<薩埵峠への下山口;ここを降りると立ち入り禁止の掲示がある>
静岡の景勝地:由比・浜石岳・薩埵峠周遊(補足)
何故途中で迷ったか
(ARENAオフミ)
2012年1月29日(日)
1.はじめに
私たちは,去る1月29日(日)に,静岡の景勝地である浜石岳と薩埵峠を訪れて,富士山や駿河湾の雄大な風景を堪能した.結果的には,美しい風景を堪能しながら,当初予定の時間内に,ほぼ予定していたコースを歩くことができたので万々歳である.
しかし,行動の途中でかなり子細に地形図を見ていたにもかかわらず,何回も道に迷ってしまった.ほぼ予定していた時間内に無事帰れたので,“結果良ければすべて良し”とも言えるかもしれないが,何といっても山歩きは「安全第一」でなければならない.その意味から,この際,何故,今回私たちが道に迷ったのかを分析して,その原因を明らかにしておく必要があろう.
2.事前準備
(1)コースの概況把握
今回のハイキングの詳細は,このブログの記事,
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2bb70fcef04b25116d59077bea3eaf5d
に記述した通りだが,私たちは次のコースを歩いた.
JR由比駅==(タクシー)==>浜石岳山頂→但沼分岐→立花池→薩埵峠→JR由比駅
リーダーから開催案内の連絡を頂いてから,私はこのコースの概要を把握するために,以下に示す事前準備を行った.
地形図(25000分の1)の入手
↓
インターネットによる情報収集
↓
案内書によるコースの確認
↓
地形図へのコース記入
↓
カシミールを使用して地形の概況,登攀下降高度などの確認
↓
各種情報の地形図への記入
図1 事前準備作業の流れ
(2)主要参考資料
①コース概況の把握
図1に示した作業の過程で,一番頼りにしたのは,下記の資料(pp.116-117)である.
加田勝利著,2005,『新・文献登山ガイド21静岡県の山』山と渓谷社
図2は山行にしたページである.
図2 参考資料の116-117ページ
②難易度の推測
コースの難易度は,カシミールによって判断した.
カシミールを使って当該コースのプロフィールを測定すると図3に示す結果となった.
図3 カシミールで得られたプロフィールマップ
図3から明らかなように,当該コースの概要は次の通りである.
水平歩行距離 11.5km
累積登攀高度 483m
累積下降高度 1160m
これまでのARENAオフミグループの歩行実績から勘案して,休憩時間込みの平均水平歩行速度は余裕を見て1.8km/h程度である.従って11.5kmのコースを歩くには,6時間半程度見込んでおけば十分だろうと判断する.
仮に11時に歩き出したとしても,17時30分には由比に到着できる.それならば,多少日没の時間が遅くなってきた今頃ならば,明るい内に十分に終点まで歩けるなと判断する.さらに薩埵峠まで出てしまえば,後は舗装道路なので何とかなる.念のためにヘッドランプまたは懐中電灯を持っていれば,街中の歩行には問題ないだろう.
ちなみに,過去の実績から判断して,このグループの登攀速度は約350m/h,下降速度は約450m/hである.これらの指標から測定しても,時間には余裕があるなと判断する.
なお,今回リーダーを勤めるN氏は,もちろん,私とは別に,インターネットや現地の観光案内所から事前に情報を入手していた.その結果,路面の凍結や残雪がないこと,タクシーを利用して浜石岳山頂まで行けることなどを事前に確認していた.
3.迷い箇所の分布
今回の山行では,随所に道が分からなくなるところがあったが,大半の迷いは地形図を子細に眺めていれば正解ルートを外れることはまずないと思われる.
私たちは,地形図を見ていたにもかかわらず,次に示す3箇所で迷ってしまった.
①迷い1: 立花池分岐(図4の「迷い1」)
②迷い2: 薩埵峠分岐(図4の「迷い2」)
③迷い3: 薩埵山山麓から薩埵峠へ下る道(図4の「迷い3」)
これらの箇所で何故迷ってしまったかを分析して,今後の安全登山の教訓にしたい.
図4 迷い箇所の分布
4.迷い1:立花池
(1)迷いの状況
①最初の案内板
10時49分に浜石岳山頂から歩き出した私たちは,富士山や駿河湾の展望を楽しみながら,尾根筋を南へ向かった.展望台に立ち寄って,富士山を眺めた後,さらに南へ向かった.10数分歩いたところで,道が左右に分岐する.ここには案内板はないが,地形図から判断して進行方向左側(西側)の道を選ぶ.ここは正解.
さらに歩き続けて,12時18分に立花池分岐に到着する(図5).
