レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

境界2

2019年04月08日 | ぼそぼそ
私はデジタル耳栓を着けた事で初めて
私の世界が環境音だらけだった事に気がついた。
それはずっと聞こえているものだったから
シャットアウト出来る音だったなんて
思いもしなかった。


だけど私が何より驚いたのは
付け足された友人の一言だった。


「これ、フツウの人には聞こえてないらしいよ」


ああ、そうだったんだ、と思った。
思い当たる事が多すぎて泣きそうになった。
何故、みんなは教室やデパートや街中で
苦もなく誰かとお喋りが出来るんだろう。
自分の声さえ聞こえない中で
長い時間を過ごしても平気なんだろう?

小さい頃、私は声が大きくて人一倍煩い扱いだった。
小学校の教室で私が喋りだすと皆が眉をひそめ
皮肉な笑みと目配せをされた。
「愛ちゃんは煩い煩いって言うくせに
愛ちゃんが一番煩い」と
近所の子に言われていた。
話すときの声の大きさが分からなくて
人と話すのが億劫になった。
たくさんの手痛い目にあって
私は小さい声で話す技術を身につけたが
殆ど手話のようなものだと思っている。
胸にこのくらい響いているから、
この声量で人には伝わっているだろうな、と。


自分の声さえ聞こえないのに
冷蔵庫の音にも負けているのに
そんな中でどうやって会話をしたら良かったのだろう。

しかもみんな、この音聞こえてないらしいよ。

境界

2019年04月08日 | ぼそぼそ
私は生まれてこの方
自分のことをずっと我儘だと思って生きてきた。
高校生の時にクラスメイトに
「あなたは我慢できないことが多すぎる」
と言われ、
本当だよね、皆はちゃんと我慢できているのに
私は抑えが効かなくて子供のままだ、と
大変に深く反省したものだ。
それでもやっぱり我慢できないことは多く
抑えたつもりが憂鬱な顔をしてしまって
結果気を使わせてしまい自己嫌悪、
という繰り返しだった。

私の眉間にはいつも縦皺が刻まれていて、
この年になると定着してしまっている。
一体何がそんなに不愉快なんだ、と聞かれるも
眉間の皺の意味もすり減った奥歯の意味も
うまく説明がつかなかった。
逆になぜ、皆が出来る我慢が
私にだけ出来ないのか聞きたいくらいだった。

40代に突入したある日、
友人が「デジタル耳栓」なるものを持ってきた。
普段から周囲の音で気が散って作業が出来ないと
囀っていた彼女は、
どうやら自分の耳が環境音を拾いすぎるのでは、
との思いに至り
環境音だけをフィルタリングしてくれる耳栓を
探し当てて購入したのだ。
「これは君にとっても快適なんじゃないかな」
と言われるも
私は周囲の音で気が散らないからなあ、と
さほど乗り気でもなく着けてみた。


驚愕した。


その時私達はファミレスにいたのだが、
対面に座る友人の声だけがクリアに聞こえた。
私は誰かと一緒に喋っていても
その周囲に人がいて話していると
友人の声と人の声が混じってしまい
聞き取れないことが度々、しばしば、
しょっちゅうあった。
ファミレスなんかだとどれだけ席が離れていても
店内にこだまする家族の話し声、
どこかのグループの笑い声、
大人の声、子供の声、店員の声が入り乱れて
まともに会話することなんて不可能だった。
だから私は話している人の方を向き
その唇を熱心に見つめて、周囲の音と
唇の形が合致する声を探し当て
切れ切れの声をつなぎ合わせて会話をしていた。

それに加えて蛍光灯の音、
エアコンの音、冷蔵庫の音なんかが重なり
その中で集中しっぱなしだったので
ちょっとした会話でヘトヘトになった。

それがどうだろう。
すべての雑音が抑えられ、
私が聞きたかった音だけが聞こえるなんて!


(続く)