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永井荷風『濹東綺譚』あらすじと感想

2008-12-04 11:01:35 | 紙の書籍
岩波文庫 永井荷風『濹東綺譚』を読了しました。

あらすじと感想をざっくりと備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。





【目次】
濹東綺譚
解説 竹盛天雄


【あらすじ】
主人公の「わたくし」はふとしたことから、寺島玉の井の娼婦お雪と知り合い、足しげく通うようになる。やがてお雪は将来のことをほのめかすようになり、それを機に「わたくし」は玉の井へ行かなくなり、馴染んだお雪に何も言わないまま、それっきりに会うこともなくなる。


【感想】
昭和11年に書かれた作品。木村荘八の挿画も風情がある。
作者は、麻布市兵衛町(あざぶいちべえちょう)の偏奇館(へんきかん)と名付けた木造の洋館に住み、読書や執筆、雑踏を徘徊したりという極めて自由な日々を送っていて、そんな日常から生まれた作品。
この主人公の生き方には女性として共感はできないのだが、この作品に流れている自分は知らない時代の空気感に、訳もなく惹かれてしまう。
「作後贅言」と書かれた余録のような文章の中に、こんなくだりがあり、はっとさせられた。本文を抜粋して引用。

「何事をなすにも訓練が必要である。彼らはわれわれの如く徒歩して通学した者とはちがって、小学校へ通う時から雑踏する電車に飛乗り、雑踏する百貨店や活動小屋の階段を上下して先を争うことに能く馴らされている。自分の名を売るためには、自ら進んで全級の生徒を代表し、時の大臣や顕官に手紙を送る事を少しも恐れていない。自分から子供は無邪気だから何をしてもよい、何をしても咎められる理由はないものと解釈している。こういう子供が成長すれば人より先に学位を得んとし、人より先に職を求めんとし、人より先に富をつくろうとする。この努力が彼らの一生で、その外には何物もない。」

まるで現代のことを言っているようだ。今も昔も同じようなことを感じていたのだなぁ…。


【余談】
この作品を原作として映画化された『濹東綺譚』を観たことがある。CSの日本映画チャンネルで深夜枠だったと思う。専門チャンネルは絶対に地上波では放送しないようなコアでニッチな作品も放送してくれるので好き♪
「わたくし」は津川雅彦、「お雪」は墨田ユキ。津川雅彦の育ちのよい飄々とした世捨て人も、墨田ユキの透明感と美しさはとてもよかった。