地形図を見ていた私は,一瞬,
「おかしいな・・・もう立花池分岐に到着したのか」
と思うが,立派な案内板なので,ここで右折して立花池に向かう.リーダーも,当然,この案内板を信用する.
一方,図2の参考資料には,
「・・・右側には立花池への道がある.15分もあれば十分往復できるので,静かな立花池を眺めたい.」
という案内文がある.
「立花池で昼食にしましょう・・」
ということで,右折して枝道に入る.ところが行けども行けどうも池は見えない.しかし不思議なことに道路脇に立花池と書いてある木片が落ちていたり,「まわり道」と書いてある木片が立っていたりする.しかし到底15分で往復できるような場所には池がないので,大事を取って,立花池を諦めて,もとの位置に引き替えず.ここで21分のタイムロスをする.
図5 最初の立花池分岐
②2番目の案内板
さらに尾根道を南下する.12時39分,突然,目の前に2番目の立花池案内板が現れる.当初,地図上で想定していたところである.
ここで再び右折する.静かなトラバース道を進むと右手の林の中にチラチラと湖面が見え出す.kすかに踏み跡らしい所から斜面を降りて立花池に到着する.
予定通りの時間に行けに到着したので,ここで昼食を摂る.
図6 2番目の立花池分岐
(2)迷いの原因
この場所での迷いの原因は,以下の項目に集約できる.
1.コース上に,立花池分岐が2箇所あるとは想定していなかった.
とはいえ,参考にした文献を見ても,分岐は「1箇所しかない」とも「2箇所ある」とも書いてない.
2.立派な案内板だが目的地までの距離が入っていない.
後で地図を確かめると,最初の案内板に沿って進めばやがて立花池に出られたと想定される.
もし,案内板に立花池までの距離が書かれていたら,私たちは「・・15分で往復できる」という説明にまどわ
されることなく先へ進んだであろう.
(3)反省点と教訓
案内板が不備だとか,説明文が十分でないとか言っても,結局,迷うのは自分である.それが自己責任というものである.最初から池への分岐は1箇所しかないと思い込んでいたところに,迷いの真の原因がある.
この事例の教えることは,思い込みの恐ろしさである.
もっと大きな本格的な山だったら事故に繋がりかねない「思い込みの恐ろしさ」である.
“いつも,思い込みの恐ろしさを念頭に置いて行動せよ”
これが,この事例から得られる教訓である.
5.迷い2:倒木の中の分岐点
(1)迷いの状況
①何時の間にか案内板が見えなくなる
昼食後,尾根道を南へ下る.次第に倒木が増えて,踏み跡だけの心細い道に変わる.ときどき地形図で確かめながら,進行方向が間違っていないことを確かめる.
やがて,図4に示した「迷い2」の現場に近付く.
踏み跡が全くなくなる.たまたま私が先頭を歩いている.私は後ろに居る男性に,
「間違えそうになったら教えて下さし・・」
といってから,微かな踏み跡をたどって先へ進む.ただ,踏み跡自体は新しいものなので安心はしている.
やがて踏み跡道は尾根を回り込むようにして,やや登り坂になる.このとき,後ろから,
「こちらに踏み跡道がありますよ・・・」
と呼び止められる.
後から考えると,ここが思案のしどころだった.
私は,尾根回りの道がどこへ出るのか確かめないまま,元に戻って,後ろの人が見つけた踏み跡道に入ってしまう.
この道は,計画段階でも,
「こちらの道も良いな・・・」
と思っていた道であり,地図にもシッカリ記入されているので,あながち間違いだとは言えないが,これまで以上に道は荒れていて,倒木だけでなく,ザレたトラバース道をあり,初参加の方々には,少々怖い思いをさせてしまった.
(2)迷いの原因
①思い込み
迷いの第1の原因は,私が,折角,薩埵峠に難なく出られる道に入ったにもかかわらず,目の前の一寸した登り坂に惑わされて,地図を確かめもせずに,この道は山へ登る道だと思い込んだことである.
後から考えると,この時点で,しっかり地図を確かめれば,この道が正解だと分かったはずである.ところが,どうしたことが,それまでは頻繁に地図を見ていたのに,この瞬間だけ地図身を怠っていた.
②地図を確かめない人の意見に従ってしまった
第2の原因は,私が道を間違えないようにチェックしてくれと依頼した方が,全く地図を見ていないことである.結局,今回のメンバーで,絶えず地図を見ていたのはリーダーと私の2人だけ.
後の方は,結果的に,ただ先頭の後を付けているだけだったので,チェック機能が十分に働かなかった.
(3)反省点
この「迷い2」での反省点は,次の2点である.
