非常時の政策というものはあるが、 非常時の思想というものは実はないのである。 強い思想は、 いつも尋常時に尋常に考え上げられた思想なのであって、 それが非常時に当っても一番有効に働くのだ。 いやそれを働かせねばならぬのだ。 常識というものは、人々が尋常時に永い事かかって慎重に築き上げた思想である。
「 支那より還りて 」 10 - 一七〇 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66)
「 支那より還りて 」 10 - 一七〇 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66)
「 私の眼は光っている。 だが私の心は暗いのだ 」 とチェホフが 「 手帖 」 のなかに書いていたのを昔読んだ事がある。 折にふれて心のなかに又新しく幾度でも甦る言葉というものがあるものだが、 僕にとってはそういう言葉の一つである。 僕の様な眼でも幾分ずつでも強く光って来る事は出来るのだ。 いや自ら努めて出来る事はそういう事だけだ。 併し心を明るくする事は出来ない。 そんな方法はないのである。
「 雑記 」 10 - 一二六 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66
「 雑記 」 10 - 一二六 小林秀雄 (人生の鍛錬 P.66