人の体から飛び出して何かに付着したウイルスがどれくらい活性を残しているのかについて色々と実験がなされているようです。例えばNational Geographic「消毒はせっけんでOK、漂白剤よりいい理由とは、新型コロナ対策」(2020/03/23)には、学術誌「New England Journal of Medicine (03/17)」に発表の研究として、「SARS-CoV-2は、ボール紙の表面では24時間、ステンレス鋼の表面では2日間、ポリプロピレン(硬質プラスチックの一種)の表面では3日間生存可能なことがわかった。」と紹介されています。元論文は"How Long Does Coronavirus Survive in the Air and on Surfaces?" (March 17, 2020)と思われます。
また他にも、新しい風<公益社団法人 宮崎市郡医師会のBLOG>やNews Week (2020/04/17)でも別の研究結果が紹介されています。数値はともかく傾向は同じで、紙や衣類など多孔質のものに付着した場合はかなり速やかに失活しますが、すべすべの表面では数日間立たないと検出限界以下にはならないという結果です。
実はこの傾向そのものは周知のことらしくて、衣服などについても比較的早く失活するからあまり気にしすぎなくても良いというアドバイスなども言われています。咳エチケットで「ハンカチや肘で遮って」ということも言われていましたが、「そのハンカチや服の肘部分はどうするの?」という疑問には「失活するからあまり気にしすぎないで」とされていたように思います。また飛沫感染と空気感染(2020/04/11)で紹介したけやきトータルクリニックのブログ(2018/01)にも同様な傾向のデータが既に紹介されていました。
上記の私のブログ記事「飛沫感染と空気感染(2020/04/11)」でも紹介したように、「ウイルスは乾燥に弱くて多孔質物体に付着しても乾燥して失活する」などという説明がなされるようですが[Ref-1]、この説明では金属やプラスチックのすへすべ表面ではなぜ失活しにくいのかが説明できないと思います。なぜなら乾燥のしやすさだけなら金属やプラスチックの表面は多孔質と同様かそれ以上だと考えられるからです。むしろ多孔質の方が、その孔の中に水分を保持しやすいことが多いでしょう。
ではなぜ多孔質の方がすへすべ表面よりも速く失活するのでしょうか? 私が考えるに、物の表面でのウイルスの失活原因として一番怪しいのは酸素です。コロナウイルスやインフルエンザウイルスは脂質の膜を持つエンベロープ・ウイルスですが、脂質はまさに空気中の酸素により酸化されやすい有機化合物です。エンベロープ(envelope)を持たずタンパク質の殻であるカプシッド(capsid)で核酸を守っているウイルスにしても、タンパク質だって酸素による酸化は受けるはずです。では、すべすべの表面に付着したウイルスはなぜ酸素の攻撃を受けにくいのでしょうか? 乾燥してしまった後では、一見して空気と触れる程度に多孔質表面と違いがあるようには見えないのに。
ウイルスを含んだ飛沫がすべすべの表面に付着して乾燥した場合、何が起きるでしょうか? 元は唾液などだった飛沫ですから、乾燥すれば溶けていた諸々の成分が固化します。それほど物質が溶けているようにも見えない水滴でも、すべすべの表面に付着して乾いた後に、何やら痕跡が残ることを御覧になった人は多いのではないでしょうか? こうなると、ウイルスは固化した物質の中に閉じ込められて、酸素から守られることになりそうです。
これが多孔質体に付着した場合は、液滴全体が細孔の表面に薄く広がって空気との接触面積が増えます。結果として酸素と反応しやすくなり酸化による失活が進むと考えられそうです。細菌であればバイオフィルムを作って自分たちを守ったりするものが多いのですが、ウイルスには自らバイオフィルムを作る力はありませんから、飛沫中の成分や付着前の表面の汚れなどが固化してバイオフィルムの役割を果たしてしまうということです。
