積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録

諸田玲子・宮部みゆき 他『ねこだまり〈猫〉時代小説傑作選』あらすじと感想

2024-08-01 08:40:59 | 紙の書籍
PHP文芸文庫 諸田玲子・宮部みゆき 他『ねこだまり〈猫〉時代小説傑作選』細谷正充編を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
お婆さまの猫 諸田玲子
包丁騒動 田牧大和
踊る猫 折口真喜子
おとき殺し 森川楓子
猫神さま 西條奈加
だるま猫 宮部みゆき
解説 細谷正充


【あらすじ】
可愛らしくもときに怖ろしい、江戸の猫が勢揃い!
守り神としての猫、事件を目撃する猫など。女性時代作家が描く珠玉のアンソロジー。

お店の守り神である木彫りの猫がなくなり、その行方を捜す「猫神さま」(西條奈加)、長屋で一番偉い猫の"サバ"が、夫婦の揉め事を解決する「包丁騒動」(田牧大和)、臆病な火消しの男へ按摩が与えた猫頭巾に込められた恐るべき謎「だるま猫」(宮部みゆき)など、愛らしくも摩訶不思議な存在である江戸の猫にまつわる短編六作を収録。


【感想】
お婆さまの猫 諸田玲子
結寿(ゆず)は御先手組屋敷 小山田家の新妻、夫は万之助。結寿は想い人の妻木道三郎を胸の奥にしまったまま小山田家に嫁いできた。
義祖母は白猫を膝に乗せ、結寿を「ツキエどの」と呼ぶ。「ツキエどの」とはお婆さまの早世したお友達だろう。お婆さまも結寿と同じく心の奥にしまっておいた思い出と共に生きている。
切なく哀しいがほんのりと胸が温かくなる。

包丁騒動 田牧大和
鯖猫長屋で飼われている雄の三毛猫はサバ。長屋で一番偉い!「神通力のある御猫様」と噂されている。
この長屋はいわくつきの住人を引き寄せるのか、脛に傷もつ者やら一癖も二癖もある者ばかり。
猫のサバが夫婦の揉め事を解決するファンタジーはほっこりする。

踊る猫 折口真喜子
絵描きの主水と蕪村の付き合いは20年以上になる。
蕪村は近所の老婆が飼っていた黒猫を引き取ったが、猫には自由きままにさせるつもりのようだ。
酒を酌み交わしているとどこかでお囃子が聞こえてくる。猫も踊るかもしれないとふと思う主水。
淡々と主水の想いが綴られている。静かな余韻だけが残る。

おとき殺し 森川楓子
岡っ引きの茂蔵はまっくろな子猫を抱いて国芳宅を訪れた。昨夜、長命寺の裏の一軒家で女が殺され、その亡骸のそばでうずくまっていた猫だという。
弥平は茂蔵の手下だがすこぶる評判が悪い。殺されたのは弥平の母親だ。
下手人として捕まったのは大工の佐吉。だがそれは幼なじみの亀屋のお内儀をかばって捕まったのだった。
二人はかつて貧しい長屋暮らしの中、猫に“はな”と名づけ「ホウ、ホウ」と呼んで可愛がっていた。
愛する者のため犠牲になろうとする男、それを知りながら罪悪感に苛まれて生きるお内儀。どちらが生き地獄なのだろう…。ふと『容疑者Xの献身』を思い出した。

猫神さま 西條奈加
お侍の長谷部柾は気楽な次男坊。周囲の者は彼を「ふらふら病(放浪癖)」と呼んでいる。
三治は稲荷売りの12歳、海辺大工町に仲間4人と住んでいる。勝平はあやめ長屋に住むそこの頭分だ。
稲荷社で出会った同じ年頃のおのぶを助けるはめになり、3人でおのぶの奉公先の安曇屋を探索する。おのぶは“猫神さま”を盗んだ疑いがかけられていた。“猫神さま”は木彫りの猫で安曇屋の守り神で大切なものなのだった。
犯人は安曇屋の病弱な倅、七之助。寂しさからハツカネズミをこっそりと飼っていたのだが、そのハツカネズミが“猫神さま”をかじってしまい、困り果てて隠したのが原因だった。
なんとかうまく話しをあわせて丸く収めたところは、落語噺を聴いているようだった。

