積ん読の部屋♪

本棚に積ん読な本を読了したらばの備忘録

宮部みゆき『かまいたち』あらすじと感想

2020-05-29 09:53:46 | 紙の書籍
新潮文庫 宮部みゆき『かまいたち』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
かまいたち
師走の客
迷い鳩
騒ぐ刀
あとがき
解説 笹川吉晴


【あらすじ】
宮部みゆきの原点を示す時代小説中短編集。

*かまいたち
夜な夜な出没して江戸市中を騒がす正体不明の辻斬り“かまいたち”。人は斬っても懐中は狙わないだけに人々の恐怖はいよいよ募っていた。そんなある晩、町医者の娘おようは辻斬りの現場を目撃してしまう…。

*師走の夜
千住上宿にある梅屋という旅籠は、夫婦二人と九つになる息子の三人で切り回している。そこに毎年師走の一日やってきて、五日の間泊まっていく客がある。夫婦は客から持ち掛けられた儲け話に乗ってしまい…。

*迷い鳩
日本橋通町の姉妹屋は、兄嫁およしとお初で切り盛りしている一膳飯屋である。お初は初めての月のものを見た頃から、不思議な力がついてしまった。他の人には見えないものが見えたり、声が聞こえたりするのだ。
岡っ引きを務める兄の六蔵が抱える柏屋の一件にも、不思議な力のため関わることとなり…。

*騒ぐ刀
南町奉行所定町廻り同心内藤新之助は入り婿で、生来の小心者で袖の下など受け取れず、義母の治療費もかさんでとうとう自分の脇差を質に入れてしまった。この脇差が発端となって恐ろしい人殺しが次々と起こっていく。
お初は自分の不思議な力を使い、兄たちと共に解決に尽力する。


【感想】
あとがきにもあった宮部みゆきの初期の中短編集。*迷い鳩と*騒ぐ刀は同一キャラクターによる連作の形式をとっており、読む順番が逆になったが、講談社文庫『震える岩 霊験お初捕物控』の始まりということになる。出版社が違うので少々ややこしい。

*かまいたち
町医者玄庵の娘おようが巻き込まれた辻斬りのお話。サスペンス仕立てのややこしいようで、ラストまで読めばきっちりと納得できるわかりやすい作品。
おようは辻斬りが向かいに越してきた飾り職人の新吉だと思い込み、心労がひどくてかわいそうだった。だけど、一番気の毒だと思ったのは「かまいたち」に勘違いされた新吉だ。思い詰めたおように匕首で腕を切られてしまったのだから。新吉は南町奉行大岡忠相の命を受けて動いていただけなのに。
最後は「ちゃん♪ちゃん♪」という音が聞こえてきそうな終わり方。2サスのドラマのようだった。

*師走の客
千住上宿にある旅籠梅屋に毎年師走にやってきて、五日逗留する常二郎という客がいる。伊達様の御城下で鏡屋という小間物屋を営んでいて、宿賃を金製の干支の細工物で支払っていく。十二支集めれば相当の価値があるという。
主の竹蔵と女房は常二郎を信じ、毎年の師走を楽しみにさえしていた。だが、常二郎はいわゆる詐欺師で、こうやって信じこませておいて金を用立てさせ、さっさと逐電してしまうのだ。もちろん、手元に残った細工物はなんの価値もない代物である。
正直者は馬鹿をみる…とはならず、めでたしめでたしとなった江戸の小噺のようなお話。読後感がとても小気味いい作品。

*迷い鳩
知人、友人から聞き集めた奇談、珍談を一書にした『耳袋』の著者、佐渡の奉行職にあった根岸鎮衛が南町奉行根岸肥前守鎮衛として出てくる。
一膳飯屋の姉妹屋のお初は初めて月のものをみた頃から、不思議な力が備わっていった。ほかの者には見えないものが見えたり、聞こえたりするのだ。月のものや兄嫁に育てられた気兼ねもあり、ストレスが重なって超能力が開眼したらしい。
通町の柏屋で女中が逃げ出すことが続いた。お初の長兄、六蔵が岡っ引きとして関わるうちに、お初も次兄、直次と共に探索をすることとなる。
事態は思ったよりも大事で殺人まで行わていた。犯人は手代の誠太郎とお内儀のお清だった。
お清の告白には女心の複雑さが表れていて、お清の寂しさはわかる気がした。だからといって、夫殺しをしていいことにはならないが。

