<幻想的な霧>
久々の丹沢:塔ノ岳(今年18回目)
(単独山行)
2010年7月1日(木)
■脹ら脛の肉離れの調子は…
5月13日(木),右足の脹ら脛が肉離れをしてから,ずっと塔ノ岳登山は控えてきた.
肉離れ自体はそれほど重度のものではなく,2~3日安静にしていたら何とか歩ける程度にまで回復したが,それ以降の回復は遅々として思うようには進まなかった.
罹患直後の5月15日から17日まで行われた中山道中六十九宿巡りには,さすがに参加することができなかった.そして,9日後の「鎌っこ倉ぶ」の城ヶ島ハイキングには出席.しかし,患部に痛みはないものの,少しでも速く歩こうとすると,患部が軋む感じになり,やっぱり正常ではなかった.
その後も,気ばかり焦るが,なかなかバチバチ歩きはできないままの日々が続いた.
6月7日(月),もう罹患してから3週間が経過しようとしている.足の状態はもう正常に戻ったような感じがする.そこで,足のテストのために,三浦アルプス南尾根を1人で歩いてみた.足の状態には十分注意しながら,とにかくユックリでも良いから,完歩することを目的に歩いた.まあ,問題はなかった.
そして,6月12日(土)から3日間,仲間達と一緒に,中山道中六十九宿の旅に出掛けた.連続3日間,歩きずめだったが,特に問題はなかった.
その後,鎌倉美術展へ出品する水彩画の仕上げに,かなりの時間が取られたこともあって,本格的な山行の機会はなかった.わずかに,五十三次洛遊会やARENAオフミの皆さんと鎌倉市内を散策したに過ぎない.
その間,自動車運転免許証更新のために講習予備調査・高齢者講習を受けた.そして,視力や判断力が人並みに劣化していることが確認された.これで,本格的な山へ登りたいという気持ちが,日に日に遠ざかっていく.一方では,
「現状のままではまずい・・このまま老いぼれてなるものか・・!」
とう強い願望が沸々を沸いてくる.
■やっと塔ノ岳に登る気になった
6月も瞬く間に終わった.月末にあたふたと鎌倉美術展に応募した水彩画も,何とか入選した.そうなると,絵ばかり描いては居られない.何とか山へ登ろうという強い意志が,どこからともなく沸いてくる.
7月1日(木).何時ものように4時に起床する.梅雨時にしては珍しく天気もまあ,まあのようである.
「よし!・・今日こそ丹沢へ復帰するぞ!」
私は決意して,何時も通り,5時10分に出発する.梅雨時とはいえ,朝の空気はすがすがしい.すっかり明るくなった住宅地を抜けて近くのモノレール駅へ向かう.
久々のモノレール駅.相変わらず同じ顔ぶれの方々が,モノレールの初電を待っている.小田急藤沢駅までの経路に多少迷うが,何時も通り小田原経由にする.迷ったのは小田原駅での乗り換え時間が,たった2分しかなくて,駅構内を駆け足で上り下りする必要があるからだ.果たして,こんなところで駆けっこをして,私の足が持つかが不安である.
■懐かしい顔ぶれ
渋沢発大倉行の1番バスに乗車する.すぐに下り電車が到着.ご常連がバタバタと乗り込んでくる.韋駄天組4人も,やっぱり乗ってくる.私の顔を見て,「おや」というような顔をする.
三角髭のTさんが,
「暫く来なかったですね・・1ヶ月振りぐらいですか・・」
と話しかけてくる.
足の肉離れの話をするのは面倒だし恥ずかしい.
「街道歩きだのいろいろありまして・・・丹沢には足が遠のいていました」
1番バスの乗客は16人.何時もの通りである.
■いきなりヒル談義
バスが大倉に到着すると,韋駄天組は,直ぐに歩き出す.
「凄いな,あの方々は・・」
私は感嘆の眼(まなこ)で,韋駄天組を見送る.
私は病みあがりである.足腰のストレッチを十分に行ってから,同じバスに乗り合わせた人たちの中ではビリに歩き出す.
今日はとにかくリハビリ初日である.山歩きに足を馴れさせることを第一目標にしている.最終目的地は駒止茶屋.この辺りまで登れれば,今回の山への順化は成功ということにしよう.私は,「絶対に無理をしない.絶対に急がない.」をモットーに歩き続ける.
