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コロナも国により(2)

2020-04-12 07:52:05 | 医学
 日本の対応は生ぬるいという批判が世界中から指摘されている、という報道が出回っています。個人的見解としては、外野の(善意からではあろうが)無責任な見解をいちいち取り入れる必要はないと思っています。日本の一市民としては対策班の判断を信頼しておくしかないでしょう。
 マスコミ報道では批判的見解だけがフイルターされているという可能性もありますしね。むろん、もっと厳しくしたほうが良いのか、むしろやり過ぎなのか、は結果でしかわかりませんし、結果が出た後でも別の対応を取った場合との比較はできませんから、永久に優劣は不明かも知れません。現時点で専門家と言えそうな人々の間でも両方の見解はあるようです。

 さらに、ヨーロッパ諸国では自分たちの取った厳しい手段が効果を示し始めてもいるらしいという結果を受けて、国情の違いも考えずにそれが唯一の正解と考える人も多いことでしょう。諸国の対応策は様々ですが、以下の4分類がある程度細かくてわかりやすいように思います。

 ニューズウィークのコラム(2020/04/03)木村正人「新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆発の警告」。
 (1)中国の国家統制型フル・ロックダウン
  中国共産党の威信を守るためなら情報操作や経済的な損失も厭わない。
 (2)欧州の段階的ロックダウン
  欧州各国とも当初は自己隔離・社会的距離の推奨・イベント禁止・休校措置・都市封鎖を段階的に導入していく
  方針だったが、新型コロナウイルスの猛威の前に瞬く間に都市封鎖に追い込まれる。
 (3)日本やスウェーデンの「大人の対応」
  自由民主主義国家の最後の砦として市民に「大人の対応」をお願いして感染をコントロールする。
 (4)韓国やドイツのPCR検査のローラー作戦
  PCR検査のローラー作戦を実施して見えない感染者をあぶり出し、隔離して感染を封じ込める。
  PCR検査のキャパシティーのない国には迅速検査キットができるまではとても真似できない。
  韓国は欧州諸国とは違って個人のプライバシーを犠牲にして感染経路を虱(しらみ)潰しにしている。

 ただし、この4つがすべてでもありません。あまり知られていない2つの国の対応を見てみましょう。

【先手必勝、台湾の戦略】
 (04/06)の記事では「初戦では、おしなべて敵を甘く見すぎていたことは確かであろう」と書きましたが、その愚を侵さなかった唯一とも言える国が台湾です。

 中国と密接な台湾は、なぜ感染者が50人規模にとどまっているのか?(2020/03/16)[日経バオテク]
  ・新型コロナウイルスの対策第1弾が2019年12月時点に既に始まっていた。
   「中国政府がヒト-ヒト感染を認めたのは1月20日になってからだ。また、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したのも1月末だ。台湾政府がそのような発表が行われるよりも一足も二足も先に対策を実施したのは、」
  ・鴻海(ホンハイ)に刺激を受けて民間企業の対策も進む
  ・2004年に国家衛生指揮中心(National Health Command Center)を立ち上げ、全方位的な防災システムを構築していた
  ・公衆衛生のプロが、政権の主要ポストにそろっている (これは偶然でしょうか?)
  ・中国現地の生の情報を素早く収集し分析できる強み
   「台湾のニュース番組では、中国現地で撮影された動画情報がそのまま流れることもしばしばで、中国の生情報に接するのは日常茶飯事である。同じ中国語の土俵にいる台湾では、現地情報(時には噂レベルでも)をそのまま入手し、台湾内で報道・共有できるため、情報の流通速度も速い。」

  韓国も中国と密接という点では似ているかも知れませんが、言語の壁はやはりあったでしょう。

 台湾、初動成功も試練に直面 コロナ対策、中国封じても海外ルートの感染者急増(2020/03/23)[時事ドットコム]
 台湾の衛生福利部疾病管制署(CDC)によると、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)では73人が犠牲になった。この時の経験を、初動の段階で十分に生かした格好だ。
 SARSは03年7月、最後まで残っていた台湾の感染地域指定が解除され、世界保健機関(WHO)が「制圧宣言」を行った。台湾が最後まで残ったのは「一つの中国」にこだわる中国の圧力で台湾がWHOから排除されていることが理由の一つと考えられ、台湾の感染症に対する危機意識を一段階強いものにしている。

 なお台湾の対策のいくつかはNHKスペシャル「“パンデミック”との闘い」(2020/03/22 21:00)でも紹介されていました。国家衛生指揮中心に一本化されている辺りが強さのひとつでしょうが、登校を続けさせながらも細かい対策を立てているというのは日本でも参考になるとの話が出ていました。


【何もしない??、スウェーデンの戦略】
 とあるテレビ番組でゲストの医療関係者から「唯一スウェーデンだけが取っている何もしない戦略」との発言があり、どういうことかと調べてみました。で、まとまっていたのが上記にも紹介した木村正人のコラムです。ここでは「スウェーデンだけ」という解釈ではなく、スウェーデンと日本をまとめて「大人の対応」と分類しています。