*騒ぐ刀
表題よりもメインな感じがした作品。なかなか真相に辿り着かなくて、むずむずしながら読んだ。
南町奉行定町廻り同心内藤新之助が、脇差を質に入れたことから起こる数々の殺人事件。どれも目を覆いたくなるような凄惨な殺されかたをしていて、とても人の仕業とは思えない。
刀鍛冶の国広と国信の因縁が発端であり、国広の怨念が宿った鍔のない刀が「虎」となり、殺戮を繰り返していたのだ。それを封じることのできるのは「守り刀」として国信が鍛えた刀だけだった。
最後、「虎」の刀に鍔が戻り、犬の小太郎は消え失せた。みるみるうちに刀は錆びていき、赤い鉄粉となって春の風に散っていった。国広の怨念と共に。
人の怨念の凄まじさを見せつけられた、重めの作品。


【余談】
奇談、珍談というのはおもしろいので大好き♪
理屈がつかない、おちもない、なんだかよくわからない、そんな話が多いのは日本ならではなのかな~?
そういう意味では、小泉八雲もかなり好き♡


『耳袋』の著者でもある佐渡の奉行職にあった根岸鎮衛が、南町奉行根岸肥前守鎮衛として出てくるのは「迷い鳩」という話。
角川ソフィア文庫の『耳袋の怪』は読了した蔵書にあった。表紙はこちら♪
角川ソフィア文庫『耳袋の怪』根岸鎮衛=著、志村有弘=訳








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宮部みゆき『あやし』あらすじと感想

2020-05-25 10:57:52 | 紙の書籍
角川文庫 宮部みゆき『あやし』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
居眠り心中
影牢
布団部屋
梅の雨降る
安達家の鬼
女の首
時雨鬼
灰神楽
蜆塚
解説 東雅夫


【あらすじ】
恐い江戸の不思議噺を集めた、著者渾身の奇談小説集。

*居眠り心中
14歳の銀次が奉公にあがった木綿問屋「大黒屋」での話。

*影牢
深川六間堀町の蝋問屋「岡田屋」市兵衛、お夏夫婦の母親監禁虐待の話。

*布団部屋
深川永代寺門前東町の酒屋「兼子屋」は代々の主が短命で知られている。その訳は布団部屋にいる禍々しいものが関係していた。

*梅の雨降る
箕吉の姉、おえんは長患いの末に亡くなった。自分が神社に願掛けしたことが発端で、お千代が奉公先で疱瘡に罹り亡くなったことが原因だった。

*安達家の鬼
お義母さまのお世話をするために安達家の嫁となった私。座敷には決して自分だけには見えない鬼が姑と一緒に居た。

*女の首
太郎は手先が器用だが口がきけない子だった。母親が亡くなり、袋物の「葵屋」に奉公することになったのだが、なんだか店の様子がおかしい…。

*時雨鬼
お信は奉公先を変わるため口入れ所「桂庵」に出かけた。そこで応対に出たのは女房だという、おつたという美しい年増女で、実はこの女こそが恐ろしい事件の関係者だったのだ。

*灰神楽
本所元町の岡っ引き、政五郎のところへ桐生町の「平良屋」から奉公人が刃傷沙汰を起こしたと知らせがきた。主人の弟、善吉におこまが斬りつけたのだ。おこまはなにかよくないものに憑かれてしまったらしい。

*蜆塚
米介は御蔵蜆という高い蜆を目笊一杯買い、亡き父親の碁仲間、松兵衛を見舞った。そこで松兵衛から「影」のない、年もとらない、死なない人間がいるという薄気味の悪い話を聞かされた。


【感想】
宮部みゆきの造形する人間のおぞましさに、本当に読んでいてぞっ…とする。人の業や腐った魂をむき出しにして見せつけられるから。

*居眠り心中
奉公人の銀次が居眠りで見た夢は、若旦那とおはるの心中事件。おはるのずーんと暗い井戸の底を覗くような心持ちが怖い。
怖いのは化け物や幽霊などではなく、人の心が一番怖い。

