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小池真理子『恋』あらすじと感想

2016-05-13 09:40:11 | 紙の書籍
新潮文庫 小池真理子『恋』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
文庫版あとがきに代えて
解説『恋』に恋して 阿刀田高
小池真理子著作リスト


【あらすじ】
1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。
当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。


【感想】
1972年(昭和47年)2月28日、軽井沢で起こった連合赤軍浅間山荘事件と同じ頃に起きた殺人事件。加害者は22歳の女子大生 矢野布美子、被害者は地元の電気屋のアルバイト青年 大久保勝也と大学の助教授 片瀬信太郎。大久保は片瀬信太郎の妻 雛子の年下の愛人であり、布美子・信太郎・雛子の三人の関係性を壊してしまった張本人だ。
布美子はアルバイトで、片瀬が手がけている翻訳『ローズサロン』の下訳を手伝うことになる。片瀬夫妻の関係はとても常識人には理解できないものだった。妻の雛子は性に奔放で、夫の信太郎がそれを了承どころか勧めてさえいる。
布美子は理解に苦しみながらも、魅力的な片瀬夫妻に惹かれていき、二人をどちらも深く愛してしまうのだ。それが悲劇に繋がるとは知らずに‥。

物語は、3人の男女が織りなす愛と憎しみ、官能とセックス、反モラルな人間関係のみが描かれている。登場人物の誰にも共感はできないのだけど、、それでもなにか引っ掛かるものがある物語。
「愛」と「性」を扱いながら少しも厭らしくなく、不快感がない。実は、、とミステリー仕立てになっているのも新鮮でおもしろかった。

殺人を犯してしまう布美子は、「お馬鹿さんだなぁ、、」と思う。思うのだが、、布美子の立場になって考えてみると、気持ちがわからなくもない気がする。
時代背景は世代が違うので想像の域を出ないが、時代の空気、地方出身の大学生、モラトリアムな年頃、初めて出会うブルジョアな生活。魅力的な片瀬夫妻に惹かれていくのも仕方がないのかもしれない。布美子は、片瀬夫妻の反モラルな夫婦のあり方に巻き込まれてしまった被害者とも言える。ただ、そこから逃げ出さなかったのは布美子自身なのだ。
布美子・信太郎・雛子の関係性が永遠に続く、というファンタジーを信じていたからこそ、壊されたときに殺人にまで発展してしまった。それほど片瀬夫妻を身も世もないほど愛し、欲してしまったから。
「愛」を失うのは辛く苦しい。それが片想いの失恋なら大したことはない。悲劇のヒロインになっていられる。本当に辛いのは「喪失」なのだ。今まであったものがなくなることこそ、とてつもなく辛く、絶望に打ちひしがれるのだ。
ラスト、ノンフィクション作家の鳥飼が片瀬夫妻の自宅にあったマルメロの樹を見つけたくだりで涙が出てしまった。
最後の最後で、布美子には救いがあったのだな、、と。

解説で阿刀田高が「小説はすべてミステリー」と断言し、山口瞳は「小説とは男女のことを書くものです」と断言したそうだ。
そ、そうなのか~初めて知ったよ。
今度からそう思って読んでいくことにしてみようっと。


【余談】
実はあまり恋愛ものは読まない。でも、この作品は一気に読んでしまった。全てがそうではないとは思うが、なんというか苦手なのだ。小説の恋愛もの。薄っぺらかったり、感情移入できなかったり、「恋愛しか頭にないの?」とか「(現実的に)ないわ~」と思ってしまうから。
なのに、読もうと思ったのは数年前にドラマ版を観たから。2013年12月に放送されたTBS月曜ゴールデン枠のドラマ『月曜ゴールデン特別企画 恋』。
ずっと気にはなっていて、最近ようやく購入して読んでみた。新潮文庫公式の謳い文句は、「全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。」とのこと。