<花立山荘からの富士山>
アイスバーンの丹沢塔ノ岳(第10回)
2008年2月21日(木)
■月明かりの中,軽登山靴を履いて出発
何時ものように,4時頃起床する。天気予報では今日一日晴。気温も高そうである。ならば,軽く塔ノ岳を往復してこようと思い立つ。5時10分に家を出る。西の空には今夜満月になる真ん丸な月が輝いている。冴え渡る月明かりが,これから塔へ行くぞという気分を高揚させてくれる。
これまで,数回にわたって,長靴で塔ノ岳に登っていたので,軽登山靴の感触が薄れ始めている。そこで,今回は長靴を止めて,軽登山靴で登ることにする。
大船から小田原経由で渋沢へ向かうという定番のコースを通って,渋沢発大倉行2番バスに乗車する。今日は何時もより多少多い10名ほどの登山客が乗っている。
■春のような山麓
7時33分に大倉を歩き出す。今朝は大分暖かいので,思い切って薄着になってから登り始める。路面は良く乾いている。ラップタイムを計測しながら登り続けるが,見晴茶屋までの所要時間は,何時もと全く同じで,1分の狂いもない。8時10分に見晴茶屋を通過する。前回(2月18日),塔ノ岳に登頂したときは,見晴茶屋辺りから残雪が見られたが,このところ,暖かい日が続いたためか,残雪は見当たらない。
見晴茶屋を過ぎると,直ぐに急な階段道になる。さらに階段道の先に続く坂道を登り続ける。この辺りは紅葉の名所である。柔らかな日差しを楽しみながら,この登り坂を登り続ける。
8時24分に一本松を通過する。一本松を過ぎて,少し登った辺りの日陰道に差し掛かると,登山道の様子が一変する。いきなり根雪が凍結した道になる。アイスバーンになった道上に登山客が残していった泥が一面に付着している。この泥のために,アイスバーンの道も,あまり滑ることもなく歩くことができる。
■男性と雑談
やがて,なだらかな尾根道に差し掛かる。沢山の足跡が凍結した凸凹道になったかと思うと,アイスバーンの道が現れる。のんきに歩くと滑ることは必定である。足元を見詰めながら,慎重に歩き続ける。
平らな道を過ぎると,駒止茶屋手前の杉林に囲まれた坂道になる。この辺りには分厚く凍結した根雪が沢山残っていて,登るのに往生するが,アイゼンを付けずに,何とか登り切る。そして,堀山の尾根道に出る。ほぼ水平な尾根道は,まだ早朝なために完全に凍結している。根雪がアイスバーンになっているところと,泥が凍結しているところが混じり合っている。
8時40分頃,堀山の手前で,富士山が良く見えるところで,どこかで見掛けたことがあるような,ないような年輩の男性に追いつく。すると,この男性が,私に話しかける。
「今日は富士山が良く見えますね・・・本当は昨日登ろうと思ったんですが,山に雲が掛かっているので止めました・・・」
「良く見えますね・・・私も,何時もこの辺りで富士山の写真を撮っています・・」
と返事をしながら,私はデジカメを取りだして,富士山の写真を2~3枚撮る。すると,この男性もリュックから,一眼レフを出して,富士山の写真を撮り出す。
「カメラ,重いのでリュックに入れていましたが,花立山荘まではぶら下げていこう・・」
という。つづいて,
「昨年,テニスをやっていて,膝を悪くしてから,暫くの間,山登りを止めてましたよ・・・でも,毎年,夏には北アルプスの槍ヶ岳へ行っているので,塔ノ岳に登り始めましたよ。月に2回ぐらい登っていないと,体力が維持できませんね・・・」
と,男性は,何時の間にか,山の自慢話を始める。私はこの手の自慢話を聞くのが一番苦手である。私は,
「その辺まで,一緒に歩きましょうか・・・」
と言いながら,歩き始める。男性は,
「私はゆっくり歩きます・・・尊仏山荘で待っていて下さい・・」
という。
男性と雑談をしていたために,12分ほどロスタイムが出たが,特段,急ぐこともないので,何時もの調子で歩き続ける。
<今日の萱場平の残雪>
■アイスバーンの道
8時52分に堀山を通過する。その先に緩い傾斜だが,暫く下り坂が続く。ここが一面のアイスバーン状態になっている。極めて滑りやすいので,転倒しないように慎重に歩き続ける。
下り坂が終わると,短いヤセ尾根道になる。凍結した泥道になっている。ここを過ぎると,堀山の家直下の日陰道になる。ここは,残雪が凍結していてとても滑りやすい所である。私見では,大倉尾根で最も危険なところだと思う。
9時02分に小草平の堀山の家を通過する。今日は平日なのに,堀山の家が開店している。小草平から富士山が良く見えている。
堀山の家からは,南向きの急坂になる。岩礫混じりの坂道は,日が良く当たるので,見た目では全く雪は見えないが,岩陰にアイスバーンになっているところだ沢山ある。やがて階段道になる。凍結した泥と根雪が続く。