だるま猫 宮部みゆき
文次は7歳、貧乏長屋に飲んだくれで乱暴者の父親と古着のかつぎ売りをしている母親と暮らしている。父親にひどい目にあわされても長屋の住人は怖がって誰も助けてはくれない。夢は火消しになること。それだけが生きるよすが。
16歳になった文次は一膳飯屋ひさごで住みこみで働いている。主は60過ぎの角蔵、恐ろしく愛想がなく人も動物も嫌いな独り者だ。
14歳で伯父のところから身ひとつで飛び出し、鳶の猪助に懇願しておいてもらう。“夢は叶う”と信じて骨身を惜しまず働くが…。
初めて火事場に出たとき、あんなに火消しになりたかったはずなのに、恐怖で動けなくなる。何度目かでは火傷を負い、助けてくれた先輩にも怪我を負わせてしまう。
角蔵もかつて火消しだった。出入りの按摩が“だるま猫”という古びた“猫頭巾”を文次に渡す。これを被ると火事の様子が手に取るようにわかり、少しも怖くない。ただ、それと引き替えに“人に嫌われて孤独な人生を送る”ことになるのだ。それは“魔”との恐ろしい契約だ。
文次は逃げた、“だるま猫”を置いて。角蔵はひさごに放火し焼死体となって発見される。頭には“だるま猫”がしっかりと外れないようにして被ったまま。
相変わらず宮部みゆきは怖い。人の心の奥底をじっと覗きこむような怖さがある。

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2023年大晦日のご挨拶です

2023-12-31 11:36:23 | ご挨拶
2023年令和5年も今日で終わろうとしていますね。
今年もいろいろありつつも、穏やかな大晦日を迎えることができました。
みなさまはどんな一年だったでしょうか?


私事ですが今年の6月に母が亡くなり、喪中につき新年のご挨拶を失礼させていただきます。
みなさまよいお年を迎えください。






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畠中恵・宮部みゆき 他『まんぷく〈料理〉時代小説傑作選』あらすじと感想

2023-12-05 09:28:56 | 紙の書籍
PHP文芸文庫 畠中恵・宮部みゆき 他『まんぷく〈料理〉時代小説傑作選』細谷正充編を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
餡子は甘いか 畠中恵
鮎売り 坂井希久子
料理茶屋の女 青木祐子
桜餅は芝居小屋で 中島久枝
清正の人参 梶よう子
お勢殺し 宮部みゆき
解説 細谷正充


【あらすじ】
餡子は甘いか 畠中恵
菓子司三春屋の息子 栄吉は父親の虎三郎に、老舗菓子屋安野屋に修行に出される。菓子屋の跡取りにもかかわらず、栄吉は餡子を作るのが苦手だった。

鮎売り 坂井希久子
“ぜんや”という居酒屋の女将 お妙は魚を仕入れに魚河岸へ行ったさいに、12、3歳の小柄な女が鮎を買ってくれと懇願するのに出くわす。可哀想に思ったお妙はその傷ものの鮎を全部買うことにした。

料理茶屋の女 青木祐子
とある料理茶屋に上がった医者兼薬屋の守屋は、ここで出す煮豆が目当てだった。30半ばのお蘭という女中が作っているらしいが…。

桜餅は芝居小屋で 中島久枝
日本橋の二十一屋は豆大福が人気の菓子屋。16歳の小萩はここの奉公人、お菓子が好きで母親の遠い親戚のこの店で働いている。

清正の人参 梶よう子
御薬園同心の水上草介は、見習い同心の吉沢角蔵から手渡された書物に驚く。それは草木を書き記したもので、草介は何も知らない知ろうとしなかったことに愕然とする。

お勢殺し 宮部みゆき
深川富岡橋のたもとに奇妙な屋台が出ている。美味いものを出すが、客足の途絶える夜遅くまでやっているのだ。岡っ引きの茂七はこの店の親父が気になっている。


