私的音楽雑記帳
FOLK ETYMOLOGY
My Last Day / Kim Hiorthoy
リリース予告から約1年。やっとリリースにこぎ付けたKimの新作。この遅れ具合は彼らしい、というか、ノルウェイらしいというか。
フルアルバムというくくりでは7年ぶり、EPで考えると2004年の『Hopeness』以来なので3年半ぶり・・・とはいえ、その間も彼はライヴ盤をリリースしたり12インチを出したり、それに加えて個展をやったり本を出したり、来日公演もあったし、留学もしたし・・・。もはやライフワークとなりつつある、レーベルSTSやグラモフォンのアートワークを手がけたりしているわけなので、超・多忙の彼なので、きっとこの期間の開き具合はたいした問題ではないということか。
というわけで、新作『My Last Day』。もともと人の声のコラージュやサンプリング、フィールドレコーディングをベースに音作りをすることが多い彼なのですが、今回もベースはここにあります。 マスタリングはSuper SilentのHelge Sten。JagaのLarsがサックスで参加するなど、お馴染みの顔ぶれが並んでいるのですが・・・、、これまでと違う(ように思える)アプローチをしかけているような気がするのです。
今作は、これまでの彼らしいポップな面も見られるのですが、一曲一曲がシチュエーションの違う絵画一つ一つのように、まるで耳を澄ませば、曲間にギシギシときしむ音が聞こえてきそうな中世の雰囲気がアルバム全体を包んでいるような感じがするのです。今までの彼だったら、人の話し声や生活の「音」をうまくつなぎ合わせ、ゆったりとした雰囲気を放っていた印象が強いのですが、それとはまた違った「時間」のアプローチを仕掛けているよう。扉を開けた瞬間に、それまで止まっていた何百年という時間が一気に流れ出したかのように。
それは7年という歳月の中で、彼が「音楽家」として培ってきた表現力なのでしょう。その間の様々な本来の仕事の中で、いろんな経験を得て、養った音楽家としての彼。
何度も書きますが、彼は音楽と絵(ドローイングやペインティング、アートワーク)を同じものとして捕らえていて、だから見る時も聴く時も同じ感覚を覚えるのです。絵だけでは芸術家としての彼は成り立たないし、音楽だけでもそれは同じこと。
ただ、今回の作品を聴いて、それぞれが少し歩み寄った気がするのです。彼が紡いだ音からは、映像や風景が浮かんで来ます。それは例えばベルゲンにあるグリーグの家「トロールハウゲン」の様子。彼がこの世を去った今でも、その建物はそこに存在し、生活の品も全てそのまま。まるで時間が止まったように、彼の音楽に向き合う姿勢がその場所に足を踏み入れれば、今も伝わってくるのです。
彼は、絵と音楽(加えて建築物とか)、その二つを一つの作品として表現したかったのかもしれません。どういう形で?『My Last Day』失われた過去?記憶?自分のもの?まるで知らない他人のもの?
その真意はあなたの目と耳で確かめてください。
マイ・ラスト・デイ | |
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Pヴァイン・レコード |
Kim Hiorthoy / My Last Day
PCD-93007
P-Vine Record
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