積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録

角田光代『ポケットに物語を入れて』内容と感想

2023-09-26 09:53:57 | 紙の書籍
小学館文庫 角田光代『ポケットに物語を入れて』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。




【目次】
あなたのポケットの、あなただけの物語 


冬の光 宮沢賢治の童話
なんて明るい小説なんだろう 太宰治『斜陽』
世界はひとつではない 松谷みよ子『モモちゃんとアカネちゃん』
もうひとつのガイドブック キューバでヘミングウェイを読む
旅と年齢 旅の本
本が私を呼んでいる 図書カード三万円使い放題!

2 
食べることの壮絶 開高健『最後の晩餐』
問い続ける、書きつづける 開高健『戦場の博物誌 開高健短篇集』
開高健のこの三冊 『輝ける闇』『最後の晩餐』『一言半句の戦場』
小説は世界を超えることができるのか 池澤夏樹『光の指で触れよ』
池澤夏樹のこの三冊 『マリコ/マリキータ』『きみのためのバラ』『カデナ』
目的のあるふりなんかしない 田中小実昌『田中小実昌エッセイ・コレクション2 旅』
人はこんなにも奥深い 田辺聖子『蝶花嬉遊図』
「人」という迷宮 山田太一『冬の蜃気楼』
もんのすごくかわいい 佐野洋子『コッコロから』

3 
意地の悪い本? 江國香織 絵・荒井良二『ぼくの小鳥ちゃん』
人と人がつくる「迷路」 江國香織『金米糖の降るところ』/山田太一『読んでいない絵本』
世界は自由で広い 川上弘美『天頂より少し下って』/岩瀬成子『だれにもいえない』
生きていくのに必要なもの よしもとばなな『どんぐり姉妹』
開放された彼女の庭 森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
私たちに寄り添う物語 森絵都『この女』/山田太一『空也上人がいた』
固定概念から解き放たれるとき 三浦しをん『木暮荘物語』/佐野洋子『そうはいかない』
言葉の海を渡る舟 三浦しをん『舟を編む』/夏石鈴子『新解さんの読み方』 
どんどんねじくれる場所 井上荒野『もう切るわ』
それもまた愛だった 井上荒野『ズームーデイズ』
人と関わることの頑丈さともろさ 井上荒野『つやのよる』
愛や理想や希望というもの 桐野夏生『ポリティコン』ほか
子どもの時間と大人の世界 湯本香樹実『春のオルガン』
恋のようなものと、ほんものの恋 佐藤多佳子『黄色い目の魚』
母という存在が持つ孤独 金原ひとみ『マザーズ』/西原理恵子『毎日かあさん8』
大人のための秘密基地 大島真寿美『水の繭』
胸の震えるような音楽が聴こえる 大島真寿美『ピエタ』ほか
居心地のいい場所 藤野千夜『主婦と恋愛』

4 
一九八〇年代の青春 吉田修一『横道世之介』/都築響一『バブルの肖像』
騙される側の爽快な復讐物語 吉田修一『平成猿蟹合戦図』/長友啓典『死なない練習』
「今」と地続きの戦後史 橋本治『リア家の人々』/星野智幸『俺俺』
私に向かって投げられたボール 伊集院静『ぼくのボールが君に届けば』
時代に汚されぬ美しさ 伊集院静『志賀越みち』
「私」になるための決意 沢木耕太郎『あなたがいる場所』
この世界に対するぎりぎりの希望 三羽省吾『厭世フレーバー』
まっとうに生きるとはどういうことなのか ヒキタ クニオ『角』

5 
忌野中毒 忌野清志郎『忌野旅日記』
安心しろ。君はまだ大丈夫だ。 忌野清志郎『瀕死の双六問屋』
私たちの知らない世界 大竹伸朗『カスバの男モロッコ旅日記』
がんばれ、どうってことないから 高野秀行『アジア新聞屋台村』
ああ、食べたい 東海林さだお『ホットドッグの丸かじり』
わけのわからない人間が多すぎる 北尾トロ『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』
想像をはるかに超えた暗い場所 河合香織『帰りたくない──少女沖縄連れ去り事件』
彼女が指さす先 星野博美『のりたまと煙突』
ああなんて、楽なのだろう 酒井順子『29歳と30歳のあいだには』
もうひとつの小説との接し方 酒井順子『金閣寺の燃やし方』ほか
ひとをゆたかにする場所 岡崎武志『古本生活読本』


【内容】
《新刊書店で、あるいは古本屋で、作者も作品名も聞いたことがないのに、興味を引かれる本に出合ったとする。その本は確実に私を呼んでいる。手にとってしまう。レジに持っていってしまう。帰りの電車のなかで読み出して、びっくり仰天する。著者もタイトルも知らなかったことが不思議に思えるほど、自分にぴったんこの本なのだ。》
ネットよりもリアル書店を愛する著者が、心に残る本の数々を紹介する見事な読書案内。
宮沢賢治・太宰治から開高健・池澤夏樹に始まり、佐野洋子・山田太一、そして江國香織・井上荒野まで、「思わず読みたくなる」名エッセイ50篇を収録。


【感想】
全体的な感想としては未読の作者や題名も多く、そのあたりはさらっと読み飛ばし気味になった。作品は2000年前半から2010年後半なので、今とは社会情勢や著者のおかれている状況が変わっているのが、当たり前といえば当たり前だがなんとなく気になってしまう。
やはりエッセイは生ものなのかもしれない。
作品数が多いので、特に気になったものだけを書くことにする。作品中の引用部分は「」として書く。