*影牢
後味の悪い、胸が悪くなるような話。

*布団部屋
おゆうが見た「あれ」は臭い息をして、足を引きづるように後ろについてきた。おゆうは「あれ」に飢えと孤独を感じた。
兼子屋は火事で焼け落ち、北東の角に埋まっていた人骨は鬼のように角が生えているように見えたという。ただの古い骨だったからかもしれないし、本当に殺されて埋められたことで鬼になってしまったのかもしれない。
怖いけど、少し哀しい…。

*梅の雨降る
おえんが神社にした願掛けは、自分の代わりにお千代が深川八幡様の近くの料理屋に奉公にあがることになったから。理由はお千代が「器量よし」でおえんが「ちんがくしゃみをしたような」娘だったから。
おえんはお千代に嫉妬し、恨み、「お千代に不幸が起こりますように」と願掛けをしたのだ。それが思いもかけず現実となり、そのことが原因でおえんは心身共におかしくなってしまう。罪悪感に苛まれてしまったんだろう。
長患いの後、弟の箕吉が姉の顔を覆う手ぬぐいを取ったとき、その下には青黒く崩れた顔があった…はず。だが、その後、改めて見た姉の顔はきれいな顔だった。
これはお千代の仕業? それとも、おえんの罪悪感からきたもの?
梅の香りと共に去っていった若い娘は、お千代?それとも、おえん?
不思議な余韻が残る作品。

*安達家の鬼
安達家のお義母さまの座敷にいるもの。「鬼」。痩せこけて、ぼさぼさ髪の若い男。いつも無言。
「鬼」とは、上州桑野の安達家の穢れを具現化したもの。安達家とは構えは立派だが空き家で、病人や老人、行き場のないものを留め置く場所。ある意味、町から穢れを守るための結界のようなもの。
映画『楢山節考』に出てくる、姥捨て山のようなものと思えばいいのかもしれない。
「鬼」は見るものの性根が映って見える。だから、性根が腐っていたり、ねじ曲がっていたら、それがそのまま見えるのだから見たものは驚くわけだ。
「人として生きてみて、初めて“鬼”が見えるようになるのだよ。」という、お義母さまの言葉が深いな…。

*女の首
太郎が口をきけないわけは声が出ないのはなく、出さないように心の奥底にじっと隠れていたものが、声を出すのを押し留めているから。それはかつて葵屋に奉公していたお吉という女が、若旦那と一緒になれると手前勝手に思い込んだ末、若夫婦の初子をさらってしまった。このときの赤ん坊が太郎なのだ。
太郎がおっかさんと信じて暮らしていたのは、大水で夫と小さな男の子をなくして傷心していた女。ある夜、水路を流れてきた赤ん坊を拾い上げ、亡くしたわが子の生まれ変わりと信じ育てたのだった。
怖いけど、ほっとする後味のよい人情話。

*時雨鬼
桂庵の女房のように何食わぬ顔をして、お信と応対していたおつたは盗賊の一味で、そのときにはもう主の宮蔵は首を刺されて死んでいたのだ。おつたから臭ったのは血の臭いだった。
おつたがお信に話してきかせた自分の昔話に出てくる鬼は、おつた自身だった。梅林に立つ、人の皮を被った鬼。
お信は重太郎という男が好きで、その男に「もっといい稼ぎのところへ奉公先を移ろう」などと言葉巧みに言い含められている。はたから見ればなんて馬鹿な娘なんだと思うが、重太郎を「好き」なお信は薄々疑いつつも信じている。
あ~なんて馬鹿な世間知らずな小娘か。身寄りのない貧乏な小娘なんて、この手の男の格好の餌食だ。
苦々しい思いが残る作品。

*灰神楽
平良屋で起こった刃傷沙汰は、女中部屋に入れた火鉢が原因だった。おかみさんの優しさで、女中部屋に火鉢を置くことを許したのが発端とは切ない。
古道具屋で購入した火鉢に憑いていた悪しきものが、おこまに取り憑いて刃傷沙汰を起こした。それは痩せた女で、灰のような粉っぽい匂いを残して縁側を早足で通り抜けた。
物に憑くというのも、リサイクルショップとかを考えると怖い…。

*蜆塚
年もとらない、病気にも罹らない、死なない人間が世の中にはいるというお話。高橋留美子の『人魚の森』を思い出した。あの作品も同じような人間が出てくる。
ごくごく普通の人で悪意があるわけでもなく、ただ年をとらず死なないだけの存在。それはそれで不幸ではないだろうか…。
終わりがあるから今を生きていけるのだと思う。