今日も,山頂からパンツ姿で下ってくるご常連,それに,修行僧ともすれ違う。
9時20分に萱場平を通過する。18日に比較して,萱場平の残雪は大分少なくなっている。
何時も飛ばして通過する尾根道を慎重に歩いてきたために,今日は体力に大分余裕がある。降り注ぐ明るい太陽を浴びながら,何ということもなく登り続けて,9時41分に花立山荘を通過する。
岩稜帯に出ると,冬の雪山になる。ただ,雪が踏み固められているので,極めて滑りやすくなっている。途中でアイゼンを装着しようかとも思ったが,成り行きで,アイゼンなしで登り続ける。
尾根道を進み,2箇所の下り坂を下る。坂そのものは短いが,踏みつけられた雪は,とても滑るので,通過するのに大分神経を使う。
9時56分に金冷しを通過する。残雪が少なくなったとはいえ,まだ階段道は雪の中である。以前より一層踏み固められた雪は,極めて滑りやすくなっている。特に山頂直下の急坂を登るのに往生する。キックステップをしたくても,硬く踏み固められた氷のような雪では歯が立たない。アイゼンを装着した登山者数名に追い越される。フラットフッティングも,キックステップもなく,半分四つん這いになりながら,何とか急坂を登り切る。そして,10時15分,漸く塔ノ岳山頂に到着する。
途中10分ほど雑談をしていたとはいえ,大倉からの所要時間は,2時間42分と最悪。
<踏み固められた残雪のヤセ尾根:金冷し付近>
■尊仏山荘でお茶
塔ノ岳山頂からの見晴らしは相変わらす素晴らしい。18日に比較すると,春霞のためか,いくらか煙った感じがするが,富士山,南アルプスなどの山々が素晴らしく良く見えている。暫くの間,周辺の写真を撮ってから,尊仏山荘へ向かう。
今日の小屋番は,オーナーのHさん。先客はカメラマンのAさん。山荘の寒暖計によると,山頂の気温はマイナス2.0℃。やはり大分暖かい。
Aさんが,私に話しかける。
「やあ・・・貴方のブログ,見てますよ・・・丹沢の所だけだけど」
と嬉しいことを言ってくれる。暫くの間,Hさん,Aさんの3人と雑談を楽しむ。Aさんが私に,
「今日は遅かったね・・・何時も10時頃登ってくるのに・・・思わず時計を見ちゃったよ・・」
と言う。
「いや~ぁ・・山頂手前の急坂で往生してましたよ。アイゼンなしで・・・随分,時間がかかっちゃいました・・・」
この話が切っ掛けになって,話題が登山の所要時間のことになる。
「良く山頂まで,後何時間掛かるかって聞かれるけど,幾つも山頂があるのに,どの山頂かハッキリしない人がいるよ・・・」
とAさん。
「電話で,何時間ぐらいで登れるかって聞かれて,困ることが多いですよ」
とHさん。確かに,大倉尾根を2時間足らずで登る人もいれば,9時間も掛けて登る人もいるから,そんなこと聞かれても困るのは良く分かる。Aさんが,
「今朝は月が素晴らしかったね」
という。
「今朝,濃鳥岳に月が沈みましたよ・・・綺麗でしたよ」
とHさん。Aさんが,
「flower-hillさんなら分かるかもしれないが,カシミールには月の出入りのデータは有ったかな・・・」
言う。私も帰宅後調べてみようかと思い立つ。
話題が転じて雪道のことになる。
「ところで天神尾根はどんな状態ですか・・?」
と私が聞く。するとHさんが,
「あそこは日が当たらないから,ずっとアイスバーンですよ」
と答える。私が,
「そういえば,堀山の家真下のトラバース道は,凍結していて怖いですね」
と言うと,Hさんが,
「あそこで,最近,立て続けに4人けが人が出ましたよ。ヘリコプターも出動しましたよ・・・」
と答える。
さらに話題は海上自衛隊の海難事故にまで及ぶ。水深2000メートルもの深海で,風船が膨らむかどうかという私には良く分からない話まで出てくる。
30分ほど雑談をしていると,先ほど出会った一眼レフの男性が山荘に入ってくる。
「やあ・・何分ぐらい待ちましたか・・」
と私に話しかける。
「今日は,3時間で登りました・・・」
と,やや自慢げに話し出す。私は,
「あれ! ちょっと変だな・・・」
と思う。私は登りに2時間42分掛かっている。この紳士は,少なくとも私より先に大倉を出発している。そして,山荘に到着したのが,私より30分遅かった・・・となると,登りに,少なくとも3時間22分以上掛かっていることになる・・・まあ,どうせ他人のこと。それに,細かいことはどうでもいいのだが・・
私はソロソロ退散する潮時だと思って,Hさんに挨拶する。
「どうもご馳走様でした・・・土曜日に,元お嬢様3人と一緒に,また登ってきます。多分,13時頃になると思いますが,宜しく・・・」
<踏み固められた雪の塔ノ岳山頂>
■下りはアイゼン装着
