おはようございます。
金融庁が市場のニーズもないのに強引に通そうとしているフェア・ディスクロージャー規制の弊害
日経)アナリスト不在の不幸 強まる規制、荒れる株価
批判が高まっているようです。要点は下記のとおりです。
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・企業の業績と株価を分析するセクターアナリストと呼ばれる人たちは、今年前半に仕事が激変したそうです。
・昨年後半から欧州系証券2社のアナリストが企業決算の未公表情報を一部の顧客に知らせていた問題が発覚し、これを契機に野村証券などは2015年10~12月期決算から「プレビュー取材」と呼ぶ決算前の企業への取材活動を取りやめたそうです。これが今春の16年3月期決算では大半の証券会社に広がり、この結果、市場にアナリストの見方が織り込まれなくなり、株価形成が歪んでしまったということです。
・金融庁が猿真似しようとしている米国ではすでに株価が歪んでいるそうです。野村証券の村上昭博氏は「規制が市場の価格形成を変えた典型例」ということで、「米国でも同じことが起きた」話しています。米国は2000年10月、企業が未公表の重要情報を選択的に伝えることを禁じる「フェアディスクロージャー(FD)規制」を導入し、これ以降、企業の情報開示が後退し、アナリスト予想が当たらなくなったそうです。
・しかし、これと同じことを金融庁は現在、日本版FD規制の法制化を進めているわけです。素案では「早耳情報に基づく短期的なトレーディングではなく、中長期的な視点に立って投資を行うという投資家の意識変革を促す」との意義がうたわれましたが、かえって、市場のボラティリティを上げる結果になっているようです。
・機関投資家の間では、ふたを開けるまで分からないという意味で「決算ギャンブル」との言葉がはやっている市場になってしまったそうです。
・アナリストがいなくなった市場で栄えるのはコンピューターによる短期取引と株価指数連動のパッシブ運用で、リポートを読み込んでいた個人投資家は今でも投資情報の減少に直面しているそうです。
・金融庁の新規制が「角を矯めて牛を殺すことにならなければいいのだが」と結んでいます。
金融庁が市場のニーズもないのに強引に通そうとしているフェア・ディスクロージャー規制の弊害
日経)アナリスト不在の不幸 強まる規制、荒れる株価
批判が高まっているようです。要点は下記のとおりです。
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・企業の業績と株価を分析するセクターアナリストと呼ばれる人たちは、今年前半に仕事が激変したそうです。
・昨年後半から欧州系証券2社のアナリストが企業決算の未公表情報を一部の顧客に知らせていた問題が発覚し、これを契機に野村証券などは2015年10~12月期決算から「プレビュー取材」と呼ぶ決算前の企業への取材活動を取りやめたそうです。これが今春の16年3月期決算では大半の証券会社に広がり、この結果、市場にアナリストの見方が織り込まれなくなり、株価形成が歪んでしまったということです。
・金融庁が猿真似しようとしている米国ではすでに株価が歪んでいるそうです。野村証券の村上昭博氏は「規制が市場の価格形成を変えた典型例」ということで、「米国でも同じことが起きた」話しています。米国は2000年10月、企業が未公表の重要情報を選択的に伝えることを禁じる「フェアディスクロージャー(FD)規制」を導入し、これ以降、企業の情報開示が後退し、アナリスト予想が当たらなくなったそうです。
・しかし、これと同じことを金融庁は現在、日本版FD規制の法制化を進めているわけです。素案では「早耳情報に基づく短期的なトレーディングではなく、中長期的な視点に立って投資を行うという投資家の意識変革を促す」との意義がうたわれましたが、かえって、市場のボラティリティを上げる結果になっているようです。
・機関投資家の間では、ふたを開けるまで分からないという意味で「決算ギャンブル」との言葉がはやっている市場になってしまったそうです。
