巨樹に魅せられて

巨樹巡りを趣味としていますが、気がつくと神社巡り。その周辺の話題もココに書き留めています。

熊とどうつき合えばいいのでしょう。

2025-03-25 20:21:02 | その他
昨年、巨樹巡りをしていて熊と遭遇しました。
近くで対面したわけではありませんが、
神社脇の森に黒い物体がガサガサと音を立てて横に移動していきました。
背を向けて走って逃げてはいけない、とされていますが、
距離があったので一目散に車まで走りました。

巨樹巡り先(たいてい山の中の神社仏閣)の地図を、
熊の目撃情報の地図と見比べると、
たいてい一致します。

そのことにあるとき気づき、
「なあんだ、自分から会いに行ってたんだ」
と力が抜けました。

でも巨樹巡りは続けたい。
さて、どうしたものか・・・

こんな記事が目に留まりました。
現状では「熊の被害を防ぐには街に下りてきた熊を駆除するしかない」という意見です。

▢ 「街に出たクマは殺すしかない」クマを愛する大学教授がそう断言する理由熊の出没は"人間のせい"だった
小池 伸介:ツキノワグマ研究者
プレジデント 2025年1月31日号)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 人口の都市集中によりクマの生息範囲が拡大 
 2024年11月末、秋田市内のスーパーにクマが侵入し、店員1人がけがをする事故が起きた。クマは店内に居座り、2日がかりで捕獲され、駆除された。
 近年、このように人の住む場所で人がクマに襲われる被害が増えている。2023年度に全国で被害に遭った人は過去最悪の219人にのぼる。24年度は8月末までに、前年度を上回るペースでクマの出没が確認されている。
 その背景として、40〜50年という長い年月をかけて、クマの分布している範囲が広がり、人の住んでいる場所に徐々に近づいてきていることが挙げられる。その理由の一つは、長年にわたりクマを保護する政策が採られてきたことだ。バブル期にゴルフ場やスキー場をつくるために山林開発が盛んに行われ、クマの分布域が孤立、縮小し、西日本を中心に絶滅が危惧される地域も出てきた。そこで1999年に鳥獣保護法が改正され、各都道府県でクマの捕獲上限数を定め、獲りすぎないようにする政策が採られてきた。それがある程度成功したといえる。
 環境省「平成30年度中大型哺乳類分布調査」によると、2003年度から18年度にかけてのクマ類の分布域の増減率について、中国地方270%、近畿地方169%、東北地方134%、北海道129%と増加する一方、四国地方は88%、九州地方は絶滅したとされる。
 もう一つの理由は、日本の人口の都市部への集中と地方の過疎化である。戦後しばらくの間は、人が山へ入って活動していたため、動物を山へ押しとどめる効果があった。しかし50年ほど前から人口が都市部へ集中するようになると、人が撤退した里山は耕作放棄地となって徐々に森へと戻っていき、野生動物の新たな生息場所になっていった。70年代までは人間が陣取り合戦に勝っていたが、その後、人が都市へと移動し、撤退した場所に野生動物が分布を広げていったのである。
 2023年はどんぐりが凶作だったため、クマの出没が非常に多い年だった。クマにとって、生息地である森から出るのはかなりのリスクを伴う行動であり、よほどのことがなければ出ることはない。それでも人の住んでいる場所に出てくるのは、クマを引きつけるエサになるような誘引物があるためだ。田舎では庭にカキの木やクリの木がある家が多く、かつては秋になるときちんと収穫されていたが、高齢化や過疎化した集落では果実が収穫されずに放置され、それに誘引されてクマが出没するのである。
 なぜクマに遭遇すると、人身事故につながりやすいのか。基本的にクマは植物を中心にした雑食性で、人を襲って食べることはないクマが攻撃してくるのは防御のためである。クマは基本的に人への警戒心が非常に強いため、人に遭わないようにしている。人と鉢合わせしてしまうと、クマもパニックになり、目の前の人をはね除けてでもその場から逃げようとする。その結果として被害に遭ってしまうことが多い。
 人の住む場所に出没したクマに、私たちはどう対処すべきだろうか。「駆除せずに保護すべきだ」という声もあるが、前提として、人の住む場所に出没したクマに対して、私たちにできることは駆除以外にほぼ何もないと考えたほうがいい。行政の立場からすれば、人身事故は絶対に起こしてはならない。一刻も早くクマがいない状態にする必要がある。そのためには、銃器による駆除しか方法はないのである。
 山に追い払う方法もあるが、人の住む場所では、追い払った先にまた別の人が住んでいるため、さらに事故が起きる可能性がある。また、檻に捕まえて山に放つという方法もある。しかし、檻を置いたところでクマはそう簡単に入ってはくれない。そのため、解決に時間がかかり、その間、周辺の住民はずっと怖い思いで過ごさなければならなくなってしまう。
 では、麻酔銃はどうだろうか。麻酔を確実に命中させるには、10メートルくらいの距離でクマが見えている状況でなければ撃つことはできない。しかも、興奮しているクマに麻酔はなかなか効かない。人の住む場所に出没したクマは大抵興奮しているので、麻酔が当たってもどこかへ行ってしまい、別の事故が起きる可能性がある。秋田市のスーパーの事件では檻が使用されたが、あの場合はクマが建物の中にいて外に逃げられる恐れがなかったために使えた特殊なケースといえる。
 こうしてみると、人の住む場所に出没したクマに対しては、地域住民の安心安全のために、一刻も早く銃で駆除するしか方法はないことがわかる。
 クマの保護を考えるのであれば、そもそもクマが人の住む場所に出てくることがないように、森の中からクマを出さないようにすることが重要だ。そのために、すぐにできることとしては2つある。一つは、カキの木やクリの木など、クマのえさになりそうな誘引物を撤去することだ。木の伐採には費用がかかるため、最近は公費で助成する自治体も増えている。そしてもう一つは、森から集落に侵入する経路を遮断すること。耕作放棄地や、川原沿いのヤブなどを刈り払い、クマが姿を隠しながら移動できる場所をなくすことで、人の住む場所にクマが出没するのを防ぐことができる。
 長期的な対策としては、人とクマとの棲み分け(ゾーニング)をはっきりさせることが挙げられる。クマが昔から住んでいる場所と人が住んでいる場所の間に緩衝帯を設け、人が住んでいる場所にクマを入れさせず、緩衝帯でうまくクマと付き合うようにするのだ。
 そのためには、ヤブを刈り払うなどして、緩衝帯をクマにとって住みにくい場所にする必要がある。かつては地元の集落にヤブを刈り払うだけの元気があったが、高齢化や過疎化が進む中で、地域住民だけに対応を任せるのは困難になっている。そのため、公共事業として、集落周辺に動物が居着かないような管理をする必要がある。何年かに一度起こる大雨による洪水を防ぐために堤防を整備するのと同様に、何年かに一度起こるどんぐりの凶作のときにクマを出没させないように、公費で森を管理するのである。そうしなければ、クマと付き合っていくのは難しいのが現在の日本社会の状況といえる。24年にはクマが「指定管理鳥獣」に指定され、交付金を使ったクマとの共生存のための環境整備の試みが各自治体で進められている。
 環境省は2024年4月、クマを「指定管理鳥獣」へ追加した。ニホンジカ、イノシシに続き3例目となる。絶滅の危険が高い四国のツキノワグマは除く。都道府県による生息状況の調査事業や人材育成などが国の交付金の対象となる。

