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英国「メーガン妃嫌い」に日本人が学ぶべき教訓異文化になじむのはそう簡単なことではない

2023年06月15日 | 国際社会

安部 雅延 : 国際ジャーナリスト(フランス在住) 著者フォロー
2021/03/18 13:00


インタビューで、人種差別を訴えたメーガン妃(右)とヘンリー王子(写真:PA Images/アフロ)

3月8日に放送されたアメリカの著名なテレビ番組司会者、オプラ・ウィンフリー氏のインタビュー番組内で、サセックス公爵夫人メーガン妃がイギリス王室内での暮らしを暴露しました。

とくに王室メンバーによる人種差別を訴えた波紋は、世界のメディアをいまだに賑わしています。イギリス王室は「王室は人種差別を行っていない」と公式声明を出し、ウイリアム王子も同様の声明を出しています。

このインタビューを受け、人種差別に敏感なアメリカではメーガン妃同情論が高まる一方で、イギリスでは批判と同情論に二分されています。

アメリカのCNNの看板番組を背負うラリー・キング氏の後継者も務めたイギリスの「グッド・モーニング・ブリテン」の司会者、ピアーズ・モーガン氏は番組内でメーガン妃の告白を「絶対許せない」と批判しました。が、メーガン妃からテレビ局への直接の苦情もあり、辞任しました。

一方、3月13日に発行された仏週刊紙、シャルリー・エブドの表紙に「なぜメーガンはバッキンガムを去ったのか」とのタイトルで地面に倒れ、女王の膝で首を押さえつけられたメーガン妃が「もう息ができなかったから!」という風刺画が掲載されました。

アメリカのミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが警官の膝で首を押さえつけられ、「息ができない」と訴えて死亡した事件を想起させるものであり、イギリスのメディアが「このジョークは笑えない」と強く批判しています。


典型的な「異文化不適応」に見える

現時点で人種差別があったかの真偽は公式に確認されていませんが、私個人は、可能性が十分ありうると考えています。

イギリスには歴史的にアフリカ系人種を蔑視してきた過去があり、私の友人のロンドン大学教授が「ロンドンの東側には野蛮な黒人がいるから気をつけろ」と言っているのを聞いたこともあります。そうした中で、王室で差別が起きないわけがないと思うからです。人種差別は許されるものではなく、もしその事実が明らかになれば糾弾されてしかるべきでしょう。

一方で、メーガン妃の言動について、フランスのビジネススクールで長年、グローバルビジネス、異文化理解などの教鞭をとってきた私としては、自分の経験も含め、メーガン妃の告白は典型的な「異文化不適応」にも見えます。無論、王室が存在しないアメリカの一般人が伝統に支えられたイギリス王室に深く入っていくのはかなり特殊な状況ですが、メーガン妃の言動は、異文化に適応できていない人によくある言動と似ています。


まず前提としてアメリカとイギリスは日本人が考えるより、かなり文化は違います。アメリカ人は表裏がなく、オープンでダイレクトに表現しますが、イギリス人はいつも遠回しでなかなか本音を言いません。

メーガン妃の経験をたどってみると、カルチャーショックの第1段階はハネムーン期で、まさに彼女はシンデレラのように、多くの女性が憧れる王子様と結婚し、陶酔した段階でした。一般的なケースで考えると、ある企業の海外駐在員が現地に赴任したときに、最初の1~2週間は観光気分で、すべてが新鮮に映る時期と同じです。

第2段階は、だんだんと英王室の習慣に違和感を覚える時期で、居心地の悪さがストレスになります。駐在員に置き換えて考えると、地下鉄が時間通り来ないとか、買ったばかりの洗濯機が故障し、なかなか修理に来てくれないなど日本の常識で考えられない現実に遭遇する時期です。


