真面目に授業に出席し少しずつ知り合いもでき始め、ジャズ研に通いコルネットを持ち込んで練習を初めて二週間くらい過ぎ三里塚関係のビラやポスターも見慣れてきたある日、大学での勝手もわかって来たので狙いをつけていた『文連』のオレンジ色の扉を訪ねた。自治会がセクトであることは正門前で配られているビラから予想がついた。民青の活動がないことも学生生協にビラやポスター一つないことで察しがついた。行くべき場所は文化系サークルをまとめ、白雉祭(学園祭)を実行し、学内管理強化に反対しながら三里塚などの政治闘争にも関係している文化団体連合会の本部だった。本部室にいたAさんに話を聞かせてくださいとお願いした。ここの活動内容や対当局のスタンス、政治闘争への関与、セクトへの関わり。Aさんも逆に質問してきた。部落解放同盟朝田派批判の根拠、自治会を訪ねずに文連に来た理由、ここで何がしたいのか、民青やセクトへのシンパシーなど組織防衛のためか確認してきた。SさんやKさんもやってきた。自治会はセクトなので訪ねる考えはないと話したところ、全学自治会と称しているが実際は語学クラスがある二年生時までの限られた組織でしかないこと、自治会の政治組織は日本社会党・社青同協会派の分派で労働者階級解放闘争同盟でありその学生組織がレーニン主義学生同盟であることなどを教えてくれた。自分はジャズ研に入会してトランペットを吹くことになったのだと話したが、そんなことより自ら文連を訪ねてくる新入生が珍しいらしく、またマルクスの学習会をしているという話に興味がもたれ、真面目だねと裏があるように何度か言われた。他セクトによる拠点奪取に向けた動きではないかという疑いをかけられたようだ。疑いではあったがこの時点では党派的な立場を明確にする気持ちはなかったので、今は本部活動をするかどうか決めておらず当分ジャズ研でトランペットを吹くつもりであり文連にはサークルを通じたシンパとして関わっていきたいと話した。
大学においてセクトの拠点化は組織として自分たちの取り組みを正当化し自治を進める上でナーバスにならざるを得ない。それが党や同盟であれば組織の存続をかけるため注意深い対応になる。ヘルメットの色は何色か訊ねるとグレイのキャビネを開きあっけらかんと見せてくれた。そこには赤と黒のヘルメットが並んでいた。文連本部の自信のようなものを感じた。しかし、信頼関係のない新入生に対して不注意すぎるのではないかとも思った。非合法とか合法とかを問う前に関係なく社会が認める「過激派」のボックスがここにある。白や青ヘルがないことを確認し、三闘委が赤ヘルだったことを思い出して黒と赤があるのはどういうことか質問した。すると取り組みによって使い分けているとあっさり回答され、使い分けの意味がわからなかったもののそんなものかと感心した。文連本部の活動自体に毛嫌いする要素はなかった。ただこのまま本部の活動をすることでここの指針に基づく政治闘争に関わるには疑問があった。ここが自分の居場所なのか、自分は何がしたいのか、自分の考えている取り組みとここで行われている学生運動は同じものなのか、樺美智子さんや奥浩平くん、高野悦子さんの闘いと同じものなのか、自分の想像する『闘争』と現実との隔たりを埋めることができるのか。このままでは結論は得られない。試みるしかなかった。