▶ 猟友会頼みの駆除はなぜ問題なのか
 野生動物に対応するのは行政の役割だが、行政にも2つの問題がある。一つは、職員の中に野生動物管理の専門知識を持った担当者が少ないこと。都道府県レベルでも、その割合は6%に満たない。多くの担当者は専門知識を持たないまま、3年ほど担当して異動するようなことを繰り返している。都道府県で専門的な職員を複数配置できれば、市町村でも安心して対策について相談することができ、地域の野生動物管理の力を底上げすることができる。
 もう一つの問題は、駆除を地元の猟友会に依頼している点だ。そもそも猟友会は狩猟を趣味にしている人たちの集まりであり、駆除はボランティアに近い形で行われている。彼らは山にいる野生動物を撃つのには長けていても、人の住む場所でパニックになっているクマを捕獲することに長けているわけではないし、野生動物管理の科学的な知識を持っているわけでもない。また、人の住む場所で発砲することは2次被害や3次被害につながる可能性もあり、非常に責任を伴う仕事であるにもかかわらず、ボランティアで依頼することは大きな間違いといえる。行政で捕獲従事者のような専門職員を雇用するか、民間事業者にきちんと費用を支払って委託すべきだろう。
 クマ対策のやっかいなところは、人々のクマに対する印象が「怖い」「かわいい」で二分されるところだ。クマが出没する地域の人は「クマなんていないでほしい」と願い、クマの出没が身近ではない人は「殺すのはかわいそう」と思う。いずれにせよ、私たちにできることは、まずクマの正しい姿を知ることだ。クマを過度に恐れることはないが、ただかわいいだけの動物ではないことも知っておく必要がある。クマの被害が多い秋田県では、クマに関する正しい知識を普及させる取り組みに力を入れている。正しい知識を持つことが、正しい対策に結びつくからだ。
 都市に生活している人にとって、クマはあまり身近な存在ではないかもしれない。しかし、果たして10年後、20年後はどうだろうか。すでに札幌や仙台などの100万人都市でもクマが街中に出没している状況がある。東京では今、高尾辺りがクマの分布の最前線だが、今後、その先の多摩丘陵にまで進出してくる可能性は十分ある。クマの出没は、都市の住民にとっても、決して他人事とは言い切れないのだ。


クマ出没注意!

2024-07-12 08:14:41 | 
昨今、巷を賑わせているクマ出没問題。
巨樹・神社巡りを趣味とする私にとって、
他人事ではありません。
近年、山里の神社に参拝すると、
「クマ出没注意!」
という看板をよく目にするようになりました。

というタイミングで、
とうとうクマさんと遭遇してしまいました。

場所は新潟県小地谷市の山里の神社。
人家が近くまであるので、
全く予想していませんでした。

石段を登り切って境内に入ると、
向かって左側の山の斜面から、
「ガサッ、ガサッ」
と音が聞こえました。
「鳥の飛び立つ音かな?」
くらいの気持ちで振り返ると、
林の中を黒い塊が、
「ガサッ、ガサッ、ガサッ」
と移動しています。
「クマだ!」
と直感し、まだ距離が数十メートルあったので、
急いで撤退しました。
息を切らして人家のあるところまでたどり着き、
事なきを得ました。

巨樹巡りを趣味とする知り合いたちに、
「クマ対策、どうしてますか?」
と聞いてみました。
10人中、クマ遭遇経験のある人は1人のみ。
この方は、山の奥深くに立ち入り、
伝説の巨樹を探り当てる名人です。
10mの距離でナイフを手に取り、
クマと見つめ合った経験を教えてくれました。

写真集も出版している、
巨樹巡りというより“冒険家”の方は、
「別に何も用意していない」
という意外なコメント。
「山に入るときは五感を研ぎ澄まして、
 熊の気配を感じたらそこで山を下りる」
とのこと。
「北海道の山はクマの気配がプンプンして、
 山に入れなかった」
と、クマに遭遇しないことをメインに考えていました。

皆さんのクマ対策をまとめると以下の通り;

・クマよけ鈴
・笛(あるいはラッパ)
・ラジオ
・クマよけスプレー(成分はカプサイシン)

…音を発して人の気配をクマに伝え、
「人がいるよ~」
とクマを遠ざける手法ですね。
でも人に慣れてしまったクマには無効かと…。

そんなタイミングで目に留まった記事を紹介します。
林業が衰退し、
人と山の獣が住む地域の境界が不明瞭になった現在、
どう共存していくのかポリシーが必要ですね。


■ クマの出没対策に、二つのマニュアル紹介
田中淳夫(森林ジャーナリスト)
2024/5/27:Yahoo!ニュース)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・世間の反応は真っ二つに分かれている印象がある。

 まず、もっと駆除に力入れろという強硬意見。もう一つはクマの駆除に無条件に反対し保護を訴える声である。

 だが,どちらも無理がある。前者は、やみくもな銃と罠に頼った駆除を主張しがちだが、人材、手間、費用などを含めて物理的に難しい。後者は、自分は安全圏に身を置きながら、クマなど野生動物を神聖視しており、獣害に遇われる地域の苦悩を無視している。

 もっと冷静になり、増えすぎた生息数を抑える対策と同時に、クマの人里への出没を減らす方法を考え、もし出くわした際はどうすべきかという点を具体的に身につけるべきではないか。