・アナリストがいなくなった市場で栄えるのはコンピューターによる短期取引と株価指数連動のパッシブ運用で、リポートを読み込んでいた個人投資家は今でも投資情報の減少に直面しているそうです。
・金融庁の新規制が「角を矯めて牛を殺すことにならなければいいのだが」と結んでいます。
やはり金融庁の組織と予算は肥大化していました。「フェア・ディスクロージャー規制」の名のもとに上場企業を四六時中監視するには当然、人員が必要で予算も膨張するでしょう。社会福祉など予算が必要な先は多く、さらに配偶者控除の廃止など国民に痛みを伴うを税負担を増やそうとしている中で、金融庁だけ人と予算が膨張することは、国民から支持が得られるのでしょうか。時期の国会に法律が提出されるとすれば、政治的な大きなテーマになるのは必至です。
日経)福島廃炉・賠償費、20兆円に 想定の2倍 経産省推計 国民負担が増大、東電へ融資拡大
2012-08-19に書いた日記「民主が「2030年原発ゼロ」に布石ー高橋洋氏を内閣府参与に起用」で指摘したように、4年以上前から福島原発の事故に関連する費用が莫大になることはわかっていました。別に当ブログ執筆者が先見力があるなどと言うつもりはなく、大半の国民は当時から政府が言うような額では到底おさまらないだろうなと予想していたはずです。だからこそ、原発が再稼働しようとするたびに反対が起きて稼働できないのは、次に事故が起こったら同様かそれ以上にお金がかかるし、人だってたくさん死ぬかもしれないと思っているからです。
東洋経済オンラインの記事「政府はまず「原発は高コスト」と認めよ 富士通総研の高橋洋・主任研究員に聞く」のように、原発は自然エネルギーよりも高いコストの電源のはずですが、政府と経産省は事実を覆い隠し、国民の希望と真逆の方向に進んでいます。
2012-08-19に書いた日記「民主が「2030年原発ゼロ」に布石ー高橋洋氏を内閣府参与に起用」で指摘したように、4年以上前から福島原発の事故に関連する費用が莫大になることはわかっていました。別に当ブログ執筆者が先見力があるなどと言うつもりはなく、大半の国民は当時から政府が言うような額では到底おさまらないだろうなと予想していたはずです。だからこそ、原発が再稼働しようとするたびに反対が起きて稼働できないのは、次に事故が起こったら同様かそれ以上にお金がかかるし、人だってたくさん死ぬかもしれないと思っているからです。
東洋経済オンラインの記事「政府はまず「原発は高コスト」と認めよ 富士通総研の高橋洋・主任研究員に聞く」のように、原発は自然エネルギーよりも高いコストの電源のはずですが、政府と経産省は事実を覆い隠し、国民の希望と真逆の方向に進んでいます。
日経新聞が25日の朝刊で金融庁が次の通常国会に提出を目指している新規制の問題点を報じています。
サイトへ→企業情報開示・新規制は必要か(下) 何をめざすのか明確に NEC最高財務責任者=CFO 川島勇氏(2016/11/25)
サイトへ→対話の場、短期的に混乱 大和証券投資信託委託調査部長 菊池勝也氏(2016/11/25)
サイトへ→企業情報開示・新規制は必要か(上)市場への情報減少を懸念 野村総合研究所主席研究員 大崎貞和氏(2016/11/23)
サイトへ→法制化よりルール改善を 西村あさひ法律事務所弁護士 木目田裕氏(2016/11/23)
サイトへ→「企業情報開示の新ルール、報道機関は「公表」対象外 金融庁案」(2016/11/21)
サイトへ→<解説>一段の規制、開示後退懸念(2016/11/22)
サイトへ→市場、戸惑う情報減少 決算後の株価変動大きく(2016/11/8)
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企業情報開示・新規制は必要か(下) 何をめざすのか明確に NEC最高財務責任者=CFO 川島勇氏 2016/11/25
――金融庁が法制化を検討している新たな情報開示のルールを企業としてどう受け止めますか。
