りゅういちの心象風景現像所

これでもきままな日記のつもり

「美しき姫君」

2010-08-18 05:12:51 |   本  
「レオナルド・ダ・ヴィンチの手記」の抄訳が岩波文庫から出ていて、たまに開くのですが、いつも本人のため息ともとれる発言(序)のところだけは欠かさず目を通してしまいます。
ダ・ヴィンチ曰く、

   私よりさきに生をうけた人々があらゆる有益で必須な主題を
   自分のものとしてとってしまったから、私は非常に有益な、または
   面白い題材を選ぶことができないのを知っている。
   それで私は、ちょうど貧乏のために一番あとから市場に到着したが、
   他に品物をととのえることもできないので、すでに他人の素見(ひやか)し
   済みだが余り値打ちがないために取上げられずに断られた品物すべてを
   買いとる男のようにふるまうであろう。

ダ・ヴィンチにこんな風に言われてしまったら。。。500年後に生きている僕らは
言うべき言葉も残されていないのでは?
最初にこれを読んだ若いときには、そんな風に思って憤慨したものです。
が、同時に微笑ましく思うところもあって。そりゃぁ、話のレベルは「雲の上」ってことぐらいこちらも承知していますが、どうにも人間臭いため息がダ・ヴィンチの口からこぼれてきたとなれば、「この天才にもかわいいところが♡」なんて、ね。思っちゃうわけです。1519年に世を去ったダ・ヴィンチですが、その死後にミケランジェロやラファエロが活躍しているし。※
卑屈とまでは言わないにしても、かの天才をしてこの自嘲気味な書き込みはいかがした?憶測を始めるとキリがない。

どれだけ才能に恵まれている人でも「さらにその先」っていうことが見えていると、いつまでも実現できないでいる状況や周囲の無理解に苛まれることも多かったのかもしれません。その苦しみの中身は僕などには窺い知ることはできないけれど。。。おそらく同じような苦しみを抱えているであろう芸術家なら何人か知っています。尊敬すべき仕事をすでに成し得ているのに、いまだそれに見合った評価を勝ち得ていない天才が。。。ちょっとおいそれとは書けないのですけど。直接許可をもらうことができたなら、いずれここにも書くことができるようになるかもしれません。

さて、ダ・ヴィンチ。500年後の今、当人が作品の扱われている状況について知ることがあったなら、どんな顔をするのでしょう?また、ダ・ヴィンチが「有益で必須な主題」をことごとく出し尽くしてしまったあとでも、描かれるべき絵画があったことをどういう風に弁明するのでしょうか?弁明という言葉にさえ気色ばんだりするのかな?
まぁ、会うことのかなわない天才には、ほんの少しイヤミな質問も罪にはならないんじゃないか、と。


ダ・ヴィンチ・コードにさえ乗り遅れた僕でしたが、よくよく考えてみればあれはダ・ヴィンチのこととはあんまり関係ない物語だったわけで。「まだ読んでないの?」の問いには「オレは読まん!」と意地になっていました。お望み通りというか、幸せなことに、なんで意地になっていたのか?その理由さえ忘れしまったころに一冊の美しい本に出会えました。「美しき姫君」
表紙の横顔に惹かれて手が伸びてしまった一冊です。
鑑定のことにはまるっきり無知な僕ですが、読み終わったあとには書き手の興奮が伝染してしまったくらいで。。。面白い。それで、読みながら「こんな風に分析されることを描いた本人はどう思うか?」って疑問がわいてきたわけです。
件の「美しき姫君」がダ・ヴィンチの真筆であるかどうかの最終的結論は、アカデミックな慎重さからまだ得られていないようですが、書き手の確信が強固なだけに、いち読者としても「そうであって欲しい」と思わずにはいられません。ただ、それ以前に、500年前に描かれた少女の横顔の方が気になります。
すでに芸術そのものを示すイコンとして定着してしまったモナリザよりも、少女の横顔の方が新鮮に美しく見えるから。仮に、真筆でない!と断ぜられることがあったとしても、記憶に残り続ける一枚になりそう。

8/15に閉幕したAnd There Was Lightでこの「美しき姫君」も展示されていたそうだけど、スウェーデンではどんな反響を巻き起こしたのか、知りたいところです。日本にも遠からず来てくれるだろうと、期待しています。


  ※ この部分の記述は正確ではなかったようです。

    ダ・ヴィンチ  1452-1519
    ミケランジェロ 1475-1564
    ラファエロ   1483-1520

    ダ・ヴィンチの死の一年後にラファエロは亡くなっていたのですね。   
    世代は違えど3人は同時代を生きていた。
    ダ・ヴィンチは2人よりももうちょっと前の人だと、勝手なイメージを持っていました。
    すみません。(8/19)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 朝焼け | トップ | ミウラ折り »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。