土手猫の手

《Plala Broach からお引っ越し》

No.74「迂回路」

2009-07-27 17:09:19 | 掌編(創作)
お寺さんの造りは、かくも不思議だ。
こんな所に、と思う様な所に、建物で回(めぐ)らせた囲いの中に庭が有ったりする。

たぶん法事だったのだろう。私は、その日、小学校へ上がったかどうかの年齢だった。
まるで、待合の座敷で法要が始まるまでの間の子供は異邦人で、誰の相手をする必要も無く、私は自分の目だけと会話をしていた。
他者との関わりを遮断したそこで、私は、その目新しい瞬間を楽しんでいた。誰も私の邪魔をしない。
好奇心とも放心とも区別のつかない感覚に支配された時間、私の目が認識していたのは開けられた雪見障子の硝子越しに小さく覗く世界だった。

部屋の外、囲いの中に有るそこは。中央に設えられた一間程の庭には、ささやかな竹の植込みと砂礫をあしらった道に雪見灯篭が置かれていて、渡り廊下を阻む、それが繋ぐ、池の様であった。
渡る回廊の向こう側は給仕場の様で。隔てた池越しに、茶碗や茶托、ジャーを抱えたお給仕さんが、ひっきりなしに出入りするのが見える。
茶菓子の載せられた盆、吸い物の椀、ビール、それらが運ばれる様を向こう側の景色を、飽きずにずっと私は見つめていた。
ふいに、名前を呼ばれた気がして振り返ると、親戚だろう見知らぬ小父さんが菓子盆から何やら分らない包みを一つ掴んで私の方へ歩いて来る。目の前でしゃがんだ、その人は包みを差し出して出て行く。
手の平の菓子に。締められた硝子戸を追うと、そこには目隠しをするかの様に雨戸が立てられていた。
音などしなかった。
光は、かろうじて格子窓から洩れている。そこから見える向こうは…色褪せた断片。
雨の様子も無い。ほんの一瞬の出来事。
消えた景色と引き換えの…菓子、を。
仕方無く、私は味わった。


2009.7.27 ?(猫目寝子)


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