「とても難しい問題だと思う。今後の議論を注視したいが、企業が情報を発信しにくくなり、投資家などに対して何も言えなくなってしまう可能性がある。具体的に『これはダメです』というルールや枠組みがないと、企業は運用できないのではないか」
――どのような影響があるのでしょうか。
「典型的なのは工場見学だろう。一部の投資家を招いて工場の稼働率などを説明する場合も規制の対象になるのだろうか。製品や技術開発も重要な投資情報になりうる。為替や金利の見方について話し、結果的に株価が動いたと判断されたらどうなるのか。企業が発信する情報は投資家によって受け止め方が違う。何でも規制となると企業は身動きが取れなくなる」
――新たな規制によって企業に公平で適時の開示を求め、投資家との対話を促進させたいとの狙いがあるようです。
「これまでもインサイダー取引規制や東京証券取引所の適時開示ルールを守りつつ、選択的な情報開示にならないように心がけてきた。例えば決算説明会後にはIRサイトで議事録を公開している。アナリストから質問があり、資料に出ていない数値を追加で回答していた場合、その場にいなかった人も確認できるようにするためだ」
「新たな規制で株式市場などのボラティリティー(変動率)を抑えたいのか、投資家のショートターミズム(短期主義)を回避したいのか。日本の株式市場でも空売りファンドが登場するなどグローバルな流れは無視できない。何を目指すのかをより明確にした上で議論すべきだと思う」
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対話の場、短期的に混乱 大和証券投資信託委託調査部長 菊池勝也氏 2016/11/25
――企業の情報開示になぜ新たな規制が必要なのですか。
「企業の公正・公平な情報開示を促すために欧米ではフェア・ディスクロージャー・ルールを導入している。金融庁は日本も世界基準の透明な市場であると海外にアピールするために規制を検討しているのだろう」
――法制化で公平性は担保されますか。
「ルール作りの方向性にはおおむね賛成だ。ただ、法律に例外規定をひとつひとつ書き込むわけにはいかず、運用が硬直的になる。時代の変化に合わせた柔軟な仕組みにするには、法制化ではなくガイドラインなどが適切ではないか」
――開示規制の対象となる情報の範囲はどうあるべきですか。
「『投資判断に重要』という書き方だと範囲が広くなりすぎる。投資判断の基準は投資家ごとに様々だ。例えば『株価に対して影響のある情報』としたほうが企業は情報の線引きをしやすい」
「新たなルールは証券市場の健全な発展のために導入されるべきで、規制のための規制は不要だ。資本効率への企業の意識を高めた『伊藤リポート』のように導入の理念を書き込み、市場の理解を深めてほしい」
――米国では法制化で機関投資家と企業の1対1の対話の場が減ったとの指摘があります。
「短期的には情報開示に慎重になる企業が増えるかもしれない。1対1の対話の場で何を話していいのか整理するには時間がかかる。対話の場は少し混乱するだろう」
「ただでさえ対話に消極的な企業もある。新たなルールを企業が投資家と対話しない言い訳にしてはならない。投資家の側も複数が共同で企業と建設的な対話を目指すなどの対策を検討する必要がありそうだ」
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市場への情報減少を懸念 野村総合研究所主席研究員 大崎貞和氏 2016/11/23
――企業の情報開示に新たな規制を設ける狙いは何でしょうか。
「企業が特定の人だけに重要事実を伝えてはいけないという趣旨だ。一部の人だけが株を有利に売買できる情報を知るといった不公平な情報開示を防ぐ狙いだが、何でも公表すれば情報が行き渡るという考えは神話に近い。アナリストに情報をきちんと理解してもらって市場に伝えるのも間違ったやり方ではない」
――情報開示はどう変わりますか。