 同時に、クマなどの野生動物への対応知識と技術を身につけた人材の育成も必要だろう。

 実際の対応はいろいろ模索されているようだが、対策マニュアルを二つ紹介しておく。まずは環境省の出しているもの。

クマ類の出没対応マニュアル -改定版-

 やはり事前に出没に備えること、そしてクマが人里に出てこないようにするのが基本だ。そのためには、農山村の最前線における対策が必要となる。

 具体的には、餌となるものに近づけないこと。そして可能な限り除くこと。それは防護柵の設置のほか、果樹や農作物とその放棄残滓、生ゴミ、ペットフードの管理まで及ぶ。そのうえで都市部まで出てくる理由と対策を考えなくてはならない。

 次にクマが出没した際に取るべき行動。目撃時の連絡先や人員の配置、被害発生時の対応……もし鉢合わせした場合のことも取り上げている。彼らを刺激しない(人を襲う気にさせない)方策も知っておきたい。クマは必ず襲ってくるわけではなく、人を避けることも多い。いや、通常はそちらが普通だ。何が人に怒りを向けて襲うのかを知ることで、危険を抑えることができる

 遭遇した際に、いきなり走って逃げるのはもっとも危険であることなども記されている。そして最悪襲われた際の防御方法も、一応触れている。そのように行動できるかは疑問だが。

 日本のクマに則した内容だが、どちらかというと個人の対応策というよりは、自治体の職員向きかもしれない。行政としてクマへのに向き合い方に重きを置いているように感じた。

 それに対して、より実践的なものがあった。ただし海外版。

非致死的なクマ管理技術の手引き』である。

 カナダの市民団体製作のマニュアルだが、それを日本の<Bear Smart Japan>が翻訳したものである。イラストや写真も豊富。

 タイトルどおり、クマを殺さず人間との共存をめざしているが、何も駆除をすべて否定しているわけではなく、銃器の使用も容認している。ただ、できる限りクマを人間社会に近づけず、追い払うという理念で方策を練ったものだ。

 クマを銃で射殺する方法や捕獲方法、別方向に誘導する方法なども触れているが、騒音による抑止などもある。とくにベアドッグ(訓練したイヌによるクマの追い払い)は、今の日本ではほとんど行われていないが、可能性を感じる。

 北米を舞台にしているから、対象とするのはグリズリーとクロクマだ。ただグリズリーは、ヒグマとほぼ同種。クロクマはツキノワグマに近い種類で、体格は多少大きいが、生息環境も森林などで生態はツキノワグマと近そうだ。それぞれの対策が、日本の2種類のクマにも応用できるだろう。

 丸ごと使うのではなく、日本では取れない手段も紹介されているから、よく考えて選択肢に加えると参考になるかと思う。

・・・

 両者を読んで改めて思うのは、クマ出没対策とは、まずクマの生態を知り、人の行動はそれに合わせていくことの重要性だ。画一的な方法ではないのだ。

 どうも日本の場合は、冒頭の「駆除至上主義」と「保護至上主義」の両方とも、肝心のクマに関する知識をなおざりにしているように感じてしまう。さらに言えば、出没する地元の人々以外は、みな他人事のように思われる。

「駆除すればいいんだ」と言っても自身がやる気は毛頭ないだろうし、「保護しろ」と叫ぶものの、被害者には目を向けていない。それどころかクマの餌を心配してドングリを撒くような発想をしている。逆効果も甚だしい。

 日本でも野生動物の研究は結構行われてきて、それなりの知識の蓄積はある。完全でなくても、それらを習得することから始めるべきだろう。



マザー・ツリー

2024-07-05 10:37:40 | 
「マザー・ツリー」という本、
しばらく前に購入しましたが、インテリアと化しています。

「アバター」というSF映画、
有名ですがなかなか見る機会がなく、
先日ようやく自宅で見ました(Amazon Prime Video)。
その中で巨樹が出てきて、ワクワクしながら観ました。

その後、下記の記事が目に留まり、
「マザーツリー」が「アバター」のモチーフになっていることを知りました。
巨樹は森の生態系の中心に君臨しており、
「菌」ネットワークが重要な役割を担っている、
はてこの内容、TVドキュメンタリーで見たことがあるような・・・。


■ 「マザーツリー」は森林や林業の常識を一変させる
〜『マザーツリー』スザンヌ・シマード氏に聞く
岡田 広行 :コラムニスト
2024/06/30:東洋経済オンライン)より一部抜粋;

[著者]Suzanne Simard(スザンヌ・シマード)/カナダ・ブリティッシュコロンビア大学教授。カナダの森林生態学者。森林伐採に代々従事してきた家庭で育つ。大学卒業後、森林局の造林研究員として勤務した後、ブリティッシュコロンビア大学教授に就任。米『タイム』誌が2024年の「世界で最も影響力のある100人」に選出。

 世界的ベストセラー『マザーツリー』。
 カナダ人の著者が本書執筆以前から提示してきた自然についての考えは、2009年公開の映画『アバター』のモチーフにもなった。来日した著者に、森林生態系の危機的状況と、政策やビジネスの転換に必要な科学的知のあり方について聞いた。・・・

──本書は森林や林業に関する常識を一変させる大作です。

 森の木々が、地中の根や土壌の菌根ネットワークを通じて助け合いの関係にあることが、私たちの研究を通じてわかってきました。水分や、窒素、リンなどの栄養素を通じた共存、相互扶助の中心にあるのが、マザーツリーと呼ばれる樹齢の長い大木です。マザーツリーの根にはびっしりと菌類が広がっており、そうした菌類が栄養素を運ぶ役割を担い、木々を健康に保っています。

──これまでの林業では、単一の樹種を整然と植林するほうが生産性が高いとされてきました。本書はそうした常識も覆しました。

 広葉樹のアメリカシラカバと針葉樹のダグラスファーを一緒に育てたほうが、後者だけを育てた場合と比べてよく育つことを、研究を通じて解明しました。
 いろいろな樹種の交じった森が、単一樹種の人工林に転換された後、不健全な状態になっているのを見たことがきっかけでした。そこでいろいろな樹種を混栽したら生存率や成長率がどうなるかを確かめてみました。その結果、多様な樹種のある森のほうが、生産性も高いことが数字を伴ってわかってきました。
 1990年代ごろまでは、このような考え方は異端であり、モノカルチャー的な林業が最も生産性が高いという考えが根付いていました。しかし近年、多様さの重要性がようやく認識されるようになってきました。