【感想】
女性作家の描く時代小説傑作選の第二弾。全体的に江戸人情もの。

餡子は甘いか 畠中恵
栄吉は下手で不器用だが菓子を作ることをあきらめられない、好きだからだ。その心情が胸を打つ。「“続けること”ができるのも立派な“才”」という虎三郎の言葉が素敵だ。

鮎売り 坂井希久子
「田舎では、嫁は子を産む働き手だ。毎日くたくたになるまで追い回される。家に在りては父に従い、嫁して夫に従い、夫死しては子に従う。そう説かれる女の生きざまとは、なんであろうか。」という文章に涙が出そうだ。
今は違う?いや、根本的なところは変わっていない気がする。“イクメン”などという言葉に酔ってドヤ顔している男性のなんと多いことか。社会のシステムも女性に優しくないし。

料理茶屋の女 青木祐子
煮豆売りの亭主が刺され、女房のおときが行方知れずになっていた。このおときがお蘭。
亭主の善三(皮肉な名前だ)はどうしようもない男。善三に襲われそうになっていた手伝いの美鈴がもみ合ううちに刺してしまったのだ。美鈴はショックでそのときの記憶をなくしていた。実は美鈴はおときの娘だったのだ。
おとき:お蘭の人生と心情になんともいえない気持ちになる。

桜餅は芝居小屋で 中島久枝
菓子職人の伊佐が話す身の上話が辛く悲しい。「俺が大事に思っている人は、みんなどっかに行っちまうんだな」「だから、もう誰ともあまり親しくなりたくねえんだ」寂しい言葉はそれだけ心の傷が深いのだろう。
伊佐が心を癒し、心を開くことができる日がくるのだろうか…。
最後、小萩がつぶやく「私はどこに向かっているのだろう」と。人はこうやって、自問自答しながら生きていくものなのかもしれない。

清正の人参 梶よう子
NHKの朝ドラ『らんまん』を彷彿とさせるような作品。“清正人参”は“オランダミツバ”とも。
西洋かぶれの阿蘭陀通詞の野口伊作、御薬園同心の水上草介、小石川養生所医師の河島仙寿のやりとりがおかしくもほろっとする。さわやかなラスト。

お勢殺し 宮部みゆき
全裸の女の土座衛門が上がったことから、“回向院の旦那”と呼ばれる岡っ引きの茂七が謎解きをする。女はお勢という醬油の担ぎ売り。
お勢には年下の問屋野崎屋の手代 音二郎という男がいた。この男が遊びだったお勢につきまとわれ、困った末に殺して全裸にして大川に投げ込んだのだ。
母親に早く死なれ、父親にも死なれて寂しいお勢。がたいがよく、色黒で不器量な年増女の心の隙間に入り込んできた音二郎さえいなければ、お勢は元気にまだ生きていたはず。
女ゆえの悲しみを背負って、分不相応の夢を見てしまったお勢に涙が出る。哀れで悲しい…。


【余談】
宮部みゆき『お勢殺し』は新潮文庫『初ものがたり』に収録されていて読了していた。アンソロジーあるある。
どうも、この続きは書かれていないようなので気になるな~。屋台の親父の素性が知りたいのは私だけではないと思う。



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角田光代『ポケットに物語を入れて』内容と感想

2023-09-26 09:53:57 | 紙の書籍
小学館文庫 角田光代『ポケットに物語を入れて』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
あなたのポケットの、あなただけの物語 


冬の光 宮沢賢治の童話
なんて明るい小説なんだろう 太宰治『斜陽』
世界はひとつではない 松谷みよ子『モモちゃんとアカネちゃん』
もうひとつのガイドブック キューバでヘミングウェイを読む
旅と年齢 旅の本
本が私を呼んでいる 図書カード三万円使い放題!