現代の科学文明の日常はすべすべの表面にあふれています。これが近代以前なら、すべすべな物体はガラスか金属くらいだし、金属だって錆びたり傷ついたりして粗面である方が多かったはずです。なにしろ汚れが取りやすくて見た目も美しく衛生的に見えますから、すべすべな物体は現代人に好まれます。風呂場、トイレ、キッチンといった水回りはもちろん、机や床やドアなども素材は粗面でも表面はつるつるのコーティングが施されることが増えています。その衛生的に見えるつるつる面の方がウイルスが残りやすいというのは、なかなかに意外な事実です。
最後に毒消しのために、今回見つけたなかなかに良い情報を発信している[Ref-1a]のサイトから引用しておきます。
引用:「対照とする群が直ぐに不活化しない、実験室での実験(ラボテスト)」
私のコメント:唐突でわかりにくいのですが、そもそもウイルスが不活化しにくい条件での実験だと強調しているのだと思います。
引用:「インフルエンザウイルスが環境中の何かの表面に付着していたとしても、一晩(8時間以上)経てばそこからヒトへ感染する可能性は極めて低いというのが、感染症の研究者の大方の意見です。」
引用:「あまりにも神経質になり過ぎて、床、壁、天井、窓の外まで消毒剤を噴霧して徹底的に拭かなければ怖いなどとは決して考えないでください。」
引用:「室内の床に新型コロナウイルスが付着していたとしても何日間も不活化せず(感染力を失わず)、感染リスクがあると考えるのは精神的に良くないのでやめた方が良いでしょう。」
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Ref-1)
1a) エフシージー総研・IPM(Integrated pest Management; 総合的有害生物管理)研究室「第5回:新型コロナウイルスだけが 不活化しにくいのか?」。
咳やクシャミをして、その飛沫核(ウイルスがつばの水分と浮遊塵の粒子を纏った飛沫。サイズは5μm以上)が、表面が滑面(ツルツルしている)や撥水性の素材に付着した場合、水分に保護されたウイルスが少し長い時間生存することが予想されます。~一方、衣類や布製ソファーのような水分が吸収されやすい素材の場合は、滑面素材より感染リスクが低いといえます。
なお、このサイトはなかなか質の良い情報を発信していると思います。後半では、物体表面でのウイルス失活実験が少し具体的に紹介されています。
また他にも、新しい風<公益社団法人 宮崎市郡医師会のBLOG>やNews Week (2020/04/17)でも別の研究結果が紹介されています。数値はともかく傾向は同じで、紙や衣類など多孔質のものに付着した場合はかなり速やかに失活しますが、すべすべの表面では数日間立たないと検出限界以下にはならないという結果です。
実はこの傾向そのものは周知のことらしくて、衣服などについても比較的早く失活するからあまり気にしすぎなくても良いというアドバイスなども言われています。咳エチケットで「ハンカチや肘で遮って」ということも言われていましたが、「そのハンカチや服の肘部分はどうするの?」という疑問には「失活するからあまり気にしすぎないで」とされていたように思います。また飛沫感染と空気感染(2020/04/11)で紹介したけやきトータルクリニックのブログ(2018/01)にも同様な傾向のデータが既に紹介されていました。
上記の私のブログ記事「飛沫感染と空気感染(2020/04/11)」でも紹介したように、「ウイルスは乾燥に弱くて多孔質物体に付着しても乾燥して失活する」などという説明がなされるようですが[Ref-1]、この説明では金属やプラスチックのすへすべ表面ではなぜ失活しにくいのかが説明できないと思います。なぜなら乾燥のしやすさだけなら金属やプラスチックの表面は多孔質と同様かそれ以上だと考えられるからです。むしろ多孔質の方が、その孔の中に水分を保持しやすいことが多いでしょう。