▶ 土は生命の根源である


──本書で強調されているのが、森林における土壌の役割です。

 豊かな森の土壌を掘ってみるとわかりますが、そこは生命でみなぎっています。最近でこそ、分子生物学などの研究の発達によって土壌の果たす役割や重要性が再認識されるようになってきました。しかしもともと、土が生命の根源であることは太古の昔から受け継がれてきた英知でした。それを私たちは忘れてしまっていたのです。

──カナダでは原生林が大型の重機によって皆伐され、急速に失われています。この皆伐がいかに環境に悪影響を与えるかについても詳しく書かれています。

 気候変動、地球温暖化という観点でも、皆伐は炭素サイクルに壊滅的な打撃を与えます。樹木が伐採されて二酸化炭素(CO2)の吸収ができなくなるだけでなく、土壌に蓄えられていた炭素も急速に放出されていきます。植林をしても効果は乏しく、土壌の復元には数千年という時間を要します。

──本書では先住民が果たした役割にも触れています。森を豊かにするために、捕った鮭をマザーツリーの下に置きに行くという慣習があったとは驚きました。

 先住民の人たちは森のことを深く知っています。鮭を置きに行くのは、栄養素を森に戻すためで、物質的な循環にうまくつなげています。10年ほど前に先住民で研究者のテレサ・ライアン氏と知り合い、そうした慣習があることを教えてもらいました。・・・

▶ 多様性重視へ林業の転換を

──本書が世に出たことによるインパクトは。

 カナダ・ブリティッシュコロンビア州の首相や森林相とも面会し、意見交換をしました。同州では木材生産中心だった森林管理のあり方を、より多様な価値を中心に据えたものに転換していく考え方に変わりつつあります。その動きは十分ではありませんが、本書が影響を及ぼしたことは確かです。

──今回の来日では、日本の市民に向けた講演も行いました。

 カナダの原生林の皆伐が、日本のバイオマス発電と深く関わっていることを知ってもらいたかったからです。
 伐採して得られた木材から、木質ペレットと呼ばれるバイオマス発電用の燃料が作られ、大型船で日本まで運ばれ、発電所の燃料となっています。そしてこれが、CO2排出量ゼロのカーボンニュートラルと見なされています。こうしたやり方は十分な検討のうえで制度化されたものではなく、持続可能性もありません。

──今までのような、皆伐による破壊的な林業を改め、本来あるべき持続的な林業に戻すにはどうすべきでしょうか。

 水や空気、生物多様性や文化などの外部要因が、経済的な価値評価から除外されていることがいちばんの問題です。言い換えると、今の経済では、材木やペレットとして売れるかどうかという非常に狭い意味での価値しか評価されていません。外部要因として無視されている価値が製品の価格にきちんと反映されるようになれば、システムの大変革につながります。
 そうなれば、本当の意味での経済合理性が回復し、人や環境に優しい経済につながっていきます。資源の無駄遣いも是正されるでしょう。私は森の本来の価値が評価されることを望んでいます。

「日本の凄い神木」(本田不二雄著, 2022年)

2023-03-17 07:46:38 | 
という本が昨年発行されました。

「地球の歩き方」シリーズの一冊です。
こんな風に近年、巨樹の本が出版されたり、
テレビで巨樹特集番組が組まれたり、
巨樹ファンとしてはうれしいことです。

ひとつには、
SNS(Instagram、FB、Twitter)の影響があると思います。
実数としては少ない巨樹ファンがこぞって投稿し、
知り合いになれるのです。

日本の凄い神木」(Gakken)に掲載された写真にも、
私がインスタで知り合いになった巨樹マニアの作品が入っていますし。

著者の本田氏を取材した記事が目に留まりました。
神木探偵」の著者でもあります。

気になる「木」 命感じて
 人々が神聖視 災禍生き抜いた巨樹を巡る
 ガイド本「地球の歩き方」シリーズで、全都道府県の神木や巨樹を秘話や歴史とともに紹介する「日本の凄(すご)い神木」(Gakken)が昨秋、出版された。東京23区内にも震災や戦災をくぐり抜けた巨樹はあちこちにある。この本の著者で、寺社や仏像のミステリーを探究する神仏探偵の本田不二雄さん(59)に案内され、本に収録された木を巡った。
 都営三田線白金高輪駅から徒歩五分。かつて熊本藩細川家の下屋敷があった港区高輪地区総合支所裏手の高台に「旧細川邸のシイ」(同区高輪一)はそびえ立つ。「いい。幹囲が八メートル以上あるのは相当大きいね」。本田さんは見上げながら目を細めた。
 主幹は切断されているものの、樹高は十メートル以上。一部の根が土から浮き出て、ところどころ表面の木皮も剥がれている。本田さんは「それでも周囲に若木を張り巡らせる。知られざる都心の主だ」と力を込める。意識してみると、度重なる震災、火災を乗り越えた命の力強さを、確かに感じる。だが、近隣住民らしき人は見向きもせずに、通り過ぎていった。
 本田さんによると、東京の神社や寺の境内で見かけるのはイチョウの巨木。他の木に比べ、葉や幹に水分が多く含まれるため燃えにくく、防火のために植えられたという。
 なかでも善福寺(港区元麻布一)のイチョウは圧巻。寺のホームページによると樹齢は推定七百五十年以上、都内最古の古木で、国の天然記念物の指定を受けている。根がせり上がり、乳と呼ばれる大きな気根が垂れている。
 寺によると、訪れた親鸞が立ち寄った記念に、持っていたつえを地に差したところ、枝葉が繁茂したと伝わる。一九四五年の東京大空襲で本堂が全焼した際、イチョウにもかなりの被害があったが見事に再生した。秋には見事な黄金色に輝き、見物に訪れる人も少なくない。
 東急大井町線等々力駅から徒歩十五分。閑静な住宅街の中にある善養寺(世田谷区野毛二)には、優美な大カヤがたたずんでいた。環境省のデータベースによると、樹高約二十メートル、幹回り五・四メートル。地面近くに、緑の葉をつけた枝がしだれ、幹がせりあがる。大きなうろの中には石造りの五輪の塔が奉安されていた。
 カヤには伝説がある。寺の長老真保龍敞(しんぽりゅうしょう)さん(89)の話では、寺近くの野毛大塚古墳に眠る姫が、多摩川べりのサワガニの親子を助けた際、お礼にもらったカヤの実が成長したという。
 樹齢は相当古く、高齢の大樹を枯らすまいと、年に二、三回、土を掘って栄養剤を与えている。「歴史を見てきたカヤは寺の象徴。これからも保護していかなくては」と話した。
 この本では、人々から神聖視されている全国の巨樹、神木約二百五十柱を紹介。東京二十三区内にある巨樹として、ほかに「新田神社の御神木」(大田区矢口一)も収録されている。この四柱はいずれも、災害や空襲を乗り越え、人々が何らかの形でかかわり、生き延びてきた。
 だからこそ、本田さんは言う。「身近なところに巨樹はあるし、どの木も見れば、圧倒的な命の力強さを感じられるはず。本を通じ、自分の町の、自分だけのご神木を見つけてもらえたら」
 文・山下葉月/写真・由木直子、中西祥子