2 
食べることの壮絶 開高健『最後の晩餐』
問い続ける、書きつづける 開高健『戦場の博物誌 開高健短篇集』
開高健のこの三冊 『輝ける闇』『最後の晩餐』『一言半句の戦場』
小説は世界を超えることができるのか 池澤夏樹『光の指で触れよ』
池澤夏樹のこの三冊 『マリコ/マリキータ』『きみのためのバラ』『カデナ』
目的のあるふりなんかしない 田中小実昌『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』
人はこんなにも奥深い 田辺聖子『蝶花嬉遊図』
「人」という迷宮 山田太一『冬の蜃気楼』
もんのすごくかわいい 佐野洋子『コッコロから』

3 
意地の悪い本? 江國香織 絵・荒井良二『ぼくの小鳥ちゃん』
人と人がつくる「迷路」 江國香織『金米糖の降るところ』/山田太一『読んでいない絵本』
世界は自由で広い 川上弘美『天頂より少し下って』/岩瀬成子『だれにもいえない』
生きていくのに必要なもの よしもとばなな『どんぐり姉妹』
開放された彼女の庭 森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
私たちに寄り添う物語 森絵都『この女』/山田太一『空也上人がいた』
固定概念から解き放たれるとき 三浦しをん『木暮荘物語』/佐野洋子『そうはいかない』
言葉の海を渡る舟 三浦しをん『舟を編む』/夏石鈴子『新解さんの読み方』 
どんどんねじくれる場所 井上荒野『もう切るわ』
それもまた愛だった 井上荒野『ズームーデイズ』
人と関わることの頑丈さともろさ 井上荒野『つやのよる』
愛や理想や希望というもの 桐野夏生『ポリティコン』ほか
子どもの時間と大人の世界 湯本香樹実『春のオルガン』
恋のようなものと、ほんものの恋 佐藤多佳子『黄色い目の魚』
母という存在が持つ孤独 金原ひとみ『マザーズ』/西原理恵子『毎日かあさん8』
大人のための秘密基地 大島真寿美『水の繭』
胸の震えるような音楽が聴こえる 大島真寿美『ピエタ』ほか
居心地のいい場所 藤野千夜『主婦と恋愛』

4 
一九八〇年代の青春 吉田修一『横道世之介』/都築響一『バブルの肖像』
騙される側の爽快な復讐物語 吉田修一『平成猿蟹合戦図』/長友啓典『死なない練習』
「今」と地続きの戦後史 橋本治『リア家の人々』/星野智幸『俺俺』
私に向かって投げられたボール 伊集院静『ぼくのボールが君に届けば』
時代に汚されぬ美しさ 伊集院静『志賀越みち』
「私」になるための決意 沢木耕太郎『あなたがいる場所』
この世界に対するぎりぎりの希望 三羽省吾『厭世フレーバー』
まっとうに生きるとはどういうことなのか ヒキタ クニオ『角』

5 
忌野中毒 忌野清志郎『忌野旅日記』
安心しろ。君はまだ大丈夫だ。 忌野清志郎『瀕死の双六問屋』
私たちの知らない世界 大竹伸朗『カスバの男モロッコ旅日記』
がんばれ、どうってことないから 高野秀行『アジア新聞屋台村』
ああ、食べたい 東海林さだお『ホットドッグの丸かじり』
わけのわからない人間が多すぎる 北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』
想像をはるかに超えた暗い場所 河合香織『帰りたくない──少女沖縄連れ去り事件』
彼女が指さす先 星野博美『のりたまと煙突』
ああなんて、楽なのだろう 酒井順子『29歳と30歳のあいだには』
もうひとつの小説との接し方 酒井順子『金閣寺の燃やし方』ほか
ひとをゆたかにする場所 岡崎武志『古本生活読本』


【内容】
《新刊書店で、あるいは古本屋で、作者も作品名も聞いたことがないのに、興味を引かれる本に出合ったとする。その本は確実に私を呼んでいる。手にとってしまう。レジに持っていってしまう。帰りの電車のなかで読み出して、びっくり仰天する。著者もタイトルも知らなかったことが不思議に思えるほど、自分にぴったんこの本なのだ。》
ネットよりもリアル書店を愛する著者が、心に残る本の数々を紹介する見事な読書案内。
宮沢賢治・太宰治から開高健・池澤夏樹に始まり、佐野洋子・山田太一、そして江國香織・井上荒野まで、「思わず読みたくなる」名エッセイ50篇を収録。


