登山事始め:「登山力」って何だろう?
(無手勝流の登山論)
2013年6月23日(日)
■はじめに…登山は楽しい
昨日(6月22日)は,富士山が世界遺産登録が正式に決定した.美保の松原も世界遺産の中に入ったというから,とても良かったなと思っている.
私も藤さんが大好きで,これまでにも何回も富士山に登っているし,また,色々な場所からの富士山の眺望を楽しんできた.美保の松原からの富士山は勿論文句なしに素晴らしい.ただ,いろいろな山の頂から富士山を眺めると,美保の松原とは,また,ひと味違った素晴らしいさがあると思う.
例えば冒頭の写真の富士山である.この富士山は南アルプスの蝙蝠岳付近から撮影したものである.幾重にも重なる山脈の向こうに聳える富士山は,何とも言えないほど神々しく,雄大である.年に50~60回ほど繰り返し登っている丹沢塔ノ岳でも,登山途中で仰ぎ見る富士山の美しさにどれだけ心が癒されてきたことか,私の取っても富士山は強いあこがれの対象でもある.
塔ノ岳に登る度に,富士山や段沢の美しい自然に触れたり,大倉尾根のご常連さんと楽しい一時を過ごしたりしていると,登山は実に楽しいなと実感する.
■改めて「登山力」を考える
6月22日(土)にも,私は塔ノ岳を往復した.そのときの記事はこのブログにも掲載済みである.ただ,1回にブログに掲載できる文字数に上限があるために,書きたいことが書けないこともしばしばある.
6月22日の山行で,下山の途中で一緒に下山していた常連のお一人から,
「私も,FHさんの年令になるまで,FHと同じように山を歩けるだけの脚力を保ちたいですよ…」
と言われてしまう.
平素,自分が同年配の方々より,特に山登りに強いとは全く自覚していないが,あらためて,そう言われてみると,私の学校時代の同級生で,この年になって,未だに山登りなどやっている人間は,私を除いて,皆無に近い.
では,若いころから大して丈夫でも頑健でもなかった私が,何故,このトウネントッテ“うん十歳”になっても,山登りを続けることができるんだろうか.
その答えは,多分,私に「登山力」があるからだろう.
では,「登山力」とは一体何か?
どうやったら,「登山力」を習得できるか?
の2点を,一寸だけ解明してみたい.
■「登山力」の構成要素
まず第1の視点,「登山力」とは何かについて私見を述べてみたい.
厳密に考えると切りがなくなるので,私はごく単純に,登山力は「体力」と「知識技術」の二つの構成要素によって成り立っていると考える.
「体力」は,言うまでもなく登山に耐えるだけの体力を意味する.
余談になるが,私が尊敬する山岳ガイドが,
「登山に必要なものは『1に体力,2に体力,3~4がなくて,5に技術」
と言っていたが,これは少し言い過ぎかも知れない.でも,何を置いても,まずは応分の「体力」が必要なことは論を待たないだろう.
では,どのようにして,登山に必要な体力を身につけ,維持していくかが課題になる.これについても,機会があったら,拙い意見を,このブログで披露ことにして,今回はこの程度に止めておこう.
もう一つの要素である「知識技術」は,如何にして安全に登山するか,如何にして疲労を最小限にして登山するかなどに必要な知識技術のことである.
■登山に必要な知識技術
図1は,私が考える登山力の構造である.図の横軸は知識技術の間口,縦軸は深さを示している.
横軸の「間口の広さ」は,社会人として具備すべき普遍的な知識技術つまり常識と言い換えても良いだろう.常識だから専門性は要求されないので,縦軸はそれほど大きくないので,ローマ字の「I」を横にしたような形になる.つまり「横I型」で表すことができる.
さて,縦軸である.
私は安全にかつ永続的に登山を続けるには,図1に示すように,二つの柱となる知識技術が必要だと思っている.
第1の柱は,図1に示す右側の柱,つまり「体力向上安全に関する知識技術」である.これらは山だけに的要するものではなく,安全な日常生活を維持管理するために身につけなければならないやや専門的な知識である.たとえば,怪我の応急処置の方法,緊急時の対応方法など多岐にわたるだろう.
第2の柱は,「登山に特化した知識技術」である.例えば坂道の登り方,地形図の読み方,コンパスの使い方,装備品の知識,さらにはアイゼンの使い方など,登山のレベルに応じて,必要な知識技術は多岐にわたる.
私達山仲間が師事した山岳ガイドからは,「自立した登山者になれ」と,折に触れ指導を受けた.自立した登山者とは,自分の判断で最適な行動が取れるということである.そのためには,この図に示すように「普遍的な知識技術」と「2本柱の知識技術」からな「Π(パイ)型」の人間像を目指さなければならない.
図1 登山力に必要な知識技術構造
■「登山力」のレベル
次に,どのようなプロセスを通じて登山力を習得するかが問題になる.
図2は縦軸に体力が「強い」「弱い」を,横軸に図1に示した知識技術が「少ない」「多い」を示す.すると4個のマス目を作ることができる.