なぜ人類が悠久を生きる巨樹に充足感や幸福感などを感じるのか?

2023-03-17 07:02:40 | 
という研究がなされたとの情報が耳に入りました。

「悠久巨樹と人とのつながり 環境研研究員がDB用いて世界初解明」

ポイントと感じた個所を抜粋します。

・環境研生物多様性センターが提供する「巨樹・巨木林データベース」に集積された日本列島全域の巨樹約3.9万本の大規模データを解析し、人と巨樹のつながりと駆動要因を解明。人が太さや推定樹齢といった巨樹の特性、さらにその背後に存在する気候・地理要因により駆動されている可能性を世界で初めて明らかにした。 

<仮説>
・太く、樹齢が長い巨樹ほど、信仰の対象となりやすく、固有名称を持ちやすくなる(巨樹の特性が精神的な生態系サービスに影響する)。
・気温が低く、降水量が多い地域の巨樹ほど、太く、樹齢は長くなる(マクロ生態学的プロセスが巨樹の性質に影響を与える)。
・分布する緯度や標高、年平均気温や降水量の違いが、巨樹の信仰の対象となりやすさと固有名称の持ちやすさに影響を与える(マクロ生態学的プロセスが精神的な生態系サービスに影響を与える)。 

<分析結果>
・幹周囲長は推定樹齢と年間降水量から正の影響、緯度・標高と年平均気温に負の影響を受け、また、推定樹齢は年平均気温から負の影響を受けていた。
・信仰の対象となる確率と固有名称を持つ確率は、いずれも幹周囲長と巨樹の樹齢の両方と正の相関があり、「太く、推定樹齢が長いほど、名前を持ちやすく、信仰の対象となりやすい」ことがわかった。
・信仰の対象となる確率は、緯度と正の相関があり、年平均気温と年降水量と負の相関が確認され、「気温が低く、雨が少なく、より北に分布するほど、信仰されやすい」ことが判明。
・固有名称を持つ確率は、緯度、標高、年平均気温と正の相関、年降水量と負の相関が示されたことから、「気温が暖かく、雨が少なく、標高が高く、より北に分布するほど、名前を持ちやすい」といったことも明らかとなった。  

まあ、巨樹巡りをして居て実感される結果ですね。

2022年春の近隣桜巡り(北関東)

2022-04-05 06:48:06 | 巨樹・巨木
新型コロナの第6波はピークアウトするも減りきらない状況の中、
今年も春が到来しました。

通勤路では3月末から桜が咲き始め、
連日、ちょっと車を止めて写真を撮りました。

カメラは最近購入した「gopro HERO 10」。
強力な手ぶれ防止を備えた“アクションカメラ”“ウエアブルカメラ”を牽引するモデルで、
広角&軽量&防水も特徴です。

2022.3.29 龍興寺(群馬県館林市)


シダレザクラが道路に並行に何本か横並びになり、
朝日を浴びて華やかな雰囲気です。

2022.3.30 多々良沼公園


人出がそれなりに多く、駐車場は混雑していました。
皆さんマスクをしながらも春を楽しんでいる様子。

2022.3.30 渡良瀬川土手の菜の花畑


桜ではありませんが、毎年春になると一面黄色に染まり、
目を楽しませてくれる場所です。

2022.3.31 尾曳稲荷神社(群馬県館林市)


境内に見事な桜の古木があります。
その生命力は強く、空に向かって枝を伸ばし、
今春も花をたくさんつけていました。

2022.3.31 両社神社(栃木県足利市)


地元の鎮守さま。
派手ではありませんが、この季節になると境内の桜が咲き誇ります。

2022.3.31 岡崎山(栃木県足利市)


近所の古墳のある丘(〜小山)。
満開の時に散策すると“桃源郷”のようです。

2022.4.1 多々良沼公園:松並木にある桜群


以前は桜並木として並んでいたのですが、
寄る年波でソメイヨシノも弱ってきたのか、
あちこちで間伐されて、“並木”ではなくなってきたのが、
少しさみしいです。

でも松並木では以下のようないろんな風景が楽しめます。




2022.4.1 茂林寺(群馬県館林市)


“分福茶釜”伝説で有名なお寺の境内に、
大きな枝垂れ桜があります。
残念ながらピークアウト。
他の桜より1週間ほど早いようです。

2022.4.2 満願寺(栃木県佐野市)


枝垂れ桜の古木が山門の近くに門番的に偉容を見せています。
満身創痍状態ではありますが、
今年も元気に花をつけてくれました。

2022.4.2 崇見寺(栃木県佐野市)


大きな枝垂れ桜。
よく管理された見事な桜で、枝垂れた花は地面につくほど。

2022.4.2 某神社(栃木県佐野市)



誰にも教えてくない秘密の場所なので、
“某神社”と記しておきます(^^)。
巨樹巡り・鎮守の森巡りをしている際に、
偶然出会った桜の古木。
「どんな花を咲かせるんだろう」
と春になるたびに10年来、通っています。
2022年はピーク直前に参拝できました。
午後の陽光を浴びた姿が神々しく、
至福のひととき。

この日は桜守りのおじさんと少し話ができました。
桜の管理は大変であるがやりがいがあり、
将来は天然記念物指定を目指している、
と熱く語ってくれました。

2022.4.2 慈眼寺(栃木県佐野市)


