「 私の眼は光っている。 だが私の心は暗いのだ 」 とチェホフが 「 手帖 」 のなかに書いていたのを昔読んだ事がある。 折にふれて心のなかに又新しく幾度でも甦る言葉というものがあるものだが、 僕にとってはそういう言葉の一つである。 僕の様な眼でも幾分ずつでも強く光って来る事は出来るのだ。 いや自ら努めて出来る事はそういう事だけだ。 併し心を明るくする事は出来ない。 そんな方法はないのである。
「 雑記 」 10 - 一二六 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66
「 雑記 」 10 - 一二六 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66