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蔵馬ウケネタ、日常のことなど思った事を綴る。

白い白い枯れない 恋を~飛蔵プチ小説~

2019年02月05日 23時13分47秒 | 蔵馬受けblog内小説



続 蒼月哀夜を進めながら、ひとつだけプチ小説を創ってみました。


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しとしとと、降ってきたのは指まで染みこむような雨だった。
「濡れるぞ」
魔界の大地を、ふたりは歩いていた。丘を登る道は湿っていて、蔵馬は
二人のすみかまで、歩を速めた。隣に居る飛影が、小さく蔵馬を呼んだ。
「うん」
でも、寒くて早く戻りたいんだもん…。
蔵馬は小さく笑った。
笑ったけれど、その手は震えていて。
はあ、とため息を吐きながら飛影は一歩後ろから蔵馬を追った。

この丘は、二人の魔界のすみかに続いている。
魔界の天気は気まぐれだ。
暖かかった空気は影を潜め…突然降り出した雨が蔵馬の髪を濡らしていく。
「っ……」
「ほら」
小さく震えた蔵馬の肩に手を重ねると染みこんでいく、小さな温もり…。
薄いシャツに、雨が少しずつ染みこんでいた。ちっと、飛影は蔵馬に
気付かれない角度で舌打ちをしていた…。蔵馬のシャツから、中が
うっすら透けて見えている。水がシャツに重なり、張り付いたシャツが、
蔵馬のからだを透けさせていた。

もとは、蔵馬が治療に役に立つ花を摘みに行くと言いだしたからだった。
仕事も終わる時だったので、俺も行くと言ったのは飛影だったのだが…。
まさか、こんな風に雨が降り出すとは思わなかった。
さっきまで、春のように晴れていたのに。
花畑の中でしゃがみ込む蔵馬が、花びらを摘まむ度に笑っていた。飛影、と
振り返る度笑っていた。
それを思い返し、飛影も一瞬笑っていた……。
けれど。
段々と水を染みこませた蔵馬の髪が、露のように雫を垂らしていた。
ああ、もう、と思わずには居られない。蔵馬だって元は、魔界で生きる生き物、
それは分かっている。
それでも飛影は蔵馬のからだが人間であることを、飛影は頭に意識するのが習慣
になっていた。
甘いな、自分でも思う。どうしてかわかっている。武術会以来…血を流して倒れる
蔵馬が、頭から離れないのだ。
「あ、見て!」
弾んだ声がした。
蔵馬の声だ。今度はどうしたと…呆れながら近づいていく。ザアザアアと言う音が
はっきり分かるくらい雨が二人を濡らして、辺りをぼかしていた。
なのに、弾んだ声。
「見て!綺麗……」
しゃがみ込む蔵馬が触れていたのは、小指ほどの…小さな白い花だった。強く降り注ぐ
雨の中、蔵馬の小さな指が花びらにそっと触れた。
その小指が、揺れた花の花弁を摘まんでいた。ブワッと……蔵馬の髪が靡いていた。
「綺麗…ねえ」
白い花びらの中、真ん中が薄桃に染まっていた。
「知ってる?この蜜がね、凄い回復力があるんだよ」
プチっと…音がした。
花を摘んだ蔵馬が、飛影の黒衣に触れていた。右胸のポケットに刺された花……。
「何分かで、凄く回復するから」
雨に打たれたまま、濡れた頬をそのままに、蔵馬は呟いた。


「どうせ、約束守らないでしょ」
気をつけてと、ほどほどにしてねと何度も言った。
だけど蔵馬のところにくる飛影はいつも腕から血を流していて。唇を噛みしめている蔵馬の
ことなど見えていないように、飛影は聞いていない振りさえしていた。
「守ろうとは思っている」
そっぽを向いて、聞こえたのは飛影の声だ。
「でも仕方がないときもある」
「ありすぎでしょっ…もう」
心配したって仕方がない、飛影だって魔界で生きているのだ。寝首を掻かれてしまうよりずっといい。
「俺が簡単にやられるわけないだろ」
「相打ち、したくせに」
拗ねるような声が、飛影を射貫いた。
「あれは…」
今度は飛影が黙る番だった。言いたいけれど、素直に全てを言うのはしゃくに障る。
「おまえと会えないからと思って……」
見上げた蔵馬の頬が、赤く染まった。
「でも」
風に揺れても、この花はずっと花びらが飛んでいくことはなかった……。
「この花みたいに、強いお前がいる」
「飛影……?」
フワっと、何かが髪に触れた。白い花は、蔵馬の髪に挿してあった。
「どんなときでも枯れない花…」
蔵馬の、耳にかかる髪をかき上げる飛影の指が、熱く触れた。
「お前が、ずっと終わらない未来だ」

戻るぞと、蔵馬の手を取った。
すみかまで、あと少し。

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たまには、少し甘い飛蔵の、飛影もいいのではないかなと思いました。