【感想】
全体的な感想としては未読の作者や題名も多く、そのあたりはさらっと読み飛ばし気味になった。作品は2000年前半から2010年後半なので、今とは社会情勢や著者のおかれている状況が変わっているのが、当たり前といえば当たり前だがなんとなく気になってしまう。
やはりエッセイは生ものなのかもしれない。
作品数が多いので、特に気になったものだけを書くことにする。作品中の引用部分は「」として書く。

冬の光 宮沢賢治の童話
「うつくしい光景を言葉でつむいで見せるひと。」
『銀河鉄道の夜』などはその最たるもの、頭の中に登場人物の台詞が響き、光景がありありと浮かぶ。これも読書の醍醐味だと思う。

本が私を呼んでいる 図書カード三万円使い放題!
「好きなだけ本を買うことを、私はどれくらい夢見たことだろうか。」
あぁ~わかる!わかるぞ~!子供の頃から、夢は図書室のある家(書庫でも可)に住むことだったから。現実は厳しいが。

「人」という迷宮 山田太一『冬の蜃気楼』
山田太一の映像作品は観たことがあるが、小説は読んだことがない。
「山田太一さんの描く「人」は、必ず迷宮である。」
人は多面体であり、いろんな側面をもっている矛盾の塊なのだ。

開放された彼女の庭 森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
森絵都は『いつかパラソルの下で』、メディアファクトリー『君へ。つたえたい気持ち三十七話』に収録されていた短編『あの夜の魔法』、メディアファクトリー『秘密。私と私のあいだの十二話』に収録されていた短編『彼の彼女の特別な日』は読了していたが、こちらは未読の作品だった。
森絵都は思春期の男の子や女の子を好んで書く印象がある。

どんどんねじくれる場所 井上荒野『もう切るわ』
井上荒野は角川文庫『コイノカオリ』に収録されていた短編『犬と椎茸』は読了していた。なんとなく気になっている作家のひとりではある。
「井上荒野という作家が書く世界に常識はない。もちろんそれは作品が非常識だということではない。この人の書く世界に、常識は通用しないのだ。」
深いな…。

子どもの時間と大人の世界 湯本香樹実『春のオルガン』
湯本香樹実は未読。
「祖父の世界、両親の、子どもたちの世界。そしてそれらは混じり合うことがない。この小説の、揺るがないリアリティは、まずそこにあると私は思う。」
家庭という同じ空間に居住している家族であっても、それぞれの時間で生きている。
このことに気づいたとき、背筋がすっと寒くなったことを覚えている。

大人のための秘密基地 大島真寿美『水の繭』
大島真寿美も未読。
「読みながら、私は幾度も思った。何かを失うということ、それはこんなにも人を傷つけるのだ、と。」
あったはずのもの(人でも物でも)を失くすことの怖さ、辛さに人は慣れない。ごまかし方が上手くなるだけだ。傷に絆創膏を貼って見えなくして、ただ治癒を願うだけ。

居心地のいい場所 藤野千夜『主婦と恋愛』
藤野千夜はメディアファクトリー『ありがと。あのころの宝もの十二話』に収録されている短編『アメリカを連れて』は読了していた。
「自分が自分でしかないことに失望するけれど、自分がいるべき場所ではないところにいかされ、自分の「分」とは違うものを背負わされ、そうとは気づかず必死にそれを受け入れようとすることこそ、不自然で、おそろしい。」
人が悪気なく発するところのポジティブメッセージやプラス思考こそ、実は人を追い込むのだ。「分相応」は決してネガティブなのではないと思う。

想像をはるかに超えた暗い場所 河合香織『帰りたくない──少女沖縄連れ去り事件』
河合香織も未読。
「事件に人間がかかっているかぎり(事件は人間が起こすものではあるが)、その人間にしかわかり得ないブラックボックスというものは存在する。テレビを見ていると、自身の言葉を持たないコメンテーターは、このブラックボックスを説明しようとするとかならず「心の闇」といったような、キーワードと化した安易な言葉を使う。」
かれらも私たちもわかった気になる。なりたいのだ。誰もかれも安心したい、そして忘れたいのだ。
このことに気づいたとき、得体のしれない不気味さを感じた。