梅雨時とあって,路面はビショビショに濡れている.
かなりユックリと歩いているが,それでも私より足が遅い方が居る.丹沢ベースを過ぎたところで2本ストックを持った女性に追いつく.
「丹沢にヒルが居るんでしょう・・・怖くて,怖くて,仕方がないんです・・」
と話しかけてくる.
「ヒルは居るかもしれませんが,私は会ったことありません.道端の草むらに座り込んだり,立ち止まったりしなければ,滅多にヒルなどに会わないと思いますよ・・」
私は,ヒルよりも蜂や毒蛇の方がもっと怖いと思っているのだが・・
■駒止茶屋を目指して
辺り一面に霧が掛かっている.多分雲の中を歩いているのだろう.そよとした風もなく,蒸し暑い.どこか下の方からホトトギスのけたたましい啼き声が聞こえてくる.私は,足の状態を注意深く観察しながら無理の無いように登り続ける.少しでも違和感があったら,即,下山の積もりである.
ビショビショの登山道を登り続けて,8時15分に何となく駒止茶屋を通過する.本日の目標点をあっさりとクリアした.
駒止茶屋手前の急階段を,今,描きかけの絵のことを考えながら登っていた.そのために苦労したという意識もなく,何となく急階段を通過していた.ただ,大倉からの所要時間は,1時間13分.正常なときより10分余計に掛かっている.でも私は大満足である.
やがて堀山の尾根に出る.僅かながら時折風が尾根を吹き抜ける.途端にスッと涼しくなる.これが実に心地よい.
韋駄天組は,もうとっくに先を歩いているに違いないが,私のこんなノロ足でも,同じバスに乗り合わせた大多数の皆さんを追い越してしまったらしくて,私の前後には誰も居なくなる.霧の森の中から聞こえてくる鳥の囀りを楽しみながら,ゆっくりと登り続ける.どこからともなくツツドリの啼き声も混じっている.
■霧の萱場平
富士山は雲の中である.8時35分,人気が全くなく静まりかえっている堀山の家を通過する.
時折,私の心の中に住み着いている邪悪な私が,
「もっと,サッサと速く歩いたら・・・まだ,余力があるんだろう・・」
と私をそそのかす.
私はついつい急ぎたくなるが,
「だめ・・今日は,あくまで足の調子をチェックするのが目的.急いではダメ」
と自分自身に言い聞かせる.
久々の大倉尾根はさすがに大変である.私はできるだけ汗をかかないように心がけているつもりだが,それでも,汗をぬぐう手ぬぐいがベタベタに濡れてくる.
8時57分,ようやく萱場平を通過する.
■早々と下山する韋駄天組
9時21分,花立山荘を通過する.相変わらず誰も居ない.大倉を歩き出してから,もう,2時間18分も経過している.何時もなら2時間.今日は18分も余計に掛かっている.調子が良ければ,そろそろ塔ノ岳山頂に到着する時間である.でも,まあ,今日は,もともと駒止茶屋を目標にしていたので,リカバリー初デビューにしては「まあ,まあ」だなと,勝手に理屈を付けて納得する.
霧で見通しの利かない花立山の山頂付近を歩いていると,前方から人の声が聞こえてくる.近付くと,韋駄天組の中でも特に速いお二人である.
「いやあ,今日は蒸しますね.山頂の気温は16.4℃でしたよ・・」
お二人は軽い足取りで霧の中に消えていく.
<誰も居ない花立山荘>
■2番バスのご常連に追い抜かれる
登山道両側の森の中から,蝉ともカエルとも思える啼き声が「ゲロゲロジージー」と絶え間なく聞こえるようになる.蝉だろうか,それともカエル? 啼き声の主は,一体,何だろう.
虫だかカエルだか分からない啼き声は,高度が増すにつれてますます大合唱になる.金冷シを過ぎてからは耳を覆いたくなるほどうるさくなる.しかし,この虫かカエルか分からない啼き声に,秋がもう近付いているような哀愁を何となく感じる.
時折,辺りの霧が途切れる.霧の合間から瑞々しい新緑の谷が見える.
