Waltz for Debby

2006-12-02 13:47:07 | discography

ひょっとして、このCDを最初に買ったのは間違いだったのではないだろうか?

このCD盤ではボーナストラックが4曲ついている。ライブ録音の別テイクが入っているのだが、オリジナルの曲と並べてある。つまり、LPと同じ構成にするには、曲をところどころ飛ばさないといけないのである。

僕はこのCDを、たしか大きなレコード屋に行ったときに「在庫セール」みたいな形でワゴンで売られているので見つけたと思う。ジャズといってもまだキース・ジャレットくらいしか知らない時代、ピアノトリオを聴いてみようと思って物色していて「まあ、これでいいや」という感じで買った記憶がある。少し安くなっているから、まあ外れても、と考えたのだ。聴きはじめてからも最初のうちは、素人にもとっつきやすいメロディーとか「俺が俺が」と出てこないベース・ドラムがいい感じだなあ、と気に入って繰り返し聴くようになった程度であった。「安いわりにいい買い物だった」くらいの。

その凄さは、わかる人にはすぐわかるのかもしれないが、このレコードをこういう買い方で入手するくらいの素人でも聴き込むとじわりと伝わってくる。とにかく「聴き飽きる」ということがまったくないのだ。アドリブの1音1音まですっかり覚えきってしまっても、音が立ち上がるときのわくわくする感じ、揺らぐリズムの中に浸る安心感は、いつもと同じように僕の中に沸き起こる。キャッチーなだけでは終わらない美しい主題、ピアノと対峙しながら決して追い越してしまうことのないベース、その二人をやわらかく見守るかのようなブラッシング。充ち足りた気分が、音楽の形をとって僕に染み入ってくる。ビル・エヴァンスとスコット・ラファロの幸福な関係がたった3枚のレコードを吹き込む時間しか続かなかったという悲運のエピソードが、また何かそこに運命的なものまで与えてしまうようにも思える。

最近はボーナストラックを飛ばすように機械に覚えさせて、LPの時の構成で聴くことが多い。どんなに疲れ切った時でも、1曲目の「My Foolish Heart」を聴くと気持ちが落ち着いてくる。あまり使いたくない言葉だけど「癒し」ってこういうことなんでしょうかね。

その後もジャズに分類されるCDをいくつか買ったけど、しばらくすると棚にしまいこまれ、ダンボールに入って押入れの中、ということが多い。ジャズだけでなく、ロックでもポップでもクラシックでも、これだけ繰り返し聞いていつも最初と変わらない強さで語りかけてくるCDはあまりない。特定の演奏者、音楽家ではなく「何か聴きたいな」と思ったときに、このCDに手が伸びることが多くなってから、そういえばCDを買うことも少なくなってしまったような気がする。なんだか、それでよかったのかな、と時々思う。もちろんお小遣いの面では助かってるわけなんですけど。

Bill Evans Trio「Waltz for Debby」RIVERSIDE OJCCD-210-2