ああなんて、楽なのだろう 酒井順子『29歳と30歳のあいだには』
酒井順子も未読。
「先ほどの女たちのバトルにおいて、彼女たちは現在の立場を「みずから明確な理由を持って選びとったのだ」と前置きしている。その主張を元に、異なる立場の人間を非難するのだ。」
「そーんなわけないじゃん、と、このエッセイは言うのである。そうじゃなくて、ただやりたいことをなんとなくやりたいままやってきたら、いつの間にかその場所にいた、それだけでしょう、と。」
共感しかない。なんとなくでいいではないか。揺るぎないこと、ぶれないことが“かっこいい!”なんて一体誰が決めたのだろう。


【余談】
この本の題名『ポケットに物語を入れて』を見て、くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』即、思い出したのは内緒。
久々に全巻読みたくなってしまったな~。購入してしまおうかな~♪

実は学校の国語教育に以前から疑問を抱いていた。小説は段落や章ごとに区切り、先生が主人公の気持ちを解説する。それが正解。読解力をつけるといいつつ、正解ありきなのだ。
テストで丸をもらうため、試験にパスするための正解を、わざわざ塾に行き教えてもらい丸暗記する。それをそのまま書き出す。Google先生に聞くのもあるかな。
こんなことだから国語力が低下するわけだ。まぁ、文章どころか文字も面倒くさがって読まない人が増えたのだから、致し方ないといえば致し方ないかもしれない。


【リンク】
小学館文庫 『ポケットに物語を入れて』角田光代





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宮部みゆき『三鬼 三島屋変調百物語四之続』あらすじと感想

2023-08-07 09:15:25 | 紙の書籍
角川文庫 宮部みゆき『三鬼 三島屋変調百物語四之続』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま
解説 瀧井朝世


【あらすじ】
三島屋の黒白の間で行われている変わり百物語。語り手の年齢や身分は様々で、彼らは正しいことも過ちもすべてを語り捨てていく。
十三歳の少女は亡者の集う家の哀しき顛末を、絶品の弁当屋の店主は夏場に休業する理由を、そして山陰の小藩の元江戸家老は寒村に潜む鬼の秘密を語る。
怪異を聞き積んでいく中でおちかにも新たな出逢いと別れがあり…。


【感想】
「人は語りたがる。己の話を。」
そうだ、人は語りたい。ただ語りたい。人には自分の“物語”、“ストーリー”が必要なのだ。
「そこに難しい決まり事はない。聞いて聞き捨て、語って語り捨て。ただそれだけだ。」
自助グループのルールと同じなのは、人は自分の“物語”を語ることで癒しと心の平安を得ることができるからかもしれない。

第一話 迷いの旅籠
小森村に住む少女おつぎが語る村の祭りの話。立春の前日に行う“行灯祭り”という、冬の間は眠っている田圃の神様“あかり様”をお起こしする祭りにまつわる怪異。
村に滞在していた絵師石杖が、自身の亡くなった妻子を蘇らせたいと願うあまり、しきたりを破り暴走してしまった。空き家になった名主の別宅を大きな行灯に見立てて設え、亡者を出現させてしまった。だが、所詮、亡者は亡者、生者ではないのだ…。
余野村の村長が言った「おまえばかりが辛いわけじゃねえ。どんだけ辛くたって、命がある者は生きていかなきゃな。命があるってことは、天からのお恵みなんだから」この言葉が真理だと思う。
石杖が救いたかったのは死者ではなく、本当は“生者の魂”自分自身だったのだろう。自覚はなかったかもしれないが…。
古今東西、“口寄せ”や“死者の写真(遺影ではなく)”などが必要とされてきたのは、そういうところに起因しているのだと思う。
宮部みゆきお得意の展開でそろりと始まり、次にゆるゆると進んでいき、終盤に向かって怒涛の如く物語が進んでいく。構成が上手いと一気に読めてしまう。

