
蒼く深く高いそら
蒼から藍へ
そして
やがて青に変わるであろう
夜明け前の秋のそらです
その空の下、いつもの川っぺりで、彼女さんは静かに座っています

この時期は彼女さんに話しかけてくれる鳥さん達も少なく、お魚さん達も深いところに潜っているようであまり顔を見せてくれません
しかしこの川辺の堰から生き物たちの姿が消えたという訳ではなく…
ここ数日、川鵜さんの群れやイーグレットさんの群れが、堰の中程にたくさん集まり、ちょっとしたお祭りのような賑わいが続いています
彼女さんは目をキラキラさせて、そのお祭りの様子を眺めていました

一羽のリトル・イーグレットさんが小走りにお魚さんを追いかけると、そばにいた他のリトルさんも色めき立ち、途端にリトルさん同士による小競り合いが始まります

彼女さんも最初の頃は、小さくて真っ白なイーグレットさんが絡み合う光景は、楽しくじゃれあっているように見えて微笑ましく思えていたのですが…

彼女さん (なんでだろ…他の種族の鳥さんとは滅多に揉めないのに、なんで同族の仲間とはこんな些細なことで揉めちゃうんだろう…)
(わたし達も同じか…人間同士で揉めてばっかり…か)
(生き物はみんなそうなのかな…でも…だとしても…やっぱりなんでなんだろう…)
結構重たいことを真面目に考えている彼女さんですが、その表情は…柔らかで、少し微笑みが浮かんで見えます
ーすると、先程まで「ガァガァ!」とやり合っていたリトル・イーグレットさん達が今度は、仲良さげに翼を並べ飛び立ちます

彼女さん (いいなー…やっぱりわたし達人間より全然サッパリしてるわー♪)
(わたし達がネチネチと人を嫌ったり、妬んだり、憎んだりするように…いちいち根に持ったりはしないのよね)
(…いいな♪)
そして、セキレイさんたちがイーグレットさん達の足元を縫うように、セッセと食べ物を探し走り回って……
いたかと思えば、突然、仲間同士で絡み合うようにして飛び上がったりしています

いつも姦しく仲間同士で絡み合っているセキレイさんですが、それは楽しい遊びとしてじゃれあっているだけなのか?、もしくは結構、激しい喧嘩をしているのか?
…これがどちらなのかは、さすがの彼女さんにも、直ぐには判断が付かないようですね
そして、先んじて飛んでいたセキレイさんと追いかけていたセキレイさんが同じ場所に舞い戻ったきて、また仲良く餌を探し始めたようですので…こんな時は
(^^)(ちょっとじゃれていただけなのねー♪)
と、彼女さんは納得します
時には二羽、三羽が、空中で素早く激しく絡み合い、それぞれがサーッとバラバラな場所に散ったすることも間々あります
そんな時は…
(・o・) (あーっ、なによー、喧嘩してたのねー)
と、彼女さんは思っているようですね
彼女さん (でも…なんでだろう…)
彼女さん (なんでだろう…なんでだろう?)
どうやら彼女さんの思考がグルグルとループし始めたようで…一体(何が)なんでだろう?なのか少し見失ってきた様子ですね
そして…いつの間にか、お天道様は雲を輝かせ、あっという間に川辺はぬくもりで満たされてゆきます

身体に染み入るようなぬくもりは、寒さで強張っていた筋肉を緩めて和らげてくれます
そして鼻先から吸い込む空気は、未だに爽やかな冷たさを保っています
彼女さんはタンブラーに淹れておいた、アツアツのカフェオレを一口飲みました
彼女さん (うん…おいし……………………シアワセ…)
(…しあわせ……幸せ……)
(そっか!…幸せになるためか)
(理屈はどうあれ、それで幸せになれると思ってみんな、喧嘩したり、遊んだりしているのか)
(端から見てどんなにおかしく思えても、本人達にすれば、それで幸せになれると本気で思っているのよね)
(そっか、極端なことを考えれば…自ら戦争に行く人も、争いを避ける人も…)
(…もっと極端に考えれば……自殺しようとする人でさえも…なんでそんなことをするのかというと…)
(幸せを願って、よかれと思って…みんないろいろなことをしてるのよね)
(でも…それはやっぱり……愚か…よね)
(幸せって、結局は本人が定めて本人が求めるもの)
(わたし…やらなきゃ)
(他人にどうこう口出ししている場合じゃないわ)
(わたし自身が本物の幸せを得なければ…何も変わらないじゃない)

彼女さんの頭上でいつの間にか、イーグレットさんたちが旋回しています
見上げる彼女さんの顔からは、微笑みが雫のようにはじけています
治において乱を忘れず
乱のなかでも治を収める
彼女さんは心の中で唱えます
(^^) (みんな幸せでありますように…ありがとーね♪)と…
なによりですね
どうかよい一日を
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十話という区切りで、そろそろ彼女さんの生い立ちや自己紹介を彼女さんの一人称視点でやってみようと考えていました
そして彼女さんの一人称視点に挑戦し、勢いのままガーッと描いて見ましたが…ちょっと思惑から外れた彼女さんが出来てしまいましてねー
とりあえずこのお話しはボツにしたのですが、一度頭に生まれた予想外の彼女さん像がなかなか頭から離れずに往生しましたよ
また機が熟した折にでも再挑戦してみる所存に御座候

230 拝