自分の常識を横において受け入れるのがポイント

ここを乗り越えるポイントは、自分の常識を横において冷静に異文化を観察し、まずは受け入れることです。そこでもし自分の常識で相手を裁いたりすると、異文化理解は遠ざかります。受け入れれば、自覚しないうちに自分の中でスタイルシフトが起き、何とか適応できるようになるものです。ただ、それがメーガン妃にできたかどうかは疑問です。

第2段階をクリアすると、カルチャーショックは回復期に入ります。これが第3段階です。ところがそのうち「やっぱりこれは納得できない」と当初から持っていた自分の価値観が頭をもたげ、今度は第4段階のさらに厳しいカルチャーショックに陥ります。

この第3段階から第4段階の回復期に転じるのはハードルが高く、駐在員であれば赴任うつ、国際結婚であれば離婚の危機に陥る可能性のある時期です。メーガン妃はその時期に差し掛かっていた可能性があります。

このカルチャーショックのどん底を超えると異文化耐性が身につき、異文化適応力は増すのですが、この試練は手ごわいものです。

私のようにフランス人の妻がいてフランスに住み始めた30年前、そんな知識も異文化耐性もなく、私と同じ状態にあった日本人の駐在員らと「この国はもう滅びの淵に立っている」などと、フランス批判を繰り返し、異文化理解を遠ざけた苦い経験をしました。


メーガン妃の越えなければいけないハードルが非常に高かったことは、想像にかたくありません。

王室に敬意を払う文化のないアメリカで、黒人の血の混じったマイノリティー社会で育ったメーガン妃にとって、それも人口の75%が白人のイギリスで伝統を誇るイギリス王室に入るのは、生易しいことではなかったはずです。メーガン妃自身、オプラ氏とのインタビューで「考えが甘かった」と語っています。

もう1つ、メーガン妃は異文化適応上、絶対にやってはいけないルール違反を犯しています。それはアウェイでは相手をリスペクトするというルールです。

例えば、イギリス国内でイギリス国民が王室批判するのは容認されても、外国人からのイギリス王室批判は、日ごろ王室批判しているイギリス人であっても不快に思うものです。


身内同士の批判はいいが、部外者からの批判は別物

今回のメーガン妃のイギリス王室批判に国民の半分が不快感を持ったのもそのためです。身内同士の批判はいいけれど、部外者からの批判は別物です。とりわけイギリス王室はイギリス人にとってコアな存在です。

メーガン妃に不快感を持った私の友人のロンドンの高校教師のロザリンは「人種差別はあったかもしれないけど、王室への敬意がメーガンから微塵も感じられなかったことは許しがたい」と言っています。

ロンドンのパブリックスクールのラテン語教師の友人、ロバートは「自分は、サセックス公爵夫人という不動のブランドをイギリス王室から手にしたにもかかわらず、そのブランドを授けた王室に敬意を払わず、被害者面するのは我慢できない」と批判しています。

実際、メーガン妃がヘンリー王子との結婚で手にした称号や名誉、巨額の資産はあまりにも大きいものです。

にもかかわらず、そのサセックス公爵のブランド力で、慈善活動や靴や衣服に使う「サセックス・ロイヤル」の商標登録から始まり、イギリス王室のドロドロした人間模様を脚色したドラマ『ザ・クラウン』を配信するネットフリックスと2020年9月に約155億円と言われる額で契約したことなど、恩を仇で返すような行動に「ヘンリー王子夫妻は裏切り者」と憤慨するイギリス人も少なくありません。