「一部のアナリストや機関投資家だけに重要事実を伝えることはできなくなる。伝えた場合はホームページなどで内容を速やかに公表する必要がある。先行して規制が導入された米国ではアナリストや機関投資家限定の会議を開けなくなった」
――規制される情報提供対象者を証券市場の関係者などに絞りました。
「報道機関は対象外とし、証券アナリストや機関投資家などを対象とした。情報の出し手側については非常に微妙で議論の余地がある。経営陣に限らず、株を売買する市場関係者と接する機会があれば全ての社員が対象になる可能性がある」
――企業の情報開示姿勢は変わりますか。
「市場に提供される情報が減少しないかは企業の姿勢にかかっている。規制対象だと思う情報を幅広くとらえすぎて萎縮すれば、情報は質量ともに低下する。金融庁や東京証券取引所は、上場企業にルールの趣旨と望ましい対応を伝えていかなければならない」
――海外投資家からの見方は改善されますか。
「もともと海外投資家が日本企業の情報開示をアンフェアだと思っていたのかは非常に疑問だ。海外勢は日本市場の売買の過半を占めるが、本当にアンフェアな市場なら取引しないだろう」
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法制化よりルール改善を 西村あさひ法律事務所弁護士 木目田裕氏 2016/11/23
――選択的な情報開示を禁止するルールの法制化が議論されています。
「必要なら東京証券取引所の適時開示ルールを改善して運用すればいい。これまでは誰に何を話したら問題なのか判断が難しく、企業や市場関係者の倫理観に任されてきた。これを法律にするには多くの除外事由を作らなければならない。規定も運用も難しい。法律にするのが適切なのかは疑問だ」
「インサイダー取引規制は実際に取引した事実が必要で適用要件が厳格だ。これに対し金融庁の案は情報を伝えただけで違反になる可能性がある。適用範囲が広い」
――違反企業には課徴金などの罰則を検討しています。
「日本では課徴金の意味が重い。企業が社会的な制裁を恐れて情報を開示しなくなる可能性がある。もし課徴金を課すならば勧告や命令で改善を促し、それでも対応しない場合に処罰するなど段階的な制度にすべきだ」
――取引先など守秘義務がある者が第三者に情報を伝達した場合でも、企業の責任が問われる可能性があります。
「情報流出を恐れて誰とも本当のことを話さなくなる。M&A(合併・買収)の交渉など公表できない情報は多い。一部の投資家が公表前の情報で不正な利益を得るのを防ごうとする制度整備の趣旨を逸脱している」
――投資家と企業の対話に影響はありますか。
「投資家は企業のことをもっと知りたいと思って対話している。企業が萎縮して何も話さなくなれば対話が後退する」
――報道の自由への影響をどう見ますか。
「不祥事が起きたときでも企業が情報を開示しない口実になりかねない。報道機関の活動を制限しないよう除外事由に明記すべきだ」
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<開示>一段の規制、開示後退懸念 2016/11/22
金融庁が示した素案は企業の情報開示を一段と後退させる懸念がある。対象となる重要情報の具体的な範囲は明記されず、規制の対象となる情報の受け手が広がる余地も残している。公正な情報開示を義務付ける制度は既にある。さらに金融商品取引法に盛り込めば屋上屋を架す規制になりかねず、企業が過度に萎縮して投資家が必要な情報を得られなくなる恐れがある。
金融庁などの動きをにらみ、既に企業は情報開示のあり方を見直している。東京エレクトロンは直近四半期の受注見通しの開示をやめた。「四半期ごとのガイダンスはミスリードになる」(河合利樹社長)との判断だ。ヤマダ電機は月次売上高の開示を取りやめた。
「投資家との対話に必要な情報を公正に開示していく姿勢に変わりない」(ソニー)との声もあるが、規制を盾に情報提供に後ろ向きになる可能性はある。開示内容や時期を企業の判断に委ねれば不正会計のような事態は発覚しにくくなる。米国で同様のルールを導入した際、企業が投資家との会合を見合わせるなどマイナスの影響が出たとの調査結果もある。