 ニューズウィークのコラム(2020/04/03)木村正人「新型コロナで都市封鎖しないスウェーデンに、感染爆発の警告」。
  感染を防ぐため気分の優れない人、70歳以上の高齢者には自己隔離が勧告されているが、50人以上の集会が禁止されたのは3月29日からと遅かった。可能な範囲で在宅勤務と在宅学習が促され、バーやレストランは濃厚接触を避けるため座席があれば接客が認められている。
  スウェーデンの社会契約は歴史的に市民の国家への信頼、国家の市民への信頼、市民間の信頼に基づくとされる。単身世帯の割合はスウェーデン50%超、日本はちなみに35%。イタリアやスペインは大家族の世帯も少なくなく人間関係の距離が近い。スウェーデンはその対極にある。

<新型コロナ>封鎖より自主性を スウェーデンの挑戦(2020/04/07)[東京新聞]
  ロベーン首相は先月二十二日の演説で「私たち大人はまさに大人でなくてはならない。全員が人としての責任を果たすはずだ」と発言。国民自ら在宅勤務をし、高齢者への接触や大人数の集会を避ければ、規制がなくとも感染拡大は防げるとしている。
  スウェーデン式対策は全面封鎖より経済への打撃が少ない。三日、安倍晋三首相はロベーン氏と電話協議。「両国は類似した科学的知見に基づくアプローチをとっている」と認識を共にした。日本でも七日に緊急事態宣言が発令されるが、安倍首相は都市封鎖は行わない方針を明言している。

 まさに国情に沿った対策と言えますが、以上の通り、決して「何もしない」のではありません。上記の医療関係者の発言はちょっと不正確過ぎて誤解を招きますよね。


話は変わって
 上記の通り、現時点で一番成功している国は台湾であることは確実だと思うのですが、あまり知られていません。そりゃあ、学ぼうとしても他の国々では今更手遅れという問題はありますけど。一旦拡大してピークアウトさせた韓国や中国の事例なら今後の参考にしやすいかもなあ、という点はあるかとも思います。とはいえ、それも国情次第という点はあり、韓国やドイツの検査ローラー作戦はそれだけの戦力を保持していたからこそと言えます。日本では現状でも検査技師に過剰な負担がかかっているらしいですし。

 世界で賞賛される「韓国」コロナ対策の凄み(2020/03/27)[東洋経済]

 どこまでが他国の参考になるかはともかく、確かに韓国は賞賛されるべきでしょう。世界保健機関の事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェソスが「「韓国その他で得られた教訓を応用する」よう促した」のも妥当な話でしょう。でも、その同じ人物が「台湾と外交部から3カ月を超える人身攻撃を受けている」という根拠も示さない公式発言をするとは何を考えているのでしょうか? 世界中が結束しなくてはいけない状況で国際機関のトップがトランプみたいな発言をするのは如何なものなのか?
 WHO非加盟国は結束の輪から外してもいいとでも言うのでしょうか?

WHO事務局長「台湾から人種的な中傷」に台湾が反論(2020/04/11)[NHKニュース]
 テドロス事務局長の主張には蔡英文総統も反論していて、9日、自身のフェイスブックに「台湾は長年国際組織から排除され、誰よりも差別と孤立の味を分かっている。テドロス事務局長にはぜひ台湾に来てもらい、差別を受けながらも国際社会に貢献しようと取り組む姿を見てほしい」と書き込んでいます。

 この件について産経新聞はかなり厳しい論調です。
【主張】WHOテドロス氏 事務局長の任に堪えない(2020/04/11)[産経新聞]
 テドロス氏は8日の記者会見で、台湾から「人種差別を含む中傷を3カ月にわたり受けた」と言い出し、台湾の外交部長(外相に相当)が関わったと非難した。

 WHOの、と言うよりはテドロス事務局長の中国寄りの姿勢という噂は米国大統領が公式に表明して広く知られました。トランプ発言だけでは信憑性はゼロに近いのですが、そうした見解はあるようです。

新型肺炎の感染拡大で分かった、世界が「中国に忖度」する深刻さ(2020/02/11,page-3)[上久保誠人/ダイヤモンド・オンライン]
中国寄り批判受けるWHO事務局長、「パンデミック宣言」の本当の狙い(2020/03/19)[白川司/ダイヤモンド・オンライン]
「中国のウソ」を葬るため、日本はコロナに絶対に負けられない理由(2020/03/24,page-3)[上久保誠人/ダイヤモンド・オンライン]

 とはいえ、この事態の中で公式に中国に喧嘩を売るような米国の姿勢も褒められたものではないとも思いますが、喧嘩を売って交渉に持ち込むのがトランプ流みたいですからねえ。


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