山寺の一本桜。
午後の陰になった山肌をバックに、
浮かび上がる姿が美しいのですが、
手元に望遠レンズがなくて諦めました。

2022.4.2 大鳥篭守神社(栃木県佐野市)


春になるとこの桜の巨木に会いに行き、
至福のひとときを過ごすのが私のルーチンです。
10年来通っていますが、
他の参拝客(カメラマン)に遭遇したのは1回だけです。

2022.4.2 鞍掛神社(栃木県佐野市)



巨木・銘木はありませんが、
神社全体で“春”という雰囲気を醸し出している、
お気に入りの鎮守の森です。

2022.4.2 尾曳稲荷神社


前回参拝時は午後遅くの曇りだったので、
晴れたこの日に再訪。
光に満ちあふれて、桜の古木も生き生きしていました。

この後は曇り〜雨の天気になり、
北関東の“近隣の桜巡り”はひとまず終了。


今、4月中旬に福島県の桜巡りを計画中です。
一本桜を中心に下調べをしていますが、
その膨大な数に驚き、
整理できずに混乱しています。
どうなることやら・・・。

防水&広角&軽量カメラを突き詰めて、たどり着いたのは・・・GoPro10

2022-03-06 06:34:38 | 
巨樹巡りを趣味とする私がカメラに求める性能は・・・
□ 広角
□ バリアングル
□ 防水
がベスト3。アラ還の私には、
□ 軽量
も重要です。

大きな木を目の前にしたときの迫力感は、
ふつうのレンズ・画角では捉えきれません。

なので、巨樹撮影のためのカメラ探しは、
広角カメラ探しの旅でもありました。

コンデジでは限界がありますが、
昔のオリンパスの防水コンデジがこの目的に合いました。

■ オリンパス STYLUS TG-870 Tough


広角側で焦点距離が21mm(35mmカメラ換算)とコンデジでは最高レベル、
かつ防水という条件も満たしています。
唯一、液晶モニタがバリアングルではなくチルト式なのが残念。
2016年の発売なので画質はそれなり、
現在は販売終了し、新品は手に入りません。

最近は雨の時は出かけなくなりましたが、
以前まだアクティブだった頃は“雨天決行”でときどき出番がありました。

それ以降は、一眼レフカメラに触手を伸ばしました。

■ ニコン D5100(2011年発売)
■ キャノン 80D(2016年発売)

という入門機・初級者向けカメラから始まり、
寄る年波でカメラを重く感じ始めたため、一時期コンデジ(ネオ一眼?)の

■ キャノン PowerShot SX70 HS

に寄り道したものの画質に満足できず、
ミラーレス一眼&バリアングルの、

■ キャノンEOS Kiss M

にたどり着きました。
これで一件落着と思われたのですが・・・
しかしキャノンは色のりが今ひとつで、
ネットにアップするには加工が必要なため、
発色が鮮やで“撮って出し”が可能な

■ フジ X-S10(2020年発売)

に変更。
フジの“Velvia”画質には満足したものの、
別売りの広角レンズを装着するとちょっと重い(^^;)。

そして唯一の弱点“防水”という課題が残りました。
一眼レフで防水機能を求めると、
どうしても重くなってしまうジレンマがあり、
なかなか私の理想のカメラに出会うことができません。

以上、巨樹用カメラを捜す旅は10年以上続いています。

さて、2022年4月に福島県の桜巡りを計画中です。
日程が決まると、心配なのがやはり天気。
雨天のことも考えて、やはり防水カメラが欲しい・・・

そんなタイミングで、
インスタにアップされていた印象的な巨樹写真が目にとまりました。
発色が鮮やか、かつ広角でダイナミックに巨樹の姿を捉えています。
撮影機種を見ると「gopro9」とあります。

gopro?

初めて聞く機種名。
調べてみると、私の守備範囲外の“アクションカメラ”という分野でした。
スポーツ時に身につけて(ウェラブル)動画を撮ることに特化したカメラで、
「小型・防水・強力な手ぶれ機能」
が特徴です。
かつ、基本的に広角。
GoProの画角(対角)は約170°に広がり、
焦点距離を35mmフイルムカメラに換算すると16mm程度に相当、
とのこと。

んんっ!
これって私がカメラに求めている機能に一致するではありませんか!

「gopro」について調べたところ、
手のひらに収まる小ささのため、さすがにバリアングルモニタはありません。
でも、gopro9 から前面モニタが装着されています。
かつ、スマホとの wifi 連携が標準の使用法なので、
手元のスマホ画面を見てシャッターを切ることも可能のようです。

知れば知るほど欲しくなり、
とうとう2022年3月1日にカトー電機で「gopro10」を購入。



結構値が張るので併売している前モデルの「gopro8」「gopro9」と迷いました。
静止画の画素数が徐々に上がってきているので、最新モデルを選びました。

しかし私はスギ花粉症なので、しばらく外で活動できません。
現在屋内で撮影の練習中です(^^;)。


目撃!にっぽん「空師〜吉野の山に生かされて」

2020-12-07 13:53:45 | 
林業は山の樹木を切る仕事。
第二次世界大戦後に外国材が安く輸入されるようになり、
材木の価格は1/4に、
林業従事者は1/5に減ってしまったといいます。
衰退の一途と言わざるを得ません。

そんな厳しい状況下、
現在も木を切ることを生業にしている人たちがいます。

中でも巨木・大木の伐採を専門とするのが「空師」と呼ばれる職人たちです。
樹高数十mの巨木に登り、
木材としての価値を落とさぬよう計算して効率よく伐採するスキルは、
江戸時代から伝わる伝統術。

そんな彼らを取材したNHKの番組を見つけましたので紹介します。


そびえ立つ木に登り伐採する「空師」。ロープを巧みに操りさまざまな体勢でチェーンソーを扱う職人だ。奈良県吉野地方の空師・中平武さんに密着。山奥に眠る巨木に挑む。 日本屈指の林業の地、奈良吉野で一目置かれる空師・中平武さん43歳。そびえ立つ木に登り伐採する職人だ。技術を極めることで廃れゆく林業を活性化したいと空師を志した中平さん、この秋挑んだのは空師の技を用いなければ切ることのできない山奥の樹齢200年を越える巨大なとちの木。共に伐採に立ち向かったのは背中を追い続けてきた父。予想もしない試練の連続。空師の誇りをかけた挑戦の結末は。知られざる大和の空師の物語。