金融機関の担当者など守秘義務がある者への情報提供は規制対象ではない。ただ、その者が第三者に情報を伝えれば対象に含める可能性を残した。これには「規制対象が際限なく広がりかねない」(情報開示ルールに詳しい弁護士)といった見方が出ている。
公正な情報開示は極めて重要だ。その目的を担保しつつ企業と投資家はどう対峙していくのか。過度な規制は投資家との適切な対話を通じ、企業の成長を促す最近の流れとも逆行する。その影響は広く一般の個人投資家にも及ぶ。
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市場、戸惑う情報減少 決算後の株価変動大きく 2016/11/8
上場企業の2016年4~9月期の決算発表がピークを迎えた。米大統領選が市場の関心を集める中、企業分析に重きを置く投資家は個別株の値動きの大きさに戸惑っている。直近の収益動向を株価に十分に織り込めず、発表直後に大きく動く銘柄が急増した。原因を探ると多くの市場関係者を巻き込んだ、ある構造変化にたどり着く。
米大統領選を巡る不透明感が後退し日経平均株価が大幅反発した7日、逆行安になったのがインターネットイニシアティブだ。先週末に17年3月期の純利益予想を4割引き下げ、7日の株価は11%安となった。下落率は2年9カ月ぶりの大きさだ。イビデン、ファナック、住友電気工業、東京エレクトロン。いずれも決算発表を受けて株価が大きく上下した銘柄だ。
シンガポールを拠点とする日本株ヘッジファンドの運用責任者は悩ましげだ。昨年までは決算発表にかけて業績が上振れしそうな銘柄を買い、下振れしそうな銘柄を空売りすれば一定の投資収益を手にできた。だが「今年はその手法が通用しない」。企業の実態を絶え間なく株価に織り込むという市場の機能が失われつつあるからだ。一体、何が起きているのか。
今年から証券アナリストは原則として企業の業績を事前に調査できなくなった。昨年以降、ドイツ証券やクレディ・スイス証券で重要情報を一部の顧客だけに伝えていたことが判明し、金融庁や日本証券業協会でアナリストの役割を再定義する流れが強くなった。
野村証券は昨年末から企業のヒアリングに基づく決算前の業績予想をやめた。許斐潤エクイティ・リサーチ部長は「アナリストはより中長期の目線で企業を見る筋肉を鍛える必要がある」と語る。9月には世界の空調市場を分析する長文のリポートを出した。
日本は短期から長期にシフトしようとするが、事前調査が以前から禁止されてきた米国は意外な方向に進んでいる。ドローンを使って石油の備蓄状況を調べたり、人工衛星から米ウォルマートの駐車場を撮影して消費者の動向を調べたり。アナリストらが企業からの情報に頼らずに業績を分析する手法が広がっている。
「年金基金など資金の出し手は一定期間ごとの成果を求める」。最近来日した米運用会社の首脳に話を聞くと、四半期決算の重要性は薄れていないとの答えが返ってきた。一方で日本では決算短信を簡素化する動きが進む。政府の方針を受けて東京証券取引所は、17年3月末以降の決算発表時に損益計算書などの財務諸表の開示を省略し、後の開示を容認する方針だ。
企業の負担を減らして経営者と株主の対話を促し、中長期の企業価値の向上につなげるという名目だ。だが、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は「企業を定点観測する上で、四半期決算の情報が薄っぺらくなるのは困る」と当惑を隠さない。
企業情報を巡る枠組みは大きく変わろうとしている。多様な価値観が行き交う株式市場で「短期と長期」のバランスをどう保っていくのか。最適解を探る動きは、まだ緒に就いたばかりだ。
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サイトへ→<解説>一段の規制、開示後退懸念(2016/11/22)
