普段あまり声高には口にしないけど、実は私は密かにバスター・キートンのファンである。
チャップリンと並ぶ喜劇王としてつとに有名な人なので、私以上にキートンに関して詳しい方は多いだろう。
そういう人たちにキートンに関する知識で私は勝てるとは思ってないし、勝負する気もない。
でも、私もファンであることは間違いない。
キートンの名前は昔から知ってはいたが、本格的に興味を持つようになったのは、ある時期のテレビCMでキートンの映画の映像の数シーンが使われているのを見てからだった。
また、多分そのころだったと思うが、「知ってるつもり」というテレビ番組でキートンが取り上げられ、私はますますキートンに興味を持った。
それ以来、レンタルビデオ屋さんなどでキートンの映画を探したのだが、中々置いてなかった。
強いてあげれば、たまに「キートンの大列車追跡」という長編(キートンの作品の中では長編)を見かけるぐらいで、それ以外はレンタル屋ではお目にかかれなかった。
私が特に見たいと思ってたのは「蒸気船」という作品だったのだが、当時どのレンタル屋にも置いてなかった。
見たいのに見れない・・ということで、けっこう悶々としていた時期が長かったのだが、ある日、キートンの短編集がDVDボックスで出る情報を知り、即ゲット。
更に数年後、さらなるDVDボックスも出ることも分かり、それもゲット。
都合、私はキートンの映画ばかりを集めたDVDボックスを2箱持ってることになる。
先日、その中の「蒸気船」という映画を久々に見返してみた。
いやあ、やはり面白い。
コメディとしては、社会性やメッセージ性、ハートウォーミング性などの深さではチャップリンの映画のほうが上なのかもしれないが、どっこい、キートンの映画の魅力はそういう点ではない。
次から次へと現れるアクションシーンは、エンタテインメント性にあふれている感じだ。
CMでキートンの映画の数シーンが使われた時、そのキートンのアクションや、命がけのギャグに心を奪われたものだった。
笑う・・というよりも、感心してしまい、息をのむ感じのスタント。もちろん、キートンのアクションは吹き替えなし。
見ててグイグイ引き込まれたものだった。
実際、キートンはアクションで首の骨を折ったり、生傷が絶えなかったそうだ。
そりゃそうだ・・・命がけのシーンを撮る前には、リハーサルもあるはずだし、リハの途中でアクシデントだってあったはず。
キートンのアクションの凄さは、スゴイことをやっているのに、それをお客さんにはギャグとして見せていることだった。
普通、いくらギャグであっても、それが凄いものであるなら、今の作品なら何度もリピートして強調する演出をするだろう。
同じシーンを角度を変えて見せたり、スローにして見せたり。
だが、キートンの命がけのギャグは、一瞬でサラッと見せてしまう。しかも、それをリピートして見せたりせず、そのままストーリーの一部としてすぐに消えてゆく。
だから、目が離せないのだ。
この「蒸気船」でのアクションシーンで有名なのは、立っているキートンの上に、後ろの家の壁が倒れてくるシーン。
倒れてくる家壁の窓の部分が開いてて、そこだけ窓サイズの小さな「穴」になっている。
正面を向いて立ってるキートンは、後ろから倒れてくる家壁には気付かず、倒れてきた家壁に開いてた窓がちょうどキートンの立っている位置にあって、キートンは倒れてきた家壁を運よくすり抜けた・・という設定。
しかも、キートンは、自分の置かれていたピンチにまったく気付いていなくて、何事もなかったかのようにふるまう。
このシーンなど、もしもキートンの上に倒れてきた家壁の窓の位置や、キートンの立ち位置がちょっとでもずれていたら、・・・キートンは大けがをするどころじゃすなまかったのではないだろうか。
まさに命がけのギャグなのだ。
それと。
その「家の倒壊シーン」に勝るとも劣らない名シーンなのが、町を吹き荒れる突風にキートンが立ち向かっていくシーン。
吹いてくる突風は、人だけでなく家までも吹き飛ばしてしまうような突風なのだが、その突風に逆らって前に進もうとするキートンのアクションぶりが、もう素晴らしいのなんの。
また、キートンがつかまってる木が突風で飛ばされ、川の上を飛んでいくシーンも見どころ。
その他にも、キートンの身軽なアクションシーンや、パントマイムを活かした動きぶりが映画の随所で出てくる。
大きな見せ場、小さな見せ場がてんこ盛りなのだ。
大道具を活かしたギャグなどは、その後のドリフの「8時だよ!全員集合」での大掛かりなギャグに影響を与えてるように思えてならない。
ストーリー的には、けっこう単純だ。
ミシシッピー河を運航する二艘の船。ひとつは古いタイプの船で、この船長(?)はキートンの父。
もうひとつは豪華客船で、それはキートンの恋人のキティの父。
キートンとキティの父同士は、商売敵同士で、いつもいがみあっている。
そんなところにキートンが現れ、さらにキティもいて・・・。
恋人同士なのに、親同士がいがみあってるから、2人は思うように会えず、進展もできない。
ついにはキティの父の陰謀(?)で、キートンの父は留置場に入れられてしまった。
ところがある時、その町に、町ごと吹き飛ばしてしまうような突風がやってくる。
倒壊する家、吹き飛ばされる人たち。
そして、川に押し流される家・・・。
キートンも、キートンの父も、キティも、キティの父も・・・皆がそれぞれピンチだ。
さあ、どうするキートン?!
というわけで、キートンの体をはったアクションでの大活躍が始まる!
バスター・キートンの全盛期の命がけのギャグが見る者の目をとらえて離さない、サイレント映画の名作!
それがこの「キートンの蒸気船」である。
監督 チャースル・F・ライズナー
脚本 カール・ハーパー
出演 バスター・キートン
アーネスト・トレンス
マリオン・バイロン
トム・マグガイア
ほか。
1928年作品。
機会があれば、ぜひこの作品「キートンの蒸気船」を見てほしい。
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