さらに、これからもビジネスに最大限利用しようとしているロイヤルブランドを自ら傷つけるような発言をするのは得策とはいえません。

一時的にアメリカで同情を買ったとしても、そのブランド力を傷つけ、イギリス王室の好感度を下げた代償は大きいでしょう。

アメリカの正義の価値観からすれば王室の人種差別を明るみに出すのは正しいとされるかもしれませんが、標的にしているのは他国のイギリスです。

イギリス王室への攻撃的発言は、すべてのものがネガティブに映り、自己保身のために自己正当化を試みる典型的な異文化不適応の状態のように私には映り、残念です。


ヘンリー王子は「文化の案内人」になれなかった

欧米のビジネススクールでは、グローバルビジネスには「文化の案内人」が重要な役割を果たすことが強調されています。

異なる両方の文化に精通し、とりわけ異文化の国や地域に住む外国人にわかりやすく国・地域特有の文化を解説し、消化不良を起こさないようにする。そして受け入れる側には異文化を持ち込む人間の持つ価値観や慣習を説明し、深刻な対立が起きないようにするのが「文化の案内人」です。

メーガン妃にとって異文化のイギリス王室への適応で最も重要なポジションにいるのがヘンリー王子です。メーガン妃は自殺を考えるほど追い込まれたといいますが、ヘンリー王子はどうしていたのでしょうか。

英調査会社ユーガブ(YouGov)が3月12日発表した世論調査結果によれば、今回のインタビュー放映前の今月初めに行われた調査では、王子に好感を持つ人は53%だったのが、インタビュー後、過去最低の44%まで下落し、とくに65歳以上のイギリス人の場合、69%がヘンリー王子に不快感を示しました。

生まれたときからイギリス王室の高位にあるヘンリー王子は追い込まれたメーガン妃に対して、王室の解説者であり、妻を守る立場で適応を手助けする必要があったのは間違いありません。


実は王室にとってメンバーの好感度は過去のいかなる時代より重視されています。ダイアナ妃がパリで事故死した後、エリザベス女王が声明を控えたことが批判され、王室は存続の危機に晒され、以来、女王は国内外の王室への評価には敏感になっています。

ヘンリー王子が選んだ黒人の血の入ったアメリカ人女性を受け入れたのも、王室が白人優位主義ではないダイバーシティに適応していく姿勢を見せるためだったと王室関係者は解説しています。

今回のユーガブの調査では、ヘンリー王子の父チャールズ皇太子の好感度も57%から49%へと下落しました。一方、エリザベス女王の支持率は80%という高い好感度は維持されています。

在任69年のエリザベス女王の君主としての哲学は「無私と義務を果たす」ことだと言われています。公務に徹する姿勢は、日本の天皇家にも通じるものがあります。ただ、自由と個人の選択を重視するイギリス王室では、女王の哲学を継承するのは困難を極めていることが垣間見えます。


ヘンリー王子夫妻はイギリス王室の弱体化を招く?

では、今後のイギリス王室はどうなっていくのでしょうか。

フランスの日刊紙ル・モンドは、3月11日の「バッキンガムを揺るがすヘンリーとメーガン」と題する社説で、「共和国(フランス)の市民がイギリスの君主制の本質を理解するのは難しい」と前置きしながらも、ヘンリー王子とメーガン妃の息子アーチー・ハリソン・マウントバッテン=ウィンザーは、今はなくてもチャールズ皇太子が国王になれば、王位継承順位第7位の殿下の称号が与えられ、ヘンリー王子夫妻の放った「毒矢は、王位継承者たちに突き刺さることだろう」と皮肉を込めて結んでいます。

今から約230年前に国王夫妻をギロチンにかけたフランスでは、とくに左派リベラルのル・モンド紙のイギリス王室への見方は厳しく、イギリス王室内の公平性、平等性を欠く事柄には敏感で、ヘンリー王子夫妻の“毒矢”はイギリス王室の弱体化を招くと指摘しています。

人種差別の真偽とは別に王室がメーガン妃を追い込んだことの責任は重いと思われます。この解決法は対立する両者が腹を割ったコミュニケーションの機会を何度も忍耐強く持つしかないと私は思います。相手の話を注意深く聞く姿勢がなければ解決の道は見えてこないでしょう。

王室がプライドからメーガンに忖度を一方的に求めているとするなら、ダイバーシティは程遠いと言えます。


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