その『嫌な予感』は、的中してしまった。洋次は、忍が男だという事より、気の強さと(初めて投げ飛ばされたので)、クラスの女子生徒達よりも『美少女顔』である事から、本気で忍に惚れてしまったのである(要するに、美形なら男も女も関係なくなってしまったのであるが)。
「…大変だな、アイツも…」
最初、竜次は洋次に注意していたのだが、それでも尚、洋次は忍をあきらめないので、竜次もいちいち注意するのが馬鹿馬鹿しくなってきた…。
そんなある日、洋次は珍しく風邪で寝込んでしまい、学校を休んでいた。この日の給食時間、忍は洋次がいないのを幸いに、文人と竜次にグチをこぼしていた(他の生徒達は転校初日以来、忍を怖がって近寄らないので、唯一忍を怖がらない三人と一緒に行動するようになっていたのである)。
「本っ当、何なんだよ、あのバカ~ッ…!」
「…アイツも、根はいいヤツなんだけどなぁ…」
「だからって、男には興味ないからなっ!」
忍がそう言いながらパンにかじりつくと、文人はクスッと笑った。
「笑い事じゃないよ~っ! 本っ当、誰かあのバカをどうにかしてくれ~っ!」
忍は、パンを口に食わえたまま、たまらず叫びだした。竜次が苦笑いしていると、忍はチラッと竜次を見て、
「そりゃあさ、竜次や文人君は、仲が良いみたいだけどっ…!」
と、思わずそう言った。竜次と文人は、一瞬固まった。
「いやっ、その、変な意味じゃなくてっ…!」
忍は慌てて言い直した。
「当たり前だっ…!」
竜次は、顔を真っ赤にして怒鳴った(かなり動揺していたのである)。
「…ねぇ、忍君…。そういえば君、前にいた学校で、好きな女の子とか、いなかったの…?」
文人は、何事もなかったように平然と牛乳を飲みながら(内心、かなり動揺していたが、顔に出さず)、突然そう切り出した。すると、忍は、食べていたパンを、思わず喉に詰まらせてむせた。
「いるのかっ…?」
竜次は、忍が顔を真っ赤にして、かなり動揺しているのを見逃さなかった。忍は、牛乳を一気に飲み干した後、一瞬ためらったが、黙ってうなずいた。
「…じゃあ、その事をきちんと沼津君に話してみたら? そしたら、沼津君もあきらめると思うし…」
「…そうだな…。この際、アイツにハッキリ言った方が…」
二人がそう促すと、忍は更に顔を真っ赤にした。
「…でも、向こうが…、俺の事、一体どう思ってるか、ちゃんと訊いた事ないし…」
「ひょっとして、片想いか…?」
忍は、相手の事を思い浮かべると、目を潤ませ、黙ってうなずいた。
〈…よっぽど、その子の事が好きなんだなぁ…。忍君が好きな子って、一体どんな子なんだろう…?〉
文人は、いつもと違う忍の一面を見て、そんなふうに思っていた。
「片想いだろうが何だろうがっ、好きな子がいるってアイツにハッキリ言っといた方がいいんじゃないのかっ…?」
竜次はまだ顔が赤いまま(まるで自分に言いきかせるように)忍に言った。文人も、その意見に同意して、うなずいた。
「…うん…。それも、そうだね…」
忍は、二人に促されて、洋次にきちんと話そうと決心を固めた。
数日経った放課後、洋次がやっと風邪を治して学校に出てきたので、忍は、誰もいない体育館に、洋次を呼び出した。念のため、竜次と文人はステージの段幕の陰に隠れ、様子を見ていた…。
「…何、話って…♪ やっと俺と付き合う気にでもなったのか♪」
洋次は、珍しく忍の方から呼び出してきたので、内心、期待しながら体育館に入ってきた。
「…ハッキリ言っておく…。悪いけど俺、前にいた小学校に好きな女の子がいるからっ…。それに、俺、男に興味ないからっ…」
忍は最初、洋次の顔を見ないでそう言い放った。
「…ウソだろっ…?」
一瞬、洋次の顔がひきつった。
「…その子とは今でも、学校が休みの日とか、時々逢ってるんだ…」
最初、忍が冗談で言っていると思っていた洋次だったが、振り向いた忍を見ると、真剣な表情をしていたので、洋次の表情もみるみるうちに変わっていった。洋次は、ちょうど足下に転がっていたボールを見ると、ステージに向かって思い切り蹴った。ボールは、鈍い音を立てて中央に当たり、跳ね返った…。
「ヤバイッ! 洋次のヤツ、キレかかってるっ…!」
竜次は、洋次がキレる寸前だと察知し、様子を伺った。だが、ボールを蹴った事によって、洋次は少し落ち着いてきたらしく、平静さを保っていた。
「…本当かどうか、そいつに逢わせろっ…!」
洋次は、忍に背を向けてそう言った。
「…逢わせたら、納得して、俺の事あきらめるんだろうなっ…!」
