前回述べた通り、国民経済計算では評価額変動に当たるものを調整と呼んでいます。具体的なデータは内閣府の[統計表一覧]から閲覧できます1)。ここのストック編にある[21sca_jp.xls 統合勘定(Excel形式:78KB)]のファイルに各年のストックとそのフローである調達および調整の値が載っています。当然、年が変わるとファイル名も更新されると思われます。
同サイトの[解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」2)]の[資産(ストック)の調整勘定の詳細化]の項説明されているように調整には5つの費目があります。調整の各費目と資本調達、およびストックとの関係は以下のようになります。
調整=調整(1)+調整(2)+調整(3)
調整(2)=調整(2)a+調整(2)b
当期末ストック=前期末ストック+当期資本調達+当期調整
ざっくり言えば、調整(1)は事故・災害による損壊や債務デフォルト・不良債権償却などによる実質的評価変動、調整(2)は資産自体は保有したままでの市場価格変化を反映した評価額変動です。調整(3)は固定資本減耗の評価方法の差とされています。
ストックは期末貸借対照表のシートに記載されていますが、借方(debit)の"1.非金融資産"と"2.金融資産"、貸方(credit)の"3.負債"と"4.正味資産(国富)"に分けられています。注意が必要なのが"1.非金融資産"の中の費目の記載順序が資本調達のシートだけが他と異なっていることです。具体的には資本調達のシートでは以下のようになっています。
・純固定資本形成=有形固定資産+無形固定資産+有形非生産資産の改良
・在庫品増加
調整と期末貸借対照表のシートでは
・生産資産=在庫+有形固定資産+無形固定資産
・有形非生産資産
在庫と金融資産の意味は説明するまでもないでしょうが、残りの3つの分類はざっくり言えば、有形固定資産は機械設備や建造物など人が作り出した固定資産、有形非生産資産は土地など人が作り出したものではない固定資産、無形固定資産は特許権・著作権・使用権・ソフトウェアなどの形のない資産のことです。
それにしても関連する表の中のひとつだけこっそりと費目順序を変えるなんて何を考えているのでしょうか。お役人てのはこんな細かい所にこだわるもんだと思ってたのに・・ぶつぶつぶつぶつ。はっ、失礼しました。
なお期末貸借対照表と資本調達は1980年からのデータですが、調整は1981年からのデータで1年のずれがありますので、勘違いすると計算が合わなくなります。<=1回勘違いしたと白状しているようなもんだな(^_^)
さてお待たせしました。国民経済計算のデータから資産変動の中の付加価値による分(資本調達)と調整の額の推移をグラフ化してみました。縦軸はすべて10億円単位ですが、グラフにより目盛の大きさと値の範囲が違いますから御注意下さい。
Gr.1) 国民資産総額の推移
Gr.2) 国民資産(全資産)変動の推移
Gr.3) 国民資産(生産資産)変動の推移
Gr.4) 国民資産(有形非生産資産)変動の推移
Gr.5) 国民資産(金融資産)変動の推移
これを見ると調整による変動が調達による変動に匹敵するかそれ以上に大きいことがわかります。特に有形非生産資産すなわち土地の変動は調整2すなわち市場価格変動がほとんどを占めていて、1991-2年からのバブル崩壊の様子が見て取れます。まあ定義通りに人が生産しない資産ですから調達による変動はほとんどあり得ないのは確かです。といって価格変化による分がすべて幻とも言えません。土地が有効活用されて収益が上がるようになれば、その価格が高くなってもよいからです。
また以下のようなことも読みとれますが、それがどういう意味を持つのかはわかりかねます。
・90年以降は総資産額はほぼ一定(Gr.1)、つまり成長が止まった?
・総資産額中の金融資産比率は80年代の約55%から一貫して増加したが、
2000年からは約70%でほぼ一定している(Gr.1)。
・生産資産総額は着実に増加しているようだが2009年に初めて減少した(Gr.1)。
この減少要因は調整2つまり評価損失が大きい(Gr.2)。
恐らく2011年も生産資産総額は大きく減少するのでしょうねえ(-_-)。まさしく突発事態による損壊ということです。
さていわゆる経済危機の時には大抵は調整部分がマイナスになると考えられます。となると原理的には誰もが損失を被り得した者などいないということもあり得るわけで、「消滅した資産は誰が持っていったのだ?」「損した者がいるなら、一体だれが得をしているんだ?」などというありがちな問い4)は的外れであり得るということがわかります。もちろん中にはうまく立ち回って儲けた者もいるでしょうが、何者かが儲けようとして調整部分がマイナスになるように仕向けて、思惑通りに儲けたということではないでしょう。ゼロサムゲームならば存した者がいれば得した者がいるはずですが、マイナスサムならば全員が損することもあり得るからです。要するに自然科学におけるエネルギー保存則と同様な価値保存則というものは経済学では成り立たないということです。それでもフローの収支計算では、価値保存則とでもいうべきものを前提に計算するのではありますが。
----参考文献----
1) 内閣府HP (国民経済計算>国民経済計算確報>統計表一覧)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/kakuhou/kekka/h22_kaku/h22_kaku_top.html
2) 内閣府HP (国民経済計算>基礎から分かる国民経済計算>解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」)
解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」
3) 内閣府HP (国民経済計算>四半期別GDP速報>用語の解説)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sokuhou/kekka/yougo/kaisetsu.html
4) 例えば、中野剛志;柴山桂太『グローバル恐慌の真相』集英社(2011/12/16)のp105「不安定な経済で得をするのは金融資本」前後。ただし、金融危機で得するとは明確には述べていない。ではいつのどんな利得をどこの金融資本が得たのかというのは、どうも具体的に不明確である。どうも「グローバル化による利得」を誰が得たのかという話のように読めそうなのだが、「グローバル化は必ず利得を生む」という前提は著者達の主張に合わないような気もしてよくわからない。
