積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録

広瀬正『鏡の国のアリス』あらすじと感想

2012-11-27 11:18:30 | 紙の書籍
集英社文庫 広瀬正『鏡の国のアリス』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
鏡の国のアリス
フォボスとディモス
遊覧バスは何を見た
おねえさんはあそこに
解説 井上ひさし

【あらすじ】
「鏡の国のアリス」は多次元世界が存在するという設定。なんの変哲もない木崎青年が、ひょんなことから別の世界へ一人だけ入り込んでしまい、そこでのとまどいや出会いを通じ、やがてその世界で生きていくことを決意する。


【感想】
この作品が書かれたのが1970年代前半ということもあり、作品全体に流れている空気感や文化はレトロなのは仕方がないが、展開が遅く読んでいてテンポが悪い。特に、朝比奈が木崎にこの現象について滔々と説明するくだりは長く、くどい感じが否めない。ページを飛ばそうかと思ったほど。
全体としては力作だとは思うが、SF作品ということもあり、現代では時代遅れになってしまっているのは残念な気がする。

むしろ、唯一、SF作品ではない、「遊覧バスは何を見た」が印象に残った。戦中、戦後の目まぐるしく変化していく東京を舞台に、そこで出会った菓子屋の一家と、東北から遊覧バスに乗るためにやってきた一家との交流を描いている。
この作品に流れる穏やかで優しい空気と人々の温かさ、とても懐かしい匂いがする。祖父母や親世代の時代、もうどこにもこんなふれあいは残っていないと思う。まるで、子供の頃に観た、向田邦子のホームドラマの世界のようだった。


【余談】
実はこの本、間違って購入したことに後で気づいた。題名の『鏡の国のアリス』だけで、てっきりルイス・キャロルのほうと勘違いしてしまったようだ。そうとう、ぼ~っとしていたんだなぁ。。
購入してしまったものは仕方がないのでそのまま積ん読に。ようやく、最近になって触手が伸びて読む気になったというわけ。
肝心のルイス・キャロルのほうは、一度は読んでいるのでとりあえず、購入はよいかな。


東雅夫『文豪てのひら怪談』内容と感想

2012-11-15 11:45:41 | 紙の書籍
ポプラ文庫 東雅夫『文豪てのひら怪談』を読了しました。

内容と感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
蒐集者の庭 抄(久保竣公)
悪の手。(車谷長吉)
蝶(秦恒平)
奥州のザシキワラシの話 抄(佐々木喜善)
おいでおいでの手と人形の話 抄(夢枕獏)
白い腕(阿刀田高)
昔の思い出(加門七海)
遠野物語 抄(柳田國男)
井上円了氏と霊魂不滅説 抄(伊藤晴雨)
空襲のあと 抄(色川武大)ほか


【内容】
好評の「てのひら怪談」シリーズから飛び出した、800文字の新たな文学宇宙!和漢の古典文学から、夏目漱石、泉鏡花らの文豪たち、さらには村上春樹、京極夏彦ら平成の人気作家にいたるまで―総勢100名にのぼる小説家、詩人、エッセイストの手になる妖しく不思議で奇妙な物語のカケラを蒐めた、極小にして極上のアンソロジー。


【感想】
日本の古典から現代、中国の古典まで幅広い物語が収録されていて、800字以内の小品ばかりなのでとても読みやすかった。どちらかというと、怖い話より奇妙な話のほうが個人的には好き。理屈ではわりきれない話、後味が悪くない余韻が残るものに惹かれる。
「箒川」粕谷栄市、「土左衛門」北村想、「椰子・椰子(冬)」川上弘美、「死者の書」折口信夫、「仙境異聞」平田篤胤などが印象に残っている


【余談】
オンライン書店bk.1(現在はhonto)が行なっていた「bk.1怪談大賞」が母体になっているアンソロジー。
「椰子・椰子(冬)」川上弘美、「死者の書」折口信夫の二作品は文庫を持っていて既読。

実はこの文庫、家族からの借りもの。随分前に借りたまま積ん読に。苦笑。ようやく読了したので、速攻、返却するつもり。

中公文庫『北風に起つ 継体戦争と蘇我稲目』あらすじと感想

2012-11-05 10:19:30 | 紙の書籍
中公文庫 黒岩重吾『北風に起つ 継体戦争と蘇我稲目』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
胎動
角の王者
百済の将軍
木津川の宮
落日の名族
谷は燃ゆ
策謀
強き南風
鮎の群れ
撤退
西の王者
西風の脅威
政争と罠
栄光の影
終章
あとがき
解説 磯貝勝太郎


【あらすじ】
空白の大王位に即くのは誰か?北方勢力を背景として大和への進出をねらう=継体と、新時代に優勢な地位を占めようと画策する蘇我稲目。
6世紀初頭の倭国を舞台に、大王位をめぐり知略をつくして繰り広げられる男の戦いを壮大なスケールで描く、黒岩重吾の古代史長篇小説。


【感想】
後に継体天皇となった、男大迹王(をほどのきみ)と彼を大王に推すものたちと、それを阻止しようとするものたちの策略と攻防が描かれている。全620Pの長編。
五世紀の応神・仁徳王朝の跡を受け継いだ六世紀前半の、男大迹王=継体天皇は謎が多いといわれており、肝心の出自がはっきりとしていない。これは、天皇家の万世一系に合わないことになってしまうので、そのあたりは触れずに。
ともかく、この時代の大和の名門豪族たちの血統意識がよくわかる話ではありる。大和以外、応神・仁徳王朝に連ならないものは決して大王とは認めないなど。
しかし時代は動いていくものであり、動き始めた流れは止まることはなく、その流れを読めず旧態然の意識のままで時代から取り残されていくもの、流れを読んで波に乗っていくものとが分かれ、次第にその差が開いていく。このあたりは現代も遥か古代も変わらないのだなぁ。。と、妙に感慨深いものがあった。
ほかに然るべき大王の候補者がいなかったというのもあり、結局、男大迹王が大王として起ち大和入りする。

この作品に限らず、黒岩重吾の古代史シリーズには時代背景からいっても当たり前だが、ごく一部を除いて女性が男性側の都合で道具として扱われていることが多く、女性としては正直なところあまり愉快ではない。
特に、政略結婚はごく普通のことだとしても、そのお相手に不満があるのはなにも男性側に限ったわけでなく、女性側も同様なわけで。感情は男女共持ちあわせているのだから。にも関わらず、お相手の女性が不満気であることに腹を立て、自分のことは棚に上げて相手の態度を「可愛げがない」と憤るのは、随分と器量の小さい自分勝手な了見だと思う。


【余談】
この作品でとりあえず今現在、手元にある黒岩重吾の古代史シリーズの本は完全に読了♪
改めて数えてみたら16冊。氏の同シリーズの著作はまだあるはずだが、しばらくはよいかなぁ~。購入したままの本もまだ積読になっているので、そちらを読んでからまた考えることにしよう。