現代の「空師」はロープを巧みに操り、
チェーンソーを駆使して巨木を伐採します。

そのバリエーションと言っていいのかわかりませんが、
枝打ち師」という職人もいます。

京都の北山杉は真っ直ぐな材木です。
その樹形を整えるために不必要な枝を伐採(枝打ち)する必要があります。

それを担うのが「枝打ち師」。
こちらは命綱たるロープを使いません。
下に降りてまた登ると仕事の効率が悪いので、
木から木へ、樹上を飛び移ります。
木を自ら揺らして隣の木に飛び移る様は、
サーカスレベルの職人芸。

今から30年前、
とあるマンガにこの「枝打ち師」が描かれており、
その時初めて知りました。
その民話の世界のようなストーリーと絵に惹かれましたが、
今となってはマンガの名前も作者も忘却の彼方。
ああ、また読んでみたいなあ。


<番組ディレクターから>
【この番組を企画したきっかけは】
  以前、別の番組で取材をさせていただいたことがきっかけでした。ひとつの木を植えてから、商品として切りだすまでにかかる時間は100年以上。自分の代だけでなく、自分の前の世代、そして後の世代にも思いをはせながら仕事をする、林業ならではの仕事観に感銘を受け、より深く取材したいと思っていました。そんな折に、中平さんからお聞きしたのが、「空師」の仕事の話。地上での伐採でも大迫力なのに、木の上での伐採はいったいどんなものなのか。再びの取材をお願いし、番組の企画に至りました。

 【制作でこだわった点、もしくは、苦労した点】 
 制作で一番大変だったのは、ロケで中平さんたちについていくことです(笑)普段から山で仕事をする彼らはどんな傾斜でもやすやすと歩きますが、我々クルー(特に私)はついていくのに精一杯。筋肉痛と日々戦いながらも、中平さんたちから手厚くフォローいただき、なんとかロケを完遂できました。山奥で初めてのテント泊をしたことは、個人的にも一生忘れられない思い出になりました。 

【取材をする中で印象に残った言葉】 
「俺らは吉野の歴史の中のほんの一部分やから」、その言葉が深く印象に残りました。自分自身、これまでの人生で自分の人生と何かの歴史が紐付いていると感じたことは全くなかったので、木や山を通してその土地の歴史の一部分に自分がいるという感覚をもつ中平さんたちの生き方に非常に心惹かれるものがありました。普段生活していると、自分のことでいっぱいいっぱいになってしまうのですが、もっと大きなものに目を向けたら(それが自分にとって何なのかはまだ分かりませんが)違う世界が見えるのかもしれないと考えさせられました。

街から消えていく御神木

2019-12-22 08:21:56 | 巨樹・巨木
 街中で大きな樹木を見かけると、
「ああ、あの木はいつまで切られずにいるだろう」
 と心配してしまいます。

 数百年生きてきた樹木が、人間の生活の邪魔になるという理由で切られていきます。
 一番多いのは「電線に近いから危ない」でしょうか。
 
 街中で生き残ることが可能な場所は、神社やお寺の境内くらいでしょう。
 しかしその神域・聖域でさえ、安全な場所でなくなってきています。
 そんな記事を紹介します;

信号機も隠す危ない「ご神木」 撤去しない神社の言い分
2019年9月25日 朝日新聞デジタル
 東京都八王子市にある「天満社」。学問の神様・菅原道真をまつり、北野天満社とも呼ばれ、地名の北野町の由来ともされる。その歴史ある神社が、樹木の枝葉を境内からはみ出させており、車や歩行者に接触する危険があるなどとして、国土交通省相武国道事務所と市から2017年以降計11回、文書で行政指導されていることがわかった。
 神社側は根本的に改善する気配がなく、地元の町会などは「越境樹木を放置すれば、重大な交通事故につながりかねない」と困惑している。
 天満社は京王線北野駅から徒歩3分の場所にある。現場を訪れると、北西角にある大木の枝葉が国道の上におおいかぶさるように伸び、大型トラックの荷台の上部に接触しそうになっている。信号機も枝葉に覆われて見にくい。枝葉が市道をまたいで児童館に達している場所もある。
 相武国道事務所によると、2017年に通報をきっかけに越境を確認し、18年5月に宮司に口頭で改善を求めた。今年2月、住民の訴えで再び越境を確認し、道路の構造や交通に支障を及ぼすおそれのある行為を禁じた道路法43条に抵触しているとして、2、5月に計3回、「道路占用指導書」を宮司の家族とみられる人に渡したり、宮司の自宅に投函(とうかん)したりしたが、反応はないという。
 市も17年以降、今年7月までに6回、神社側に文書でせんていを要請した。だが、市によると、宮司は3月に「樹木医に管理させているから大丈夫。境内の樹木はご神木だ」と主張し、すぐにせんていするとは明言しなかった。市側がせんていするという申し出も受け入れなかった。


 思い出すのは、日光の太郎杉。
 道路に面したスギの巨樹を残すために話し合い、人間側が譲歩して残されました(日光太郎杉事件)。

 しかし都会ではそのような雰囲気はないらしい。
 第一次産業中心で自然を恐れ感謝する地方と、
 自然と接することを忘れた都会では異なるようですね。
 もっとも、自然の驚異(地震・台風など)は場所に関係なく襲ってくる昨今ですが。

 さて、上記記事の続報です。
 この争い(?)、どのような結末を迎えるのでしょう。


はみ出すご神木「年内撤去を」 指導17回、初の期限
2019/12/21 朝日新聞デジタル
 八王子市北野町の神社「天満社」の樹木の枝葉が境内からはみ出している問題で、国土交通省相武国道事務所と東京都八王子市は、天満社に対し、12月中に越境部分を取り除くようそれぞれ文書で指導した。期限を設けずに指導してきたが、改善が見られないと判断し、初めて期限を設けた。


【写真】神社の境内(左側)から南側の市道に樹木の枝葉がおおいかぶさり、トンネルのようになっている

 相武国道事務所は、12月中の撤去を求める11月13日付の勧告書を宮司の自宅に届けた。回答がないため、12月2日に催告書を内容証明郵便で送った。
 市は12月中の撤去を求める指示書を11月27日に宮司の自宅に届けた。翌日、宮司から担当課に電話があり、「ご神木なので撤去できない」という趣旨の主張をしたという。
 天満社の越境樹木をめぐっては、相武国道事務所と市が、道路の構造や交通に支障を及ぼすおそれのある行為を禁じた道路法に抵触しているとして、2017年以降、行政指導を繰り返してきた。12月中の撤去を求める文書を含め計17回になった。
 相武国道事務所は「引き続き理解を求め、他の方策も検討していく」、市は「粘り強く指導していく。次の段階についても検討している」としている。