同サイトの[解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」2)]の[資産(ストック)の調整勘定の詳細化]の項説明されているように調整には5つの費目があります。調整の各費目と資本調達、およびストックとの関係は以下のようになります。
調整=調整(1)+調整(2)+調整(3)
調整(2)=調整(2)a+調整(2)b
当期末ストック=前期末ストック+当期資本調達+当期調整
ざっくり言えば、調整(1)は事故・災害による損壊や債務デフォルト・不良債権償却などによる実質的評価変動、調整(2)は資産自体は保有したままでの市場価格変化を反映した評価額変動です。調整(3)は固定資本減耗の評価方法の差とされています。
ストックは期末貸借対照表のシートに記載されていますが、借方(debit)の"1.非金融資産"と"2.金融資産"、貸方(credit)の"3.負債"と"4.正味資産(国富)"に分けられています。注意が必要なのが"1.非金融資産"の中の費目の記載順序が資本調達のシートだけが他と異なっていることです。具体的には資本調達のシートでは以下のようになっています。
・純固定資本形成=有形固定資産+無形固定資産+有形非生産資産の改良
・在庫品増加
調整と期末貸借対照表のシートでは
・生産資産=在庫+有形固定資産+無形固定資産
・有形非生産資産
在庫と金融資産の意味は説明するまでもないでしょうが、残りの3つの分類はざっくり言えば、有形固定資産は機械設備や建造物など人が作り出した固定資産、有形非生産資産は土地など人が作り出したものではない固定資産、無形固定資産は特許権・著作権・使用権・ソフトウェアなどの形のない資産のことです。
それにしても関連する表の中のひとつだけこっそりと費目順序を変えるなんて何を考えているのでしょうか。お役人てのはこんな細かい所にこだわるもんだと思ってたのに・・ぶつぶつぶつぶつ。はっ、失礼しました。
なお期末貸借対照表と資本調達は1980年からのデータですが、調整は1981年からのデータで1年のずれがありますので、勘違いすると計算が合わなくなります。<=1回勘違いしたと白状しているようなもんだな(^_^)
さてお待たせしました。国民経済計算のデータから資産変動の中の付加価値による分(資本調達)と調整の額の推移をグラフ化してみました。縦軸はすべて10億円単位ですが、グラフにより目盛の大きさと値の範囲が違いますから御注意下さい。
Gr.1) 国民資産総額の推移
Gr.2) 国民資産(全資産)変動の推移
Gr.3) 国民資産(生産資産)変動の推移
Gr.4) 国民資産(有形非生産資産)変動の推移
Gr.5) 国民資産(金融資産)変動の推移
これを見ると調整による変動が調達による変動に匹敵するかそれ以上に大きいことがわかります。特に有形非生産資産すなわち土地の変動は調整2すなわち市場価格変動がほとんどを占めていて、1991-2年からのバブル崩壊の様子が見て取れます。まあ定義通りに人が生産しない資産ですから調達による変動はほとんどあり得ないのは確かです。といって価格変化による分がすべて幻とも言えません。土地が有効活用されて収益が上がるようになれば、その価格が高くなってもよいからです。
また以下のようなことも読みとれますが、それがどういう意味を持つのかはわかりかねます。
・90年以降は総資産額はほぼ一定(Gr.1)、つまり成長が止まった?
・総資産額中の金融資産比率は80年代の約55%から一貫して増加したが、
2000年からは約70%でほぼ一定している(Gr.1)。
・生産資産総額は着実に増加しているようだが2009年に初めて減少した(Gr.1)。
この減少要因は調整2つまり評価損失が大きい(Gr.2)。
恐らく2011年も生産資産総額は大きく減少するのでしょうねえ(-_-)。まさしく突発事態による損壊ということです。
さていわゆる経済危機の時には大抵は調整部分がマイナスになると考えられます。となると原理的には誰もが損失を被り得した者などいないということもあり得るわけで、「消滅した資産は誰が持っていったのだ?」「損した者がいるなら、一体だれが得をしているんだ?」などというありがちな問い4)は的外れであり得るということがわかります。もちろん中にはうまく立ち回って儲けた者もいるでしょうが、何者かが儲けようとして調整部分がマイナスになるように仕向けて、思惑通りに儲けたということではないでしょう。ゼロサムゲームならば存した者がいれば得した者がいるはずですが、マイナスサムならば全員が損することもあり得るからです。要するに自然科学におけるエネルギー保存則と同様な価値保存則というものは経済学では成り立たないということです。それでもフローの収支計算では、価値保存則とでもいうべきものを前提に計算するのではありますが。
----参考文献----
1) 内閣府HP (国民経済計算>国民経済計算確報>統計表一覧)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/kakuhou/kekka/h22_kaku/h22_kaku_top.html
2) 内閣府HP (国民経済計算>基礎から分かる国民経済計算>解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」)
解説パンフレット「新しい国民経済計算(93SNA)」
3) 内閣府HP (国民経済計算>四半期別GDP速報>用語の解説)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sokuhou/kekka/yougo/kaisetsu.html
4) 例えば、中野剛志;柴山桂太『グローバル恐慌の真相』集英社(2011/12/16)のp105「不安定な経済で得をするのは金融資本」前後。ただし、金融危機で得するとは明確には述べていない。ではいつのどんな利得をどこの金融資本が得たのかというのは、どうも具体的に不明確である。どうも「グローバル化による利得」を誰が得たのかという話のように読めそうなのだが、「グローバル化は必ず利得を生む」という前提は著者達の主張に合わないような気もしてよくわからない。
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