第二話 食客ひだる神
『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』に出てくる“くろすけ”を彷彿とさせる話。食客ひだる神が食べすぎてぷくぷく太っていったり、すねたりして可愛らしくてよい♪
仕出し屋だるま屋の亭主房五郎が語るのは、里帰りの途中の切通しで拾って?しまった、ひだる神“餓鬼”のこと。食いしん坊のひだる神は上客を連れてきてくれる。始めは商売繫盛で上々だったが、太りすぎたひだる神の重みで家は歪み、きしみ、隙間風が吹く始末。これは困ると休業したらしたで、ひだる神はひもじがってぶつぶつめそめそ。
房五郎の父の弔いに里帰りしたとき、例の切通しでひだる神は帰ったらしく姿が見えなくなった。寂しい心持ちになった房五郎と女房のお辰は、江戸の店をたたんで里に帰ることにした。
房五郎と女房のお辰とひだる神の関係性が、日本昔話のようでほっこりとする。

第三話 三鬼
栗山藩の元江戸家老だった村井清左衛門が語るのは、かつて山奉行として勤務した洞ヶ森村での怪異。
とりわけ貧しく過酷な生活を強いられている洞ヶ森の村民たち。そこに出現するのは“鬼”。その実態は病を得たものや老齢なものたちの命を奪う“間引き”だ。貧しすぎて彼らを養っていけるだけの余裕が、経済的にも精神的にも体力的にもないからだ。
“鬼”は黒い籠を深々と被り、長い蓑を纏い、雪靴を履いていて、夏でもこの姿で現れる。だが中身はない“無”だ。
村井が「あれは、栗山藩にあった全ての理不尽、全ての業、全ての悲しみが凝ったものでござった」と語る。この言葉にどれほどの想いが込められているのだろう…。
語り終えた後、村井は腹を召し、介錯は義弟の須加利三郎が務めた。村井の亡骸を清めようとしたとき、縁先に転がり出てきたのは黒い籠だった。
「私とおまえは、同胞だ。」村井の声が聞こえるようだ。深く、哀しく、胸がちりちりとする…。

第四話 おくらさま
女浦島太郎と自分を例える老婆のお梅が語るのは、実家だった芝神明町の香具屋、美仙屋の怪異。美人三姉妹として有名だった美仙屋が不幸に見舞われ、心は14歳のまま時が止まってしまったという。
美仙屋には代々この家を守ってくださる“おくらさま”という神様がおられる。おくらさまは華やかな着物を着て、甘い香りを漂わせる若い娘の姿をしている。
初代がおくらさまと交わした約束は大事や変事がおこったとき、その代の主人がお願いすれば奥座敷からお出ましになり守ってくださる。ただし、次のおくらさまに娘のひとりが選ばれるのだ。
30年前、美仙屋は火事で失われ、外に出されていた三女のお梅だけが生き残った。遠縁で隠居生活を送り、死期を悟ったお梅が最後まで手放さなかった振袖がある。衣桁に掛けてもらった振袖を着て心?魂?が三島屋に飛んでいき、美仙屋の怪異を語ったのだ。「くやしい!」と叫んだ後には、振袖と帯ばかりが残されていた。
おくらさまの正体は昔、美仙屋にもらわれてきた養女。器量のよくないその子は不幸で早死にし、美仙屋に恩を感じつつも、積もり積もった憤りと悲しみはひとつの意志としてこの世に留まった。
「人は語る。語り得る。善いことも悪いことも。楽しいことも辛いことも。正しいことも、過ちも。語って聞き取られた事柄は、一人一人の儚い命を超えて残ってゆく。」
語られた“そのひとの物語”はどこかの高みに昇華していくのだろう。


【余談】
『三島屋変調百物語』シリーズの第4弾。何故か先に第5弾のほうを読んでしまい、話の展開にあれれ?となったのは内緒。
今回、四之続を読んでようやく話しが見えてきた。やっぱり順番て大事ね~。


【リンク】
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