「綺麗だなぁ~・・」
私は足を止めて,谷間の緑をデジカメに収める.
少しノンビリしすぎたが,やがて,山頂直下の階段に差し掛かる.そのとき背後から人の気配を感じる.私の乗ったバスから30分遅い2番バスで来られたご常連である.この方も,凄く足の速い方だが,それにしても,30分も後から登ってこられた方に追い抜かれ,私はビックリする.しかし,この方の後について登るだけの脚力はない.瞬く間に追い抜かれる.そして,ベテランの方は前方の霧の中へ消えていく.
ここで下ってくる韋駄天のTさんとすれ違う.
■人気のない塔ノ岳山頂
9時55分,ようやく塔ノ岳山頂に到着する.既に韋駄天組は下山してしまったので,山頂には誰も居ない.さすがにここまで来ると涼しい.辺り一面に雲が立ちこめていて,眺望は殆どないが,それでも儀式なので,雲ばかりの写真を撮りまくる.
歩き出してから,山頂までの所要時間は2時間52分.惨憺たる記録である.
「ナンタ~ルチィーヤァ・・でも,まあ1ピッチで山頂まで登れたのだから,良いとするか・・」
■尊仏山荘
久々に尊仏山荘に入る.山頂の気温は+19.7℃と高い.
誰も居ない.小屋番も留守である.私がゴソゴソと音を立てると,裏手の部屋から小屋番のOさんが出てくる.ボッサリした口調で,
「いらっしゃい・・」
と何事もなかったかのように,私に挨拶する.
「今,ネコ,あそこで寝ていますよ・・」
と隣の小屋を指さす.
なるほど,隣のネコ御殿2階の窓際で昼寝をしている.
「・・また,捨て猫があったんだそうですね」
と伺う.
「そうなんです.2匹もです.ミーが2日間喧嘩して追い出してしまいましたよ・・」
食事をしていると,ご常連のH谷さんが,小屋に入ってくる.
「今日は2時間20分台で到着しましたよ・・・途中で『FHさんが久々に登っている』って聞きましたよ・・」
相変わらずお元気で何よりである.それに,この私が話題になるとは,嬉しいことである.
最近,H谷さんは,カエデの勉強が進んで,丹沢にある7種類のカエデをマスターしたとのこと.
「FHさんにも,カエデを教えなければ・・・」
私は内心で,「困ったな」と思っている.何しろ,食べ物と植物のことは全く覚えられないからである.
ややあって,私がOさんに伺う.
「ところで,山頂近くでうるさく啼いているのは蝉ですか,それともカエル?」
「あれは,蝉ですよ・・カエルではありません.『○×ゼミあるいは△□セミ』ですよ.詳しいことは分かりませんので調べてくさい・・」
とにかくカエルではないことだけは確かなようである.○×△□の部分は,伺った途端に忘れた.
■ネコとシカの写真
10時27分,ネコと,たまたま近くにいるシカの写真を撮って,H谷さんより一足先に下山を開始する.途中で,山の写真を撮りながら,ユックリ下山したかったからである.
ときどき,登ってくる登山者とすれ違う.中には私と同じバスに乗っていた方も居る.ご常連ともすれ違う.
花立山荘を過ぎて,露岩帯を下っていると,後から来られたH谷さんが私に追いつく.
ここから暫くの間,H谷さんと一緒である.堀山の尾根では,早速カエデの話を伺う.今回は,大カエデの葉っぱが,綺麗で規則正しいギザギザが付いていることだけを覚えることにする.
■腹の調子が悪いが・・・無事下山
堀山の尾根が終わりに近付く頃,俄に下腹部が痛くなり始める.何か食当たりだろうか.我慢している内に,猛烈にトイレに行きたくなる.どうにもならないので,細Hさんには先に行って貰い,駒止茶屋で用を足す.激しく大量の下痢.用済み後,5分ほど休憩を取っている内に,正常に戻る.腹痛の原因は,一体,何んだろう? 分からないままである.
正常に戻ったものの,下腹部に力が入らないので,何時ものように調子よく下山するわけにはいかない.ゆっくり,ゆっくり下山して,13時10分,大倉に到着する.でも,結局は,大倉発13時22分のバスに,細Hさんと一緒に乗車する.
