長期天気予報を見ながら旅行計画を立てるのは、今では世間一般の常識となって
いるようだ。天気予報の正確さがスーパーコンピューターの導入により飛躍的に
精度を増した現代では、殆どの人がそうしていると思われる。
でもよく考えてほしい、気象協会の発表する10日間予報の的中率は思ったより
低く50%を下回っているのだそうだ。例えばだが、明日の天気予報が90%の
確率で当たるとすると、10日後の的中率は0.9を9回かけ合わせることに
なるから、一週間後には50%を切り10日後には38%にまで下がってしまう。
信頼度が低いと知りながらも予報を出すのは世間の要望があるからだろうが、
10日先の予報をもとに予約した宿泊客が、2,3日前の天気予報を見て
キャンセルしてしまうのだから、ホテルや旅館の関係者にとってはたまらない。
せっかくの旅行なのだから、天気の良い日に出かけたいと思うのは分かる。でも
予報が悪天候に変わっても、台風や嵐は別として少しぐらいの雨や曇りなら私は
構わず出かけることにしている。晴れの日ばかりの旅行なんて何か味気ない
ような気がするのは、私だけだろうか。
今回の旅行2日目の鶴岡市下池は10日間天気予報では曇り。直前になって
予報は悪化し、雨の確率は10%から80%に増えてしまった。そのおかげで
幻想的な風景に出会えたのだから、寧ろ幸いだったといえる。
初冬を迎えた下池の風景には曇り空がよく似合っていた。
右に池を望みながら行くと観察舎が見えてきた。
下池のほとりに立つおわら愛鳥館
ぐるりと池を一周することにする。この池ではマガモが多い。
一周する間に湖面を覆う霧は場所と濃淡を少しずつ変えていく。
すでに冠雪している山々が見える。あれは出羽三山だろうか、
それとも朝日連峰の峰々だろうか
深い霧の中、カモたちは静かに早い眠りについている。
湖面だけ霧を残してゆっくりと晴れ上がった。
暫くすると再び霧が深くなる。
深くなった霧の中に白鳥の群れが帰ってきた。
真ん中の白いカモはカワアイサの♂
湖面のグラデーションがきれいだ。
中央の黒いカモはオオバンの群れ
この辺りにはオナガガモが多い
池を取り囲む山の斜面を、霧が駆け上がっていく。
墨絵のような世界に慣れた目には、ムラサキシキブやマムシグサの
実の色はとても新鮮に映る。
眼前には晴れ渡った日には決してみられない風景が広がっている。
おわら愛鳥館の観察小屋の中で静かに夕暮れを待つ。霧は
晴れ上がったり、山の斜面を滝のように流れ落ちたりして変幻自在だ。
時刻は4時を回り。辺りには闇の気配が濃く漂ってきた。
時折、悲しげな声をあげながら白鳥の群れが湖面に舞い落ちる。その後暫くは
互いの存在を確かめるかのように切なげに鳴きかわす。
白鳥の鳴き声に見送られながら、日が落ちてすっかり闇に溶け込んだ下池を後にした。
この辺で。