border)
ISISがトルコに輸出した石油は、トルコのジェイハン港から、ビラル・エルドアンが経営する会社のタンカーで積み出されてきたが、それらのタンカーの多くが向かう先はイスラエルだった。トルコ国内にユダヤ系ブローカー(通称Uncle Farid)がおり、イスラエルの代理人として、ISISやクルドが送ってきた石油を監督している。石油は、イスラエル南部の備蓄施設にいったん備蓄された後、別のタンカーで欧州などに積み出される。イスラエルは、自国が使う石油の8割にあたる大量の石油を、クルドとISISから買っていた。イスラエルは、この石油の多くについて、国内で消費するのでなく、他の国に転売してきた。イスラエルは、もともとサダム・フセインを潰すための戦略としてイラクのクルド組織に接近し、クルドの石油の産地をわからなくして世界に売る「産地洗浄」の事業に協力してきた。同じルートを活用して、米国が作ったテロ組織であるISISの資金作りのための石油の産地洗浄にも協力している。イスラエルとトルコは、パレスチナ問題で関係が悪化しているが、ISIS支援をめぐっては両国とも立派な「テロ支援国」であり、盟友関係にある。 (ISIS Oil Trade Full Frontal: "Raqqa's Rockefellers", Bilal Erdogan, KRG Crude, And The Israel Connection) (ISISと米イスラエルのつながり)
ISISがトルコに密輸出した石油を、日本も買っているという指摘が出ている。地政学に詳しい分析者のウィリアム・エングダールがトルコの野党から聞いた話によると、ビラル・エルドアンの海運会社がイラクから密輸入した石油をジェイハンからタンカーに載せて送る先として日本があると書いている(それ以上の詳述はしていない)。 (Erdogan's Dirty Dangerous ISIS Games)
ロシアのプーチン大統領が、11月末に「トルコがISISの石油を買っていることを証明する明確な証拠が見つかった」と発表した。それを受けてエルドアン大統領は「トルコがISISの石油を買っているというのは大ウソだ。それが本当に証明されたら、私は辞任する」と述べ、強く否定した。しかし、トルコ政府やエルドアンの親族がISISを支援してきたことは、多方面から次々と暴露されている。エルドアンの二人の子供のうち、ISISの石油をタンカーで輸出した疑いをもたれている息子のビラルだけでなく、娘のスメイエ・エルドアン(Sumeyye Erdogan)も、ISISの負傷兵を治療するトルコ軍の秘密病院の運営にたずさわっていた疑いがもたれている。秘密病院は、トルコの対シリア国境に近いガジアンテプの郊外にある。そこで働いていた看護師によると、毎日シリアからISISの負傷兵がトルコ軍のトラックで運ばれてきており、スメイエの姿が頻繁に確認されたという。 (Turkish President's daughter heads a covert medical corps to help ISIS injured members, reveals a disgruntled nurse)
この手の暴露が今後も続くと、エルドアンは、10月の選挙で勝ったばかりであるが、辞任に追い込まれるかもしれない。野党の政権になるのでなく、AKPが与党のまま、首相のダウトオールが大統領のエルドアンから権力を奪い、大統領を以前のようなお飾りの存在に引き戻すことで、与党中枢の権力の転換が行われる可能性が指摘されている。 (The Erdogan Era is All But Over)
シリアのアサド大統領が「極悪」の濡れ衣を着せられたのは、2013年夏に、シリアで化学兵器サリンによる攻撃が市民に対して行われ、米国がそれをシリア政府軍の行為と決めつけたことが一因だ。しかし、このサリン攻撃も、シリア軍でなく、アルカイダ(ヌスラ戦線)による行為であり、サリンはトルコの諜報機関が作ってヌスラに渡したことが、当時から指摘され、今年の夏にはトルコの野党CHPが、証拠付きでそのことを改めて発表している。この件も、まだ国際的に大きな話題になっていないが、いずれ、トルコやエルドアンの「悪事」として、世界的に有名になっていく可能性がある。 (シリアに化学兵器の濡れ衣をかけて侵攻する?) (米英覇権を自滅させるシリア空爆騒動) (シリア空爆策の崩壊) (Hersh Vindicated? Turkish Whistleblowers Corroborate Story on False Flag Sarin Attack in Syria) (2 Turkish Parliament Members: Turkey Provided Chemical Weapons for Syrian Terrorist Attack)
トルコは、単独でシリアのテロ組織を支援してきたのでない。米国やNATOと結託して、この不正をやってきた。露軍機撃墜を機に、急速にトルコの悪事が暴露されていることは、トルコの国際的な地位を引き下げるだけでなく、米国とそれに従属する欧州諸国などによる、ISISとの戦争自体がインチキであることを暴露し、インチキを看過しつつプロパガンダを喧伝してきた米欧マスコミの信頼性をも低下させていきそうだ。 (勝ちが見えてきたロシアのシリア進出) (わざとイスラム国に負ける米軍)
ISIS支援は、トルコでなく米国(軍産)の発案だ。軍産は、米欧(国際社会)がイスラム世界を敵視する911以来のテロ戦争の構図を再強化するため、残虐な印象のISISを涵養・強化してきた(だから。軍産の傘下にある米欧日のマスコミは、ISISの残虐性をことさらに強調して報道する)。ISISは、イスラム世界の一員であるトルコにとって、もともと害悪性の高いものであるが、エルドアンは、中東でのトルコの影響力を拡大する「新オスマン帝国」の戦略の一環として、米国によるISISの強化に協力してきた。 (テロ戦争を再燃させる) (近現代の終わりとトルコの転換)
今回のトルコの崩壊で教訓とすべきは、米国の善悪歪曲の国際悪事に協力すると、米国自身にはしごをはずされる結果になりかねない点だ。安倍政権の日本も、中国を敵視する米国の策略に乗って、南シナ海などで中国との対決を強めることで、国策である対米従属の維持と、日豪亜同盟の創設をもくろんでいるが、いずれ米国が中国の台頭を容認する態度を強めたとき、安倍がエルドアンのように米国にはしごをはずされる展開になることが懸念される。 (日豪は太平洋の第3極になるか)