振り返ってみると,塔ノ岳を往復しても,私の足は,どうということはなかった.本当に元気なときと較べれば,所要時間は30分近く余計になったが,それでもエリアマップに記載されている標準時間よりは,大分速めに歩くことができた.
でも,元気なときに比較すると,少々疲れたような気もする.
まあ,まあの復帰登山であった.
<ラップタイム>
7:03 大倉歩き出し
7:25 観音茶屋
7:43 見晴山荘
8:16 駒止茶屋
8:35 堀山の家
9:22 花立山荘
9:39 金冷シ
9:55 塔ノ岳山頂 着(19.7℃)
====================================
10:27 塔ノ岳山頂 発
10:43 金冷シ
10:57 花立山荘
11:35 堀山の家
11:54 駒止茶屋(腹痛.10分余りトイレ休憩)
12:30 見晴茶屋
12:47 観音茶屋
13:10 大倉 着
[山行記録]
■水平歩行距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間
大倉 発 7:03
塔ノ岳山頂着 9:55
(所要時間) 2時間52分(2.87h)
登攀速度 1269m/2.87h=442.2m/h
■下降所要時間(休憩時間を含む)
塔ノ岳山頂発 10:27
大倉 着 13:10
(所要時間) 2時間43分(2.72h)
下降速度 1269m/2.72h=466.5m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/af59530b057e0bd2199469f0921c0b51
「丹沢の山旅」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/09cc017e7d3504f10fdfe9447995b9c6
久々の丹沢:塔ノ岳(今年18回目)
(単独山行)
2010年7月1日(木)
■脹ら脛の肉離れの調子は…
5月13日(木),右足の脹ら脛が肉離れをしてから,ずっと塔ノ岳登山は控えてきた.
肉離れ自体はそれほど重度のものではなく,2~3日安静にしていたら何とか歩ける程度にまで回復したが,それ以降の回復は遅々として思うようには進まなかった.
罹患直後の5月15日から17日まで行われた中山道中六十九宿巡りには,さすがに参加することができなかった.そして,9日後の「鎌っこ倉ぶ」の城ヶ島ハイキングには出席.しかし,患部に痛みはないものの,少しでも速く歩こうとすると,患部が軋む感じになり,やっぱり正常ではなかった.
その後も,気ばかり焦るが,なかなかバチバチ歩きはできないままの日々が続いた.
6月7日(月),もう罹患してから3週間が経過しようとしている.足の状態はもう正常に戻ったような感じがする.そこで,足のテストのために,三浦アルプス南尾根を1人で歩いてみた.足の状態には十分注意しながら,とにかくユックリでも良いから,完歩することを目的に歩いた.まあ,問題はなかった.
そして,6月12日(土)から3日間,仲間達と一緒に,中山道中六十九宿の旅に出掛けた.連続3日間,歩きずめだったが,特に問題はなかった.
その後,鎌倉美術展へ出品する水彩画の仕上げに,かなりの時間が取られたこともあって,本格的な山行の機会はなかった.わずかに,五十三次洛遊会やARENAオフミの皆さんと鎌倉市内を散策したに過ぎない.
その間,自動車運転免許証更新のために講習予備調査・高齢者講習を受けた.そして,視力や判断力が人並みに劣化していることが確認された.これで,本格的な山へ登りたいという気持ちが,日に日に遠ざかっていく.一方では,
「現状のままではまずい・・このまま老いぼれてなるものか・・!」
とう強い願望が沸々を沸いてくる.
■やっと塔ノ岳に登る気になった
6月も瞬く間に終わった.月末にあたふたと鎌倉美術展に応募した水彩画も,何とか入選した.そうなると,絵ばかり描いては居られない.何とか山へ登ろうという強い意志が,どこからともなく沸いてくる.
7月1日(木).何時ものように4時に起床する.梅雨時にしては珍しく天気もまあ,まあのようである.
「よし!・・今日こそ丹沢へ復帰するぞ!」
私は決意して,何時も通り,5時10分に出発する.梅雨時とはいえ,朝の空気はすがすがしい.すっかり明るくなった住宅地を抜けて近くのモノレール駅へ向かう.