冬の光 宮沢賢治の童話
「うつくしい光景を言葉でつむいで見せるひと。」
『銀河鉄道の夜』などはその最たるもの、頭の中に登場人物の台詞が響き、光景がありありと浮かぶ。これも読書の醍醐味だと思う。

本が私を呼んでいる 図書カード三万円使い放題!
「好きなだけ本を買うことを、私はどれくらい夢見たことだろうか。」
あぁ~わかる!わかるぞ~!子供の頃から、夢は図書室のある家(書庫でも可)に住むことだったから。現実は厳しいが。

「人」という迷宮 山田太一『冬の蜃気楼』
山田太一の映像作品は観たことがあるが、小説は読んだことがない。
「山田太一さんの描く「人」は、必ず迷宮である。」
人は多面体であり、いろんな側面をもっている矛盾の塊なのだ。

開放された彼女の庭 森絵都『アーモンド入りチョコレートのワルツ』
森絵都は『いつかパラソルの下で』、メディアファクトリー『君へ。つたえたい気持ち三十七話』に収録されていた短編『あの夜の魔法』、メディアファクトリー『秘密。私と私のあいだの十二話』に収録されていた短編『彼の彼女の特別な日』は読了していたが、こちらは未読の作品だった。
森絵都は思春期の男の子や女の子を好んで書く印象がある。

どんどんねじくれる場所 井上荒野『もう切るわ』
井上荒野は角川文庫『コイノカオリ』に収録されていた短編『犬と椎茸』は読了していた。なんとなく気になっている作家のひとりではある。
「井上荒野という作家が書く世界に常識はない。もちろんそれは作品が非常識だということではない。この人の書く世界に、常識は通用しないのだ。」
深いな…。

子どもの時間と大人の世界 湯本香樹実『春のオルガン』
湯本香樹実は未読。
「祖父の世界、両親の、子どもたちの世界。そしてそれらは混じり合うことがない。この小説の、揺るがないリアリティは、まずそこにあると私は思う。」
家庭という同じ空間に居住している家族であっても、それぞれの時間で生きている。
このことに気づいたとき、背筋がすっと寒くなったことを覚えている。

大人のための秘密基地 大島真寿美『水の繭』
大島真寿美も未読。
「読みながら、私は幾度も思った。何かを失うということ、それはこんなにも人を傷つけるのだ、と。」
あったはずのもの(人でも物でも)を失くすことの怖さ、辛さに人は慣れない。ごまかし方が上手くなるだけだ。傷に絆創膏を貼って見えなくして、ただ治癒を願うだけ。

居心地のいい場所 藤野千夜『主婦と恋愛』
藤野千夜はメディアファクトリー『ありがと。あのころの宝もの十二話』に収録されている短編『アメリカを連れて』は読了していた。
「自分が自分でしかないことに失望するけれど、自分がいるべき場所ではないところにいかされ、自分の「分」とは違うものを背負わされ、そうとは気づかず必死にそれを受け入れようとすることこそ、不自然で、おそろしい。」
人が悪気なく発するところのポジティブメッセージやプラス思考こそ、実は人を追い込むのだ。「分相応」は決してネガティブなのではないと思う。

想像をはるかに超えた暗い場所 河合香織『帰りたくない──少女沖縄連れ去り事件』
河合香織も未読。
「事件に人間がかかっているかぎり(事件は人間が起こすものではあるが)、その人間にしかわかり得ないブラックボックスというものは存在する。テレビを見ていると、自身の言葉を持たないコメンテーターは、このブラックボックスを説明しようとするとかならず「心の闇」といったような、キーワードと化した安易な言葉を使う。」
かれらも私たちもわかった気になる。なりたいのだ。誰もかれも安心したい、そして忘れたいのだ。
このことに気づいたとき、得体のしれない不気味さを感じた。

ああなんて、楽なのだろう 酒井順子『29歳と30歳のあいだには』
酒井順子も未読。
「先ほどの女たちのバトルにおいて、彼女たちは現在の立場を「みずから明確な理由を持って選びとったのだ」と前置きしている。その主張を元に、異なる立場の人間を非難するのだ。」
「そーんなわけないじゃん、と、このエッセイは言うのである。そうじゃなくて、ただやりたいことをなんとなくやりたいままやってきたら、いつの間にかその場所にいた、それだけでしょう、と。」
共感しかない。なんとなくでいいではないか。揺るぎないこと、ぶれないことが“かっこいい!”なんて一体誰が決めたのだろう。


【余談】
この本の題名『ポケットに物語を入れて』を見て、くらもちふさこ『いつもポケットにショパン』即、思い出したのは内緒。
久々に全巻読みたくなってしまったな~。購入してしまおうかな~♪

実は学校の国語教育に以前から疑問を抱いていた。小説は段落や章ごとに区切り、先生が主人公の気持ちを解説する。それが正解。読解力をつけるといいつつ、正解ありきなのだ。
テストで丸をもらうため、試験にパスするための正解を、わざわざ塾に行き教えてもらい丸暗記する。それをそのまま書き出す。Google先生に聞くのもあるかな。
こんなことだから国語力が低下するわけだ。まぁ、文章どころか文字も面倒くさがって読まない人が増えたのだから、致し方ないといえば致し方ないかもしれない。


【リンク】
小学館文庫 『ポケットに物語を入れて』角田光代