1.肝心なところで地図読みを怠った.
2.参加者全員に,ただ前の人の後を付けて歩くのではなく,各自がもっと地図を良く見るように
注意すべきだった.
ただ,2項については,私にも言い分がある.地形図を持っていない人にも,事前に地形図のコピーを渡しているが,地形図を貰った方が,ろくに地図も見ずに,そのままリュックに仕舞ってしまう人が居る.これは何回注意しても同じ.まことに腹立たしいことである.
「オレが自殺する気で歩いていたら,みんなもオレと一緒に自殺するのか」
と言いたくなる.
参加者各自が,他人任せにしないで,当事者意識を持つことが極めて大切だと思う.
自分のことを棚に上げて言うが,
3.他人を頼るな
と付け加えたい.
6.迷い3;:薩埵峠への下り道が分からない
(1)迷いの状況
苦労した末,まあ,まあ,予定の時間より早く薩埵山の山麓に到着する.
ここには地形図に掲載されていない真新しい道路ができている(図4の地図にも掲載されていない).そのこともあって,辺りの様子が手持ちの地形図とは一変している.
ここでも,海岸近くまで下ったところにある薩埵峠までの下山道を探すのに苦労する.それらしい踏み跡や,鉄塔道を辿ってみるが,その先が危険そうなので,結局,元の所まで戻る.
最悪の場合はタクシーを呼んで,由比または興津まで下山することも考えたが,結局,地元の方の案内で,無事,薩埵峠まで下ることができた.しかも,予定した時間内に到着できた.
下ったところに「倒木が300本ほどあるので危険.立ち入り禁止」の案内が貼り付けてあった.
観光案内所に伺っても,立入禁止の情報はなかったという.また,尾根筋を下ってくると,どこにも立入り禁止とは書いてない.
(2)迷いの原因
ここで迷った原因は以下の通りである.
1.事前に最新の地図が入手できなかった.
いきなり予期しない新しい道に飛び出てしまい,周囲の状況が分からなくなった.
2.早く下へ降りようとして,不案内な道を,ひたすら下山することを繰り返した.
もう少し,辺りの地形を大局的に見るべきだった.
(3)反省点
この「迷い3」から得られる反省点は以下の通りである.
1.結果論だが,事前調査が十分でなかった.
特に新しい道ができているのを知らなかった.
2.早く薩埵峠へ出たいという焦りがあって,不明確な道に2回も迷い込んだ.
常に冷静沈着であるべきである.
5.おわりに
(1)反省点の総括
①自分自身の反省点
今回の浜石岳・薩埵峠周遊は,途中で迷路のようなところで迷いはしたが,全体としては,ほぼ予定通りの時間で歩き終えた.したがって,一般的な常識で言えば,多少途中で迷ったが大過なく登山を終えることができたと言えるかも知れない.
しかし,これらの「迷い」の事例から,いくつかの反省点があったことも事実である.
最後に,ここで示した3例から得られた反省点などを総括しておきたい.
1.“思い込みの”恐ろしさを自覚する(迷い1より).
2.他人の意見に盲目的に同調しない(迷い2より).
3.事前調査をできるだけ詳しく行う(迷い3より)
②グループとしての反省点
グループとしての反省点は以下の通りに要約できる.
1.地図読みをリーダーや先頭の人に任せるだけでなく,自分も1人で歩いているつもりで.地図読みをシッ
カリ行うこと.
2.先頭が誤った道に履いていないか常にチェックすること.
(2)観光協会に対する要望
今回,当該コースを歩いて率直に感じたことを列挙しておこう.
1.案内板の一層の整備が必要
花石だけ山頂周辺,および薩埵峠周辺には立派な案内板が完備しているが,肝心の迷いやすいところに案内板がない箇所がある.
2.案内板の記述内容に工夫が必要
案内板に行先を表示するだけでなく,そこまでの距離(○○まで××km)を表示してくれると,迷いが随分と軽減される.
(3)結論
これまで迷いの様子を記述してきたが,結局は,当事者である自分が,もっと注意深く計画を立て,慎重に行動することが一番重要であるという結論に達する.
いくら案内書が不備だ,案内板が不親切だと,自分以外のところに責任の所在を求めたところで,万一,事故を起こしたら,結局,自分自身が一番の被害者になってしまう.
このことを,肝に銘じて,これからも安全登山に徹したいと思う.
(おわり)
「薩埵峠」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2bb70fcef04b25116d59077bea3eaf5d
「登山事始め」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2a0dceae1ed27f5d691c45e13a560994
「登山事始め」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/0d4545d76e4c2328afe5a48109c27911