【余談】
積ん読に宮部みゆきの本がもう一冊あるので、これを読んでから新しい本を購入しようかな~と。また、宮部みゆきの江戸時代物にしようかな?
時代物はいいよね、現実逃避にうってつけ♪ 現実逃避こそ読書の醍醐味だと思う。


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読了したけど感想をアップし損ねた作品

2020-05-14 14:49:35 | 紙の書籍
2018年末から2020年頭にかけて読了した作品があるのですが、もたもたしているうちに感想をアップし損ねてしまいました~。今更、感想をアップ…といってもそのときの感想も薄れているし。
なので、作品の表紙だけアップしておきます。備忘録ということで。


講談社現代新書 松前健『出雲神話』



講談社学術文庫 窪徳忠『道教の神々』



角川文庫 宮部みゆき『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』



角川文庫 宮部みゆき『泣き童子 三島屋変調百物語参之続』



朝日文庫 梨木香歩『f植物園の巣穴』



朝日文庫 角田光代『今、何してる?』



講談社 川上弘美『神様2011』



光文社文庫 三浦しをん『舟を編む』



新潮文庫 安部公房『砂の女』



講談社文庫 宮部みゆき『日暮らし(上)』 



講談社文庫 宮部みゆき『日暮らし(下)』 



新潮文庫 宮部みゆき『堪忍箱』



新潮文庫 宮部みゆき『幻色江戸ごよみ』



講談社文庫 宮部みゆき『震える岩 霊験お初捕物控』



新潮文庫 宮部みゆき『小暮写眞館Ⅰ』



新潮文庫 宮部みゆき『小暮写眞館Ⅱ 世界の縁側』



新潮文庫 宮部みゆき『小暮写眞館Ⅲ カモメの名前』



新潮文庫 宮部みゆき『小暮写眞館Ⅳ 鉄路の春』



文春文庫 松本清張『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション 中』



ちくま文庫 太宰治『太宰治集 哀蚊 文豪怪談傑作選』




全部で20冊でした♪ 多いのか少ないのかは判断の分かれるところ。
こうやって改めて見ると、宮部みゆき作品が多いですね~。意識して購入してたんだとは思うけど。

まだ、数冊、本棚に積ん読になったままの本があるので、それを読了してから新しい本を購入しようと思います。ついつい、積ん読はそのままに新しいのを購入したくなるので。















































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恩田陸『六番目の小夜子』あらすじと感想

2020-05-12 15:01:20 | 紙の書籍
新潮文庫 恩田陸『六番目の小夜子』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
プロローグ
春の章
夏の章
秋の章
冬の章
再び、春
あとがき
解説 岡田幸四郎


【あらすじ】
津村沙世子はとある地方の高校に転校してきた。彼女は美しく謎めいた転校生。
その高校には十数年間にわたり、奇妙なゲームが受け継がれていた。三年に一度、サヨコと呼ばれる生徒が見えざる手によって選ばれるのだ。そして今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年だった。
「サヨコ」とは一体何者なのか…?


【感想】
恩田陸の伝説のデビュー作ということで、これは読んでおかなければね~と。

ざっくりとした感想はファンタジーホラー風味の青春群像という感じ。奇妙なゲームとサヨコの存在は当事者の高校生にとっては、一大事であり恐怖。だが、高校の囲いの外にいる者から俯瞰で観ると、たわいもないゲームにすぎない。
「怖い」と思えば「怖い」し、「そうでもない」とも思えば「そうでもない」。集団心理も加わると余計に怖くなるものだし。「闇」だと思えば「闇」だが、ただ少しだけ暗いだけということかもしれない。勝手にみんなで深淵を覗き込んで恐怖を感じて、代々この奇妙な伝統を律儀に守り続けているような気がした。
結局、サヨコは本当に存在したのかどうかもよくわからない。学校に十年間もいる教師の黒川がワープロでサヨコを装って手紙や台本を書いていたのか?も判然としない。最後まで、ぼんやり…とした感じで完全な謎解きはされないままだ。
これはこれで、もやっとしつつもいいと思った。謎は謎のままのほうがわくわくするし。解明されたら、なんだそんなことか~ということにもなりかねない。


【余談】
高校の描写が自分の高校を思い出した。同じ匂いがするのだ。地方の進学校というのは、どこも似たような雰囲気なのかもしれない。



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