ではなぜ多孔質の方がすへすべ表面よりも速く失活するのでしょうか? 私が考えるに、物の表面でのウイルスの失活原因として一番怪しいのは酸素です。コロナウイルスやインフルエンザウイルスは脂質の膜を持つエンベロープ・ウイルスですが、脂質はまさに空気中の酸素により酸化されやすい有機化合物です。エンベロープ(envelope)を持たずタンパク質の殻であるカプシッド(capsid)で核酸を守っているウイルスにしても、タンパク質だって酸素による酸化は受けるはずです。では、すべすべの表面に付着したウイルスはなぜ酸素の攻撃を受けにくいのでしょうか? 乾燥してしまった後では、一見して空気と触れる程度に多孔質表面と違いがあるようには見えないのに。
ウイルスを含んだ飛沫がすべすべの表面に付着して乾燥した場合、何が起きるでしょうか? 元は唾液などだった飛沫ですから、乾燥すれば溶けていた諸々の成分が固化します。それほど物質が溶けているようにも見えない水滴でも、すべすべの表面に付着して乾いた後に、何やら痕跡が残ることを御覧になった人は多いのではないでしょうか? こうなると、ウイルスは固化した物質の中に閉じ込められて、酸素から守られることになりそうです。
これが多孔質体に付着した場合は、液滴全体が細孔の表面に薄く広がって空気との接触面積が増えます。結果として酸素と反応しやすくなり酸化による失活が進むと考えられそうです。細菌であればバイオフィルムを作って自分たちを守ったりするものが多いのですが、ウイルスには自らバイオフィルムを作る力はありませんから、飛沫中の成分や付着前の表面の汚れなどが固化してバイオフィルムの役割を果たしてしまうということです。
現代の科学文明の日常はすべすべの表面にあふれています。これが近代以前なら、すべすべな物体はガラスか金属くらいだし、金属だって錆びたり傷ついたりして粗面である方が多かったはずです。なにしろ汚れが取りやすくて見た目も美しく衛生的に見えますから、すべすべな物体は現代人に好まれます。風呂場、トイレ、キッチンといった水回りはもちろん、机や床やドアなども素材は粗面でも表面はつるつるのコーティングが施されることが増えています。その衛生的に見えるつるつる面の方がウイルスが残りやすいというのは、なかなかに意外な事実です。
最後に毒消しのために、今回見つけたなかなかに良い情報を発信している[Ref-1a]のサイトから引用しておきます。
引用:「対照とする群が直ぐに不活化しない、実験室での実験(ラボテスト)」
私のコメント:唐突でわかりにくいのですが、そもそもウイルスが不活化しにくい条件での実験だと強調しているのだと思います。
引用:「インフルエンザウイルスが環境中の何かの表面に付着していたとしても、一晩(8時間以上)経てばそこからヒトへ感染する可能性は極めて低いというのが、感染症の研究者の大方の意見です。」
引用:「あまりにも神経質になり過ぎて、床、壁、天井、窓の外まで消毒剤を噴霧して徹底的に拭かなければ怖いなどとは決して考えないでください。」
引用:「室内の床に新型コロナウイルスが付着していたとしても何日間も不活化せず(感染力を失わず)、感染リスクがあると考えるのは精神的に良くないのでやめた方が良いでしょう。」
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Ref-1)
1a) エフシージー総研・IPM(Integrated pest Management; 総合的有害生物管理)研究室「第5回:新型コロナウイルスだけが 不活化しにくいのか?」。
咳やクシャミをして、その飛沫核(ウイルスがつばの水分と浮遊塵の粒子を纏った飛沫。サイズは5μm以上)が、表面が滑面(ツルツルしている)や撥水性の素材に付着した場合、水分に保護されたウイルスが少し長い時間生存することが予想されます。~一方、衣類や布製ソファーのような水分が吸収されやすい素材の場合は、滑面素材より感染リスクが低いといえます。
なお、このサイトはなかなか質の良い情報を発信していると思います。後半では、物体表面でのウイルス失活実験が少し具体的に紹介されています。
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