「相手次第だっ…!」
話の流れで、忍が前にいた小学校の友達と洋次を、今度の日曜日に逢わせる事になってしまった…。
「…大変だな、アイツも…」
最初、竜次は洋次に注意していたのだが、それでも尚、洋次は忍をあきらめないので、竜次もいちいち注意するのが馬鹿馬鹿しくなってきた…。
そんなある日、洋次は珍しく風邪で寝込んでしまい、学校を休んでいた。この日の給食時間、忍は洋次がいないのを幸いに、文人と竜次にグチをこぼしていた(他の生徒達は転校初日以来、忍を怖がって近寄らないので、唯一忍を怖がらない三人と一緒に行動するようになっていたのである)。
「本っ当、何なんだよ、あのバカ~ッ…!」
「…アイツも、根はいいヤツなんだけどなぁ…」
「だからって、男には興味ないからなっ!」
忍がそう言いながらパンにかじりつくと、文人はクスッと笑った。
「笑い事じゃないよ~っ! 本っ当、誰かあのバカをどうにかしてくれ~っ!」
忍は、パンを口に食わえたまま、たまらず叫びだした。竜次が苦笑いしていると、忍はチラッと竜次を見て、
「そりゃあさ、竜次や文人君は、仲が良いみたいだけどっ…!」
と、思わずそう言った。竜次と文人は、一瞬固まった。
「いやっ、その、変な意味じゃなくてっ…!」
忍は慌てて言い直した。
「当たり前だっ…!」
竜次は、顔を真っ赤にして怒鳴った(かなり動揺していたのである)。
「…ねぇ、忍君…。そういえば君、前にいた学校で、好きな女の子とか、いなかったの…?」
文人は、何事もなかったように平然と牛乳を飲みながら(内心、かなり動揺していたが、顔に出さず)、突然そう切り出した。すると、忍は、食べていたパンを、思わず喉に詰まらせてむせた。
「いるのかっ…?」
竜次は、忍が顔を真っ赤にして、かなり動揺しているのを見逃さなかった。忍は、牛乳を一気に飲み干した後、一瞬ためらったが、黙ってうなずいた。
「…じゃあ、その事をきちんと沼津君に話してみたら? そしたら、沼津君もあきらめると思うし…」
「…そうだな…。この際、アイツにハッキリ言った方が…」
二人がそう促すと、忍は更に顔を真っ赤にした。
「…でも、向こうが…、俺の事、一体どう思ってるか、ちゃんと訊いた事ないし…」
「ひょっとして、片想いか…?」
忍は、相手の事を思い浮かべると、目を潤ませ、黙ってうなずいた。
〈…よっぽど、その子の事が好きなんだなぁ…。忍君が好きな子って、一体どんな子なんだろう…?〉
文人は、いつもと違う忍の一面を見て、そんなふうに思っていた。
「片想いだろうが何だろうがっ、好きな子がいるってアイツにハッキリ言っといた方がいいんじゃないのかっ…?」
竜次はまだ顔が赤いまま(まるで自分に言いきかせるように)忍に言った。文人も、その意見に同意して、うなずいた。
「…うん…。それも、そうだね…」
忍は、二人に促されて、洋次にきちんと話そうと決心を固めた。
数日経った放課後、洋次がやっと風邪を治して学校に出てきたので、忍は、誰もいない体育館に、洋次を呼び出した。念のため、竜次と文人はステージの段幕の陰に隠れ、様子を見ていた…。
「…何、話って…♪ やっと俺と付き合う気にでもなったのか♪」
洋次は、珍しく忍の方から呼び出してきたので、内心、期待しながら体育館に入ってきた。
「…ハッキリ言っておく…。悪いけど俺、前にいた小学校に好きな女の子がいるからっ…。それに、俺、男に興味ないからっ…」
忍は最初、洋次の顔を見ないでそう言い放った。
「…ウソだろっ…?」
一瞬、洋次の顔がひきつった。
「…その子とは今でも、学校が休みの日とか、時々逢ってるんだ…」
最初、忍が冗談で言っていると思っていた洋次だったが、振り向いた忍を見ると、真剣な表情をしていたので、洋次の表情もみるみるうちに変わっていった。洋次は、ちょうど足下に転がっていたボールを見ると、ステージに向かって思い切り蹴った。ボールは、鈍い音を立てて中央に当たり、跳ね返った…。
「ヤバイッ! 洋次のヤツ、キレかかってるっ…!」
竜次は、洋次がキレる寸前だと察知し、様子を伺った。だが、ボールを蹴った事によって、洋次は少し落ち着いてきたらしく、平静さを保っていた。
「…本当かどうか、そいつに逢わせろっ…!」
洋次は、忍に背を向けてそう言った。
「…逢わせたら、納得して、俺の事あきらめるんだろうなっ…!」
「相手次第だっ…!」
話の流れで、忍が前にいた小学校の友達と洋次を、今度の日曜日に逢わせる事になってしまった…。