久々のモノレール駅.相変わらず同じ顔ぶれの方々が,モノレールの初電を待っている.小田急藤沢駅までの経路に多少迷うが,何時も通り小田原経由にする.迷ったのは小田原駅での乗り換え時間が,たった2分しかなくて,駅構内を駆け足で上り下りする必要があるからだ.果たして,こんなところで駆けっこをして,私の足が持つかが不安である.
■懐かしい顔ぶれ
渋沢発大倉行の1番バスに乗車する.すぐに下り電車が到着.ご常連がバタバタと乗り込んでくる.韋駄天組4人も,やっぱり乗ってくる.私の顔を見て,「おや」というような顔をする.
三角髭のTさんが,
「暫く来なかったですね・・1ヶ月振りぐらいですか・・」
と話しかけてくる.
足の肉離れの話をするのは面倒だし恥ずかしい.
「街道歩きだのいろいろありまして・・・丹沢には足が遠のいていました」
1番バスの乗客は16人.何時もの通りである.
■いきなりヒル談義
バスが大倉に到着すると,韋駄天組は,直ぐに歩き出す.
「凄いな,あの方々は・・」
私は感嘆の眼(まなこ)で,韋駄天組を見送る.
私は病みあがりである.足腰のストレッチを十分に行ってから,同じバスに乗り合わせた人たちの中ではビリに歩き出す.
今日はとにかくリハビリ初日である.山歩きに足を馴れさせることを第一目標にしている.最終目的地は駒止茶屋.この辺りまで登れれば,今回の山への順化は成功ということにしよう.私は,「絶対に無理をしない.絶対に急がない.」をモットーに歩き続ける.
梅雨時とあって,路面はビショビショに濡れている.
かなりユックリと歩いているが,それでも私より足が遅い方が居る.丹沢ベースを過ぎたところで2本ストックを持った女性に追いつく.
「丹沢にヒルが居るんでしょう・・・怖くて,怖くて,仕方がないんです・・」
と話しかけてくる.
「ヒルは居るかもしれませんが,私は会ったことありません.道端の草むらに座り込んだり,立ち止まったりしなければ,滅多にヒルなどに会わないと思いますよ・・」
私は,ヒルよりも蜂や毒蛇の方がもっと怖いと思っているのだが・・
■駒止茶屋を目指して
辺り一面に霧が掛かっている.多分雲の中を歩いているのだろう.そよとした風もなく,蒸し暑い.どこか下の方からホトトギスのけたたましい啼き声が聞こえてくる.私は,足の状態を注意深く観察しながら無理の無いように登り続ける.少しでも違和感があったら,即,下山の積もりである.
ビショビショの登山道を登り続けて,8時15分に何となく駒止茶屋を通過する.本日の目標点をあっさりとクリアした.
駒止茶屋手前の急階段を,今,描きかけの絵のことを考えながら登っていた.そのために苦労したという意識もなく,何となく急階段を通過していた.ただ,大倉からの所要時間は,1時間13分.正常なときより10分余計に掛かっている.でも私は大満足である.
やがて堀山の尾根に出る.僅かながら時折風が尾根を吹き抜ける.途端にスッと涼しくなる.これが実に心地よい.
韋駄天組は,もうとっくに先を歩いているに違いないが,私のこんなノロ足でも,同じバスに乗り合わせた大多数の皆さんを追い越してしまったらしくて,私の前後には誰も居なくなる.霧の森の中から聞こえてくる鳥の囀りを楽しみながら,ゆっくりと登り続ける.どこからともなくツツドリの啼き声も混じっている.
■霧の萱場平
富士山は雲の中である.8時35分,人気が全くなく静まりかえっている堀山の家を通過する.
時折,私の心の中に住み着いている邪悪な私が,
「もっと,サッサと速く歩いたら・・・まだ,余力があるんだろう・・」
と私をそそのかす.
私はついつい急ぎたくなるが,
「だめ・・今日は,あくまで足の調子をチェックするのが目的.急いではダメ」
と自分自身に言い聞かせる.
久々の大倉尾根はさすがに大変である.私はできるだけ汗をかかないように心がけているつもりだが,それでも,汗をぬぐう手ぬぐいがベタベタに濡れてくる.
8時57分,ようやく萱場平を通過する.
