物語

『木の物語』

　　わたくし
　　木なのですけどね
　　数百年前に人の手で
　　この場所に植えられましてね
　　長い年月をここで生きてきました

　　とてもいい場所でしたので
　　たくさん根を張り
　　枝を伸ばし
　　葉を茂らせました
　　
　　様々な獣たちが集い
　　人達はわたくしを大切に扱い
　　数年で立派な大木になりました

　　１００年ほどは自由気ままに
　　それは気持ちよく成長してきましたがね
　　変化は急速に始まり
　　あっという間に周りの景色も
　　空気も土も人も変わってしまいました

　　わたくしは枝を刈られ　
　　根を断ち切られ
　　幾度も惨めな姿になりました
　　そして明日
　　とうとう切り倒されるのだそうです

　　唸るように吹き荒れる風の中
　　最後の夜になってしまったよと
　　わたくしに優しく語り触れた
　　誰か人の手は
　　だけどわたくしを静かに穏やかに
　　させてくれるものでした

　　わたくしは明日
　　人の手で切り倒されるのだそうですよ


『月の話』

　　私は月です
　　何億年もこうして地球を眺めながら
　　規則正しく回っています

　　単調のようでいて
　　一瞬たりとも同じ時は無く
　　いつまでも続く物語をみています
　　ぐるぐると何処までも続く
　　螺旋の軌道です

　　そして絶え間なく
　　様々なものの声や感情やらが
　　ここまで響いてきます
　　今まさに命を断ち切られる
　　人によって植えられ
　　人によって切られるあの大木の
　　嘆きさえも
　　ここまで

　　だけど私は知っています
　　これが終わりでは無い事を知っています
　　全ては宇宙の一部にすぎないのですから
　　全ては違っていますが
　　全ては同じですから

　　私はここでみています
　　誰かの物語に寄り添いながら
　　そっと静かに
　　無常に過ぎていく全てを
　　きちんとみています　

2015.6.21.25


😇今日のにゃんこ😇

無言です、、、