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企業情報開示・新規制は必要か(下) 何をめざすのか明確に NEC最高財務責任者=CFO 川島勇氏 2016/11/25
――金融庁が法制化を検討している新たな情報開示のルールを企業としてどう受け止めますか。
「とても難しい問題だと思う。今後の議論を注視したいが、企業が情報を発信しにくくなり、投資家などに対して何も言えなくなってしまう可能性がある。具体的に『これはダメです』というルールや枠組みがないと、企業は運用できないのではないか」
――どのような影響があるのでしょうか。
「典型的なのは工場見学だろう。一部の投資家を招いて工場の稼働率などを説明する場合も規制の対象になるのだろうか。製品や技術開発も重要な投資情報になりうる。為替や金利の見方について話し、結果的に株価が動いたと判断されたらどうなるのか。企業が発信する情報は投資家によって受け止め方が違う。何でも規制となると企業は身動きが取れなくなる」
――新たな規制によって企業に公平で適時の開示を求め、投資家との対話を促進させたいとの狙いがあるようです。
「これまでもインサイダー取引規制や東京証券取引所の適時開示ルールを守りつつ、選択的な情報開示にならないように心がけてきた。例えば決算説明会後にはIRサイトで議事録を公開している。アナリストから質問があり、資料に出ていない数値を追加で回答していた場合、その場にいなかった人も確認できるようにするためだ」
「新たな規制で株式市場などのボラティリティー(変動率)を抑えたいのか、投資家のショートターミズム(短期主義)を回避したいのか。日本の株式市場でも空売りファンドが登場するなどグローバルな流れは無視できない。何を目指すのかをより明確にした上で議論すべきだと思う」
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対話の場、短期的に混乱 大和証券投資信託委託調査部長 菊池勝也氏 2016/11/25
――企業の情報開示になぜ新たな規制が必要なのですか。
「企業の公正・公平な情報開示を促すために欧米ではフェア・ディスクロージャー・ルールを導入している。金融庁は日本も世界基準の透明な市場であると海外にアピールするために規制を検討しているのだろう」
――法制化で公平性は担保されますか。
「ルール作りの方向性にはおおむね賛成だ。ただ、法律に例外規定をひとつひとつ書き込むわけにはいかず、運用が硬直的になる。時代の変化に合わせた柔軟な仕組みにするには、法制化ではなくガイドラインなどが適切ではないか」
――開示規制の対象となる情報の範囲はどうあるべきですか。
「『投資判断に重要』という書き方だと範囲が広くなりすぎる。投資判断の基準は投資家ごとに様々だ。例えば『株価に対して影響のある情報』としたほうが企業は情報の線引きをしやすい」
「新たなルールは証券市場の健全な発展のために導入されるべきで、規制のための規制は不要だ。資本効率への企業の意識を高めた『伊藤リポート』のように導入の理念を書き込み、市場の理解を深めてほしい」
――米国では法制化で機関投資家と企業の1対1の対話の場が減ったとの指摘があります。
「短期的には情報開示に慎重になる企業が増えるかもしれない。1対1の対話の場で何を話していいのか整理するには時間がかかる。対話の場は少し混乱するだろう」
「ただでさえ対話に消極的な企業もある。新たなルールを企業が投資家と対話しない言い訳にしてはならない。投資家の側も複数が共同で企業と建設的な対話を目指すなどの対策を検討する必要がありそうだ」
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市場への情報減少を懸念 野村総合研究所主席研究員 大崎貞和氏 2016/11/23
――企業の情報開示に新たな規制を設ける狙いは何でしょうか。
「企業が特定の人だけに重要事実を伝えてはいけないという趣旨だ。一部の人だけが株を有利に売買できる情報を知るといった不公平な情報開示を防ぐ狙いだが、何でも公表すれば情報が行き渡るという考えは神話に近い。アナリストに情報をきちんと理解してもらって市場に伝えるのも間違ったやり方ではない」