■早々と下山する韋駄天組
9時21分,花立山荘を通過する.相変わらず誰も居ない.大倉を歩き出してから,もう,2時間18分も経過している.何時もなら2時間.今日は18分も余計に掛かっている.調子が良ければ,そろそろ塔ノ岳山頂に到着する時間である.でも,まあ,今日は,もともと駒止茶屋を目標にしていたので,リカバリー初デビューにしては「まあ,まあ」だなと,勝手に理屈を付けて納得する.
霧で見通しの利かない花立山の山頂付近を歩いていると,前方から人の声が聞こえてくる.近付くと,韋駄天組の中でも特に速いお二人である.
「いやあ,今日は蒸しますね.山頂の気温は16.4℃でしたよ・・」
お二人は軽い足取りで霧の中に消えていく.
<誰も居ない花立山荘>
■2番バスのご常連に追い抜かれる
登山道両側の森の中から,蝉ともカエルとも思える啼き声が「ゲロゲロジージー」と絶え間なく聞こえるようになる.蝉だろうか,それともカエル? 啼き声の主は,一体,何だろう.
虫だかカエルだか分からない啼き声は,高度が増すにつれてますます大合唱になる.金冷シを過ぎてからは耳を覆いたくなるほどうるさくなる.しかし,この虫かカエルか分からない啼き声に,秋がもう近付いているような哀愁を何となく感じる.
時折,辺りの霧が途切れる.霧の合間から瑞々しい新緑の谷が見える.
「綺麗だなぁ~・・」
私は足を止めて,谷間の緑をデジカメに収める.
少しノンビリしすぎたが,やがて,山頂直下の階段に差し掛かる.そのとき背後から人の気配を感じる.私の乗ったバスから30分遅い2番バスで来られたご常連である.この方も,凄く足の速い方だが,それにしても,30分も後から登ってこられた方に追い抜かれ,私はビックリする.しかし,この方の後について登るだけの脚力はない.瞬く間に追い抜かれる.そして,ベテランの方は前方の霧の中へ消えていく.
ここで下ってくる韋駄天のTさんとすれ違う.
■人気のない塔ノ岳山頂
9時55分,ようやく塔ノ岳山頂に到着する.既に韋駄天組は下山してしまったので,山頂には誰も居ない.さすがにここまで来ると涼しい.辺り一面に雲が立ちこめていて,眺望は殆どないが,それでも儀式なので,雲ばかりの写真を撮りまくる.
歩き出してから,山頂までの所要時間は2時間52分.惨憺たる記録である.
「ナンタ~ルチィーヤァ・・でも,まあ1ピッチで山頂まで登れたのだから,良いとするか・・」
■尊仏山荘
久々に尊仏山荘に入る.山頂の気温は+19.7℃と高い.
誰も居ない.小屋番も留守である.私がゴソゴソと音を立てると,裏手の部屋から小屋番のOさんが出てくる.ボッサリした口調で,
「いらっしゃい・・」
と何事もなかったかのように,私に挨拶する.
「今,ネコ,あそこで寝ていますよ・・」
と隣の小屋を指さす.
なるほど,隣のネコ御殿2階の窓際で昼寝をしている.
「・・また,捨て猫があったんだそうですね」
と伺う.
「そうなんです.2匹もです.ミーが2日間喧嘩して追い出してしまいましたよ・・」
食事をしていると,ご常連のH谷さんが,小屋に入ってくる.
「今日は2時間20分台で到着しましたよ・・・途中で『FHさんが久々に登っている』って聞きましたよ・・」
相変わらずお元気で何よりである.それに,この私が話題になるとは,嬉しいことである.
最近,H谷さんは,カエデの勉強が進んで,丹沢にある7種類のカエデをマスターしたとのこと.
「FHさんにも,カエデを教えなければ・・・」
私は内心で,「困ったな」と思っている.何しろ,食べ物と植物のことは全く覚えられないからである.
ややあって,私がOさんに伺う.
「ところで,山頂近くでうるさく啼いているのは蝉ですか,それともカエル?」
「あれは,蝉ですよ・・カエルではありません.『○×ゼミあるいは△□セミ』ですよ.詳しいことは分かりませんので調べてくさい・・」
とにかくカエルではないことだけは確かなようである.○×△□の部分は,伺った途端に忘れた.
