PHP文芸文庫 畠中恵・宮部みゆき 他『まんぷく〈料理〉時代小説傑作選』細谷正充編を読了しました。
あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。
【目次】
餡子は甘いか 畠中恵
鮎売り 坂井希久子
料理茶屋の女 青木祐子
桜餅は芝居小屋で 中島久枝
清正の人参 梶よう子
お勢殺し 宮部みゆき
解説 細谷正充
【あらすじ】
餡子は甘いか 畠中恵
菓子司三春屋の息子 栄吉は父親の虎三郎に、老舗菓子屋安野屋に修行に出される。菓子屋の跡取りにもかかわらず、栄吉は餡子を作るのが苦手だった。
鮎売り 坂井希久子
“ぜんや”という居酒屋の女将 お妙は魚を仕入れに魚河岸へ行ったさいに、12、3歳の小柄な女が鮎を買ってくれと懇願するのに出くわす。可哀想に思ったお妙はその傷ものの鮎を全部買うことにした。
料理茶屋の女 青木祐子
とある料理茶屋に上がった医者兼薬屋の守屋は、ここで出す煮豆が目当てだった。30半ばのお蘭という女中が作っているらしいが…。
桜餅は芝居小屋で 中島久枝
日本橋の二十一屋は豆大福が人気の菓子屋。16歳の小萩はここの奉公人、お菓子が好きで母親の遠い親戚のこの店で働いている。
清正の人参 梶よう子
御薬園同心の水上草介は、見習い同心の吉沢角蔵から手渡された書物に驚く。それは草木を書き記したもので、草介は何も知らない知ろうとしなかったことに愕然とする。
お勢殺し 宮部みゆき
深川富岡橋のたもとに奇妙な屋台が出ている。美味いものを出すが、客足の途絶える夜遅くまでやっているのだ。岡っ引きの茂七はこの店の親父が気になっている。
【感想】
女性作家の描く時代小説傑作選の第二弾。全体的に江戸人情もの。
餡子は甘いか 畠中恵
栄吉は下手で不器用だが菓子を作ることをあきらめられない、好きだからだ。その心情が胸を打つ。「“続けること”ができるのも立派な“才”」という虎三郎の言葉が素敵だ。
鮎売り 坂井希久子
「田舎では、嫁は子を産む働き手だ。毎日くたくたになるまで追い回される。家に在りては父に従い、嫁して夫に従い、夫死しては子に従う。そう説かれる女の生きざまとは、なんであろうか。」という文章に涙が出そうだ。
今は違う?いや、根本的なところは変わっていない気がする。“イクメン”などという言葉に酔ってドヤ顔している男性のなんと多いことか。社会のシステムも女性に優しくないし。
料理茶屋の女 青木祐子
煮豆売りの亭主が刺され、女房のおときが行方知れずになっていた。このおときがお蘭。
亭主の善三(皮肉な名前だ)はどうしようもない男。善三に襲われそうになっていた手伝いの美鈴がもみ合ううちに刺してしまったのだ。美鈴はショックでそのときの記憶をなくしていた。実は美鈴はおときの娘だったのだ。
おとき:お蘭の人生と心情になんともいえない気持ちになる。
桜餅は芝居小屋で 中島久枝
菓子職人の伊佐が話す身の上話が辛く悲しい。「俺が大事に思っている人は、みんなどっかに行っちまうんだな」「だから、もう誰ともあまり親しくなりたくねえんだ」寂しい言葉はそれだけ心の傷が深いのだろう。
伊佐が心を癒し、心を開くことができる日がくるのだろうか…。
最後、小萩がつぶやく「私はどこに向かっているのだろう」と。人はこうやって、自問自答しながら生きていくものなのかもしれない。
清正の人参 梶よう子
NHKの朝ドラ『らんまん』を彷彿とさせるような作品。“清正人参”は“オランダミツバ”とも。
西洋かぶれの阿蘭陀通詞の野口伊作、御薬園同心の水上草介、小石川養生所医師の河島仙寿のやりとりがおかしくもほろっとする。さわやかなラスト。
お勢殺し 宮部みゆき
全裸の女の土座衛門が上がったことから、“回向院の旦那”と呼ばれる岡っ引きの茂七が謎解きをする。女はお勢という醬油の担ぎ売り。
お勢には年下の問屋野崎屋の手代 音二郎という男がいた。この男が遊びだったお勢につきまとわれ、困った末に殺して全裸にして大川に投げ込んだのだ。
母親に早く死なれ、父親にも死なれて寂しいお勢。がたいがよく、色黒で不器量な年増女の心の隙間に入り込んできた音二郎さえいなければ、お勢は元気にまだ生きていたはず。
女ゆえの悲しみを背負って、分不相応の夢を見てしまったお勢に涙が出る。哀れで悲しい…。
【余談】
宮部みゆき『お勢殺し』は新潮文庫『初ものがたり』に収録されていて読了していた。アンソロジーあるある。
どうも、この続きは書かれていないようなので気になるな~。屋台の親父の素性が知りたいのは私だけではないと思う。