――情報開示はどう変わりますか。
「一部のアナリストや機関投資家だけに重要事実を伝えることはできなくなる。伝えた場合はホームページなどで内容を速やかに公表する必要がある。先行して規制が導入された米国ではアナリストや機関投資家限定の会議を開けなくなった」
――規制される情報提供対象者を証券市場の関係者などに絞りました。
「報道機関は対象外とし、証券アナリストや機関投資家などを対象とした。情報の出し手側については非常に微妙で議論の余地がある。経営陣に限らず、株を売買する市場関係者と接する機会があれば全ての社員が対象になる可能性がある」
――企業の情報開示姿勢は変わりますか。
「市場に提供される情報が減少しないかは企業の姿勢にかかっている。規制対象だと思う情報を幅広くとらえすぎて萎縮すれば、情報は質量ともに低下する。金融庁や東京証券取引所は、上場企業にルールの趣旨と望ましい対応を伝えていかなければならない」
――海外投資家からの見方は改善されますか。
「もともと海外投資家が日本企業の情報開示をアンフェアだと思っていたのかは非常に疑問だ。海外勢は日本市場の売買の過半を占めるが、本当にアンフェアな市場なら取引しないだろう」
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法制化よりルール改善を 西村あさひ法律事務所弁護士 木目田裕氏 2016/11/23
――選択的な情報開示を禁止するルールの法制化が議論されています。
「必要なら東京証券取引所の適時開示ルールを改善して運用すればいい。これまでは誰に何を話したら問題なのか判断が難しく、企業や市場関係者の倫理観に任されてきた。これを法律にするには多くの除外事由を作らなければならない。規定も運用も難しい。法律にするのが適切なのかは疑問だ」
「インサイダー取引規制は実際に取引した事実が必要で適用要件が厳格だ。これに対し金融庁の案は情報を伝えただけで違反になる可能性がある。適用範囲が広い」
――違反企業には課徴金などの罰則を検討しています。
「日本では課徴金の意味が重い。企業が社会的な制裁を恐れて情報を開示しなくなる可能性がある。もし課徴金を課すならば勧告や命令で改善を促し、それでも対応しない場合に処罰するなど段階的な制度にすべきだ」
――取引先など守秘義務がある者が第三者に情報を伝達した場合でも、企業の責任が問われる可能性があります。
「情報流出を恐れて誰とも本当のことを話さなくなる。M&A(合併・買収)の交渉など公表できない情報は多い。一部の投資家が公表前の情報で不正な利益を得るのを防ごうとする制度整備の趣旨を逸脱している」
――投資家と企業の対話に影響はありますか。
「投資家は企業のことをもっと知りたいと思って対話している。企業が萎縮して何も話さなくなれば対話が後退する」
――報道の自由への影響をどう見ますか。
「不祥事が起きたときでも企業が情報を開示しない口実になりかねない。報道機関の活動を制限しないよう除外事由に明記すべきだ」
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<開示>一段の規制、開示後退懸念 2016/11/22
金融庁が示した素案は企業の情報開示を一段と後退させる懸念がある。対象となる重要情報の具体的な範囲は明記されず、規制の対象となる情報の受け手が広がる余地も残している。公正な情報開示を義務付ける制度は既にある。さらに金融商品取引法に盛り込めば屋上屋を架す規制になりかねず、企業が過度に萎縮して投資家が必要な情報を得られなくなる恐れがある。
金融庁などの動きをにらみ、既に企業は情報開示のあり方を見直している。東京エレクトロンは直近四半期の受注見通しの開示をやめた。「四半期ごとのガイダンスはミスリードになる」(河合利樹社長)との判断だ。ヤマダ電機は月次売上高の開示を取りやめた。