■ネコとシカの写真
10時27分,ネコと,たまたま近くにいるシカの写真を撮って,H谷さんより一足先に下山を開始する.途中で,山の写真を撮りながら,ユックリ下山したかったからである.
ときどき,登ってくる登山者とすれ違う.中には私と同じバスに乗っていた方も居る.ご常連ともすれ違う.
花立山荘を過ぎて,露岩帯を下っていると,後から来られたH谷さんが私に追いつく.
ここから暫くの間,H谷さんと一緒である.堀山の尾根では,早速カエデの話を伺う.今回は,大カエデの葉っぱが,綺麗で規則正しいギザギザが付いていることだけを覚えることにする.
■腹の調子が悪いが・・・無事下山
堀山の尾根が終わりに近付く頃,俄に下腹部が痛くなり始める.何か食当たりだろうか.我慢している内に,猛烈にトイレに行きたくなる.どうにもならないので,細Hさんには先に行って貰い,駒止茶屋で用を足す.激しく大量の下痢.用済み後,5分ほど休憩を取っている内に,正常に戻る.腹痛の原因は,一体,何んだろう? 分からないままである.
正常に戻ったものの,下腹部に力が入らないので,何時ものように調子よく下山するわけにはいかない.ゆっくり,ゆっくり下山して,13時10分,大倉に到着する.でも,結局は,大倉発13時22分のバスに,細Hさんと一緒に乗車する.
振り返ってみると,塔ノ岳を往復しても,私の足は,どうということはなかった.本当に元気なときと較べれば,所要時間は30分近く余計になったが,それでもエリアマップに記載されている標準時間よりは,大分速めに歩くことができた.
でも,元気なときに比較すると,少々疲れたような気もする.
まあ,まあの復帰登山であった.
<ラップタイム>
7:03 大倉歩き出し
7:25 観音茶屋
7:43 見晴山荘
8:16 駒止茶屋
8:35 堀山の家
9:22 花立山荘
9:39 金冷シ
9:55 塔ノ岳山頂 着(19.7℃)
====================================
10:27 塔ノ岳山頂 発
10:43 金冷シ
10:57 花立山荘
11:35 堀山の家
11:54 駒止茶屋(腹痛.10分余りトイレ休憩)
12:30 見晴茶屋
12:47 観音茶屋
13:10 大倉 着
[山行記録]
■水平歩行距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間
大倉 発 7:03
塔ノ岳山頂着 9:55
(所要時間) 2時間52分(2.87h)
登攀速度 1269m/2.87h=442.2m/h
■下降所要時間(休憩時間を含む)
塔ノ岳山頂発 10:27
大倉 着 13:10
(所要時間) 2時間43分(2.72h)
下降速度 1269m/2.72h=466.5m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/af59530b057e0bd2199469f0921c0b51
「丹沢の山旅」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/09cc017e7d3504f10fdfe9447995b9c6
コメント有り難うございました.
ヒルにあったとは大変でしたね.不用意に草むら近くで腰を下ろして休憩したり,立ち止まったりしませんでしたか?
でも,まあ,血が出るだけで,ハチやヤマカガシよりはマシということで・・
私は,ひどい筋肉痛の経験はありませんが,歩き出す前のストレッチと,下山後のクールダウンのストレッチをすれば,か筋肉痛はかなり軽減されると思います.
今度,お会いしたときに声を掛けて下さい.登山学校で習ったことをお伝えします.
私,いろいろやっていて暇なのに多忙.少々,塔ノ岳に行く回数が減っていますが,また,是非,当ブログへお立ち寄り下さい.
私は6月27日に雨の中ですが塔ノ岳に行ってきました。
そして初めて猫のミーくんに会うことができました。感激です。
始めは姿が無かったので、Oさんに尋ねてみたら少しして奥から出てきてくれました。
勇気を振り絞って尋ねてみてよかったです。
あと初めてヤマビルにも会いました(笑)
ヤマビルに吸われたのは主人でしたが。。。(笑)
それにしても塔ノ岳山頂までの時間がまだ3時間以上かかっている私です。
さらに足にひどい筋肉痛にいつも悩まされます。
私の当面の目標は塔ノ岳で筋肉痛にならないことなのですが、なかなか難しいですね。