 神社の神域に対する日本人の心情は、昔々、西行が伊勢神宮を参拝したときに残した言葉;
なにごとのおはしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる
 に象徴されます。

 最近、道路脇の空き地に小さな赤い簡易鳥居が立っているのを見かけますが、あれは「ゴミ捨て対策」だそうです。
 鳥居があると、日本人はゴミをポイ捨てできない、罰が当たりそう、という意識を利用した措置ですね。

 しかし、そのような意識も最近は薄れてきたようです。
 それを感じた記事を紹介します;

陸自隊員、神社の鳥居壊して不申告か 山形県警が捜査
2019/12/16 朝日新聞デジタル
 陸上自衛隊神町駐屯地(山形県東根市)の男性隊員の運転する車が今月上旬、同市内の神社の鳥居を壊す事故を起こし、警察に申告せずに立ち去ったとして、山形県警が道路交通法違反(事故不申告)の疑いで捜査していることがわかった。駐屯地は「調査中のためコメントは差し控える」としている。


【写真】柱が根元から折れ、倒れかかった木造の鳥居=山形県東根市神町東2丁目、住民提供

 神社周辺の住民らによると、4日午後10時ごろ、神社の境内に進入した車が木造の鳥居に衝突して、鳥居の柱を折った。運転していたのは第6施設大隊に所属する男性隊員で、ほかにも複数の隊員が乗っており、警察に事故を申告せず、車でその場を離れた可能性があるという。神社は駐屯地北側約500メートルにある。
 翌5日早朝、鳥居が壊れて倒れかけているのを近くの住民が発見し、110番通報した。その後、運転していたとみられる男性隊員が上司に付き添われ、地区の住民宅に謝罪に訪れたという。
 駐屯地関係者によると、男性隊員らは4日午後6時から午後9時ごろまで駐屯地外で懇親会に参加していたという。駐屯地は隊員らが事故を起こした状況やその後の経緯のほか、隊員らの飲酒の有無を調べているという。


 まあおそらく、アルコールが入っていて逃げたのだと思われますが・・・残念なエピソードです。

第32回「巨木を語ろう全国フォーラム」 in 福岡(2019.10.19/20)

2019-10-09 07:02:53 | 巨樹・巨木
 何年か前に群馬でも開催されたフォーラム。
 車で向かったものの、途中トラブルに遭遇して断念。
 それ以後も気にはなっているものの、開催地が遠いのでいまだ参加できずにいます。
 今年は九州かあ・・・無理だなあ。

巨木の魅力見つめ直す 宇美町で全国フォーラム 2019.10.19/20
2019/10/8:西日本新聞) ふくおか都市圏版 後藤 潔貴
 「巨木を語ろう全国フォーラム」が19、20の両日、宇美町立中央公民館で開かれる。環境省が1988年に実施した巨樹・巨木林調査をきっかけに、愛好者や研究者らでつくる「全国巨樹・巨木林の会」が同年から毎年各地で開いている。地域のシンボルとして親しまれたり、「パワースポット」として各地から多くの人が訪れたりする巨木の魅力とは何か。同会福岡県支部会長の佐野義明さん(81)に話を聞いた。
 「前に見たときは、上もあったんですけれどね」
 待ち合わせ場所の福岡市の中央区役所前で、佐野さんが指さした。その先に立っていたのが、巨大なイチョウの木「飯田屋敷の大銀杏(おおいちょう)」。市指定の保存樹で樹齢約400年とされる巨木だが、幹の高さ約5メートルより上部がなくなり、無数のひこばえが茂っていた。
 案内板を見ると、「枯れかかっていたため数年前から再生治療中」とのこと。50~60年後には「ひこばえが成長して、元の巨木がよみがえるはず」という説明書きも。「そのころにはもう私はおらんですなあ」。佐野さんが力なく笑った。
     ◆   ◆
 佐野さんによると、県内は温暖な気候から、クスの巨木が多いのが特徴とか。
 宇美町の宇美八幡宮には、樹齢2千年を超えるとされるクスノキの「湯蓋(ゆふた)の森」(樹高30メートル、幹回り15・7メートル)と、「衣掛(きぬかけ)の森」(樹高20メートル、幹回り20メートル)がそびえる。どちらも国指定天然記念物だ。見ているだけで圧倒されそうになる存在感。大人気のアニメ映画「となりのトトロ」で描かれた大クスのようだ。
 今回のフォーラムは32回目で、県内開催は初めて。この2本の巨木があることなどから宇美町が候補地に浮上し、来年の町制施行100周年のプレイベントとして開くことになった。
 「今も残っている巨木は先人たちが大事に守ってきたものも多く、その関わりを想像するのもおもしろい」と佐野さん。一方で、「巨木は遠い将来も立ち続けるように思われるが、意外とそうではないのです」。
 佐野さんは県内の巨木115本を紹介した「福岡県の巨樹・巨木ガイド」(梓書院)を2012年に出版。その中には、掲載後の数年間で姿を消したものもある。最近も、糸島市指定保存樹の樹齢千年超とされるイチイガシが台風の影響で倒れたばかりだ。
 永遠に続く命のように思えるが、実際は飯田屋敷の大銀杏のように力強さとはかなさを併せ持つ。それも巨木の魅力の一つだろう。佐野さんは「大会をきっかけに大勢の人に身近な巨木への関心を持ってもらえれば」と期待している。
 (後藤潔貴)
    ◇      ◇
 第32回巨木を語ろう全国フォーラムのテーマは「歴史をつなぎ、次世代につなぐ、巨木の魅力を『うみ』だそう!」。19日は午後1時からフォーラムがあり、福岡県林業技術者連絡会の福島敏彦会長が講演する。その後、パネルディスカッションがあり、佐野さんらが巨木の魅力を語り合う。農林中央金庫、福岡県森林組合連合会のベンチ寄贈などもある。20日は近郊の巨木を巡る見学会(有料)がある。問い合わせは宇美町社会教育課内実行委員会事務局=092(933)2600。