「投資家との対話に必要な情報を公正に開示していく姿勢に変わりない」(ソニー)との声もあるが、規制を盾に情報提供に後ろ向きになる可能性はある。開示内容や時期を企業の判断に委ねれば不正会計のような事態は発覚しにくくなる。米国で同様のルールを導入した際、企業が投資家との会合を見合わせるなどマイナスの影響が出たとの調査結果もある。
金融機関の担当者など守秘義務がある者への情報提供は規制対象ではない。ただ、その者が第三者に情報を伝えれば対象に含める可能性を残した。これには「規制対象が際限なく広がりかねない」(情報開示ルールに詳しい弁護士)といった見方が出ている。
公正な情報開示は極めて重要だ。その目的を担保しつつ企業と投資家はどう対峙していくのか。過度な規制は投資家との適切な対話を通じ、企業の成長を促す最近の流れとも逆行する。その影響は広く一般の個人投資家にも及ぶ。
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市場、戸惑う情報減少 決算後の株価変動大きく 2016/11/8
上場企業の2016年4~9月期の決算発表がピークを迎えた。米大統領選が市場の関心を集める中、企業分析に重きを置く投資家は個別株の値動きの大きさに戸惑っている。直近の収益動向を株価に十分に織り込めず、発表直後に大きく動く銘柄が急増した。原因を探ると多くの市場関係者を巻き込んだ、ある構造変化にたどり着く。
米大統領選を巡る不透明感が後退し日経平均株価が大幅反発した7日、逆行安になったのがインターネットイニシアティブだ。先週末に17年3月期の純利益予想を4割引き下げ、7日の株価は11%安となった。下落率は2年9カ月ぶりの大きさだ。イビデン、ファナック、住友電気工業、東京エレクトロン。いずれも決算発表を受けて株価が大きく上下した銘柄だ。
シンガポールを拠点とする日本株ヘッジファンドの運用責任者は悩ましげだ。昨年までは決算発表にかけて業績が上振れしそうな銘柄を買い、下振れしそうな銘柄を空売りすれば一定の投資収益を手にできた。だが「今年はその手法が通用しない」。企業の実態を絶え間なく株価に織り込むという市場の機能が失われつつあるからだ。一体、何が起きているのか。
今年から証券アナリストは原則として企業の業績を事前に調査できなくなった。昨年以降、ドイツ証券やクレディ・スイス証券で重要情報を一部の顧客だけに伝えていたことが判明し、金融庁や日本証券業協会でアナリストの役割を再定義する流れが強くなった。
野村証券は昨年末から企業のヒアリングに基づく決算前の業績予想をやめた。許斐潤エクイティ・リサーチ部長は「アナリストはより中長期の目線で企業を見る筋肉を鍛える必要がある」と語る。9月には世界の空調市場を分析する長文のリポートを出した。
日本は短期から長期にシフトしようとするが、事前調査が以前から禁止されてきた米国は意外な方向に進んでいる。ドローンを使って石油の備蓄状況を調べたり、人工衛星から米ウォルマートの駐車場を撮影して消費者の動向を調べたり。アナリストらが企業からの情報に頼らずに業績を分析する手法が広がっている。
「年金基金など資金の出し手は一定期間ごとの成果を求める」。最近来日した米運用会社の首脳に話を聞くと、四半期決算の重要性は薄れていないとの答えが返ってきた。一方で日本では決算短信を簡素化する動きが進む。政府の方針を受けて東京証券取引所は、17年3月末以降の決算発表時に損益計算書などの財務諸表の開示を省略し、後の開示を容認する方針だ。
企業の負担を減らして経営者と株主の対話を促し、中長期の企業価値の向上につなげるという名目だ。だが、しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用部長は「企業を定点観測する上で、四半期決算の情報が薄っぺらくなるのは困る」と当惑を隠さない。
企業情報を巡る枠組みは大きく変わろうとしている。多様な価値観が行き交う株式市場で「短期と長期」のバランスをどう保っていくのか。最適解を探る動きは、まだ緒に就いたばかりだ。