山荘の外に出て,4本爪の軽アイゼンを装着する。アイゼンというのもおこがましいほど粗末なものである。白馬岳辺りで売っている「紐で結ぶ」簡易アイゼンである。私は,これで十分だと思っている。
そういえば,今日は営業部長のミー君は姿を見せなかった。一体,どこに居るんだろう。多分,コタツの中だとは思うが・・・明日(2月22日)は「ネコの日」だというのに,営業をサボっているとは,困ったものだ。
10時55分に山頂から下山を開始する。4本爪アイゼンでは,山頂直下の下り坂は,結構,厳しい。
途中でご婦人とすれ違う。
「4本爪アイゼンで滑らないですか・・・実は4本爪のアイゼンを買おうかと迷っているんです」
と私に話しかける。
「6本よりは滑りやすいですよ・・・でも,私は大倉尾根に限っては4本爪で大丈夫だと思っています。何しろ泥道やアイスバーンが目まぐるしく入れ替わるので,脱着せずに歩き続けるには,4本爪が最適のような気がします・・・」
■スケルトンさんに会う
その後も,すれ違う何人かの登山者に,アイゼンが必要かと聞かれる。必要かどうかは,その人の力量によって,さまざまなので,答えにくい・・・・が,アイゼンなしでは大変ですよとだけ答える。
11時44分,萱場平を通過する。戸沢分岐を過ぎて,階段道の途中で,山旅スクール第5期のスケルトンさんと,バッタリ出会う。
「今日は天気が良いので,多分flower-hillさんと出会うだろうと思って登ってきましたよ」
と図星なことを言われる。
ここで5分ほど,情報交換のために立ち話をする。スケルトンさんは,一昨年,メンヒ,ユングフラウに登った仲間である。私はドッジさんが今夏計画中の海外登山を誘ってみる。
「ペ○○へ行きませんか・・・」
「・・・今のところ,せいぜい2~3日程度のスケジュールでないと・・・」
と軽く断られる。
12時近くなると,大分気温が高くなっている。凍結していた泥が融け始める。アイスバーンがあったり,泥道があったりで始末が悪いが,結局,一本松までアイゼンを装着したまま下山する。
■無事帰宅,水戸黄門を楽しむ
12時52分,見晴茶屋に到着する。「ありゃ~・・・ノンビリしすぎたな。13時22分のバスに間に合わないぞ」とビックリする。それから,急ぎ足で下山し続けて,13時20分にバス停大倉に到着する。大急ぎで,水道で靴の泥を落として,13時22分発のバスに乗車する。
バスには,ご常連のトップギャー氏が乗っている。私が乗り込むと,
「しばらくでしたね。今日は雪で大変でした。去年はこんなことなかったのに・・」
と話し出す。言われてみれば,昨年はこんなに雪がなかったかもしれない。私は,
「アイゼンはしなかったんですか」
と質問する。
「アイゼン持ってないんです・・・もっとも,若い頃使った古いアイゼンはありますが・・」
その後,渋沢から小田原へ。小田原から快速アクティに乗り継いで,15時30分頃,無事帰宅する。16時からのテレビ「水戸黄門」を楽しむ。
[ラップタイム]
7:33 大倉歩き出し
7:38 登山口
7:42 克董窯
7:47 丹沢ベース
7:54 観音茶屋
7:56 分岐
8:08 雑事場ノ平
8:10 見晴茶屋
8:24 一本松
8:39 駒止茶屋
8:40 尾根道(8:52まで写真マニアと雑談)
8:53 堀山
9:02 堀山ノ家
9:17 戸沢分岐
9:20 萱場平
9:41 花立山荘
9:59 金冷シ
10:15 塔ノ岳山頂 着
===========================
10:55 塔ノ岳三等 発(-2.0℃)
11:10 金冷シ
11:24 花立山荘
11:44 萱場平
11:46 戸沢分岐
11:55 戸沢分岐下(12:05までスケルトンさんと雑談)
12:08 堀山ノ家
12:08 堀山
12:26 駒止茶屋
12:38 一本松(12:41までアイゼン外し)
12:52 見晴茶屋
12:54 雑事場ノ平
13:01 分岐
13:04 観音茶屋
13:10 丹沢ベース
13:13 克董窯
13:15 登山口
13:20 大倉 着
[山行記録]
■登攀・下降高度 1201m
■水平移動距離 6.5km
■登攀所要時間(雑談時間を含み)
大倉発 7:33
塔ノ岳山頂着 10:15
(所要時間) 2時間42分(2.70h)
※5分ほどロスタイムがあったので,雪のこの時期としてはマアマアか?
登攀速度
1,201m/2.70h=444.8m/h
■下降所要時間(雑談時間を含む)
塔ノ岳山頂発 10;55
大倉発 13:26
(所要時間) 2時間25分(2.42h)
下降速度 1,201m/2.42h=496.3m/h
(おわり)
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