左下のマス目(第3象限という)は,体力もなく知識技術も少ない状態を表す.
左上のマス目(第3象限)は,体力はあるが知識技術をともなわない状態を示す.この状態で登山をするのははなはだ危険だが,この象限に属する多くの方々は,自分に応分の知識技術がないことを自覚していない.だから,極めて危険な状態と言えよう.
右下のマス目(第4象限)は,知識技術はあっても体力がともなわない状態である.これではやっぱり登山は無理である.
右上のマス目は(第1象限)は,体力,知識技術ともに具備している状態を意味している.勿論,対象にしている山の難易度によって,必要とする体力も知識技術の深さ大きく異なるが,ドンキホーテにならないように,自分が目標とする山のレベルに合わせた第1象限を目指すべきである.
図2 登山力の養成
■「登山力」の養成
登山力の養成には,図2に示すように,大別して,以下に示す王に,体力向上先行型,知識技術先行型および総合型の3種類の道筋がある.
(1)体力向上先行型
図2に示す矢印①から③を経由して,安全登山を目指す.このタイプの特徴は,比較的早期に登山の楽しみを体験出来るが,知識技術に欠けていることを自覚しないと,事故を起こしやすい.
(2)知識技術先行型
図2に示す矢印②から④を経由して,安全登山を目指す.このタイプは,登山を開始する切っ掛けが中々掴めなくて引っ込み思案になりやすい.また,自分で限界を作ってしまい,それ以上伸びない可能性がある.
(3)総合型
図3に示す矢印⑤を経由して,安全登山を目指す.山岳ガイドなど専門家の指導を受けながら体力と知識技術をバランス良く習得する.費用は掛かるが,最も効果的な方法である.当初自分では予期していない難易度の高い山に登れるようになる可能性がある.
■私はアマチュアの登山愛好者
ところで,私は,勿論,山登は好きだが,所詮,山のアマチュアに過ぎない.
これも私見だが,プロフェッショナルの登山家(以下単にプロ)とアマチュア(以下アマ)の山登りでは,図3に示すような違いがある(この図は,当ブログで以前披露している).
図3は,登山に関連する特性を向き不向きで表現している.不向きが(N),向きが(Y)とすると,これも4個の象限で表現することができる.勿論,こんな分類の仕方には異論があるのは承知しているが,まあ大雑把な話である.
第1象限はプロアマ共通の項目である.それは山へのあこがれ,山を愛する,山登りが趣味であるの3項目.これらはプロ・アマ共通であろう.
第2象限は,アマなら楽しい山登りで満足,無理しない,同じ趣味の仲間との交流ていどで満足できるが,プロであれば,こんなことだけで満足しないだろう.
第3象限は,プロ・アマ共に,こんなことでは登山愛好家とは言えないこと,つまり,何もしない,不摂生,無鉄砲な行動など.
第4象限はアマには到底無理だが,プロなら当然のこと,つまり限界への挑戦,明確な登山目標,記録への挑戦などを意味している.
私はアマ.だから,限界への挑戦なんていう大それたことは考えないし,しない.また,
“よおしっ! これからトレーニングして,×年後には,あの××××メートルのピークを征服するぞ”
といった明確な登山目標などはない.
これらのことから自明なことは,図2に示した具備すべき体力や知識技術の程度には,プロ・アマではかなりの差があるということである.
図3 プロとアマチュアの登山比較
■トウネントッテうん十歳で登れる理由
さて,本題に戻ろう.
ではなぜ私がトウネントッテうん十歳になっても,何とかかんとか大倉尾根を往復できるのは何故だろう.
実は私も60歳代前半までは,鎌倉の天園ハイキングコースを一回りした後は2日間ほど足が痛くてどうしようもないほど,登山力は無かった.初めて大倉尾根を登ったときは,一本松の手前で疲労困憊,リタイアしてしまった.
でも,今では,マイペースで登っている限り,1日10時間程度なら,標準時間をキープ品が阿,ほとんど疲労感なしで登り続けることができる.その理由は簡単である.某山のスクールで,山岳ガイドに図2に示す⑤の矢印に沿って,体力の向上と初歩的な知識技術を教えて頂き,教えられたとおりの歩き方で,無理をしないでユックリ登っているからである.
私の“座右の銘”は,
「無理しちゃダメ!」
である.
勿論,若手の登山者や,第2の三浦雄一郎(漢字間違っているかな?)さんを目指すようなアスリートはこんな呑気な話は通用しないが,素人の年配登山愛好者には,是非,耳を貸して貰いたいなと思っている.「無理しちゃダメ」が,結局,安全登山実現のために極めて大切だと思うからである.
■おわりに
今回は,ご常連から受けた質問に触発されて,「登山力」の構造に関する試案を纏めてみた.あくまで,この記事はブログ用の軽い記事であって,論点や根拠の明確さを要求される論文ではない.
でも,こんな駄文が,登山力を考える切っ掛けになれば嬉しいなと思っている.
(おわり)
「登山事始め」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/0d4545d76e4c2328afe5a48109c27911
「登山事始め」の次回の記事
(なし).
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